41 探し物
老婆は言った。
探し物を見つけるのは、魔女にとって初歩の技だと。
いくつも方法があるため、自分に合ったやり方を習得すればいいのだと。
老婆はシャンテに、ダウジングから数占い、カード占い、亀甲占い、精神分析など様々な方法を伝授しながら、自らは瘤だらけの木の枝を振り、マカロンに亜空金庫を開けるように言った。
「おばば、その棒はなんですの?」
「ひゃひゃひゃひゃひゃ。お嬢様、これが魔女の証、魔法の杖ですかや」
「おばば、本当に魔女でしたのね」
シャンテが驚きの声を上げる。
マカロンは、自分の頭上に亜空金庫を開け、首を突っ込んでいた。
もやもやとした何もない空間から、たタヌキの胴体が生えているようにも見える。
「お嬢様は、わしをなんだとお思いでしたのかや?」
「自分のことを魔女だと思い込んでいる誇大妄想狂ですわね」
シャンテは、ずっと思い続けていたことを口にする。
「ひゃひゃひゃひゃ。さすがはお嬢様、わしのことを魔女だと信じずに、ずっと養ってくださっていたのですかや」
老婆は愉快そうに笑った。
シャンテは、老婆を魔女だとは思っていなかったと言った。
それでも食料を与え続けたことに、シャンテの善良さを感じたのだ。もちろん、シャンテの言うことが常に真実とは限らない。
シャンテは答えず、老婆から教わった無数の探し物を見つける方法を試しながら言った。
「私も、魔法の杖で探したいですわ」
「ふぅむ。人間には魔法は使えないというものではありませんかや。魔法の杖が見つかれば、お嬢様に魔法もお教え致しましょうかや」
「魔法の杖はどこにあるますの?」
「自分で見つけるのですかや。より瘤の多い枝を探し、丹念に磨き続けるのですかや。自分の指と見分けがつかなくなるほど磨き上げた時、杖と心が通い、魔法が使えるようになりますかや」
「シャンテ、これはどう?」
マカロンは言いながら、亜空金庫から節だらけの曲がった棒をくわえて顔を戻した。
「あらっ、いい瘤の具合ですわね。おばば、どうですの?」
シャンテは、マカロンの口から曲がった棒を受け取る。
老婆は目を凝らして、じっと見つめた。
「マカロン様、これはどこにありましたかや?」
「亜空金庫の中。覗いていたら、たまたま近くにあったの」
「何か、ご存じですかや?」
「知らないわ。私のじゃないもの」
老婆は頷いた。
「そうでしょうかや。先ほどのマカロン様の言葉を整理すると……魔族様は、亜空金庫から自由に物を取り出せるためには、ずっとその荷物の負荷を受けなければならないかや。マカロン様が首を入れた場所にあったということは、どの魔族様も取り出せるようにしておかなかったものだということですかや」
「つまり、亜空金庫の中には、これまで魔族が入れておいたあらゆるものが、漂っているということですのね?」
「おそらく……そうですかや」
「それで、これはただの木の枝ですの?」
シャンテが話を戻す。老婆は首を振る。
「古いいわれのある魔女の杖ですかや。しかし、杖は持ち主を選びますかや。杖としては優秀でも、お嬢様がすぐに魔法を使えるようには、ならないですかや」
「わかりましたわ。自分で探すのは、諦めますわ。おばば、マカロンが亜空金庫にしまいこんだ、金貨を探してくださらない?」
「金貨ですかや? そのようなものを仕舞い込んだのですかや?」
「うん。そうかもしれない」
マカロンは、タヌキの頭部を縦に振った。
老婆が亜空金庫の入り口に杖を向ける。
「承知いたしましたかや。マカロン様、亜空金庫を覗いてくださるかや」
「うん」
マカロンが首を突っ込む。
空間が歪んでいるだけのようだが、確かにそこに亜空があるのだろう。
マカロンが首を入れると、首から上が見えなくなった。
「金貨、金貨、金貨……亜空金庫を使用できるのは、魔族様だけですかや。マカロン様、金貨に集中してくださいかや」
「うーん……これかな?」
「それですかや。お嬢様」
「おーほっほっほっほっ! おばば、よくやりましたわ……何ですの? これ?」
シャンテがマカロンの胴体を抱いて引っ張り出した。
亜空金庫から大根よろしく引き抜かれたマカロンは、口に黄色い鞠をくわえていた。
「金貨じゃないの?」
マカロンが、口にしていた黄色い鞠をシャンテに渡す。
「マカロン、金貨がなにか、ご存じですわよね?」
「……なんだっけ?」
「たとえば……あっ、持ち合わせがありませんわ。おばばは?」
「わしが、そんな大金をもっているはずがございませんかや。お嬢様こそ、どうしてお持ちにならないのですかや?」
「街に出れば、親切な人が私の代わりに無銭飲食で捕まってくださるのですもの。必要ないのですわ」
「どうしたの?」
事態を理解していないマカロンが、ひとり首をかしげる。
シャンテの計算では、金貨にして40、000枚相当が、亜空金庫に入っているのだ。
「おばば、もう一度ですわ。マカロン、人間の街で美味しいものを食べるには、丸くて小さな、お金が必要ですわ」
「もちろん、知っているよ」
「亜空金庫から、出したいのですわ」
「うん。わかった。私、物分かりがいいから」
「おーほっほっほっほっ! 頼みましたわよ」
シャンテが高笑いを上げると、マカロンは再び亜空金庫に首を入れた。
「おばば」
「はいですかや」
老婆が魔法で探し、マカロンが口で捕まえる。
シャンテがひっばりだした時、マカロンは大量の貝殻が入った袋をくわえていた。
床の上に、貝殻が飛び散る。
「……誰が、こんなものを亜空金庫にしまいましたの?」
「私の知り合いに、貝が好きなおばあちゃんがいたわね」
マカロンが、しみじみと拾い上げる。
「おーほっほっほっほっ! マカロン、近づいていますわ」
「そうですかや?」
「おばば、しっ、ですわ。マカロン、光を当てるとピカピカ光る、食べても美味しくないものを探したいのですわ」
「うん。わかった。でも、そんなもの、どうするの?」
マカロンはいいながら、再び亜空金庫に首を入れた。
※
公爵家の邸宅の片隅に、ガラクタの山が出来上がっていた。
シャンテの求めに応じて、マカロンは次々に亜空金庫から探し当てたものを引っ張り出した。
その結果、歴代の魔族たちが亜空金庫の放り込んだ物品が、次々に引っ張り出され、魔女の塔だけでは収まらず、周囲の敷地に積み上げられたのだ。
休憩し、お茶を傾けお茶菓子を齧りながら、シャンテは窓から積み上がったガラクタを眺めた。
「魔族って、廃品回収業でもしていますの?」
「私が取り出せたってことは、誰もが欲しがらないってことだから……邪魔なものを入れておいたんだと思う」
マカロンは、砂糖を固めた菓子をがりがりと齧っていた。
お茶菓子は、シャンテが高笑いして、商人たちに持ってこさせたものだ。
「でも、重要なことがわかりましたわね」
「なんですかや?」
シャンテのカップに、老婆がお茶を注ぎながら尋ねた。お代わりである。
「魔族の亜空金庫は、取り出せるようにしておくと重量の負荷がかかるけど、取り出せるようにしておかなければ、容量に際限はないようですわね。それと、亜空金庫の中では、時間が止まるようですわ」
シャンテは、ガラクタの中に、ピカピカと光るマグロを見つけていた。
どうして魔族がマグロを亜空金庫に入れることになったのかはわからないが、新鮮だ。
なにしろ、ビチビチと動いている。
「邪魔なものを片付けるのに、ちょうどいいもの」
「これまでも、そうしてきたんですの?」
「うん」
マカロンは、砂糖の塊を投げ上げるように咥えながら、こくこくと頷いた。
「魔族にとっては、ゴミ箱同然なんですわね」
「でも、シャンテもいらないもの、入れたでしょ」
脱力していたシャンテに、マカロンが尋ねた。
「私がですの? 亜空金庫ことなんて、マカロンと旅に出てから、初めて知ったんですのよ」
「うん。その時に、要らないものいれたじゃない。シャンテって、何も言わなくても使い方を知っているんだなあって、感心したのよ」
「……要らないものを、私が入れましたの?」
「うん。なんだか、重くて四角い箱」
シャンテがマカロンの亜空金庫を使用したのは一度だけだ。
取り出す方法はある。そう思っていたから、隠したのだ。
「マカロン、私がその時に入れたもの、マカロンはどう思いましたの?」
「ああ。要らないから捨てるんだなって……」
「マカロン、これまでに捨てた、一番要らないものを思い出していただけます?」
「うん。いいよ」
「亜空金庫を開けてくださる」
「あなた、本当にシャンテ?」
「おーほっほっほっほっほっ!」
「あっ、シャンテだ。はい」
「おばば」
「もう、お嬢様だけでもできるはずですかや」
「わかりましたわ」
シャンテは、瘤だらけの杖をマカロンの頭部に向けた。
魔法をを使用する。
探し物を見つける魔法だ。
マカロンにとって、最も邪魔で要らないものを見つけることに意識を向ける。
「マカロン」
「うん」
タヌキの頭部が、亜空金庫に消える。
「なんだか、おっきな箱がある」
「マカロン、それですわ」
「ふぁい」
マカロンが噛み付いたのだろう。亜空金庫の中の物を取り出すときは、触れて取り出そうと思っていれば、実際の重さは関係ないらしい。
シャンテがマカロンを引っ張り出す。
マカロンの首が亜空金庫から出てきた。
同時に、四つの木箱が床に転がる。
ゼージア国王家の紋章がある。
「お、お嬢様、これは……」
「見つけましたわ。おーほっほっほっほっ! 今日はご馳走ですわよ!」
「わーい!」
マカロンが無邪気にシャンテに抱きついた。
「こりゃ、たまげましたかや」
箱の蓋を開け、びっしりと敷き詰められた金貨に、老婆が腰を抜かした。
「軍資金を手に入れましたわ。さあ、何の功績もない淫乱勇者が国を滅ぼす前に、鉄槌を下して差し上げますわ。マカロン、行きますわよ。こうしては要られませんわ」
「……ごちそうは?」
「人間の国で、一番美味しい料理が待っていますわよ」
「わーい」
「お嬢様、今日は警備が厳重で……あっ、お嬢様はどこですかや?」
シャンテはマカロンを抱き上げ、金貨を一掴み皮袋に入れると、食器を下げにきた侍女と入れ替わって老婆の部屋から退出した。
シャンテがその気になれば、もはや魔女ですら見失うほど、モブ化のスキルは強力になっていたのである。




