表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢シャンテの狂気と『モブ化』のスキル  作者: 西玉


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/56

49 ラーメン屋にて

 ラーメン屋とは、王家の勅命を受けて建設された高級飲食店である。


「勇者マリアの要望で、あえて汚く作ってあるそうですわ。完成品の第一号を食べて、マリアは涙と流したそうですわよ」

「勇者って、変な趣味」


 店の前には長い行列ができていた。

 この店、ラーメン屋『ロイヤル家』が開店したのは、勇者マリアと王子ソマリアの婚約が発表されたときだというので、単に目新しいだけであれば客足が遠のいているはずだ。


 一杯銀貨一枚という価格設定は、庶民の半月分の給金に値するが、それでも客足は途絶えない。

 シャンテはマカロンを抱え、最前列に割り込みをした。

 たとえモブであろうと、列の割り込みは許されない。


 だが、シャンテは王族の印を見せながら、背後に並んでいた男に知り合いだと思い込ませることで、むしろ場所を譲らせた。

 店内に案内され、4人掛けの汚れたテーブルに、マカロンと2人で座った。

 他人から見れば、シャンテが1人で占拠しているのも同然である。


 店前に行列ができる店での暴挙だが、店側は文句の一つも言わなかった。

 これは、シャンテがモブ化しているからというより、店の方針であるらしい。

 シャンテは、内容がわからないながらも、一番人気であるという豚骨角煮ラーメンと餃子のセットを注文した。


 汚い店一軒だが、レシピの制作は国家プロジェクトで行われたらしい。

 それだけ、シャンテがいない間に勇者マリアは入念に結婚の準備を進め、結果的にシャンテにひっくり返されたのだ。

 注文を待っている間、シャンテはテーブルの向かいに座るタヌキであるマカロンに話かけた。


「マカロンのお父様、魔王城にもどっているようですわね」

「さっきの人間が言っていたこと?」


 マカロンが話していることに、周囲の人間は注目しない。

 シャンテも当初は気づかなかったが、これはシャンテのスキルが影響を及ぼしているらしい。

 事実、マカロンだけの時に話をして、しゃべるタヌキとして売り飛ばされそうになっている。

 だが、シャンテが一緒の時、シャンテと話している間は注目されないのだ。


「ええ。あれは、勇者の仲間ですわ。勇者の仲間に人間の魔術師がいますから、勇者が攫われたことを魔法で知らせたのでしょう。勇者をさらって、マカロンのパパは魔王城に戻ったのですわ」

「……どうして?」


 マカロンが首をかしげる。

 シャンテとマカロンの前に、陶器のどうぶりに入ったラーメンが運ばれてきた。

 同時に平たい皿に乗せられて運ばれてきた、薄い皮で具を包んだ料理がギョウザなのだろう。


「勇者ですもの。捕まえて、色々と聞き出すのではありませんの?」

「勇者に聞きたいことってなんだろう?」


 シャンテはナイフとフォークを探したが、どこにも置いていない。

 隣の席で、男の客が長い棒を2本、片手で操っていた。

 シャンテは、割り箸が置いてあるのに気づき、2本、割らずに手にした。

 マカロンはといえば、身を乗り出して鼻先をひくつかせている。


「あるいは、人間たちが逆らわないよう、人質にする気かもしれませんわ。勇者が人質に取られて、魔王に歯向かうことができるはずがありませんもの」

「あっ、そうか」


 マカロンは言いながら、ラーメンの中に直接鼻先を突っ込んだ。

 スープと麺を一緒に啜る。

 シャンテは、2本の棒を突っ込んで掬い上げたものの、棒の間から麺がするりと逃げていった。


 どんぶりに、スプーンのような形状の道具が置かれていることに気づく。

 レンゲである。

 シャンテは、仕方なくまずはレンゲでどんぶりのスープを啜った。


「臭いですわね」

「そう? 美味しいよ」


 シャンテとマカロンの感想が割れた。

 シャンテは首を傾げ、結果としてレンゲと棒で麺を押さえつけて口に運ぶことに成功する。

 公爵令嬢として育てられたシャンテは、食事の際に器に体を寄せることを是としない。

 真っ直ぐに姿勢を伸ばし、口元に運ぶことにこだわった。


「勇者が捕まれば、マカロンのパパは安泰ですわね」


 魔王を討伐できるのは、勇者だけだと言われている。

 シャンテは、勇者マリアが襲われた過去を知っている。

 魔王が勇者マリアをさらったとして、それが何の目的であるか、正確に理解しているが、マカロンには言わなかった。

 マカロンは、魔王がタヌキの妻を愛しているのだと信じているからである。


「うん。パパがお城に戻って、ママと一緒なら……シャンテ、一度戻らない? 勇者が大人しく捕まっているか、心配だし」


 マカロンがどんぶりから顔を上げる。

 すでにほぼ食べ尽くしている。

 シャンテは、ようやく箸の使い方を理解した。

 元々、手先は器用なのだ。


 ぎこちないながらも、すぐに習得する。

 ようやくラーメンの麺のみを口に入れるが、あまり美味しいとは感じなかった。

 長い麺を啜るという習慣がなかったのだ。


「……そうですわね。マリアの泣き顔を見たいですものね」

「うん」


 マカロンは言うと、平たい皿に置かれたギョウザにかぶりついた。


 ※


 途中から、シャンテはタヌキの食べ方を真似た。

 丼を持ち上げ、握り箸のまま掻き込んだ。

 結果として、女王の衣服は豚骨スープでべったりと汚れたが、シャンテはラーメンと餃子という食べ物を堪能した。


 金のある時に、支払いを誤魔化すことはしなかった。

 シャンテはマカロンを抱いてラーメン屋を出た。

 マカロンは、シャンテの服を口に含んでいた。汁が飛び散ったため、味がするのだ。


「おーほっほっほっほっほっ!」


 町中に響き渡る高笑いに、マカロンがシャンテの服を離す。


「シャンテ、急にどうしたの?」


 いつもは、シャンテの高笑いはシャンテの存在証明である。

 マカロンすら、驚いて飛び上がるほどの高笑いをシャンテは放った。

 ほんの短時間、周囲の人間たちが立ち止まり、豪華な衣装を豚骨スープでびしゃびしゃに汚した、女王でもある令嬢に視線を向ける。


 その時間は短い。

 すぐに、シャンテのことをただのモブだと認識し、顔を背ける。

 その流れに、2人だけが逆らった。


「バロモンテ、グロウリス、マカロンから話がありますわ」

「えっ? 私?」


 肌の色を変え、角を隠した魔族の若者は、地面に膝をついていた。

 シャンテに指名されたマカロンは、慌ててシャンテを見上げる。

 シャンテはマカロンを持ち上げて、自分の頭に乗せた。


「この2人、私が言うより、マカロンから言った方が忠実の従うのですわ」

「……うん。えっと……魔王城に帰ります。パパも帰ったみたいだし、勇者を捕まえたようよ」

「おおっ!」


「さすが魔王様」

「ロリマとアドルにも伝えて。早いうちに出発するわ」

「……マカロン様を掲げた、お前は何者だ?」

「おーほっほっほっほっほっ!」

「承知いたしました」


 シャンテに問いかけたグロウリスが平伏した。

 2人の魔族は、シャンテの言うことを聞かないのではない。

 シャンテがマカロンの友人であり、マカロンがシャンテを信頼していることは十分に理解している。

 だが、命じられた相手が本当にマカロンの友人のシャンテなのかどうか、途中でわからなくなるらしい。


「じゃあ、行って」

「集合はゼルビアの王城に。10日後に旅支度をして集まりなさい」

「『10日後』ってどうして? 何があるの?」


 マカロンがシャンテを見下ろす。

 現在、タヌキはシャンテの頭の上でふんばっている。


「イーゼル男爵への復讐が中途半端ですわ。10日あれば、男爵夫人の懐からも報酬を得られますわよ」

「さすがシャンテね」

「その前に、着替えたいですわ。おばばのところに行きますわよ」


 シャンテが言うと、カラスが一羽、目の前に降りようとして、マカロンが飛びかかった。

 魔女の使い魔であるカラスを、なんとかタヌキの毒牙から逃れさせると、シャンテは言った。


「おばばに、着替えの支度と湯浴みの準備を……と言っても、さすがに話せないですわね。ちょっと、お待ちなさい」


 シャンテは普段から持ち歩いているスケッチブックにペンを走らせ、ちぎった。


「おーほっほっほっほっ!」


 シャンテが笑うと、カラスがシャンテの腕に飛び乗る。

 シャンテは、カラスの足にスケッチブックの一欠片を掴ませた。

 10日後、イーゼル男爵への復讐を済ませ、ほとんどの資財を取り上げたシャンテは、マカロンと共にゼルビア王国の王都から出発する。


 従者に魔族の戦士バロモンテとグロウリス、人間の奴隷ロリマとアドルを伴っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ