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虚構のヒロイン


私は看護師になったけど、ブラック労働すぎて辞めて女優を目指していた。

23歳から女優を目指すのは遅すぎて、何の実績も無いまま25歳になってしまった。

そんな、無名の女優だったけど特撮ヒロインの役をゲットした。

役名は西園寺真矢(さいおんじまや)、ハーバード大卒の天才医学者だ。

医学知識があるのが評価されて役に抜擢して貰えた。


安アパートの部屋で監督から暗記するように言われた脚本と設定資料集を読んでるけど微妙だな。

私が演じる西園寺真矢(さいおんじまや)は主人公と生き別れになった腹違いの兄と妹で主人公は知っているけど私は知らない設定で恋に落ちるのか……

敵の組織は世界を影から支配する闇の政府『ディープステート』

敵は爬虫類人類の『レプテリアン』と人間に化けた工作員の『ゴム人間』

『レプリコンワクチン』で遺伝子改造された人間が怪人になって街で暴れる。

世界の真実を知った私は殺されそうになって主人公に助けられ、人類がワクチンに入っているマイクロチップで操られている真実を伝え、2人で闇の政府と戦う……

設定資料を読んで不安になってきた。

この設定、ガッツリ陰謀論入りすぎて大丈夫なの!

いや、いや、余計なことは考えないで与えられた役をこなそう。

私がメインヒロインなんだ、何があっても役を手放すわけに行かない。


数日後、撮影現場に指定されたマンションの最上階にある広い部屋に来た。

今日は監督と老紳士みたいなプロデューサーにスタッフの女性だけで役者は私だけだった。

主人公の役者ってどんな人なんだろう?

衣装合わせから始まり、私はスタッフの女性に着替えさせてもらった。

なんか、この人って年齢も近そうで私と似ているな。

衣装は上等な白いスーツだ。

白いから汚れたらクリーニングが大変だけど衣装なんだから気にする必要はないか。

サイズもぴったりで私用のオーダーメイドなんだ、メインヒロインは待遇いいな。

まあ、ミニスカートだけど、そういう番組だからパンチラはしょうがないか。


衣装合わせが終わると、女性スタッフが部屋の説明をしてくれた。

「ココが西園寺真矢(さいおんじまや)が住んでいる部屋です」

彼女は壁に掛けられている額縁を指さすと端から説明してくれた。

「こちらがハーバード大学の卒業証書です」

「こちらの集合写真はハーバード大学の卒業式で撮影された設定です」

外人が集まった集合写真の中に私が入っていた、合成写真で作ったんだ。


部屋の説明が終わると、広いリビングで監督さんが説明を始めた。

「ディープステートが飛行機事故に見せかけて西園寺真矢(さいおんじまや)を暗殺するためにマンションに飛行機を突っ込ませます」

「今いる部屋に小型飛行機が突入してきます」

「このマンションの壁と柱は飛行機が激突しても大丈夫なように補強してあるので、西園寺真矢(さいおんじまや)は待避所に隠れて突入を待ってください」

「飛行機が突入したらココで倒れてヒーローが助けてくれるのを待ちます」

そう言って監督は床にチョークで書かれた人型の線を指さしたので、衣装のまま床に倒れてみた。

全身を強く打って苦しそうにとか、いろいろと演技指導してもらった。


なにか監督の説明が何か変な気がする。

私は理解が追いつかなくなって質問した。

「あの、本当にマンションに飛行機が突っ込むんですか?」

監督さんは信じられない事を断言した。

「そうです、このマンションはその為に買収済みです、飛行機も実機をラジコンに改造済みです」

私は信じられなくて聞き返した。

「すみません、この番組はハリウッドの大作映画みたいな予算があるのでしょうか?」

監督は信じられない事を平然と断言した。

「スポンサーが予算無制限を保障してくれます、必要ならビルでも何でも買って壊します」


私には理解出来なかった、聞いたこともない作成会社なのに予算無制限なんて話がありえるの?

頭が混乱したまま監督の話を聞いていると、最後に信じられない事を言われた。

「主人公の神宮司隼人は特撮であることを知りません、絶対に主人公の前でフィクションであることを話してはいけません」


私は完全に混乱して監督相手にマヌケな質問をしてしまった。

「意味が理解出来ないのですが……」


ポン

私の背後でじっと話を聞いていたプロデューサーが私の肩を叩いて語りかけてきた。

「コレは特撮番組ではありません、主人公だけは現実だと信じているお芝居です」


「どういうことですか?」


「これは隼人坊ちゃまの為に作られた箱庭です」


「申し訳ありません、作品の世界観がまだ理解出来なくて……」私は情けない言い訳をした。


優しげな老紳士かと思ったプロデューサーは狂気じみた目で語り出した。

「いいですか、よく聞いてください、隼人坊ちゃまは本気で闇の政府を倒そうとして取り返しがつかなくなりました」

「方法は一つしかありません」

老紳士は狂気が宿った目で私に迫ってきた。

「坊ちゃまが正義のヒーローになって世界を支配する闇の政府を倒したと思い込ませるしかありません」


もしかして、私はヤバイ所に来てしまった!

逃げたい、逃げなきゃ!

そう思ったら、老紳士と同じ狂気の目をしたスタッフが取り囲んでいた。

老紳士はにこやかな顔になると宣告した。

「月給三千万円払います、年俸で三億六千万円です」「たった一年です、ディープステートが倒され爬虫類人類が滅亡するまで一年だけお付き合いください」


助けを求めようと周囲を見回すと、スタッフの女性が死体袋を広げ、プロデューサーと監督がナイフを握りしめていた……


私には逃げる選択肢は残されていなかった。

狂気のお芝居でメインヒロインを演じるしか生きる道は無かった。

私が承諾すると、スタッフの女性が信じられない物を渡してきた。

西園寺真矢(さいおんじまや)のパスポートと運転免許証です」

そして、もっと信じられないモノも渡してきた。

「カードに実印と貯金通帳です」


渡された西園寺真矢(さいおんじまや)名義の通帳を見ると残高が三千万円になっていた。

スタッフの女性は平然と恐ろしいコトを断言した。

「毎月三千万円振り込まれます、主人公には絶対に見せないでください」

私は恐怖と不安で訴えた。

「これって偽造で捕まりませんか?」


スタッフの女性は笑顔で断言した。

「中のICチップも全て本物です、西園寺真矢(さいおんじまや)が実在する証拠は全て整えてあります」

「必要な家財道具も全てそろえてあります、主人公が来るまでこの部屋で暮らしてください」


振り返ると、老紳士が私のスマホに電動ドリルで穴を開けていた。

そして、スタッフの女性は新しいスマホを差し出した。

「コレが西園寺真矢(さいおんじまや)名義のスマホです」

私は逃げることも許されず、この部屋に監禁されてしまった。


私は諦めてマンションのベッドでふて寝した。

高そうなベッドで寝心地が良かった。

このマンションって港区の高そうな物件だけど家賃いくらなんだろう?

まるで、何年も前からココに住んでいたみたいに全てそろえられていた。


シャワーをあびてタンスを開けてみると、高そうな下着だな……

オーディションの日に衣装さんが採寸してたの、コレを揃えるためだったのかな。

冷蔵庫を開けると食材が入っていた。

簡単な朝食を自炊して食べ終わると支給されたスマホが鳴った。

電話に出ると監督からだった。

「主人公が生き別れの妹がいる場所を突き止めました」

「今日から開始します、8時43分に飛行機が突入するので待避所になっている部屋で待機してください、飛行機が突入したら脚本通り指定の場所に倒れて主人公を待ってください」

本当にやるの?

私はまだ信じられなかった。

電話が切れると違和感に気付いた。

着信履歴が残っていない。

そういえば、監督の番号も知らない、こちらから電話する時はどうしたら良いんだろう?


仕方が無いので、私は衣装のジャケットのポケットに身分証明書とか通帳やカードを入れて待避所に指定された奥の部屋でじっと待った。

スマホの時計を見ていると、ぴったり8時43分になった瞬間に轟音が響いてマンションが揺れた。

恐る恐る部屋から出てみると、本当にマンションのリビングに飛行機が突入してバラバラになっていた。

うわぁ、ダミー人形から吹き出した血糊がリアルすぎて気持ち悪い。

チョークが綺麗に消されていたので、それっぽい場所に倒れて助けを待つことにした。

床に寝そべった私は必死で役になりきろうと自己暗示をかけた。

「私の名前は西園寺真矢(さいおんじまや)、ハーバード大卒の天才医学者で主人公が助けに来たらワクチンの真実を伝えて気絶する演技を……」


3分ぐらいじっとまっていると、部屋のドアが開く音がした。

倒れた演技のまま動かずに待っていると男の叫び声が聞こえた。

「闇の政府め、何てことを!」

助けに来た男は20代後半ぐらいで、普通よりちょっと上ぐらいの顔だった。

男が私を抱き起こしたので、脚本通りに演技した。

「ワクチンにはマイクロチップが入っているの、真実を知ったから……」

私が気絶する演技をしたら男は私をお姫様抱っこして走り出した。

本当に特撮番組の主人公みたいだなと思いながら脱力したままでいると、男は私を車の助手席に乗せて走り出した。

パトカーとか消防車のサイレンが聞こえてきたんだけど、コレって誘拐じゃないよね?


しばらく、目をつぶって気絶した演技をしていると、どこかに止まって、またお姫様抱っこで運ばれた。

ベッドに寝かされたので、脚本通りに寝たふりを続けていると、スマホが振動した。

部屋には誰もいないみたいだからスマホをポケットから出して見ると、監督からの支持が表示されていた。

『目を覚まして部屋から出て主人公にワクチンの真実を訴えろ』

私は起き上がって周囲を見回した。

この部屋には窓が無いけど、地下室なのかな?


部屋から出ると、広いフロアで主人公の男がパソコンをいじっていた。

周囲を見回すとココは地下室みたいで上に上がる螺旋階段がある。

地下ガレージなのか変な車が止まっているけど、コレに乗せられてきたんだよね。

私は脚本通りに必死な表情を作って演技した。

「私は真実を知ったから消されるの、アナタも巻き込まれるわ」

男は真顔で断言した。

「心配するな、真矢(まや)は俺が守る」


この男は本気でワクチンにマイクロチップが入っているとか、5Gの電波で操られるとか信じているのかな?

神宮司隼人とかいうコイツは完全に頭がおかしい金持ちのボンボンなんだ。

私はコイツの狂った妄想に付き合わされるために大金で雇われた。

仕事なんだと割り切って、脚本通りにワクチンの真実を語ってやった。


私は真実を語り終えると絶望した演技で黙った。

ココからはアドリブになるんだけど、どうしたらいいんだろう?

いい加減に黙ってうなだれている演技に疲れてきた頃、愛想の良さそうな中年女性がお盆にコーヒーを載せて螺旋階段を降りてきた。

コーヒーが美味しい。

あまりの美味しさに思わず笑顔になってしまった。

男は私の笑顔を見て嬉しそうにドヤ顔で叫んだ。

「安心してくれ、何があっても真矢(まや)は俺が守る!」

私も作り笑顔で返した。

とりあえず、脚本通りにコイツと地下室で暮らすことになったけど、変なことされたらどうしよう。

私はコイツと血を分けた腹違いの兄と妹の設定だから手は出さないのかな?

もしかして、報酬が高いのはソレこみなのかな?

最初から最後まで不安は尽きなかった……

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― 新着の感想 ―
[良い点] 良い意味でひどくて笑いました [一言] 特権階級の一般人は特別に成りたがるモノなのでしょうか。
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