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6- 許し

「泣いている──!?オーナーは自らを殺しかけている相手を許すんですか!?ただそれだけの理由で!!」


「許すわけじゃねぇ。後で思いっきり殴る。けど、その殴る力を与えてくれた奴ってのも事実だ。つーか、イムクもリーゼも今日出会ったばっかだしな」


「だからって!!」


「最初、コイツは急に理性を失ったみたいな動きをした。言葉も喋んなくなって、ただひたすらに血を求めるバケモンみたいになって、俺の左首とか、色んなとこに噛み付いてきた」


「なんでその時に反抗しなかったんですか!?その吸血鬼に貰った力があったでしょう!?」


「──情けねえけど、そんなこと考える時間もなかった。まだ一回しか使った事もなかったし」


 リーゼはまだ血を吸っている。にもかかわらず、ユウガはなんの問題もないような表情でその状況を受け入れている。


「そんで、途中からコイツが泣き出した。さっきのリーゼが『暴走吸血鬼』なのかはわからねーけど、そいつらに血を吸わせたら、こいつみたいに理性を多少なりとも戻せるんじゃねーか?」


「──まさか、避難地域にいる暴走吸血鬼たちにオーナーの血を吸わせよう、なんて考えているんですか!?」


「そう。吸血鬼に関する知識なんて何もない。けどな、リーゼを見るに、人間と大差ないんだと思う。もちろん、この考えは変わるかもしれねぇ。だが、現段階では、吸血鬼たちを犠牲にしたくはないからな」


 ユウガとの会話に夢中になっていたイムクはあることに気づいた。先程まで広がっていた血の海が消滅しているのだ。代わりに何かが乾いたような跡だけが残っている。


「イムク。水を持ってきてくれないか」


 イムクはその指示に従い、ユウガの様子から目を逸らさず、ペットボトルを持ってユウガに近づく。


「さんきゅ」


 ユウガはリーゼに血を吸わせたまま、ペットボトルから水をラッパ飲みした。イムクは、ようやく気づいた。自分のオーナーは、ただの人間ではない。血を吸われているのだから、人間でないことはない。間違いなく人間だが、同時に通常の人間とは一線を画す回復力を持っている。


「それで誰かを助けられるなら、別に血なんていくらでもやるし、リーゼは殺すよりもこの考えに協力してもらう方が、俺的には罪滅ぼしになる」


 ユウガの声に反応するように、リーゼがユウガの首から口を離した。


「満足したか? リーゼ」


 リーゼは泣きながら頷いた。そして、そんな彼女をソファに座らせて、話を聞くことにした。


「──リーゼ、吸血鬼だったんだな」


「……ごめんなさい」


「ま、謝るのならいい。血なんていくらでもやるよ」


「──なんで……?」


「ま、それで吸血鬼が助かるならいい、って感じ。俺の命なんて軽いものだしな」


「助かるならって……ワタシとキミは初めましてじゃないか」


「ああ。そうだな。ただ、世界はこんな面倒なことになってるんだし、あんだけ傷つけたわけだ。仲間になろう。そして協力してもらうぜ、色んなやつを救うのに」


 ユウガは、リーゼの右手をしっかりと握る。リーゼは、涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔をユウガに向けながらも、右手でしっかりと握り返した。しかし、さすがにリーゼの顔が見てられなくなったのか、イムクはリーゼの顔をハンカチで拭った。


 そして、イムクは再認識する。恐らく、人類の中で最も吸血鬼を救える人間、それはユウガだ。『死なない』、ということ、それ即ち生物的には最強に等しい。先程の様子から察するに、水さえ飲めば血が回復するようである。イムクは、自分のオーナーがとんでもないやつだということを認識した。


「──あーあ、なんか色々あってモヤモヤすんな。散歩してくるわ」


 恐らく、ユウガは自らの強さを自覚しきれていない。いや、強さというよりは、使い方、だろうか。『死なない』なんて能力は、戦闘において超強力なのは言うまでもない。それはユウガも気づいているはずだ。


「──さて、オーナーが居なくなったわけですから、教えてください」


「──なにをだい?」


「私の身体についてです。あなた、まるで私の中身が換装されているという事実を知っていたみたいな口ぶりだったじゃないですか」


 リーゼは、仕方ないと言わんばかりに口を開いた。


「そう、イムクの身体を換装したのは……ワタシなんだ」


「──やはりそうでしたか」


「ワタシがバレットを求めて避難地区をさまよっていた時、ラベル社の施設の前で放置されていた体を見つけた」


「盗んだんですか!?」


「改造待ちのやつだったのかもね。でも、あの時既にワタシは血が不足していて、理性を多少なりとも失っていた」


「それは言い訳にはなりませんが、ということは、私たちが出会ったとき、人間とバレットの区別が付いていたのは──」


 イムクは少し間を開けてから、リーゼに訊いた。


「人間とバレットの見た目が違う、とかではなく、血の匂いを感じたから判断できた、ということですか」


 リーゼはこくりと頷いた。


「それで、一旦キミのことについて話を戻すと、キミの舌パーツはとある場所で拾ったものなんだ」


「とある場所、というのは?」


「避難地域とは逆の、街の中心街の道上だね。キミの元のモデルは舌パーツが外れる不具合が多発していたらしいから、なにかのはずみで落ちたのかもね」


「そんな馬鹿な……」


「だから、昔のキミは普通のバレットの生活をしていたのかもしれない。どう?なにか覚えてる?」


 リーゼは、先程あんな惨事を引き起こしたとは思えない口調で言った。


「いえ、覚えているのは型番だけです。それ以外はなにも」


「だよねー。私が拾った時もデータがなかったらなぁ。見れたら良かったんだけど、仕方ないねー」


 本当になんでこの人の元で過ごしているんだろう、そんな疑問がイムクの中で駆け巡る。しかし、オーナーであるユウガが許している以上、なにかをとやかく言うことが出来ないのがもどかしかった。

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