異世界ロケット作成中 38
晩飯を食べ終えた後、まったりしていたらミャーナちゃんがやってきた。
「こんばんは、タカさん」
「こんばんは」
「早速ですが、タカさん」
「ど、どしたの?」
俺の目の前までやってくると、ニッコリ笑顔で上目遣い。まつ毛長いなー。
綺麗系なミャーナちゃんがこれをやると、ギャップがあざと可愛いくて破壊力抜群。
おじさんにはクリティカルなんですよ。
なんだけど……なんかすげー怖い。
なんだ?笑顔の奥からあふれ出るこのプレッシャーは?!
シーサーペントキングなんてめじゃないぞこれ。
「シャンプーとコンディショナーを貸してくださらない?」
「あ、はい」
「ミュリス、お風呂お借りできる?」
「は、はい!沸いてます」
「じゃ、一緒に入りましょう。アルジェちゃんもどう?」
「入る」
俺からシャンプーとコンディショナーを受け取ったミャーナちゃんは、年少組を引き連れてお風呂へと歩いていった。
「え?え?用ってこれだけ?」
「タカ、私も貸してくれ」
「いや、お前に必要か……」
「ミュリスやアルジェだけでなくミャーナ君にも貸すんだ。私だって良いだろう?」
「あ、はい」
ジト目なメルリーゼからのプレッシャーにも屈して、風呂場へと向かうその背中を見送るしかなかった。
「ま、うちの風呂は広いからの。四人でも余裕でつかれるじゃろ」
二人が放ったプレッシャーに気づかなかったゴランドさんは、的外れなフォローとともに酒の入ったコップを俺の前に置いた。
「これは?」
「りんご酒じゃ。酒精はそこまで強くないぞ。ジュースみたいなもんじゃ」
「ああ、シードルか」
一口飲んでみると、りんごの甘みと香り、発泡酒らしいさわやかな口当たりが飲みやすい。
「中々いけますな」
「今年は当たり年らしいの」
「ゴランドさんもこういう酒を飲むんだな」
「たまにじゃな。これは死んだミュリスの母親が好きでの」
「冒険者だったんだってな」
「うむ、おぬしと同じB級じゃった。息子の所属しとったパーティーの仲間でな、馬鹿息子にはもったいないできた娘さんだったわい」
亡くなったと聞いているので避けていたのだけど、ゴランドさんの雰囲気的にタブーの話題ってわけでもなさそうだ。
「ミュリスはどっち似?」
「くせっ毛は息子、容姿と性格は母親じゃな」
「でも珍しいよな。ドワーフと只人のハーフって中々見ないし」
「まあ、この街でもミュリスだけじゃな」
「前から気にはなってたんだけどさ、なんでどの種族もハーフって少ないの?」
まったくいないってわけじゃないけど、大きな街でも一日に片手で数えられるくらいしか見かけない。
同じように街で見かける異種族カップルの数と比べると、あからさまに数が少ないんだよね。
「そもそもドワーフは数が少ないし、己らの集まりの外とはあまり関わらんからの。鉄を打ち、酒を飲む。それだけじゃ」
「職人気質な人種だなぁ」
ドワーフは人口の九割が鍛冶師かその関連職だ。
残りの一割は変わり者で、その人達がコミュニティの外に出て異種族と結婚するパターンが多いらしい。
「じゃがな、そもそも異種族間じゃと子供が出来にくいんじゃ」
一割の内のさらに少数が異種族と結婚するが、その中で子供が出来る確率は大変低いらしい。
「なるほどねー。じゃあミュリスは本当に珍しいんだな」
「まあの。ただミュリスはちっと特殊でな」
「というと?」
「実はうちのカカアはドワーフの王族の遠縁でな、王族は異種族でも子供が生まれやすいんじゃ」
「え?!ミュリスって実は王族なの?」
「いや、遠縁といってもホントに遠いんじゃよ。カカアの実家も王族ではなかったからの。ご先祖様が千年くらい前に王族のはしっこのほうの家から平民の家に降嫁したんじゃ」
ドワーフは他の人種と比べて王族の在り方がだいぶ違うらしい。
そもそも貴族階級が存在しない。
国家運営は国王と王の下にいる文武官に各種工房の代表達の合議制。
国王が王権を維持出来る要因は、鍛冶の神ヘルムから賜った『どのような金属も加工可能になる加護』の存在だ。
もちろん加工するには鍛冶の腕が必要で、跡継ぎは王族で最も腕の良い者がなるらしい。
つまり王族だろうと平民に混ざって鍛冶仕事をしているので、貴賤の隔たりみたいなのがかなり薄く、平民と結婚する王族も全然珍しくないらしい。
話だけ聞いてると王族ってか親方みたいな感じだな。
しかしそうなるとゴランドさんの奥さんってドワーフの王国出身?
「カカアはこの街の出身じゃ。ワシらは二代前からこの街に移り住んできたからの」
このウレザスという街は歴史はけっこう古いのだが、ここまで大きくなったのは三百年前に落ち人が領主になってからだ。
街を広げ、各地から人材を引っ張ってきたのだが、その中に二十人くらいがドワーフがいて、ゴランドさん達のご両親もその一人だ。
幼馴染だったんだなと言ったら、この街のドワーフは皆そうじゃいと笑われた。
「それで、何で王族は異種族との子が生まれやすいんだ?」
「王族はの、過去に何度か勇者と婚姻しとるんじゃ。勇者はどの種族とも子を成せるからの、その血が濃いと生まれやすいってわけじゃな」
「…………初耳だ」
え?マジかよ。
勇者の加護的な感じで?
それとも異世界からきた人間は皆そうなの?
この街で落ち人の子孫だと知っているのはアラクネのキクエさんと領主だけだ。
アラクネは女性しか生まれない種族で、人種の異性ならどの種族とも子を成せるし、領主は只人だしな。
「落ち人の全てがそうかは知らんぞ」
「そ、そうか」
「勇者は優れた加護を持っとるしとにかく強い。どの国も勇者と繋がりを持ちたいと思うわな。じゃから国が認めた勇者のパーティーは権力者の娘があてがわれる事も多いんじゃよ」
あー、勇者パーティーが美人ハーレムなのはそーゆー理由もあったのね。
神殿騎士のねーちゃんは確かこの国の騎士団長の娘だったはずだし、魔術師は筆頭魔術師の娘、それで神殿から推薦されたアイツ、と。
羨ましいとは思わんが。
「で、勇者どもはどのくらいこの街におるつもりかの?」
「うーん、例のお友達鍛冶師の関係でこの街に来たと思うんだよ。でもこの街にはもう居ないって分かってるはずなんだけどね」
「ゆうても、もうすでに聖都で処刑されたかもしれんじゃろ」
「そうなんですけどねぇ」
処刑されたにしろされてないにしろ、抗議するためになんか無駄に調査とかしそうなんだよね。
彼は無実だーとか何とか言って、そのありもしない証拠探しにあけくれそう。
「はた迷惑な奴らじゃな」
「問題は、その関係でここに来そうなんだよね」
今回の一連の騒動で、一番恨みをもっていそうだと思われるのはゴランドさんだろう。
筆頭鍛冶師を追われた、なんて理由でお友達をハメたんだと勝手にゴランドさん犯人説を作りそう。ハメたのはむこうなんですけどね。
それに勇者単体ならここまでたどり着けないだろうが、あの取り巻き達はそれなりに有能だからな。
事件の背後関係を調べるくらい容易だろう。
そしてその結果、お友達鍛冶師に非があると分かっていても勇者に報告するし、勇者の暴走も止められないだろうな。
ゴランドさんの話であのハーレム要員達も色々面倒を背負ってるんだなと分かったけど、それとこれとは話が別だ。
正直、今回の事件は勇者だろうとその立場が危ぶまれる内容なんだから、きちんと手綱は握っていて欲しい。
じゃないと、逆に自分達が矢面に立たされる事態になるぞ。
「来た所で家の中には入れんし、何を言われてもつっぱねてやるわい」
「まあ、最悪さっさと衛兵を呼んじまおう。その方が早そうだ」
異世界だろうと公権力に頼るのが一番手っ取り早いからね。
その後、自分の髪にうっとりしているミャーナちゃんに、腕利きなシーフやレンジャー達に勇者の動向を探ってもらうよう依頼を出して欲しいとお願いをしておいた。
「これがタカさん設計のロケットですか」
翌朝、朝食の後にミュリスがカニ筒ロケットが見たいと言い出したので、皆で工房にいた。
「設計したわけじゃないよ。以前に作った事があったからね」
一時期マジでハマって色んなペットボトルロケットを作ったから、飛距離さえ気にしなくていいのなら図面なしでも作れるのだ。
まあそもそも単純な構造なので、いばって言うほどの物でもないんですけど。
「これはどれくらい飛ぶんですか?」
「多分、二、三十メートルかな」
「こんなちっちゃな大きさで、魔法も使わずにそんな飛ぶんですね。凄いです」
この世界ではメートル法を採用しているのでこのあたりは通じる。先落ち人に感謝だな。
「そういやゴランドさんさ、ネルを作った時って設計図の長さの単位ってメートルだった?」
「その話はワシもしたかったんじゃ。タカ、インチってのはロケット専用の単位なのかの?」
「違うよ。ネルを作った科学者が住んでいた国の単位だ。ヤードポンド法っていうんだけどね。俺の地元は国家が二百以上あるんだが、その中で採用してんのは三つくらいだったと思う。」
「なんでそんなマイナーな単位を採用しとるんじゃ……」
「その当時の連中はヤードポンド法が世界の中心になると思っていたらしい。ま、そうはならなかったけどな」
「モノの規格がここまで違うと面倒じゃろ。混乱が起こったりしないんかの」
「めちゃある。正直ヤードポンド法はマジやめてほしい」
アメリカ産の商品を買うと色んな部分で規格が合わない。インチネジとか下手すりゃ専用工具いるし。
ネットスラングかは知らんけど、ヤードポンド法は滅ぼさなければならないってネタがあるくらいには面倒がられている。
「まさかとは思うが、ネル以降の設計図もヤードポンド法なんかの」
「全部ではないと思うけど……」
ゴダードが作ったロケットはそうかもしれないが、せめてそれ以降はメートル法だといいんだけどね。さすがに創成期のロケットの設計図なんて見たことないからなぁ。
「まあ目下の問題は勇者だね。あいつらがこの街から出ていかない事にはこのロケットの打ち上げも新型望遠鏡の天体観測も出来ないじゃないか」
「天体望遠鏡に関しては日中でも窓からどっか遠くを観測してもいいんだけど」
「それじゃあ面白くないよ」
どうせなら前と同じように満天の星空を見て比較したいと言うメルリーゼに、同意ですとばかりにうなずくミュリスとゴランドさん。
アルジェ、その通り!みたいな表情でうなずいてるけど君は天体望遠鏡を覗いたことないでしょ。
「ミャーナちゃん待ちだな」
勇者パーティーは斥候職がいないので、Bクラス以上の斥候職なら監視に気づかれないはず。
勇者は無駄に高いステータスで気づきそうなものなのだが、アイツ自身がそのへんに無頓着なので敵意がない限り気づかないだろう。
今日の夕方には一度報告してくれるはずだ。それを待つとしよう。




