はじまり
この国は地上人と、犯罪者が送られ、地下に形成された街に住む地下人が存在する。
地下人が地上に出てきては犯罪をして、地上から武力によって制圧するイタチごっこが繰り返されている。
最近では核爆弾に備え地下街への注目が集まり、地下街侵略の衝突も後を絶たない。
何が悪で、何が正義かわからなくなっているこの世の中
本当の戦いとは。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ドカァーーーン!!
爆音が鳴り響く。
「みんな! 一旦引いて!」
ここは戦場。そして私は軍の師団長を務める———
「一色華椰葉です。よろしくお願いします」
軍師団長の私が、なぜ自己紹介をしているのかというと
たった今、忍術学校に入学したからだ。
一色家は国直属で歴代総統を務める由緒正しい家門である。そこに生まれ落ちた私は、幼いころから軍に所属するために身体を鍛えてきた。だが、ついこの間突然忍術を使えるようになった私は忍術界に
売られた。
◆
キーンコーンカーンコーン
「今日転校生が来るってね!」
「みゆりの情報は早いが、正しいかどうかの保証はないからな」
「今回ばかりはほんとだってば! まぁいいや、いずれ分かることだし。でも女の子がいいなー、さすがに芋男2人とは飽きてきた」
「飽きたって、まだ俺らも1ヶ月の仲だろ」
ガラガラッ
「さっ、みんなお待ちかねの転校生だ」
「お待ちかねって俺はなにも聞いてないんですけど」
「うん、言ってないもん。 入ってこーい」
スタスタ
忍術学校の紺色の制服とは違い、深みのある赤紫色の軍服を身にまとった華椰葉へと皆の視線が集中した。
「一色華椰葉です。よろしくお願いします!」
爽やかな笑顔を見せ、ぺこりと一礼する。
「うひょ~!女の子じゃん!救われたぁ華の高校生活の幕開けだわ!」
下の方でお団子をしている茶髪の女の子が、明るく反応してくれた。
するとすぐ隣の銀髪男と目が合った。
その目はなんとも珍しい紫色の綺麗な目をしていた。
「一色? 聞いたことのない家系だけど」
「あぁそれもそのはず、国直属の軍家だからな。忍術の世界の人間が知らなくても当然だろう。華椰葉は好きな席に座ってくれ」
「……好きな席って」
席は30人分くらいあるのに、3人しか座っていない状況だ。
華椰葉がその様子に困っていると、
「元々この教室いっぱいになる生徒はいたけど、みんなリタイアしたから!」
「リタイア……」
先生が3人しかいない理由を説明してくれた。
「うん、忍術が使えるものは未だこの国に一定数存在し続けている。その忍術を学びに来ようと思うものは毎年30名ほど。しかしみんな続かないんだよねぇ~」
「やっぱり、忍術は難しいからですか?」
「いや、危険だから。そりゃ、かっこいいからとか報酬がいいからとかいろんな理由で皆入学してくる。しかし結局は安全。安全がいいんだよ。華椰葉は軍人だから想像つくだろうけど、軍は大規模な兵士とそれを後押しする国民がいる。心強いよね」
「それは、はい」
「でも忍者はコソコソっと危険なことをしないといけない。誰かに感謝されるわけでもなく、功績を国民に褒めてもらうことすらできない。その程度の理由で入学した者が、このざまで命張れるかって話だ」
「このざま、、なるほど」
すると、ぐっと袖を引っ張られる。
「華椰ちゃん!隣に座って!」
女の子が隣の席を勧めてくれた。
「う、うん!」
突然のことで驚くも、満面の笑みでその誘いに応えた。
「よしっ!早速授業だ!」
「はやっ」
華椰葉以外の3人は全く同じ反応をした。
キーンコーンカーンコーン
「やっと終わったー」
「先生私たちの自己紹介もなしに授業始めるんだもん!」
「そうか、俺らの自己紹介はまだだったか」
「うん、よかったらみんなのこと知りたいな」
「じゃ、まずは私からね! 富瀬みゆり!人を傷つけない忍術を使えるよ」
そう言った瞬間
バキューーーン!!
目の前には傷ついてはいなそう?な人が壁に捕獲されていた。
「ほらね?」
「おー!すっ、すごい!」
こんなにもキラキラな笑顔で、きゅるきゅるの目でそんなことを言われたら「傷つけてるじゃん!」って否定できる人間はいないだろう。華椰葉は、華椰ちゃんと呼んでもらったその時から心を射抜かれていた。
「次は憂斗の番ね!」
「伊賀憂斗だ」
「……」
名前だけでわかるだろうと思っていた古参組と、まだ続きがあると思って集中して待っていた新参者の間には冷たい風が吹いた。
「い、伊賀って聞いて、な、何もわかんないのかよ!」
「伊賀くんか……いい名前だね!」
あからさまに焦る様子と、噛み合わない華椰葉の返事に古参の2人はクスクスと笑っていた。
「そ、そうじゃない」
「あ! ごめんね。違った?」
「別に違くはねぇけど、そ、その、みんな人違いを防ぐために下の名前で呼ぶから。忍術界は伊賀って他にもいるし」
「わかった、憂斗って呼ばせてもらうね」
「華椰ちゃん本当に伊賀家について知らない?」
不思議そうにみゆりが見つめてくる。
「う、うん。実は忍術を使えるようになったのもついこの間で」
「そうだったの!? 先生ほんと言葉足らずだなぁ」
驚くみゆりは続けて説明をしてくれた。
「伊賀家は忍術界のヒエラルキーでトップに君臨する一家だよ」
「忍術でトップ......うわぁ、そんなすごい人がここに」
その言葉に憂斗は苦笑いした。
「すごいって、華椰葉の方こそすごいだろ。っていうかみゆりは表現が大袈裟だな」
「大袈裟なんかじゃないわよ! それだけ有名だから知ってるものだと思ってたの」
「まぁいずれわかることだよ」
今日はじめて耳にする声。
この声は誰だと思い華椰葉はキョロキョロと周りを見渡した。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
華椰葉の真横に、みゆりが先ほど忍術で捕獲した人が口から血を吐きながら話し始めた。
影が薄すぎてサラッと流していたが、確かに同じ空間にいたことを思い出す。
「えぇオェそんなに驚くの! これも成長ということか......」
「こいつ影薄すぎんだろ。ここまで驚かれるとはな」
「華椰ちゃんはまだこのレベルの薄さを体験したことないはずだし、驚くのは当然だよね。でも血吐きながら話すのは大袈裟すぎ」
「うんびっくりしたぁ! 一瞬心臓止まってちょっと痛いよ」
胸に手を当て、ふぅっと肩を下ろす。
華椰葉を含め全体的に高身長のメンツ。しかしその声の主は、さらに一回りも二回りも大きな身体をメリメリっと壁からはがし、
「よいしょっと、僕は大内泊だよ~ん!ちょっと君を試してたんでけどさ、まさかこんなにも気づかれないなんて! 忍者としては誇らしいことなんだけど、クールな男子高校生としてはちょっと心がグサッってえぐられるかな!」
さっきまで気付かなかったことが嘘のように、光を纏っているかのようにテンポよく話し始めた。
「泊はこんなに影薄いけど、誰よりもおしゃべりだから」
「そうそう憂斗よくご存知ですね! 影の薄さはピカイチでぇーす! よろしくぅーーー!」
泊はクルっと1回転し、手のひらにフっと息をかけ両手をハエのようにスリスリさせ握手を求めてきた。
華椰葉は無駄な動きが多いなと思いつつ、手を取った。
「よろしくね!」
憂斗とみゆりの反応を見るからに、この人はこれが通常運転なのだと理解した。
「ところで、華椰葉はなんで忍術学校に転校してきたの? 軍家出身ってことだから軍人だったてことだよね。」
先程までふざけていた泊だが、普通に話し始めた。
「今もまだ軍人だよ! 軍人しながら忍術も学ぶの」
「そんなの、大変すぎるじゃん」
「あと、なんで転校してきたのかは……」
家族に売られたなんて、そんなこと言えるわけがない。
でもなんて答えるのが正解なのだろうか。
「私には、忍者の方が向いてるのかなーって!」
「そうなんだね!華椰ちゃんがどんな忍術使うのか楽し…」
「……くみるな。」
憂斗が何かを言ったが聞こえなくて聞き返す。
「ん?」
「忍者を甘く見るな」
鋭いな眼差しで口を開いた。
その表情で真剣に伝えたいことなのだと理解をした華椰葉は、
「そうだよねごめん軽率な言葉だった」
と引きつった笑顔で答える。
「でも忍者を甘く見ているわけではないから」
ここでこの言葉を言えば場が悪くなることくらいわかってた。しかし、勘違いされているままでは嫌だから自然と出てしまった。
初日から何言ってるんだろう......私。
が、その言葉をフォローするように、
「華椰ちゃんはそういう意味で言ってたわけではないし!」
「そうだよ、きっかけなんて人それぞれなんだから!」
と、みゆりと泊が場を和ませてくれた。
そして今、華椰葉はベッドの上でひとり反省会中。
さっきはみゆりちゃんと泊に助けられた。でも......
「確かに忍者の方が向いているなんて、確実に不正解の回答を出しちゃったなぁ」
不正解だと分かりつつも心の中はモヤモヤとしていた。
華椰葉の手は震えていた。
自分の手で相手の最期を決める。
ここで切れば、ここで撃てばこの人の人生は終わる。
でも私が見逃せば生き続けられる。
「人を殺す軍よりもマシだと思うことは、おかしなことなのかな......」
「ってダメダメ!」
パシッ!
頬を叩いて自分を奮い立たせる。
「みゆりちゃんも泊も本当に面白くて親切だったし、憂斗もみんなのことを思っての発言だし! 私もみんなから認めてもらえるように頑張らないと!」
だって明日は、みんなと手合わせだから!