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異世界ロケット作成中 4



 泣き止んだミュリスとゴランドさんは、お恥ずかしいところをお見せしましたとそろって顔を赤くした。


「いやいや、家族仲が良いのはいいことだって」


「小さな頃からミュリスはおじいちゃん子でゴランドさんは孫煩悩だって知ってましたから」


「「うぐぅ」」


 二人が泣いている間にモフタイムが終了したミャーナちゃんは済ました顔で二人をからかうと、やっと本題が話せますねとニッコリ笑った。


「ミュリスが冒険者になってまで得ようとしたアイアンリザードの素材ですが、現状ではすぐに手に入れようとするのは難しいでしょう。アイアンリザードは討伐難易度がA級と高いですからね」


「ちなみに今日狩ったアイアンホーンドフロッグはB級な」

 

 俺の補足にミュリスはごくりとつばを飲み込んだ。


 アイアンホーンドフロッグより上位と聞いてその難易度がやっと理解できたのだろう。


「鍛冶師組合から定期的に依頼があるのでまったく手に入らない素材というわけではありませんが、希少である事は間違いありません。鍛冶師組合でもまず腕の良い鍛冶師からの注文を聞き、それ以外の鍛冶師は余った場合のみ抽選で手に入れられるそうです」


「そうじゃったのか……。確かに駆け出しの頃は中々手に入らん素材じゃった。一人前になるとわりと手に入るようになったのは、腕の問題もあるがうちのかかあが上手くやってくれとったって事だったんじゃなぁ」


「でも、それだと私達が手に入れるには…」


「私がギルドであなたに伝えたかったのは、そこで抜け道を紹介しようという話だったのよ。ちょっと待ってって言ったのはそのお膳立てをするために数日必要だったから」


「す、すみません!」


「もう良いわ。結果的には最良の形になったしね」


 ミャーナちゃんがクスリと笑いながらこちらに意味ありげな視線を向ける。


直取(ちょくとり)か」


「ええ。タカさん、狩ってきたのでしょう?」


「そりゃな。アイアンフロッグ一匹だけのためにあんな場所まで行くとか労力に見合わないし」


「流石ですね。それでね二人とも、各種魔物素材は冒険者ギルドを通して各組合が依頼をするのが基本で、冒険者から職人や商人が直接取引することは禁じられているのだけど、多少なら目こぼししてあげられるわ」


「だ、大丈夫なんですか?」


「俺は自分の世話になってる宿にたまに魔物素材を譲って晩飯に出してもらったりするからな。その魔物素材の価格を破壊するレベルの話じゃなけりゃ問題ねーよ」


「タカさんの言う通りですね。近所の人がたまにお裾分けするくらいなら皆さんやってますし。そんなものにまで目くじら立てないですよ」


「じゃ、じゃあ」


 ミュリスの期待のこもった視線に応えるように、俺はアイテムボックスからアイアンリザードを取り出した。


「わわ!大きい!」


「ふむ、こら見事な爪じゃわい」


 まるの状態を初めて見たのだろうミュリスはその大きさに驚きの声をあげ、爪を見たゴランドさんは質の良さにうなっている。


 素材の質に関しては俺も特に気にしている部分なので悪い気はしないな。


「何匹狩ってきたんですか?」

 

「次に鍛冶師組合からの依頼がきても即納できるくらいは」


「なるほど、五匹以上ですね」


 ミャーナちゃんにイエスともノーとも言わずニヤリと笑い返す。


 アイアンホーンドフロッグが入りきらなかったのもすでにアイアンリザードを複数入れてあったからだ。


「さて二人とも。俺は別に直取でも構わないんだが、もちろんタダと言うわけにはいかない」


 俺の言葉にミュリスとゴランドさんはピシャリと背を伸ばした。


「分かっとる。だがこちらもあまり余裕があるわけではないんじゃ。素材料金は通常の倍程度で勘弁してはくれぬじゃろうか」


「倍の料金ねぇ。それも確かに良いが、俺があんたに求めるのは別のモノだ」


「別のモノじゃと?」


「そう、あんたにしか払えない代物さ」


「ま、まさか?!ダメじゃ、絶対ダメじゃー!ミュリスは絶対に貴様なんぞにやらんぞー!!」


「ふぇ?!私ですか!あ、その、それは…」


「何であなたは満更でもないみたいな顔してるのよ」


「ちげーよ!!俺があんたに求める対価はこれだ!」


 俺はアイテムボックスから銅の杭を未使用品と使用済み品を一本ずつ取り出して机の上に置いた。


「あ、それは」


 ミュリスが銅の杭に反応するが、そのまま説明を続ける。


「これは以前に組合経由であんたに依頼して作ってもらった銅の杭だ。今回の依頼で使用した三本中二本がダメになっちまった。だから新しい杭を二本作ってくれ」


 ゴランドさんは杭を手に取ると未使用と使用済みを見比べた。


 未使用品は綺麗に光沢を放っているが、使用済みは表面が黒く焼け焦げていたり溶けたりしている。


「確かにこれはワシが作った杭じゃな。出来るだけ不純物を抜いて硬く鋭利に作れと抜かしおったあの依頼人はお主じゃったのか。この劣化具合、炎か雷の魔術でもエンチャントしたのかの?」


「惜しいが違う。この杭は雷の魔術を流したんだ」


「流した?エンチャントせずにか。何故じゃ?」


「エンチャントは武器に魔術を纏わせる事は出来るがその効果範囲は武器の周囲のみだろ。雷は発生すると周囲に流れる性質を持っているがエンチャントだとその性質が利用出来ないじゃん」


 エンチャントは有用な補助魔法だけど、その効果範囲はさほど広くない。


 ミスリル製の武器や魔力量の豊富な奴なら効果範囲も広がるけど、大抵の奴は刃に纏わせるくらいが精々だ。


「雷は金属に寄る性質も持っているから、この杭を魔物に突き刺した後に雷魔法を放てば杭を通して魔物の体内にあまり威力を落とすことなく流し込むことが出来るって寸法さ」


 どれだけ外側が頑丈だろうと、どんな生き物も内臓を鍛える事は出来ないからな。


「なるほどのう。しかし金属ならば鉄でも良かろう。なぜ銅なんじゃ?」


「銅が手に入る中では一番電気、じゃなく雷を通すからなー」


「……ふむ。お主、見た目は前衛職じゃが操るのが最も難しい雷魔法を易々と扱える辺り、中々やり手の魔法使いでもあるんじゃな」


 うんうんうなずくミュリスに感心したようなゴランドさん。


 勘弁してくれと俺はため息をついた。


「器用貧乏なだけだっての。それより代価はそれでも構わないよな?」


「もちろん構わん」


「じゃあそれで。いつ頃出来そうだ?」


「明日の昼には出来とるわい」


「じゃ、よろしく」


「待ってくださいタカさん。アイアンリザードをこのまま渡す気ですか?」


「ダメなの?」


「素人に解体は難しいのでは?」


「ミャーナちゃんは出来ないの?」


「む、無理です」


 ミャーナちゃんは首をブンブン横に振った。


 ゴランドさんとミュリスを見ると、二人とも首をブンブン振っていた。


「私は魚や鳥ならさばけますけど、リザードはさすがに…」


「ワシは良い包丁は作れるが包丁を上手く扱う事は出来ん」

 

「わーったよ。そんじゃどっかこいつを吊るせて洗える場所を貸してくれ」


「なら工房を使うといい」


「いいのか?」


「構わん。解体してもらうのはこっちじゃからな。他に何か要る物はあるか?」


「大量の水と、皮と爪を入れる適当な入れ物。それに肉も食えるからそっちの入れ物も」


 ひとまず全員で工房に移動して、ゴランドさんから予備のエプロンと手袋を借りた。


 工房の脇に大きな布が被せられた物体Xがあるが、これが例の船なんだろうな。


「アイアンリザードってお肉も食べられるんですね。初めて知りました。美味しいんですか?」


「調理の仕方によるか。白身が強く臭みがなくて食べやすい。ただやや筋張ってるから煮込みや干し肉が向いてるね。ミュリスは干し肉を作った事はあるか?」


「はい。鹿肉を分けていただいた時に教わって作りました」


「アイアンリザードの干し肉も鹿と同じように作れば問題ないぞ。腐りにくい肉だし冷蔵庫に入れとけば結構持つとは思うけど、二人で食べるには量が多いからなー」


「はい!ありがとうございます」


 ミュリスと話しながらもアイアンリザードをゴランドさんに用意してもらったフックで天井から吊し、血抜きを行う。

 

 一応こいつの血も錬金術の素材なので、大きな桶を用意してもらってそこに全部流し落としていく。


「血抜きは少し時間がかかるから今の内に爪を剥ぎ取っておく」


 四本の足から黒光りする鉄の爪を剥がして、こびりついた肉や皮を綺麗に削ぎ落としてからゴランドさんに渡す。


「こいつの爪が魔力の通しが良いとは知っていたけど。実際にさ、普通の鉄とどれくらい違うもんなの?」


「そうさの、普通の鉄を一としたらアイアンリザードの爪や皮や歯は十くらいじゃな」


「十倍か。そりゃすげーな。じゃあミスリルは?」


「百じゃな」


「流石クソ高いだけの事はあるな……。皮は本来ならなめしをしなきゃならないんだが、普通にやると時間がかかりすぎるからここは道具と魔法に頼る」


 俺はアイテムボックスからミスリルのナイフを取り出した。なめし用の刃が小さくて湾曲したナイフだ。


「なんじゃ、高いと言いつつ持っとったんか」


「この小さなナイフで俺の剣二本分のお値段だったぞ、高過ぎだよ。まあそれはおいといて、このナイフには『分解』の魔法がエンチャントしてあるんだ」


 俺は説明しながらアイアンリザードから皮を剥ぎ取っていく。


 背中側は特に固いので、腹側から内臓を切らないよう慎重に刃を入れていく。


「こうやってまず魔力を通さずに皮を剥いでいく」


 それなりに回数をこなしているとはいえ、モンドのとっつぁんみたいな素早く丁寧に指先までも剥ぐような技術は俺にはないので、足首までで適当に剥いでいく。


「んで、剥ぎ終わったら魔力を通して『分解』を発動させてからなめしていく、と」


 あまり脂肪がないので哺乳類系の皮と比べれば楽ではあるけど、『分解』の魔法は操作をミスると皮自体も分解してしまうため気をつけながらなめしていく。


「アイアンリザードは皮が鉄で腐る心配もないしそもそも鋳とかして使用するわけだから実はこの工程がなくても鉄としては使用できるんだけど、このまま溶かすと臭いがヤバいからな」


 臭いがつくと数日はとれなくなるかもなぁ。


「さすがに工房が獣臭くなるのは勘弁じゃ。にしてもお主、『分解』の魔法をエンチャントされとるとはいえここまで器用に使えるとは驚きじゃ。上級魔法使いなんかの?」


「違うよ。俺は魔力量は十人並みでね。さっきも言ったが器用貧乏なんだよ」


 とりあえずこれでいいだろ、とアイアンリザードの皮をゴランドさんに投げ渡す。


「それじゃ次は歯を、といきたいとこだがまずは胴体を捌いちまうか」


 こっちは皮の心配がないので内臓だけ気をつけてさくさく捌いていく。


 元の世界では魚介類以外を捌くなんて一度もやったことがなかったが、人は慣れる生き物なのだ。


 この世界に来て最初の頃は今日の飯のため、慣れてきてからは金や珍味のため、日々研鑽した結果ウサギ程度なら十分とかからず捌けるようになった。


「よし、とりあえずこのモモとハラを煮込みに、ムネを干し肉にしてみなよ」


 肉を受け取ったミュリスはそれじゃあ早速何か煮込み料理を作りますね!と台所方面へと去っていき、私も手伝うわよとミャーナちゃんもそれについていった。


「で、歯なんだが…こいつはペンチかなんかで引っこ抜いた方が早い。てわけでゴランドさんよろしく」


「わかったわい」


 切りおとした頭ごと渡して、俺はしっぽをぶつ切りにしていく。これもテールスープ的な煮込みにすると結構美味いんだよな。


「タカ、お主本当にBランクか?」


「何でそんなに疑うんだよ。ほれ、冒険者証」


「本当なんじゃな」


「納得したか?」


「うむ、ソロで難易度A級のアイアンリザードを複数狩れる冒険者が本当にBランクどまりなのか、とな」


「そっちか。冒険者じゃない人がよく勘違いするんだけどさ、魔物の難易度と冒険者ランクはイコールじゃないんだよ」


 俺はアイアンリザードの弱点の雷魔法が使えるからソロで複数狩れるってだけで、他の難易度A級の魔物も複数狩れるかっていったらそんなことはない。


「相性さえ良ければ難易度A級だろうと狩れるけど、相性が悪けりゃC級ですら危ういもんなんだよ。難易度は対象の強さ以外に相性が良い冒険者の人数比率も加味されて算出されてるらしい」


 アイアンリザードがA級なのは生息場所が廃鉱の奥など行きにくい場所で、魔法も雷以外はあまり効果がなく、皮は鉄だから物理攻撃も通りにくいからだ。


 逆に雷にはとことん弱いが雷魔法を扱える冒険者はあまり多くない。大きい支部で一人いれば良い方だったかな?


 実際この街じゃ俺だけだしな。


「そうじゃったんか。それは初めて聞いたの」


「まあ、冒険者でも勘違いしている奴がいるくらいだからな」


 俺達が微妙な距離感のまま雑談しながら解体を終わらせたころに、ミュリスが夕食が出来ましたよと呼びに来たのだった。




 

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