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7- 個人戦闘

 ユウガという人間は、残念なことに突っ走るクセがあった。それはこの日も例外ではない。あの時水を飲んだユウガは、その水だけで体の疲れなどが吹っ飛び、活発に動けるようになっていた。


 そのため、突然避難地域に出向いて活動するなんてこともやってしまうのだ。


「──うし、いっちょ吸血鬼助けてみますか」


と、啖呵を切ってみたはいいものの、暴走吸血鬼が本当にいるのかすら怪しい現在、正直自分の行動に若干懐疑的になっている節はある。もちろん、先程のリーゼを見ているために、暴走吸血鬼の存在そのものを疑っているわけではない。純粋に、ここにそれらがいるのかということを疑っているのだ。


 今のところ、家電の怪物をちらっと見た程度で本来の避難目的である「吸血鬼」を見ていない。つまり、もしかしたらラベル社がバレットたちを放出して無理やり避難地域にしている可能性だってある。


 ユウガがそんなことを考えながらビルの隙間を縫うように歩いていると、目の前に人影が姿を現した。


(人間、か? いや、それだけはないな)


 ユウガが恐る恐る近づいて見ると、その人影は唐突にダッシュしてこちらに向かってくた。


「こいつ、吸血鬼か!」


 ユウガは目の前の男が吸血鬼だということを理解した。吸血鬼は、ユウガと組み合うようにして攻撃を仕掛けてくる。ユウガはそんな吸血鬼を両手で押し返し、なるべく傷つけないような戦闘をしようと試みる。


(クソっ、これじゃ起動出来ねぇ……!)


 問題は、腕を振ることができない点。押し返してしまえば簡単だが、なるべく傷つけたくないユウガにとってはジレンマ的な状況に陥ってしまうのだ。


 すると、突然後ろから銃撃音がバラララッ! と響いた。そこに居たのはイムク──なら良かったのだが、残念なことに居たのは冷蔵庫のバレットだった。


「やっべぇ……!」


 家電型のバレットは、人間も吸血鬼も分け隔てなく殺しにかかる。ユウガはそこまでの躊躇を清々しいまでに捨てて吸血鬼を押し倒し、腕を二回振ってシステムを起動させる。そして、銃撃を背中で数弾受けながら、吸血鬼を庇った。


(いっっっってぇ!! でも、血は出てねぇみたいだし、こいつを見過ごすことは出来ねぇからな……!)


「ぐぅぅぁぁっ!!」


「大人しくしとけっ!!」


 庇っているはずの吸血鬼からも攻撃される。ハッキリ言って、ユウガはとんでもなく不利な状況だった。


 しかも、システムが耐えられなくなったのか、バシュッ……! という音と共に、一発の銃弾が空気装甲を貫通しユウガの背中に着弾した。


「がぁぁぁっ!!」


 痛い……! あまりにも……!! しかし、空いたはずの風穴は、一瞬にして治っていく。まるでこの程度の傷など関係ない、と言わんばかりだ。


(いつまでも受け身じゃダメだ……!)


 ユウガは地面を思いっきり蹴り上げ、吸血鬼から距離を取りつつ、バレットの顔に拳を入れる。


「ギギギッ……!」


 ギアが悲鳴をあげる音がした。ユウガは間髪入れずに二発目の蹴りをぶち込む。すると、今度は後ろから吸血鬼が襲ってくる。


「おぁぁあっ!!」


 奇声をあげる吸血鬼の腰を掴み、バランスを崩させる。その次は立ち上がったバレットが銃撃を仕掛ける。しかも、今度は「冷蔵庫の特権」と言わんばかりに冷気を帯びた弾が飛んでくる。


「つめてぇぇっ!!」


 血が垂れる。冷却弾のおかげで無駄に痛みが強くなっている。ユウガは装甲によるダメージ軽減がそろそろ限界を迎えそうなことを理解し、全力を振り絞ってバレットに近づく。


「くたばれぇぇっ!!」


 ユウガは冷蔵庫の扉を開け、強い冷気を受けながら庫内に振りかぶったパンチを二発入れる。


「ギギッバキッ!」


 ギアが破壊される音がした。その後、バレットは動きを停止し、その場にばたりと倒れ込んだ。


 よし、と思うのもつかの間、もう一人の敵対相手である吸血鬼が攻撃を仕掛けてくる。噛みつき攻撃をそのまま受けるように、ユウガは腕を出して噛ませた。すると、銃創二箇所と腕の噛み傷一箇所の合計三箇所から出血し、いい加減に力が弱くなってくる。


 不思議なことに、銃創から弾は無くなっていた。これが自分の治癒能力なのか、とユウガは気づきを得る。


 しばらく血を吸わせると、吸血鬼が理性を取り戻した。


「──やっぱ、血を飲ませれば暴走は止まるんだな……!」


「──えっ、えっ!?ここは……!?」


「……お前、まさかさっきまでの光景覚えてないのか」


「す、すいません、なにも……」


「そうか──最後に覚えてることってなんだ?」


「い、いや……なんか、突然身体が言うことを聞かなくなる感じがして……そして気づいたらここに」


 どうやら、吸血鬼の暴走というのは記憶を伴わないらしい。ユウガは、この問題が単純解決ができるほどのものではないと悟った。


「てか、やべっ、ここにいたら危ないんだわ、逃げんぞ」


「えっ」


 ユウガは救った吸血鬼を連れて避難地域の外へと向かった。そして、安全なところまで連れていった後に吸血鬼と別れた。


「元気でな!」


◇ ◇ ◇


 結局、ユウガは血まみれで帰宅することになった。


「ただいまー」


 イムクは運んでいた衣服を落とした。


「オーナー、何があったんですか──!?」

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