最終回 世界の真実
お芝居を始めて一年近くになろうとした頃、脚本通りにレプテリアンの総帥が手下を引き連れて襲ってきた。
爬虫類人間のキグルミを着たレプテリアンの総帥が苦しそうに叫んだ。
「ワクチンをよこせ-」
私は脚本通りに死刑宣告してやった。
「手遅れよ、発症してから打っても何の効果も無いわ」
隼人が変身して戦いを挑んで……
あれ、目眩が……
「真矢、しっかりするんだ!」
隼人の叫び声で目が覚めた。
私は気絶していたらしい。
頭痛が酷い……
記憶がぼやけてるけど、何が起きたんだっけ?
いつのまにか決戦が終わったみたいで、レプテリアンの総帥が倒れていた。
コレってキグルミが死んだふりをしているのかな?
隼人は涙を流しながら私に感謝してくれた。
「ありがとう、真矢のおかげで世界を支配する闇の政府ディープステートを倒す事が出来た」
なんか頭がフラフラするけど、コレからどうするのか尋ねた。
「コレからどうするの?」
隼人は涙で濡れた笑顔で断言した。
「悪が滅びたならヒーローも不要だ、市政の民になって普通に暮らす、真矢も自分の幸せを探してくれ」
イベル・メ・クチンの製造と出荷作業は途中から乗り込んできた活動家のオッサンに任せて私達は引き上げた。
よくわからないラムネ配り団体の代表者も活動家のオッサンに譲ってやった。
アンチワクチンを叫んでいるお気持ち議員も仲間になって謎の政治団体を作っていた。
私腹を肥やし放題になったオッサンは大喜びしていたけど、これで逮捕されるのはコイツになる。
逮捕されても闇の政府の陰謀だとか妄言を叫び続けるんだろうな。
私達は街に戻った。
私は人類を救う本物の正しいワクチンを世界に広めると言って別れた。
隼人は商店街の一角で喫茶店のマスターとして暮らすつもりらしい。
いつでも帰ってこいと言ってくれたけど、二度と会いたくない。
私はやっと役目が終わって安堵した。
キチガイに振り回される日々が終わったんだ。
一生遊んで暮らせるだけのお金もある、しばらく休もう。
ずぶんと金のかかったヒーローゴッコだったな……
マンションに飛行機をつっこませたり、いろんな書類を偽造したり、警察までもみ消したり、豪華客船を工場にしたり、とんでもない手間をかけてバカみたいな事をやって何百億円使ったんだろう?
1人になってマンションに帰ろうとすると、老紳士とスタッフの女性が声をかけてきた。
「お疲れ様でした、やっと隼人坊ちゃまが普通の一般人になってくださいます」
私は呆れて言い返した。
「とんでもないお坊ちゃまのお遊びでしたね、いくら使ったんですか?」
老紳士はほっとしたようにため息をついた。
「二千億円は消えました、隼人坊ちゃまのワガママで影の政府は大損害を被りました」
スタッフの女性はまだ演技が続いているつもりなのか、意味不明な事を言い出した。
「兄様は正義感が強すぎてディープステートの総帥には向いていませんから、次期総帥は私が引き受けます」
「本当にありがとうございました、これからも貴女が西園寺真矢で私が田中惠美です」
スタッフの女性は意味不明な事を言った。
「マイクロチップのコントロールを受けすぎて脳の扁桃体が損傷していますから、ゆっくりお休みください」
「この会話も明日には記憶障害で覚えていないでしょうけど、贅沢な余生をお楽しみください」
あれ、この女の手にも隼人みたいな魚鱗癬がある……
彼女たちが去ると、謎の違和感と恐怖感に襲われた。
こんなお遊びに二千億円もつぎ込める資金力に政府機関まで操る力を持った彼らって何だったの?
アイツがディープステートの総帥の息子だって言ってたのは妄想だったはずじゃ……
まさか……
また頭痛がしてきた、考えるのは止めよう……
私は銀行にくると通帳と実印を出して一千万円の現金を下ろした。
身分証明書と言われたので西園寺真矢の運転免許証をだしたけど、あれ?
コレは役名で私の本名は田中惠美なのに……
通帳も身分証明書も西園寺真矢……
私の家はどこだっけ……港区の高級マンションに住んでるんだ。
そうだ、私はハーバード大卒のエリートで人類を救った英雄なんだ……
私は誰かに操られたみたいに考えるのを止め、札束を握りしめると、西園寺真矢として豪遊した。




