異世界ロケット作成中 39
暇になった俺達は、今度は全員でエビ筒ロケットを作る事になった。
いろんなサイズのエビ筒を赤や緑と塗り変えて、みんな自分好みのロケットを作っている。
アルジェとミュリスは昨日いなかったので、アルジェは俺と、ミュリスはゴランドさんと一緒にアドバイスを受けながら楽しそうに手を動かしていて、見ていて微笑ましい。
メルリーゼは魔法で何やら魔改造しているな。
俺は以前ネットで見かけた、ペットボトルに取り付ける宇宙船型のアタッチメントを参考にしたスペースシャトルっぽいエビ筒ロケットを作っている。
素材はエビの殻を削り出したもので、ちょうどいい形の頭部に垂直尾翼だけ後付けしたらそれっぽく仕上がった。
「タカのは形が全然違うな」
ロケットを作り終えたメルリーゼが近寄ってきた。
「これはちょっと特殊なロケットを元にしててな」
「ロケットは細長いだけじゃないのかい?」
「基本はそうなんだ。まあ、こういう飛行機型ロケットは一種類しかなかったな」
「そういえば昔、空を飛ぶ乗り物だと絵に描いて見せてもらったものに似ているな……ん?」
メルリーゼは腕を組んで頭をかしげた。
「なあ、その飛行機で宇宙にはいけないのかい?」
「無理。飛行機は空気ありきの構造だ。空気が存在しない宇宙にはたどり着けない」
旅客機のジェットは翼についてるエンジンの前方から空気を吸入する構造になっている。映画とかでよくテロリストが吸い込まれてバラバラにされる部分だな。
前方から吸い込んだ空気を圧縮して燃料とともに燃焼させて推力を得る仕組みだ。
だから高度が上がるほど空気がうすくなるため、燃焼が出来ずに途中でガス欠みたいになる。
「そうなのか」
「この翼も空気があればこそ活躍するものだからな」
スペースシャトルがなぜ飛行機型かと言えば、本体を再利用するために帰還時は空を飛んで滑走路に着陸するためだ。
通常のロケットは帰還船部分だけになって、パラシュートで海や広い平野部に着陸するのが基本だ。
「飛行機は作れないのかい?」
「作れない事もないが」
その辺にあった厚紙で紙飛行機を作り、パッと飛ばしてみせた。
「おお、飛んだ。今のは魔力を使ってなかったよね?」
「使ってないな。鳥と一緒で翼で空気を受けて飛ぶんだよ。本物は翼や本体の前後にエンジンが付いてて、中には俺の奥の手より早いのもある」
インパルス・アクセラレーションは音速までは超えられないからな。
「それは相当だねぇ……」
不意にクイクイッと服の袖を引かれる。
隣を見ると、アルジェがキラキラした目で俺を見ていた。
「タカ、タカ、アルジェもそれ飛ばしたい」
「ロケットは?」
「かんせーした。かわくの待ってる」
塗装が済んだロケットを指さして得意げなアルジェ。
鼻の頭に塗料ついてますよ?
「分かった。なら作り方を教えてやろう」
鼻の塗料を拭き取りながらアルジェにそう言うと、他の三人もこちらに近寄ってきた。
「まず四角形の紙を用意して、正確に半分に折ります……」
全員で山折り谷折りして紙飛行機を作っていく。
「よし、みんな完成したな。では飛ばしてみよう。こうやって真ん中あたりを持って、前に押し出すようにして、こうだな」
工房の端から端を落ちる事なく飛んでいった。四人から歓声が上がる。
「それじゃ各自、むこうの壁目指して飛ばしてみようか」
四人が一斉に飛ばすと、アルジェは強く投げすぎて真ん中あたりの床につっこみ、ミュリスは投げ方が慎重過ぎたのか半分くらいで失速。
ゴランドさんは意外にも柔らかいフォームでゆうゆうと壁に到達。メルリーゼはなぜか真横に飛んでいった。
「なんで?!」
「多分、手首のスナップをつけ過ぎたんだ。スナップはむしろいらない。こうやって手首をほぼ固定して、こうだな」
メルリーゼの紙飛行機を飛ばしてみると、ちゃんとむこうの壁まで飛んでいった。
「タカ、アルジェは?」
「ちょっと強すぎたな。ミュリスは逆にちょっと弱すぎ」
足して割ればちょうど良いくらいではなかろーか。
その後も別折りパターンの紙飛行機を作ったり、厚紙グライダーを作ったり、風魔法を使って自由に空中を飛ばしたりして楽しんだ。
「とりあえずラガー」
ミャーナちゃんはやって来てそうそう冷えたラガーを一気飲みして、それはそれは大きなため息をついた。だいぶお疲れのご様子。
一癖も二癖もある冒険者達を毎日手玉に取っているミャーナちゃんをここまで疲弊させるとは。
さすが勇者、面倒い。
「例の依頼を出す前に、午前の混雑がピークの時に勇者がむこうから来たんですけど」
冒険者達が依頼を受けるため受付に長蛇の列をなしている時に現れて、列に並ばずに受付のわきにやってくるといきなり話しかけてきたらしい。
列に並んでいる冒険者達からブーイングが飛んできたため、自分は勇者だと公言したのだが、勇者だろうと受付に用があるなら順番に並べと冒険者だけでなく受付からも返されて、文句を言いながら渋々列の後ろに回った。
「その時点でギルド中の人から反感を買いましたね」
順番が回ってくるとミャーナちゃんに演技くさい笑顔を見せながらナンパじみた発言をして、後ろに立っていたパーティーメンバーがげんなりとした顔をした。
ミャーナちゃんも心の中ではパーティーメンバーと同じ顔をしていたとため息をついた。
俺もミャーナちゃんに可愛いねーとかけっこう頻繁に言っているので、もしやセクハラ案件だったかとドキリとしてしまった。
俺はセーフ?
ナンパじゃなくて単なる軽口だと分かってるから別に嫌ではないと。
勇者と俺では視線の質がまるで違うと。
まあこっちは精神年齢アラフォーなんで。親戚の子どもを見るような目で見てるとこはある。
まったく無反応なのもそれはそれで納得いかない部分もあると言われても。耳には目がいくぞ。
アルジェ、分かった。お前の耳も良き耳だ。だから耳を突き出すのをやめなさい。あとでブラッシングしてやるから。
一方勇者は視線が熱を持ってたし、そもそも出だしがあれだったので拒否感しかなかったと。
むこうは二十歳そこそこでまだまだ色香に惑わされる年齢だからねー。元の性格もアレだし。
こちらとしてはさっさと列をさばきたいのに、勇者に捕まって業務が滞ってしまったから余計にムカついたけど、笑顔を崩さなかった自分を褒めてほしい?
うん、ミャーナちゃんは受付嬢のかがみだよ。アレ相手によく頑張った。マジで。
メルリーゼも『わかるー』と深くうなずいている。
頑張ったご褒美?耳でもモフる?
それは俺のご褒美だと言われましても。
シャンプーとコンディショナー、さらにはボディソープに洗顔フォームまで?
俺が冒険者なのに肌が綺麗な事が地味に気になっていたから聞いてみたと。
メルリーゼ、ちょっとこっちこようか?
逃げるな!何バラしてんだお前!
あれは俺の秘蔵の……そんな目で見るな女性陣。
あーもー。わかった、わかったから貸してあげるから続きを頼む。
それで、勇者は情報を集めてほしいと依頼してきたんだな。
予想通り鍛冶師のお友達についてか。どうせお友達は何者かの陰謀によってハメられた被害者だとか言ってたでしょ。
やっぱりな。
神殿でお偉いさんから一通り説明されてるはずなのに、それすら信じなかったか。
あいつの仲間や友達は裏切らないスタイルは多少演じてる感が強いとはいえ悪いわけじゃない。
問題はあいつに人を見る目が皆無なとこと、人の話をちゃんと聞かないし理解しないとこだな。
ミャーナちゃんも説明してくれたのか。
つーかライアン達とも多分会ってると思うんだが、あいつらからも話聞いてるんじゃないの?
それもふまえて依頼は出しても意味がないと説明したけど、納得してくれなかったと。
見かねて降りてきたギルマスからも説明してもらったけど、やっぱりダメだったか。
それで、依頼を受けた冒険者はいた?
皆無だったと。
そりゃそうだよね。神殿から直々にお触れが出た事は冒険者なら皆知ってるだろうし。
神殿を敵に回してまで依頼を受ける冒険者はいないだろう。
そもそも最初に反感買いすぎてたのもある?
そりゃ確かに。
で、誰も依頼を受けない事に憤慨して、ギルド全体が隠蔽するほどなのかって大きな声で言ったもんだから余計反感を買ったと。
さらにミャーナちゃんに脅されているのかって聞いてくるし。
違うと言っても信じてもらえないし、僕ならどんな相手からも守り通せるとか勘違い発言連発するし。
最終的にはパーティーメンバーが無理矢理引っ張っていったと。
まあ、なんてーかマジお疲れさま。
「ほんっとなんなんですか、あの人」
「勘違い系勇者」
「言葉をしゃべるゴブリン」
「言葉はしゃべれますけどこちらの言葉を理解できてないから会話ができないんですけど」
「本人は勘違いしている自覚がないんだ」
「ゴブリンだからしゃべれるだけでも凄いと思わなきゃならない」
「私の中の勇者像が凄い勢いで崩れていくんですけど」
「あれは歴代勇者の中でも特別だよ」
まあ、色々規格外な奴ではある。
「タカさんと同郷の方なんですよね?あんな人が他にも存在するんですか?」
「えーと、俺のまわりにはいなかったけど、居るとこには居ると思う」
「居るんですね……」
異世界転生はこじらせるからねー。
俺だってこっち来た当初はけっこうはしゃいでたからなぁ。
高校生とかだったら尚更だろうよ。
「何で国はあんな人を勇者として認定したんでしょうか。いやそもそも何で神様はあんな人を招かれたのでしょうか」
「はいミャーナちゃんストーップ」
神様への不敬発言は控えようね。いつどこで見られてるか分からないからな?
「タカさんが勇者でよかったじゃないですか」
ブンブンうなずくなミュリス。
「あいつは勇者としての能力だけは本物なんだよ。俺は神様と会ったことないし加護ももらってないからな」
不満げな顔すんなミュリス。
「しっかし予想通り過ぎて笑えてくるな」
「そうだね。そして明日にはこの家に確実に来るだろうね」
「どうしたもんかねぇ」
簡単には引き下がらないだろうし、ゴランドさんを黒幕と思い込んでるならしばらく嗅ぎ回りそうだしなぁ。
「話を聞いとるだけでも面倒な奴じゃな。こら最初からガツンとやってやった方が良さそうじゃの」
いやゴランドさん、あいつ腐っても勇者だから。力技じゃ勝てないから。
「力技じゃないわい。このさい主だった関係者を全員集めて仲裁してもらうんじゃよ」
「あー、領主様を巻き込むんですね」
「気が進まなそうじゃな?」
「えーっと、いやまあ俺も領主様とは近々会う予定だったんですよ。おそらく依頼を受ける事になるのでその報酬の前払いとしてお願いすればやってくれると思います」
「そういえば手紙をもらっていたね」
「ああ、今から手紙を書くからそれをメルリーゼの使い魔で領主の館に届けてもらおう。ゴランドさんは」
「鍛冶師組合の連中とフスターの奴に話をしてこればええんじゃな」
「後は神殿の方は」
「そっちは領主の館にいくついでに手紙を届けるよ」
「頼む」
メルリーゼの足元に魔法陣が浮かび上がり、白いヘビが姿を現した。
「やあ、寝ていたとこ悪いねウロロ」
まだちょっと動きがスローなウロロが大丈夫とばかりにシャーっと鳴いて、そのままメルリーゼの腕に巻き付いた。
「ギルマスは明日の朝一にミャーナちゃんから伝えてくれ」
「分かりました」
「あの、私はどうしましょうか?」
「アルジェはー?」
「君達は今回はお留守番だ。ほれ、お風呂でも入ってきなさい」
パーフェクトお風呂セットを手渡すと、女性陣は全員そちらに、ゴランドさんは鍛冶師組合とヴェンテ商会へと向かった。
俺も手紙を書かなきゃな。




