異世界ロケット作成中 42
気づいたら新年でした。今年はもう少し更新頻度をあげたい……。
領主の館から戻り、メイドさんにお願いして包んでもらったお茶菓子をアルジェとミュリスに渡したらおおいに喜ばれた。
「さすがはお貴族様御用達、とても美味しいです」
「甘い。うまい」
そんなご満悦な二人を見て、ワシも何か土産を持って帰れればよかったのにと肩を落とすゴランドさん。
「あっさり帰ってこられただけでも良かったと思うよ」
「そうじゃな……」
しみじみとそうつぶやいて、帰って早々飲みだした酒を空にした。
セシリアからは会談は無事に終わったとしか聞いていなかったが、やはりそれなりに紛糾したらしい。
勇者の言動にはかなり腹に据えかねたらしく、帰りの馬車でもあのアホは一体何なんじゃとご立腹だった。
「領主様が最初からこちらの味方になってくれて助かったわい。それにお主も領主様に助言してくれたんじゃろ」
「勇者パーティーの事を聞かれたから答えただけだよ」
「領主様が発言する度に勇者の取り巻きどもが諌める側に回ったからの。ここまで早く話がついたのも、お主の情報あっての事じゃろ」
「領主様が切れ者だからさ」
「そういう事にしとこうかの。しかし、勇者があそこまで浅慮な粗忽者だったとは。他の貴族だったらえん罪もあり得たのう」
勇者の影響力はその辺の地方貴族なんかよりずっと大きい。
ゴランドさんの言う通り、勇者のネームバリューに負けるような貴族だったらえん罪からの投獄ルートの可能性が少なからずあった。
「明日の朝にはこの街から出ていくらしいし、嫌なことはさっさと忘れて酒の肴に望遠鏡やロケットの話でもしよう」
「ぬ、それもそうじゃな」
「その前に紙ヒコーキだ」
どこからともなく現れたメルリーゼが、右手に持っていた紙ヒコーキをひょいと飛ばす。
滞空型タイプの紙ヒコーキはふわふわと壁に向かって飛んでいき、ぶつかる直前で旋回して回避した。
そのままリビングの中をふわふわ飛び、ふたたびメルリーゼの手の中に戻る。
「上手いもんだ」
いくら魔法で操作しているとはいえ、室内で紙ヒコーキを自在に飛ばすなんて器用な真似は普通は出来ない。
さすが賢者だな。さす賢。
調子に乗るから口に出しては言わないけど。
「この紙ヒコーキは実に素晴らしいね。紙一枚で作れるシンプルな構造なのに、これには魔力を使用しないで空を飛ぶための理が詰まっているよ」
「魔力を使用しない?」
ミュリスが風魔法によってフワフワ飛んでいる紙ヒコーキを見ながら首を傾げた。
「今この紙ヒコーキは風魔法によって発生している空気の流れに乗って飛んでいるが、ヒコーキそのものはまったく魔力を発していないのさ。つまり、空を飛ぶのに魔力は必要ないのだよ」
「そ、そういえばそうです!」
「むう、言われてみれば確かに……」
俺からすれば当たり前に聞こえるのだけど、異世界人であるミュリスとゴランドさんはかなり驚いている。
この世界の住人達はどんな生き物でも大なり小なり魔力を保有している。
なので日常の動作の中にすら魔力が働いているという考えが主流なんだよね。
「葉っぱだって砂だって風に巻き上げられれば飛ぶでしょ?」
「風の精霊のイタズラじゃないんですか?」
「イタズラもあるかもだが、全てが精霊の仕業ではないと思うぞ」
「精霊はイタズラしない。イタズラするのは妖精。精霊がイタズラしてるのを見たことない」
アルジェさん精霊見えてるんだ。
すげぇ、さすが神獣、さす神。
「魔力ってのはね、無意識に使ってる人がほとんどだから世間では常に魔力を消費していると勘違いしているけど、大体の人は日常生活においてほとんど魔力を消費してないんだよ」
魔力が視えるからこそ、早い段階でその事実に気づいていたようだ。
だが、それが魔力を行使しない力の作用へと考えが至らなかったのが悔しいらしい。
「目の前に見えていたのに、魔法と関係ないからとそれをさして重要な事柄だと思わなかった過去の自分の頭をはたいてやりたいね」
魔法だけにとどまらない知識欲がこいつが賢者たる所以だと思う。
どんな技術でも、外部からの視点ってのは必要だ。時にそれが技術革新を産むからな。
「紙ヒコーキが魔力を使わず飛べる事は分かりましたが、なら魔力以外のどのような力で飛んでいるんですか?」
「うーん、四つの力が絡んで飛んでいるんだが……航空力学の話になるなぁ」
「魔力でない力が四つも作用しとるのか」
「コークーリキガクってのは何なんだい?」
「ちょっと待って。分かりやすく説明できるように図を作りたいから」
毎度おなじみの木板での図解説明をするために、ひとまず鍛冶場に移動。
大きな板に複数の図を書いて皆に見せる。
「まず、四つの力について説明する」
紙ヒコーキの絵を中心に、上下左右に書かれた矢印をそのへんにあった棒で指していく。
「まずは重力。下に引っぱる力だ」
手に持っていた棒から手を離すと床にカランと落ちた。
「重力は星が発する力だから、この星にある全てのモノが地面に落ちる」
「「星が、発する力……」」
「そう。目に見えないし魔力も感じられないが、確実に存在する」
アイテムボックスからりんごを取り出し、机の上に置いた。
指先でツンと押すとコロコロと転がったが、すぐに止まって静止する。
「今、りんごは俺の指の力によって机の上を転がって動いた。だけどその力がなくなればまた静止する」
りんごを腹の位置から上に投げると、顔の前くらいの高さまで上がり、落下したりんごをキャッチする。
「上に向かってりんごを投げたら上に行くのは当たり前。そして顔の高さまで上がったりんごはもちろん落下する」
りんごを顔の前に持ってきてそのまま説明する。
「りんごが上に飛んだ時の最高到達地点、ここでりんごは上に行く力が無くなったので落下を始めた。机の上で転がったりんごは静止したのに、だ」
アルジェを呼んで、手の平を差し出すように言う。
「りんごを下に叩きつけたわけじゃないので、俺の力はりんごになんの影響も与えてない。でも、落下はする」
目線の高さから落としたりんごはアルジェの手の平にポスンと収まった。食べていいよとそのままアルジェにあげる。
「りんごが上に飛ぶために俺の力が必要だったように、りんごが下に落ちるのにも力が必要なんだ。それが星が常に発している力、重力だ」
「うむぅ……」
「なる、ほど……?」
「あまーい」
三者三様な反応。いきなり理解はできんわな。アルジェはそもそも聞いてない気もするが。
メルリーゼは口は笑っているが目はギラギラと輝いていて、魔眼から魔力が漏れ出している。
なんか強者感が半端ないから落ち着けし。
「まあ、とりあえず俺達は常に下に引っ張られていると考えてえてくれ。で、次にこの前に進む矢印、これが推進力。これは簡単だよな。前に進む力だ」
メルリーゼから借りた紙ヒコーキを前に押し出すように飛ばす。滑空しながらミュリスの前に落ち、そのまま拾って返してもらう。
「そして後ろの矢印、これが抗力。空気の抵抗によって後ろへ戻そうと生じる力だ」
「空気の抵抗ですか?」
「そうだ。一番分かりやすいのは風だな。強い向かい風だと歩きにくいだろ?」
「はい。髪もくしゃくしゃになっちゃうのでとても歩きにくいです」
くせっ毛だから一度モサると大変そうだな。
「風のない日を選べばええんじゃないかの?」
「えーと、ゴランドさんは馬とか走竜とか早い乗り物に乗った事は?」
「ないのう」
「今度、神獣状態のアルジェに乗って空を走ってみようか」
そうしたら分かるから。世界が融けるくらいの速さを体感していただこう。
「なんぞ不穏な気配がするの……」
気のせい気のせい。
「最後に揚力。上に向かう力だ」
上向きの矢印を指して、紙ヒコーキをやや斜め上に向けて飛ばす。
そのまま斜め上に上昇しながら飛ぶと、部屋の中程で上昇が止まり、そのまま下降を始めて地面へと落ちた。
「今の飛行で、斜め上に向かっている間は揚力が発生しているんだ。揚力が無くなった瞬間から下降を始めたわけだな」
新しく紙ヒコーキを書き入れ、その上下に空気の流れを書き入れる。
「空気は翼にぶつかる事により翼の上下で流れが変わる。上が速く、下が遅くなるんだ。この上下に速さが違う空気が翼を上に引き上げる。この引き上げる力こそ揚力だな」
「なぜ上下の流れ違うと揚力が発生するんだい?」
「空気は流れる速度が早いほど圧力が下がり、遅いほど圧力が上がるんだ。この圧力の差が翼を上へと押し上げる力を生み出すわけだ」
ベルヌーイの定理だな。
「なるほどね。翼の後ろを少しひねっているのもその流れを有効に使うための工夫ってわけか」
「うぬぅ……」
「ええっと……」
「アルジェもよーりょくある?」
メルリーゼ以外は理解しきれないだろうな。つーかこんな簡素な説明で理解できる方がスゲーよ。
ちなみにアルジェが空を飛んでいる時は揚力は存在していません。揚力の代わりに魔力で飛んでいるからね。
「ロケットは下の方に小さな翼がついているだけだけど、揚力は使わないのかい?」
「ほぼ使わない。強い推力によって飛ぶから揚力を必要とする飛び方じゃないんだ。ロケットの飛ぶ仕組みについては明日、エビ筒ロケットを実際に飛ばしてから説明するつもりだ」
「明日が待ち遠しいねぇ」
「どれだけ飛ぶか楽しみです!」
「夜には新型望遠鏡も試さなくてはの」
「お腹すいたー」
勇者の事など頭の片隅に追いやり、俺達は明日の事で頭をいっぱいにしながら遅めの昼食の用意をするのだった。
領主邸で起きていた事を知りもしないで。
セシリアside
タカ達を帰してから、勇者パーティーの持て成しをメイド達に任せてやっと自室で一息つけた。
「予想以上だったわね」
初対面から勇者は話が通じなかったが、さきほどの話し合いでも予想以上に話が通じなかった。
なんなのあれ?
目の前で会話しているはずなのに、大河を挟んだ対岸にむけて話しているかのような。
私を通して別の誰か……いや、『何か』を見ている気がする。少なくとも目の前にいる私を見てはいない。
なのにむこうの声はこちらにははっきり聞こえているのだからたちが悪い。
落ち人は変わり者が多いとは聞いていたけど(祖先もタカもその点は間違いない)勇者はなんだか違う方向に変な人物だ。
あの人、自分の立場を理解していないのかしら?
従者の方達は私の話を聞いて顔色を変えていたけど。
いえ、聖女だけは変わらなかったわね。
最初から怒りを鎮めようとこぶしを握っていたけれど、話し合いの中では表面上は穏やかな笑顔と冷静な口調だった。
タカに事前に話を聞いてなかったら私も聖女の仮面に騙されていただろう。それくらい、聖女としての振る舞いは完璧だった。
こちらの話に驚かなかったのも、昨日は神殿に行ったそうだから何かしら聞いていたのだろう。
パーティー内で情報共有はしていなかったみたいだけど。
いえ、おそらく共有できない事情があったとみるべきね。
それは何故か?
情報の出どころを外部の者に知られたくないから。
タカもおそらくそれを知っていたはず。
それを私に話さなかったのは、知らない方が良い事だからだろう。
タカが私を信用してないとか、仲間外れとかではないはず。
ないったらない。
きっと私の事を心配しての事。
そうでしょ、じいや?
「ほっほっほ」
笑ってごまかさないでちょうだい。
「タカ様のお考えは私などではとうてい図れませんな。ただタカ様はお嬢様の事を友人として大切にされていらっしゃいますよ」
じいやが断言するのなら間違いないのでしょうね。
個人的には友人としてって部分に物足りなさを感じるけど。
「お嬢様、少しよろしいでしょうか?」
ドアの外からメイドの声が聞こえ、じいやにうなずいて中に入れるとちょっと困った顔をしていた。
「どうかした?」
「実は、お客様の一人がお嬢様と個人的に話したい、とおっしゃっておりまして」
「個人的に?誰がそんな」
「私でございます」
ノックもなしにドアが開き、聖女がズカズカと中に入ってきた。
突然の事に思考が停止してしまうが、すぐさま立て直して聖女を睨む。
「ここは私室よ。いかな聖女とはいえ許可なく勝手に入るなど許される行いではないわ」
いつもの五割増しはキツめに睨んでそう抗議する。
これが同年代の異性ならすぐにでも退散するのだけど。
「えぇえぇ失礼なのは充分に分かっていますとも。でも、まずは私のお話を聞いていただければと」
私の睨みなど意に介さずに、先ほどの話し合い同様柔和な笑みを崩さないが、こぶしをギリギリと握り込んでいる。
うわ、こわぁ……。
心の中では気圧されてしまうが、外には出さずにすぐさま拒否する。
「そのような必要性は感じないですわね」
「これは領主様も関係のあるお話なのです」
「神殿でどのような話をお聞きになられたか知らないけれど、私は神殿も勇者もまったく興味がありません」
「神殿?勇者?違いますよ。いえ、神殿は関係していますがそちらが本命ではありません」
神殿が本命ではない?
てっきり情報の出どころと勇者パーティーに関する話だと思ったのに。
「タカの事です」
「それはどなたかしら?」
あ、あっぶなー。思わず表情を崩すところだった。
「今回の話し合い、領主様は事前に私達の事をお聞きになっていたのでしょう?でなければあそこまで上手く話を進められるワケがありません」
「それがその、タカ、とやらがもたらした情報だと?」
「そうです」
「はぁ……違うわよ。私があなたの情報を事前に仕入れた先はこの街の冒険者ギルドのギルドマスター、バルバロッサよ」
タカに言われた通りギルマスの名を出す。彼にも話は通っているので問題ないらしい。
「あなたとは王都で知り合ったそうね?」
私の返答に、やれやれとばかりに首を振る。
そして笑みが消えて、なんだか精悍な顔つきに変化した。
「そう言えとタカから言われたのでしょう?領主様、私の目的はタカの奴に一発お見舞いしてやる事よ。勇者パーティーとはまったく関係ない、私的な、理由での、ね?」
聖女なのにまるで凄腕の拳法家のような闘気が見える。
あ、こっちが本性なのね。
だからといってタカを売るような真似は出来ないし、殴り込むと宣言している相手に居場所を教えるような真似を誰が……。
「教えてくれたら王都でのあいつの女性遍歴を教えてあげるわ」
「じいや、街の地図を」
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