表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢シャンテの狂気と『モブ化』のスキル  作者: 西玉


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/56

47 魔王討伐

 勇者マリアは、3人の仲間達ともにトワイス王国王城の離宮に足を踏み入れた。

 離宮に仕える侍女モナが先導していた。

 最奥の部屋に、その男はいた。


 玉座と見間違えるほどの立派な椅子に腰かけ、裸身に簡単な布を巻きつけただけの姿で、細身とも言える男が腰掛けていた。

 頭には柔らかい布を巻きつけている。

 豪胆に足を開き踏みつけているのは、四つん這いの裸の女だった。


「殿下、お客様をお連れしました」


 踏みつけにされていた女に眉一筋動かさず、モナ言うと、膝をついた。


「ほう……よくぞ参った。ゼルビアの勇者殿と見受けるが、よろしいかな?」

「お見込みの通りです。殿下は……トワイス王国の前王でよろしいですか?」


 前王の問いに答えた後、マリアも問いただす。

 以前にも会っていた。その時は、トワイス王国の国王と名乗っていた。


「ああ。その通りだ。王の座は譲った。むしろ、感謝している。雑事に煩わされず、ただ、したいことだけをする。このような素晴らしい生活があるとは思わなかった」


 トワイスの王は不在がちだと以前から噂されていたが、それなりに気苦労はあったようだ。


「では、現在の王はどちらにいらっしゃいますか?」

「王に用があるのか?」

「はい。オレたちは、魔王を討ち果たします。その褒美に、オレとソマリア王子の結婚を承諾してほしいのです」

「……結婚の承諾? 意味がわからんな」


 前王は首を傾げる。

 どうして王を退いたのかはわからないが、非常に若々しく、肌は透き通るように白かった。


「ある女が、トワイス王国の王を名乗り、ここにいるソマリア王子の結婚を認めないと言ったのです。ゼルビア王家のしきたりでは、王位継承権の有る者は、現王の許しがないと結婚できません。ですが、ゼルビアの現王は、王族がトワイス王国の国王に服従する契約書に署名いたしました。トワイス王国の王に認めてもらえなければ、ソマリア王子は結婚できないのです」


 マリアは真摯に訴えた。トワイス王国の前国王という青年は、足蹴にしていた女の背中を、足の裏で弄びながら言った。


「ある女というのが、現在のトワイスの女王だという前提なのだな?」

「はい」

「マカロンか?」「シャンテです」


 前王とマリアの言葉が重なる。

 マリアはソマリアを振り返る。


「前王は、マカロンかと尋ねました」


 囁いたのはカラスコだった。

 マリアが視線を戻す。

 前王は言った。


「シャンテ……シャンテ……ああ、よくマカロンの話で出てくる名だ。そうだ。現在は2人の女王が統治しているのだ。ならば、マカロンと並び立つというその女の名は、シャンテなのだろう」


 前王は、奇妙な言い回しだが、シャンテが女王であることを認めた。

 マリアが振り返ると、ソマリアが肩を落としたことがわかった。

 少なくとも、シャンテの主張が全て嘘だったわけではないのは確かなのだ。

 マリアは尋ねた。


「マカロンという方は、どなたですか?」

「余の娘だ」

「城にあった肖像画の方ですね?」


 背後から、クロムが尋ねる。


「うむ。実によく画けている」


 前王は満足げだったが、それが女性の肖像画が抱いたタヌキの方を褒めているのだとは、マリアも気づかなかった。


「では、前王にお尋ねします。現王の意見を変えることはできるでしょうか?」

「できるかもしれんが、その必要があるとは思えん」

「トワイス王国は、今後も魔王領との盾となるおつもりですか?」


「否だな。マカロンがこの国の女王となった以上、魔王軍がトワイスを攻めることはない。軍を動かすときは、むしろ周辺国を攻める時だろう」

「シャンテの言った通りだな」


 ソマリアの呟きに、マリアは頷く。

 シャンテが現女王であることが確かで、目の前に前国王がいたところで、現国王の意向を覆すメリットは、前王にはない。

 マリアは言った。


「魔王軍と戦わずとも、トワイスは人間の王国です。オレが魔王を討伐する支援をお願いしたい。それと、オレが魔王を倒せたら、ここにいるソマリアと結婚できるよう、現女王に口添えをいただきたいのです」

「どちらも、否だ」


 魔王は言いながら、頭を隠していた柔らかい布を外した。

 頭上には、まだ完全には生え替わらない、鋭い角が突き出ていた。


「魔族?」


 勇者マリアは腰の剣に手を伸ばした。

 剣の柄を掴んだつもりだった。

 だが、感触が柔らかい。


「余を魔族というか。間違ってはいないが、この姿では、わからんかな?」


 マリアが手元を見る。

 掴んでいたのが、人の手であることを知る。

 前王が変化を始めた。


「カラスコ、全員に防御魔法を。クロム、回復魔法準備を」


 ソマリアが言うと、先に剣を抜き、踊りかかった。


「モナ、何をしているの?」


 マリアが掴んだのは、侍女として同行したモナの腕だった。

 モナはマリアの剣をとり、引き抜いた。


「ああ、勇者マリア様、お待ちしておりました。私がどれほどお待ちしていたか、申し上げてもわからないでしょう」

「マリア、すぐに剣を奪い返せ!」


 切り掛かったソマリアが、前王の腕の一閃で跳ね飛ばされながら叫んだ。

 前王は変異しつつあった。

 肉体が膨らみ、肌が赤く染まる。


「ひっ……」


 足蹴にされていた女が逃げる。

 モナは喋り続けた。胸元に、マリアの剣を抱いていた。


「そのお方は言いました。勇者マリアが来たら、魔王の前でこう言いなさい。そうすれば、あなたは女王付きの侍女にしてあげる。女王付きの侍女になれば、やりたい放題よ」

「マリア、相手にするな!」


 ソマリアが叫ぶ。カラスコの魔法が発動した。

 だが、夢見るように語るモナから、マリアは強引に剣を奪い返すことができなかった。


「……何て言えって?」


 モナは答える。


「『おーほっほっほっほっほっ! 淫乱勇者は、魔王の妾がお似合いですわ! 魔王が人間を連れ帰っても、奥さんに怒られない女がただ1人だけいますわよ! 勇者マリア! 王家に嫁ぎたいなら、魔王城がお似合いですわ!』」


 モナの語り口が、全員が知っているある人物にそっくりだったため、魔王を含めた全員の動きが止まった。


「なるほど」


 すでに魔王は、変容を終えていた。

 真っ赤な素肌に、複雑な紋様が浮かび上がっている。


「何が、『なるほど』だ! マリアを渡すか!」


 ソマリアが飛びかかる。

 カラスコが氷の槍を投げつける。

 魔王が動いた。

 勇者マリアの、目の前にいた。


「余を、覚えておるな?」


 巨大に膨らんだ男の形相に、マリアは震えた。


「ま、魔王……」

「恐れることはない。あの時は、喜んでいたではないか」

「う、嘘だ」

「嘘であれば、呪いは効かん」


 魔王の瞳が赤く光る。勇者マリアの膝が落ちた。

 体が震えていた。

 股間が濡れた。


「……いや」

「マリアに触れるな!」


 再度飛びかかったソマリアが、頭をつかまれた。

 カラスコが放った火の魔法が、ソマリアの体で打ち払われる。

 そのまま、魔王はソマリアをクロムに投げつけた。

 クロムは神官である。


 神官の力を魔王が苦手にしていることを知っているのは、シャンテだけだ。

 ソマリアに命じられたとおり、回復魔法の準備をしていたクロムは、突然投げつけられた物体に押し潰された。

 魔王が、勇者マリアの顎を掴んで上向かせる。


「余の娘マカロンは、余に実に都合の良い宮殿を与えてくれた。だが、ずっと魔王城を不在にしているわけにもいかん。そろそろ戻らねば、あらぬ疑いを妻が抱く頃あいだったのだ。勇者を連れ帰り、拷問する。誰も反対せぬし、本物の勇者であれば、妻も口出しはできん。マカロンは、余の宝だな」

「……魔王なんかに……」


 勇者マリアは震えた。

 全身が、性感帯になったかのように震えていた。

 魔王はマリアを乱暴に抱き抱えても、マリアは逃げなかった。

 魔王が、モナを見る。


「よくやった。王城に戻り、好きな部屋を使え。勇者が魔王に攫われたと知れば、マカロンであれば何が起きたのか悟るはずだ」


 魔王の中では、全てがマカロンの策なのだ。

 魔王はシャンテと直接会い、話もしているが、常にモブ化しているため、シャンテがマカロンに及ぼす影響は理解していないのだ。


「ありがとうございます」


 モナは言うと、走って部屋を出た。

 魔王の行動を予測したのだ。

 魔王が勇者を連れて去れば、勇者の仲間とモナが残される。


 勇者の仲間が、モナを無事に逃すはずがない。

 魔王は腕の一振りで部屋を炎に彩り、窓を破って外に出た。


 勇者マリアは、魔王の腕に抱かれたまま、身動きもできなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ