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悪役令嬢シャンテの狂気と『モブ化』のスキル  作者: 西玉


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40 亜空金庫の秘密

 シャンテはマカロンと共に公爵邸に戻り、高笑い1発で使用人たちを従えた。

 いつもの調子で食事を用意させ、敷地の端にある傾いた塔に運ぶよう命じて、シャンテ自身も移動した。


 シャンテが移動してしまえば、古株の使用人ですら、どれがシャンテなのかわからなくなってしまう。

 シャンテは気にすることなく魔女の塔に移動する。

 実のところ、シャンテは隣国トワイスの女王である。


 本来の身分であれば、公爵邸に戻らずともゼルビア王国の国賓として迎えられなければならない。

 だが、シャンテはお忍びで帰国した。

 何より、トワイスの国王は正体不明が伝統である。


 かつては魔王が国王を勤めていた。それが、モブ化のスキルを持つ令嬢と、タヌキの姿の魔王の娘の共同統治となったことは、トワイス王国の国民すら認識していない。

 ゼルビア王国で正体を明かしたところで、証明する手立てがないのだ。


 シャンテは、運ばれた食事をマカロンと分けながら待った。

 しばらくして、老婆の姿に戻った魔女が、心なし艶々とした肌をしながら戻ってきた。


「おお、お嬢様。無沙汰しておりましたかや」

「おばば、私がわかりますの?」


 老婆は、牢の中でシャンテを認識できなかった。


「ええ。奇妙な力を与えられたシャンテお嬢様ですかや。少しばかり……ひょっとして生き別れの娘かと思うことがありますが、間違いなくシャンテお嬢様ですかや」

「娘がいたの?」


「私によく似た……」

「間違えないで」

「承知しましたかや」


 老女の若い時の姿を、見たばかりだ。

 それでも、シャンテは間違われたくなかった。


「おばばも、元の姿に戻ったということは、満足しましたの?」

「はい。牢から助け出していただいただけでなく、久しぶりに若返りましたかや」

「ちょっと、おばばに頼みたいことがございますの。だけど、その前に、街に人が多いですわね。何事ですの?」


 シャンテが尋ねると、老婆は驚いたように首を前に突き出した。

 マカロンは、お腹がいっぱいになってシャンテの足もとで眠っていた。

 タヌキが腹を見せて寝ているので、安心しすぎにも見える。


「お嬢様、ご存じで戻られたのではなかったのですかや?」

「私が知ると、戻ってこなければならないようなことが起きていますの?」

「ソマリア王子が結婚しますかや。そのために、国をあげてお祝いをするようですかや」

「ソマリア王子の結婚相手は、私という婚約者ではないですわね?」


 かつて、シャンテは王族と婚約していた。

 その相手は、王位継承権第一位のソマリア王子だった。


「世界を救うといわれる……」

「勇者マリアですのね?」

「……はいですかや」


 老婆は口ごもった。

 シャンテは足元で寝ていたマカロンを抱き上げた。

 腕に抱く。


「おばば、探し物を見つける魔法ってありますの?」


 シャンテは話題を変えた。

 それは、ソマリア王子との婚約にこだわる理由が現在では何もないことを意味していた。

 そもそも、現在は女王なのだ。王でもない王子に嫁ぐ理由はない。

 だが、おばばはそう理解しなかった。


「お嬢様、気をしっかりお持ちになってくださいかや。このおばば、お嬢様のためでしたら、喜んで毒リンゴをお作りしますかや」


 おばばは、シャンテの手を握った。


「ええ。ありがとうですわ」


 シャンテは、おばばの反応によって、ソマリア王子と勇者マリアに、徹底した嫌がらせをするべきなのだと思い出した。

 だが、そもそもゼルビアに戻ってきた目的は、勇者マリアではない。


「それで、お嬢様……探し物を探す魔法は、魔法の初歩の初歩ですかや。魔法でなくとも、方法はいくつかありますかや」

「それを教えてほしいのですわ」


「何を探すのですかや? ソマリア王子を不能にする秘薬の調合ですかや? マリアが子どもを作れなくなる呪いの呪具の作成方法ですかや?」

「そんなものではないですわ。まあ……それは後で探させていただきますわ。マカロン」


 シャンテは、自分の腕の中でだらしなく涎を流していた魔王の娘を揺り起こした。

 マカロンは、眠ったまま口をぱくぱくと動かしていた。

 舌なめずりをしている。


「マカロン、お起きなさいよ」


 タヌキの姿が身震いし、薄く目を開ける。


「……シャンテなの?」

「おーほっほっほっほっ!」

「あっ、シャンテだ。お早う」


「ええ。マカロン、金庫を開けてくださいます?」

「うん、いいよ。どうするの?」

「まさか、魔族だけが持つという、亜空金庫ですかや?」


 マカロンが、シャンテの腕に抱かれたまま、頭上の空間に金庫の入り口を開けた。

 ただの空気しかなかった空間に、幾重ものモザイクがかかったような入り口が現れる。

 驚愕する老婆に、シャンテは尋ねた。


「おばば、魔王の元にいたことがありますのでしょう? 見たことがありませんの?」

「いえ、存在は……聞いたことがありますかや。でも、魔族にとっての秘中の秘でございましょうかや。わしのような魔女ですら、見たのは初めてでございますかや。まして……シャンテお嬢様は人間ですかや」


 老婆の驚愕を他所に、シャンテは尋ねた。


「マカロン、何か取り出してくださいませ」

「うん。いいよ」


 マカロンは頭上のモザイク空間に首を突っ込み、お弁当の包みを取り出した。

 シャンテに渡す。


「おばば」

「は、はい」

「それ、私のよ」


 シャンテが老婆にお弁当の包みを渡したことで、マカロンが慌てて前足を伸ばした。


「食べたりはいたしませんわ。ちょっと、調べるだけですわ」

「本当に?」

「おーほっほっほっほっ!」

「じゃあいいよ」


 シャンテが高笑いをしたことで、マカロンは納得した。

 シャンテとマカロンのやりとりに目を丸くした老婆だが、渡された弁当の包みに視線を向けた。


「これは、いつ入れたものですかや?」

「結構前」


 マカロンはあやふやに答えた。


「私たちが、トワイス王国から出発する日に入れたものですわ」

「うん。そうだよ」


 マカロンは、タヌキの頭部をぶんぶんと振った。


「噂に聞いた通り……魔族の亜空金庫では、時が止まるようですかや。他にも、出せますかや?」

「出せないよ。どこにあるかわからないもの」


 マカロンは、当然のことのように答える。

 だが、亜空に金庫を持たない人間には、当然のことではない。

 シャンテは言った。


「亜空金庫には、とてもたくさんの物が入りますわね」

「うん。とっても沢山入るよ」

「マカロンの亜空金庫には、お弁当の他にもたくさん入っているけど、取り出せるようにしておくと、重くなるのでしたわね?」


 シャンテは、自分が理解している亜空金庫の仕様を口にした。

 だが、マカロンが首をかしげる。


「亜空金庫は一つだよ。パパやママの金庫とも繋がっているの。取り出せるようにしておくと、その分の重さが体にかかってくるから、お弁当ぐらいしか入れないよ。体に重さがかからないようにしておくと、どこにあるかわからなくなっちゃうの」


「おばば、聞きましたわね」

「はい、お嬢様、確かに聞きましたかや」


 シャンテが尋ねると、老婆は息を呑んで頷いた。

 シャンテにも知らなかったことがあった。

 魔族の持つ亜空金庫は、ほぼ無限の広さを持つ。

 全魔族で同じ空間を共有しているのだ。


 だが、あまりにも多くの物を入れて、取り出せるようにしておくと、その分の負荷が体を襲うのだ。

 特に、タヌキの姿である女性魔族にとって、食糧より重い物を入れる意味がないのだろう。

 シャンテは高笑いを上げてから、マカロンに言った。


「マカロン、以前亜空金庫にしまった、金貨を取り出したいのですわ。協力していただけたら、大好きな油粕を差し上げますわ」

「油粕は別に好きじゃないけど、いいよ」


 マカロンが承諾すると、シャンテは老婆に視線を向ける。


「亜空金庫の中の探し物、見つけられますわね?」

「……マカロン様に、ご協力いただければ」


 かつて魔王に仕えていたという老婆にとって、マカロンは主人の娘である。


 恭しく下げられた白髪頭に、マカロンはまかせろと言わんばかりに、前足を乗せた

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