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異世界ロケット作成中 6



 何故かついてきたミュリスをお供に神殿に向かうと、ちょうど月一の誓願の儀の日だったらしくお祈りをする老若男女の信徒でごった返していた。


「混んでんなー」


「混んでますねー」


 中に入るのも難しいくらいに人が多い。


 完全に来る日を間違えたな。


「こりゃ別の日にした方が良いかな?」


「お知り合いの神官様ってどなたなんですか?」


「あいつ」


 俺は祭壇の前で主役として祈りを捧げている神官を指差した。


「えぇ?!聖女様とお知り合いなんですか?」


「知り合ったのは聖女認定される前だけどなー」


 他の神官より一段高い場所にいる彼女は、その良すぎるスタイルが強調される特別な衣装を着て一心に祈りを捧げていた。


 他の神官は楽器を演奏しながら神を讃える祝詞を唱えている。


 やがて音楽が止み、礼拝堂が静寂に包まれた。


 彼女はスクッと立ち上がると、視線を空中に漂わせたままハッキリとした声で神託を告げた。


「空の神ハイエスタ様からのお告げがありました。春の初月から中月までは良き空なり、と。種蒔きは例年通りに行うが良いでしょう」


 おそらく農家が大半だったのだろう祈りを捧げていた信徒の人達は、安堵の声を上げて聖女に向かって頭を下げた。


 微笑を浮かべながら視線を空中からそちらに向けた彼女は、同様に信徒に向かって一礼をした後に礼拝堂の入り口に立っていたこちらに気づいてわずかに目を見開いた。


 俺は目礼をした後に奥の部屋で会おうと指先でジェスチャーすると、彼女がわずかにうなずいたのを確認してから馴染みのシスターさんに声をかけた。


「どうやら会ってくれるようだな」


「良かったですね!」

 

「それはそうとミュリス」


「はい」


「お前、ミャーナちゃんに何を吹き込まれた?」


「ひへッ!ナ、ナンノコトデショウカ……」


「そうじゃなきゃ俺についてくる理由がないだろうが」


「い、いえ、私も神殿にお参りする用事があったので」


「家を出る時は知人に会うとしか言ってなかったけど?」


「ウキュッ!そ、そのですね」


「まあいい。ただ聞いて面白い話ではない事は覚悟しとけよ。後何を聞いても大人しくしておくこと」


「は、はい」


 ミュリスに釘を刺した俺は神殿の居住スペースにある応接室の扉を開ける。


「お久しぶりですね、タカ様。お元気そうでなによりです」


「聖女様におかれましてもお変わりないようで安心いたしました」


「ありがとうございます。それで……今日はその可愛らしいお嬢さんを連れてどのようなご用なのでしょうか?」


 ミュリスにチラリと視線を向けてから、聖女にして副神殿長のリズリットは柔らかい笑顔を浮かべた。


 でも付き合いが長い俺には分かる。目が笑ってないぞ聖女様。


「ご紹介します。彼女はミュリス。駆け出しの冒険者です」


「は、初めまして聖女様。ミュリスと申します」


「初めましてミュリスさん。私はリズリット。当神殿の副神殿長を拝命させて頂いております」


 まさしく聖女って感じのペカーッとしたスマイルに、空気に飲まれたミュリスがコチコチになりながら存じておりまひゅ!と噛んでいた。


「この子は元筆頭鍛冶師ゴランド氏の孫娘でしてね、ゴランド氏には俺も専用装備を作ってもらっていたり世話になっているんですが…」


 俺は今日までに起きた出来事を説明した。


「正直、ゴランド氏が除名された理由が不可解なんです。いくら行動がおかしくなったとはいえたった一ヶ月足らずでいきなり除名されるのはやり過ぎじゃないかな、と」


 最初こそ作り笑顔を浮かべていた聖女リズリットだが、途中から何かを考えているような顔つきに変わっていった。


「タカに……コホン、タカ様、実は半月程前に鍛冶師組合から当神殿に依頼がありまして」


「どんな依頼だったんです?」


「新たな筆頭鍛冶師に聖与の儀を執り行って欲しい、と」


「聖与の儀ねぇ。新しい筆頭鍛冶師はよっぽど腕が良いって事なんですかね?」


 聖与の儀とは物造りの職業の中でも腕の良い職人達が自身の最高傑作を神々への供物として捧げ、満足していただけたなら作品にかけられた神木の枝から削り出された木札に聖なる御印が浮かび上がり製作者へと与えられる儀式の事だ。


 これはもちろん誰の作品でも御印札が与えられるわけではなく、実際に浮かび上がるのは一握りの者達だけだ。


 だからと言って浮かび上がらなかった人達の腕が悪いなんてことにはならない。そもそも聖与の儀に作品を捧げられる職人が極わずかなのだから。


 浮かび上がらなかった人達には木札が仮の御印札としてそのまま与えられる。


 いつの日か神々が満足出来る作品が出来た時には仮札に御印が浮かび上がるらしい。


 この世界の職人達はそうやって神々を満足させるモノを造るために日々精進し続けている。


 御印札はある種のトロフィーなのだ。

 

「それが、よく分からないんです」


「浮かび上がらなかったのですか?」


「いえ、作品を持ってこられなかったのですよ」 


「へ?」


「作品は後日持ってくるから、先に仮札を発行してくれ、と」


「なんじゃそりゃ」


「もちろんお断りしました。御印札はそのような軽い扱いをしていいモノではないと神殿長様が大変お怒りになりまして」


「あの温厚なじい様が…」


「その場はそれで終わったのですけど、何故あのような依頼をしに来たのかが不思議でならなかったのですが……」


 リズリットはわずかに言い淀みながらチラリとミュリスを見た。


 うん?


 ミュリスがいては言いにくい事なのかな?


 俺は話を切り上げて椅子から立ち上がった。


「聖女様、貴重な情報をありがとうございました」

 

「いえ、大してお役に立てず申し訳ありませんでした」


「そんな、一介の冒険者に貴重なお時間を割いていただけただけでも光栄の極み。また何か手に入りましたら寄進にお伺いしたいと思います」


「ありがとうございます。ですが何を持たずとも神殿の扉も、もちろん私もタカ様を歓迎しますよ。あなた様に勇気と冒険の女神リリエンツァ様のご加護がありますように」


「それでは失礼いたします。ありがとうございました」


「あ、ありがとうございましゅた!」


 最後まで噛みまくりのミュリスと一緒に、ペカーな笑顔の聖女様に見送られながら部屋を後にした。


「ぷはぁ~。き、緊張しました……」


 神殿の外に出た瞬間、ミュリスはシオシオ~っと体を萎ませた。


「そんなにか?」


「だ、だってあんなに綺麗な女性でしかも聖女様なんですよ!キラキラと光輝く金髪に、どこまでも澄んだ青い瞳、それにあの眩しい笑顔!完璧過ぎて同じ部屋にいると呼吸も忘れちゃうくらい素敵でした」


「呼吸忘れたら死ぬから」


「それくらい素敵だったんです!お祭りの時とかに遠くから見た事はあったんですけど、近くで見るとより一層綺麗な人でした~」


 私もあんな風になりたいなぁ~と年相応の表情で目を輝かせているミュリスに、お、おうと思わず勢いに押されてしまう。


 まあ確かに外見だけなら理想的な聖女像だとは思うけどさ。


「これからどうされるんですか?」

 

「この後はまた他の知人に話を聞きに行くつもりなんだが……」


 ついていきます!とばかりの表情のミュリスに、さてどうしたものかと思案する。


「あー、ミュリスには頼みがあるんだ」


「何でもおっしゃって下さい!」


「さっきの話、今から冒険者ギルドに行ってミャーナちゃんにこっそり伝えて欲しいんだ」


「分かりました!でもどうやって伝えましょうか?」


 こっそりとなると二人きりとかにならないと難しいが、ミャーナちゃんは人気の受付嬢だからこの時間だとまだ周りに人がいる可能性が高い。


「そこでこれだ」


 俺はアイテムボックスからマルタ草の束を取り出してミュリスに渡した。


「マルタ草の採取依頼は通年依頼で初心者向けだ。ミュリスが一人で持っていっても怪しまれない。だからこの束の中にこっそり手紙を忍ばせてミャーナちゃんに納品するんだ」


「な、なるほど。さすがタカさん!」


「納品だけだけどちゃんと一度家に帰って冒険者装備に着替えてから行くこと。手紙もその時書いてくれ。内容は簡潔にな」


「分かりました!」


 たったか走って戻っていったミュリスの背中を見えなくなるまで見送り、俺は再び神殿内に戻るとシスターさんに会釈して応接室に戻った。


「おっと」


 ドアを開けて入った瞬間、左腕に重みが加わる。


「む~~」


 むくれた顔した聖女様が左腕に抱きついていた。


「リズ、お前なぁ……」


「むむ~~!」


 私、怒ってます!と口に出さずに主張する聖女様の頭を撫でてご機嫌をとる。


「はいはい、そんなむくれない。可愛い顔が台無しだぞ」


「む~、だってタカ兄さんてば久しぶりに会いにきてくれたと思ったら女の子連れだったから」


「さっきも話したろ。あの子はマスターゴランドの孫娘だって。ゴランドさんの事が心配でたまたまついてきただけだ。それにあの子とはまだ出会ってから三日しか経ってないんだぞ」


「でもでも、私というものがありながらあんな()()()の女の子と仲良くなるなんて!」


「いや、あの子は冒険者だって言ったろ。出会ったのも依頼で行った森の奥の廃坑だ。どっちかってーと後輩属性じゃないかな」


「後輩属性……むぅ、なら許してあげます」


 やっと俺の腕を離したリズは、しょうがないなぁタカ兄さんはと言いながらさっき座っていた机の椅子ではなく、壁際の大きなソファーへと俺を引っ張った。


 ソファーに腰かけると、ふへへへ~兄さ~んとだらしない声をあげながら俺の太ももに頭をのせた。


 聖女リズリットは過去の勇者が主張した『妹属性』を信奉するこじらせ聖女様だった。


 こいつと初めて出会ったのは今から五年前。


 当時別の街で組んでいたパーティーが解散し、俺は気持ちを切り替えるために拠点を移す事にした。


 前から気になっていた魚料理が美味いと有名なウレザスの街に行ってみようと歩いて向かっていたところ、その途中で狼の魔物の群れに襲われている馬車に遭遇。


 助けに向かおうと走りだしたら横転した馬車の前で奮闘していた神官騎士がやられてしまい、馬車の中から悲鳴が聞こえてきた。


 ヤバいなと奥の手を使って馬車まで超速で駆け寄り、今まさに狼に食べられようとしていた神官の少女を助け出した。


 それがリズリットだった。


 その後ウレザスの神殿に向かう途中だったというリズを放っておけずに送ってやったら、道中に滅茶苦茶懐かれた。


 リズは『優しいお兄ちゃんが欲しかった』と言って俺を兄さん呼びするようになり、ウレザスに着いた後もしばらく神殿に下宿してリズがウレザスでの生活に慣れるまでは面倒をみてやった。


 神殿から出た後も最初の頃は小まめに顔を出して様子を見に行っていたけど、本人の才能や努力のお陰で一人前の神官になりさらには聖女認定までされたので、もうすっかり大人になったなと最近は顔を出す頻度は落ちていたのだが……。


 タカ兄さんはもっと私に会いにきてくれるべきだと思うんですよ、などとブツブツ言いながらも俺の太ももにスリスリと頬をこすりつけているこいつを見ると、あんまり中身は成長していないかもなぁと思わざるを得ない。


 外見こそ出会った最初はミュリスより小さくて痩せていたのに、ウレザスの土地が合ったのかぐんぐん成長して、いまやグラビアアイドル並みのスタイルになってしまった。


 身長も俺の膝の上に座っても胸の中に収まるくらいだったのに、今では立って比べても俺の肩よりも頭のてっぺんが高い。


 あまりの成長ぶりにさすがにもう膝の上に座らせられないと言ったら物凄く抵抗されたが、妥協案として膝枕をする事で渋々納得した。


 ちなみに『妹属性』なんて日本産な言葉をリズがどこで覚えたかというと、ウレザスの神殿に置いてあった勇者説話集とかいうぶっとい本からだった。


 一見普通の伝記ものみたいなその本なのだが、中身はギャルゲー攻略サイトみたいな内容で、その中にあったキャラ属性紹介を読んだリズはこれこそが私の歩む道ですと妹属性探求者になってしまった。


 異世界に偏った属性を持ち込んだアホ勇者と、わざわざ本に書いて後世に残してくれやがったボケ神官を正座させて丸一日説教してやりたい。


 しかしリズの求める妹属性には現在の自分のスタイルが合致していないらしく、本人はその成長ぶりをあまり歓迎していないらしい。


 とりあえずいまだブツブツ言っているリズの頭を撫でてご機嫌をとる。


「はいはい、悪かったよ。でもリズだって春はお祭りで巡回だのさっきの誓願だのと忙しいだろ?」


「だからこそタカ兄さんの膝枕が必要だったんです。なのにタカ兄さんたら私を放ってあんな可愛い子と仲良くなってるなんて」


 再びミュリスの事でむくれだしたリズにデコピンをかまして、さっきの話の続きを促した。


「ほらほら、ミュリスは帰したんだから話の続き、頼むよ」


「うぅ~タカ兄さんが私を都合の良い妹扱いする……」


「してないしてない」


「でも私はタカ兄さんになら都合の良い妹扱いされても許しちゃいます。もっと頻繁に会いにきてくれるなら」


「歪んでるよこの聖女……。それで、ミュリスが知るのをためらうような気になる事が?」


 やっと俺の膝から頭を上げたリズは、ちょっと真面目な表情になって話し始めた。


「はい。先ほど話した依頼の際にいらっしゃったのは組合長さんと新しい筆頭鍛冶師さん、それに身なりの良い只人の方でした」


「身なりの良い只人、ねぇ。商人か?」


「本人は筆頭鍛治師さんの後見人としか言ってませんでしたが、服装的にはおそらく。ただ動作の一つ一つに貴族作法が垣間見えました」


「どっかの商家に入り婿した貴族の次男坊か三男坊か」


「それに、新しい筆頭鍛治師さんは只人の方だったんです」


「それは、おかしいな……」


 只人の鍛治師はいない訳じゃないし、腕が悪いと決めつけるわけでもないのだけど、でもやはり種族特性的にドワーフの方が鍛治に向いているのは確かだ。


 特にこの街みたいに大きな所には大体腕の良いドワーフの鍛治師が集まっているから只人が筆頭鍛治師になるのは難しい。そこまで腕の良い只人なら街で噂になっているはず。もちろんそんな噂は聞いた事がないが。


「でも一番気になったのが組合長さんでした」


「組合長は変わってないんだよな?」


「はい。グルドさんという方なんですけど、一人だけずっと憮然とした表情をしていて。後見人の方と筆頭鍛治師さんが仮札の発行を申し出た時なんか顔を真っ赤にして二人を睨んでましたし」


「なるほどねぇ。組合長はシロかもなぁ」


 なんらかの弱みを握られて脅されているとかベタな展開かもしれない。


 でもそれだと周り全員が距離を置いた理由も同じじゃないとおかしいよなぁ。


 鍛治師が握られて困る弱みってーと。


「鉱石や石炭を押さえられてるとか?」


 石炭がなければ釜の火の温度が上がらず鍛治をするのは難しいし、そもそも材料がなければ作れない。


 この街の鉄鉱石は森の奥の廃鉱より質が良い物が採れるからと、ヴァースレンテ山の鉱山を中心に栄えるヴァースレンタリアからの輸入がメインになっているはず。


 俺も以前行った事があるが、機械化された鉱山で大勢の人足が大量の鉄鉱石を掘り出し運び出す光景は圧巻だった。


 鉱山を開いたのは過去の落ち人らしく、名前的には英語圏の人物だったようだ。


 機械化も彼の考えによるもので、ベルトコンベアーやエレベーター等色々あったが全て魔力で稼働する異世界仕様だった。


 おそらく工業系の技術者だったんだろーな。


 鉄鉱石に関してはその人の子孫である領主が利権を持っているので、こちらをどうこう出来るのは領主一族だけだが、彼らは鍛治師という最大の顧客をよく知っているので下手な事はしないと断言できる。


「この街の石炭ってどこから輸入してるんだ?」 


「どこからかは分かりませんけど、石炭を扱っている商会はヴェンテ商会です」


「ヴェンテ商会。名前は聞いた事はあるけどよく知らないなぁ」


「毎年新年になると商会長さんがご寄進に来られるんですけど、今年は身体を壊したとかで来られなかったんです」


「後継ぎは?」


「すみません、そこまでは。ただ商会長さんは白髪のおじいちゃんです」


「ひとまずそこからあたってみるか……。それで、リズ」


「はい」


「ゴランドさんが受けた神託って本物か?」


「はい、本物です」


()()()のリズが断言するなら間違いないか……」


 リズが聖女認定された理由、それは彼女が神々の声を聞く事が出来る『神託の聖女』だからだ。


 神託は、実は誰にでも降りる可能性はある。


 特に多いのが、ゴランドさんのように職業神が優れた職人にあれを作れこれをやれと神託が降るパターンだ。


 それは突然変異で生まれた強大な魔物を倒すための武器だったり、大嵐による大洪水から街を守るための堤だったり内容は様々だが、どの神託も『突然神々からくだされる』という共通点がある。


 でもリズは違う。


 自分から舞と祈祷により神々に神託を降ろしていただくようお願いできるのだ。


 リズの神託に関する能力は歴代の聖女の中でも抜きん出て優秀らしく、だからこそ若くして聖女認定されたらしい。


「あの日、私は確かに神気を感じました。私が神託を受ける際に感じるそれとまったく同じものです」


「なら、やはりゴランドさんの言う空からやって来る魔王、てのはマジな話なのか」


 ますますゴランドさんの問題をどうにかしなくちゃならなくなったなぁ。


「タカ兄さん、これは私の推測なんですけど」


「うん?」


「ゴランドさんの周り全員が距離をおいたのは、ゴランドさんが神託を受けた事を信じていないからではなく、全面的に信じているからこそ彼を守るために距離をおいたのでは?」


 リズは首からさげている鳥を模したお守りをさわりながら言った。


 神託を運んでくるとされる神鳥ネーギュルを模した物で、聖女認定された時に俺がプレゼントしたやつだ。


「私はゴランドさんと会ったことがないので確かな事は分かりませんけど、あの人なら神託が来ても不思議がない、そう周りが思うほどの腕と信頼があったのかもしれません」


 ゴランドさんは仮札持ちの正真正銘の腕利きだ。


 俺が鍛治師組合で銅杭を注文する際も、あんたの注文を完全に叶えられる職人はゴランドさんしかいねぇ、と即答されたしな。


 それだけ周りから腕が認められているゴランドさんを、周囲が一斉に距離をおくよりは周囲が一丸となってゴランドさんから何かを遠ざけようとしていると考えた方が納得できる。


「リズの言う通りかもな。組合長がシロだった場合その可能性の方が高い、か……」


 まずは鍛治師組合から調べてみるべきだろうか?


「ありがとうリズ。助かったよ」


「タカ兄さんのお役に立って良かったです」

  

 リズはススッと頭を俺の胸の前に下げてきた。


 しょうがないな、と頭を優しく撫でてやる。


「ふへへへ~」


 聖女がしちゃいけないようなだらけた笑みを浮かべるリズをそのまましばらく撫で続けてから、俺は次の目的地へと向かった。




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