初任務後半
するりと正体があらわになる
「先生!」
「いやー、いじめてすまないね! 華椰葉を試していたんだ」
「試す?」
「あぁ、忍者に向いているかどうかね。忍術学校に入る者は普通、忍者の家系だからね。華椰葉のタイプは初めてで」
「逃げ出さないかどうかを試されていたんですね。だからあんな質問を」
「そうだ」
「あ! ってことは憂斗もグルってことですか?」
「それは違うよ、本当に任務として今回は出向かせていたからね。でもまぁ私の術も憂斗は知ってることだし、はじめの方で察しはついてたんじゃないかな!」
「もちろんわかってましたよ。目的もなんとなく察したので自然な雰囲気にしときましたよ」
完全にやられたと華椰葉は悔しがっていた
そして先生は嬉しそうに
「さっすがー! 私の教鞭がさすがだわ~」
そう言いながら壁に手をつき、かっこつけようとしたとき
ポチッ
ブーブーブー!!
「あ」
「んぁ! やっべー」
緊急時にしか押してはいけないあのボタン
強く押すって書いてあるあのボタン
どんだけ強く壁に手を付けたんだろう、先生。
「華椰葉、さっき逃げるの嫌的なこと言ってたけど逃げることも大切だよ。だから、さっ逃げるよ」
そう言った瞬間素早く駆け出す
それを見た2人も身体は自然と動き出していた
パリィィィーーーンッ!
勢いよく外へと飛び出す先生の背後をついていく
スタスタスタ
「そういえば私の自己紹介がまだだったな」
「いっ、今ですか!」
「朝霧香だ。よろしく頼む」
「あとひとつ言おうと思っていたんだが、銃か刀は持たないのか?」
「持ち歩いていいんですか!」
「うんいいよ」
憂斗は呆れた顔をするが話は進む
「軍人ならそっちの方が使いやすいだろ。敵を倒すだけじゃなく、護身用にも持っていた方が確実だ」
「わかりました!」
先生と話すと少し心が落ち着く気がする
そして、あの話を思い出す
「憂斗、さっきはありがとう」
「なんのことだ」
「正しいかどうかはわからないままでいいんじゃないかって話」
「へぇー、憂斗そんなアドバイスができるんだ」
「別にアドバイスしたわけじゃないですよ」
「ごめんごめん!」
「でも本当に感謝してるの。あの言葉がなければ先生からの取引も失敗していたのかもしれないから」
「お、おう」
月の明かりだけが頼りのこの夜道で、はじめて憂斗の柔らかい笑顔を見た
そして、
「逃げ切れたねー! よかったよかった」
「本当に先生のせいで災難でしたよ」
寮に着いた3人
「今日は遅くまで任務頑張ってくれて感謝する」
その言葉を残し先生は夜道へと消えていった
「本当に逃げ切れたと思うか、あれ。だってあんなに大胆にアラートが鳴ってたし」
「うん、あれは鳴ってただけ! 軍事施設には防犯カメラも特にないし。」
「ないのか?!」
「被害に遭うリスクを考えたら付けた方がいいけれど、それよりもカメラを通して覗かれたり軍の内部の告発があったとき証拠になるから設置してないの」
「さすがは本物の軍人、詳しんだな」
「当たり前でしょ。さすがにガラス割ってるのは、明日の朝担当の人可哀想だけど……っていけない!」
「急になんだよ」
「明日軍の方に行かないといけないんだった! 先生に言うの忘れちゃった。先生ってどこに行ったか分かる?」
「全く見当もつかないな。明日のことは俺の方から伝えておくよ、そこらへんは臨機応変に対応してくれる先生だから安心しろ」
「うん、そしたらお願いするね!」
「おう、お願いされた」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
翌日
軍ではこれまでと同じで基本的には訓練を行っている
「華椰葉ー! なんか久しぶりだね、まさか転校するだなんて」
「何も伝えてなくてごめんね。でも軍でも引き続き会えるから!」
軍の仲間には忍術界への参加は一切話していない
なぜなら信用できるという保障がないから
心の奥底では信用してる、信用したいと思う人はいるが.......
「転校ねぇ」
華椰葉たちが話している陰でニタニタと聞き耳を立てるものがいた
「一色師団長! お疲れ様です!」
「お疲れ様! 体力づくりは順調?」
「はい! おかげさまで!」
「よーし、私も頑張らないと」
最新の報告書のチェックをしているとき
「一色第一師団長、会うのは久しぶりですね」
一番聞きたくない声が聞こえた
「東第二師団長、何の御用で」
そこには華椰葉の父親と同じくらいの年齢の男が立っていた
軍は3つの師団で形成されている
第一師団、精鋭中の精鋭で華椰葉が率いている
第二師団、兵士としての期間が5年を満たしたものが所属する
第三師団、兵士としての期間が5年未満の新兵の集まり
「そんな怪訝な顔をしないでください」
片方の口角を上げながら嫌味を吐く
「ところで学校の方は疎かに? ちょうど今転校したと面白い話を耳にしまして」
「はい、転校したからと言って疎かにしているわけではありません」
「まぁ、一色第一師団長に安寧の学園生活なんて無縁ですからね」
その言葉に反撃したい気持ちは山々だが、それでは彼の思う壺だ
「この話もあなたとは無縁なので。私はここで失礼します」
不愉快な気持ちになりその場をあとにする
「生意気になったもんだな」
この年齢で第一師団長を務めている、歴代総統の娘
これだけでも華椰葉を恨むには十分な理由だ
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
段々と日が伸びたなと感じる季節
華椰葉は入学から忙しい毎日を送っていた
そんな華椰葉にも、やっと
「今日は休みだーーーーーっ!」
休日がやって来た