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5- 模擬戦闘

「ほらほら、外に出な。特設ステージでバトルバトル!」


 そう言ってリーゼが案内したのは、いかにも少し広めの庭、といった感じの土の上だった。先程の『アジト』発言といい、リーゼは話を盛りがちらしい。


「さーて、ほらユウガくん。さっきの指示通りに」


 ユウガは親指と薬指をくっつけ、手首を二回振った。すると、肌が引き締まるような感覚がした後に、補助機能が付いたように身体が軽くなった。


「なんだこれっ!?」


 ユウガは今日一日で衝撃を受けまくっている。それにしても、身体が異様に軽いのは事実だ。


「ジャンプ力の向上、ダメージ軽減、攻撃力アップ。言うならば、身体全体に強力なバフ効果を付けるみたいなもの。まあ、回復機能とかはないから、致命傷受けたら死ぬんだけどね」


「──どうやってそんなこと実現してんだ」


「簡単に言えば、空気の力さ。一時的に、身体周辺に空気を圧縮して装甲代わりにしてるわけね。だから真空中だと無意味だし、風を操る相手とかだとめっぽう弱いね。あと圧力系にも弱い。動力源は生体エネルギーだから、死んじゃったら動作停止するよ」


「──命すり減らしながら戦うってことかよ!?」


「ははは、まあそうだね」


 ユウガはリーゼの適当っぷりに怒りを覚える。しかし、今後またバレットに出会ったときに対抗手段がないのは更に腹立つので、とりあえず状況を受け入れる。


「よし、戦闘いってみよー! 負けた方は買い出しに行ってもらいまーす」


「なんでだよっ!」


 ユウガは急に出された情報にツッコミを入れながらも、仕方ないと言わんばかりに神経を集中させる。


「──行くぞ、イムク!」


 ユウガがそう言うと、イムクは右腕を展開して木製の剣を取り出した。


「なるほど、訓練用の剣ってわけか。なら不安なく戦えるな!」


 イムクはジェットパックで加速し、木剣を振りかざしてきた。ユウガはそれをスっとかわす。


(やっぱ軽い……! こんなに素早く動けるのかよ……!!)


 かわされたイムクはジェットパックで切り返して再度攻撃を仕掛けてくる。イムクはその攻撃を足で地面を蹴ってかわす。しかし、蹴りすぎてしまったのか身体がすっ飛んでしまった。


(むしろ体の機敏さに頭がついて行ってねぇ──! 想像よりも大きく動いちまう……なら)


 ユウガはダッシュしてイムクに近づいていく。そして、拙いパンチをイムクに向ける。彼女はそれを軽々とかわし、カウンターと言わんばかりに急加速して攻撃してくる。ユウガはそれに「もらった!」と声を上げ、攻撃を両手で受け止めた。痛みはない。木剣ということもあるのだろうが、装甲によるダメージ軽減もあるのだろう。


 ユウガはそのまま剣を弾くようにしてイムクを押し倒す。


「──おっ、なんかいいねー」


 リーゼがふざけてそんなことを言う。イムクは表情ひとつ変えないが、ユウガはそんなイムクの顔から目をそらす。


「はいはーい、そこまで! 今回はユウガくんの勝ちだねー」


 ユウガはハッとしたような表情をして、その場から立ち上がった。


 土を払い、親指と薬指をくっつけて手首を二回振る。すると、プシューという音と共に力がみるみる抜けていく。そして、疲れがドカッと体を襲い、尻もちをついてしまった。


「はぁ……はぁ……あの程度の戦闘なのに……こんな疲れんのかよ……」


「オーナー、大丈夫ですか」


 イムクはそう言ってユウガを腰から持ち上げる。やはり、華奢な女性にしか見えない身体の中には、かなりのパワーがあるようだ。


「よし、じゃあ中に入ろうか」


 三人が中に入った後、イムクにエコバッグが渡された。


「はい、じゃあこのメモに書いてあるものを買ってきてね」


「──わかりました」


 イムクはそう言ってメモの内容を確認する。書いてある商品は、水や食料といった普通のものだ。一部機械用の商品もあるが、イムクとユウガの食料だと考えれば普通だろう。


「では、行ってきます」


 イムクはそう言って少し離れた商業施設へと向かっていった。


◇ ◇ ◇


 イムクは頼まれた商品たちをカゴに入れていく。こういう買い物もバレットの仕事ではあるので、本来の目的に沿った運用方法ではある。イムクの周りにもバレットらしき人物がたくさんいることがその証明になっている。


 商品たちを間違いなく購入したイムクは帰路につきながら、先程の戦闘を振り返る。自分とユウガの間には上下関係があるし、自分の出力もだいぶ抑えられていた。それに、今までとは戦闘用のパーツも異なっていた──いや、ユウガは戦闘すら初めてらしい雰囲気を出していた。それを考えると、言い訳は通用しないかもしれないし、自分のオーナーは良い戦士になるのかもしれない。もしそうだとしたら、なんだか変な嬉しさを覚える。


 イムクには不平不満を言うだけのプログラムが書き込まれていた。それと同時に、喜びを感じるプログラムも。十五年という歳月は、電脳に感情を覚えさせるには十分な時間だった。


 そして、イムクは自らの新しい家へと帰ってきた。これだけ同じ形のコンテナが並んでいると、何処が入口だったかを思い出すのに時間がかかりそうなものだが、記憶をそのまま取り出せるイムクにとって、迷う時間など微塵もなかった。


「戻りました」


 そう言って、コンテナの扉を開ける。すると、目の前に赤い液体が水溜まりのように広がった。イムクはその衝撃的な光景にハッと息を飲むと、すぐに液体の出処を見た。


 ──リーゼが、ユウガの左首を噛んでいる。イムクは目を見開いたが、すぐに銃を構える。


「──イムク……!撃つな……!」


「──!?」


 あれだけ血を出しているユウガから、それなりの大声が飛んでくる。イムクはその指示を聞いても、銃を構えたまま静止する。


「銃を下ろせ!」


 先程よりも大きな声が飛ぶ。ユウガはリーゼに血を吸わせたまま、左首を下にしてイムクに訴える。


「──こいつ……泣いてんだよ」

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