異世界ロケット作成中 36
― リズリットside ―
御神託のおかげで、無事タカ兄さんをお助けする事が出来ました。
さらに久しぶりに一緒のベッドで寝る事が出来て、さらにさらに何でも?お願いを聞いてくれると言われちゃいました。
ありがとうございます、運命の女神ロアンナ様!
「フヘヘッ………」
私は内心飛び上がりたいほどの喜びをジッと抑えて帰路につきます。
「聖女様、何かキラキラ光ってますよ?」
全然抑えきれていませんでした。
ミック様に指摘され慌てて光を抑えます。
いけないいけない。落ち着きましょう私。
深呼吸です、深呼吸。
スー、ハー、スー、ハー。
「聖女の導きってスキルですよね。神様に祈りを届けるという」
いえ、これは違います。
神様ではなくタカ兄さんの事を考えても勝手に出ちゃう時があるんですよ。
「ええ……それってタカが神様と同様って事ですか?」
私の中ではそうですね。
「それ、他の人には言わない方が良いですよ」
一応ウレザス神殿の者とタカ兄さんしか知らないですから、あまり問題ではないかと。
「俺に教えちゃっていいんですか?」
ミック様はタカ兄さんも信用してらっしゃいましたから大丈夫かと思ったのですが。
違いますか?
「いや、まあ、誰にも言う気はないですが。 だからそんなおっかない目で見ないで下さい」
ありがとうございます。
ミック様はタカ兄さんとどのようにしてお知り合いに?
「俺は元々は王都で門番をやってまして。出入りの受付担当で。その時に知り合いました」
そうなんですね。てっきり冒険者としてお会いになられたのかと。
「冒険者になったのはタカと知り合って一年後くらいですね。門番仲間でパーティーを結成しまして」
それは中々珍しいパーティーですね。何かキッカケでも?
「うーん、皆色々事情はあったのですが。たとえば私は結婚しようか悩んでいた時に、門番の安い給料で家庭を持つ事をちょっと不安に思っていたところでリーダーのライアンに声をかけられまして」
なるほど。ライアン様の勧誘が転機となったのですね。
「もちろんタカの影響もありましたよ。当時アイツが泊まってた宿は嫁の実家でして。最初は素泊り代金だけでも払うのに苦労していたのに、一ヶ月もすれば飯付きになって、三ヶ月もすればまとめ払いも出来るくらいまで稼いでましたからね。その頃には俺の月給はあいつの週給を下まわってました」
タカ兄さんのご活躍を見て後押しされたのですね。
「そうですね。運良くAランクまで昇格出来ましたので、転職は正解でした」
タカ兄さんとは冒険者になってからもお付き合いを?
「はい。門番を辞めた後、衛兵宿舎を出て俺も嫁の宿屋に行きまして。タカがパーティーで家を借りて出ていくまでは晩飯もよく一緒に食ってましたよ。タカは嫁の宿屋の飯を気に入ってましたね」
そういえば、タカ兄さんから聞いた事があります。
奥様の宿屋はタカ兄さん的には王都で三本の指に入る良い宿だったと。
「それは嬉しいですね。王都に戻ったら義家族に伝えておきますよ」
私も王都に行く用事があった際は利用させていただこうかと思います。
「いえ、さすがに聖女様がご宿泊されるような格式の宿では」
格式など必要ありません。
聖女と言われてはおりますが、私など田舎者の小娘です。
格式高い高級宿など落ち着いて過ごせません。
一度だけ王都神殿に行った事がありますが、あまりの派手さに目がチカチカして落ち着きませんでしたし。
ウレザス神殿のように、華美さはなくとも清潔な部屋であれば問題ありません。
「普通の宿ですので防犯面がちょっと」
私がウレザスの外に泊まりで出かける時は、タカ兄さんが一緒なので大丈夫です。
「いやまあタカなら確かに大抵の相手には後れを取らないでしょうけど。護衛となると相部屋になりますが?」
何か問題が?
「問題はあるような、なきゃだめなような」
当人同士が気にしないのですから何の問題もありません。
あるわけがありません。
「分かりました。ただこの話も他で言わない方が良いです」
わかっております。
タカ兄さんからも神殿外では吹聴しないよう言われておりますので。
「神殿内でもあまり吹聴しない方が……」
タカ兄さんが神殿に下宿していらっしゃった時はしばらく相部屋でしたから、問題ないかと。
「(おいおいタカ……) ああ、えーと、そもそもタカとどういった形で知り合ったんです?聖女様がタカを兄さん呼びされている事に、いつツっこんで良いのか困ってたんですが」
私がまだ見習いの時に命を救っていただいたのです。
御神託により聖都からウレザスへと移動中に魔物に襲われていた私を、偶然通りがかったタカ兄さんが助けてくれたのですよ。
「なるほど。タカを命の恩人として慕う気持ちから、ですか」
助けていただいた後ウレザスまで送っていただく事になったのですが、とても優しく接していただきました。
優しい兄が欲しかった私は、理想の兄そのものだったタカ兄さんに兄さんと呼んで良いですかとお願いして了承していただいたのです。
「あー、なるほ、ど……?」
私はタカ兄さんに助けていただけなかったら今この場にはいませんし、聖女にだってなっていなかったのです。
聖女である前にタカ兄さんの妹でありたいのです。
「聖女としてのリズリット様が先ではなく、妹としてのリズリット様があったから今のご自分があると?」
その通りです。
「はぁ……。そういえばリズリット様は他の聖女様とはお会いになられた事は?」
ありません。
聖女に任命された際に、ウレザス国内で活動されていた治癒の聖女様と顔合わせをする予定でしたが、先方が勇者一行の用事で聖都に来られなかったのでお流れとなりました。
「そうですか……」
治癒の聖女様とは一度じっくりお話したいと思っております。
「えーと、その〜リズリット様は治癒の聖女様の事をどれくらいご存じで?」
幼い頃より王都の神殿にて修行され、成人されてからは冒険者となってとあるパーティーに加入して、神職では最年少でSランクになられた、素晴らしい方です。
「よ、よくご存じで……。やはり神官の方達の中でも有名なんですねぇ〜」
はい。色んな逸話も聞いております。
それに……ふふふ、とても話が弾むと思うのですよ。
私達は似た者同士ですから。
「は、ははは……。さて、雑談はこれくらいにして先を急ぎましょう!」
そうですね。聖都からのお客様もお待たせしておりますし。
「そっちもありましたね……」
行き以上に緊張感のある護衛になりそうだと遠い目をするミック様。
大丈夫ですよ。
たとえ皆さんのパーティーが全滅してもあのお方は無傷だと思います。
「大丈夫の意味が……。まあでもおっしゃる通りですね。私達は防御には自信がありますが、あの方の攻撃は全員で協力して防御しても保って一撃でしょう」
呪術師を壁ごと吹き飛ばしたあの攻撃が目前に浮かんでいるのでしょうか、ミック様はブルりと身体を震わせました。
一撃防げるだけでも凄いと思いますよ。
「……正直、自信はありませんが」
どなたであっても難しく思います。
「タカならどうしますかね?」
タカ兄さんなら防御せずに避けると思います。
「そうですね。あいつは受けるより避ける能力に長けていますから。聖女様はタカの実力をよくご存知なのですね」
私はタカ兄さんに光魔法の修行を手伝っていただきまして、その際に冒険者登録もしております。
「なるほど。では魔物討伐などのご経験もおありで?」
アンデッドの討伐経験ならそれなりに。
ただこの辺りはアンデッドが出没する場所が少ないのであまり強い相手とは戦っていませんが。
「スケルトンやレイスとかですか?」
エルダーリッチは一撃では倒せませんでした。
修行が足りませんね。
「エルダーリッチは単独で討伐する相手ではありませんよ。ましてや一撃など」
タカ兄さんはあっさり倒していましたが。
「あいつは別枠です。エルダーリッチに対する相性が良すぎます。光属性を剣に付与して疑似聖剣を作り出せるとかこの世界で何人出来るんだか」
タカ兄さんですから(ドヤァ)。
「にしても……神託だけでなく回復や戦闘まで高レベルにこなせるとは、その若さで大変な修行をなされたのですね。さすが聖女様」
いえ、そんなお褒めいただくような事は。
修行を行うのは神職として当たり前の務めですので。
むしろ楽しかったですし。
タカ兄さんに新しい魔法を覚える度に褒めてもらいましたから。
「タカは教えるのが上手いですよね。師匠譲りだそうですが」
ミック様もタカ兄さんから教わった事が?
「俺も魔法を教えてもらいました。土属性持ちなので金属を魔力で強化する補助系魔法ですね。これで装備を強化するんです」
こんな風にと実践して下さったミック様の全身が軽く光り、甲冑が薄い光を帯び出しました。
この魔力の浸透の良さ、装備はミスリル製なのですか?
「ミスリルと鋼の合金です。総ミスリルとなると高すぎて手が出ませんよ」
タカ兄さんもミスリル製は高すぎるとおっしゃってました。
総ミスリルは冒険者にとっては憧れの装備だ、とも。
「神殿長様の装備をライアンはヨダレたらしそうな顔で見てましたよ」
ライアン様、ですか……。
彼はタカ兄さんにとって害のある存在ですか?
「害がない、とは言い切れないかもしれないです……」
敵ですか?
「……敵、まではいってない、と思うのですが……」
味方でもない、と。
「いえ、緊急クエストなどを受けたならきちんと協力は出来ると思います。そこを軽視するようではAランクのパーティーリーダーは務まりませんから」
内容とは裏腹にミック様は苦い顔をされています。
タカ兄さんだけでなく、メルリーゼさんもライアン様に対して良い感情を持っていません。
メルリーゼさんは色々油断ならない方ですが、タカ兄さんの味方である事は間違いありません。
そのメルリーゼさんがライアン様と会うのを可能な限り避けている様子でした。
ストランツァーメではタカ兄さんがまだ意識を戻していなかったのに、馬車に乗せてでも会うのを避けていたと。
それほどまでにライアン様を避ける理由については……実は、もう見当がついています。
ミック様。
「はい?」
ライアン様がタカ兄さんに対して悪感情を持っている理由ですが。
「はい」
聖女、ですよね?
「…………はい」
タカ兄さんのパーティーメンバーだった治癒の聖女様への憧れが、タカ兄さんへの嫉妬を膨らませていたのでは?
「おっしゃる通りです。ライアンは物語に出てくる、聖女様をお守りした守護騎士に憧れていまして……」
衛兵になったのもそれがきっかけだったらしく、冒険者に転職したのも衛兵を続けるより聖女に近づける可能性が高いから、ですか。
衛兵より冒険者の方が可能性が高いのですか?
「守護騎士の中には冒険者上がりの方も何人かいらっしゃったので。衛兵は0人でしたが。冒険者として護衛任務をこなしていけばいつかは、と。実際こうして聖女様の護衛を任されているわけですし」
ミック様を選んだ私が言うのもなんですが、物凄く嫉妬されたのでは?
「ええ、それはもう……。出発直前まで自分と変われと言い寄られていましたよ。そういえば、何で私を選んだのですか?」
一言で言うなら視線、ですね。
私を見る目が良い意味で普通でしたので。
「普通、ですか」
はい。ごく普通に護衛対象を見る目をされてました。
ライアン様や他の方達は、私にとってあまり好ましくない視線を向けておられましたので。
ああ、好ましくないというのは敵意や邪な、という意味ではありませんよ。
聖女という身分や私の外見に対する過剰な反応、とでも申しましょうか。
「まあそれは、特にライアンはありましたね。私はそれが薄かったと」
はい。所帯持ちで身持ちが固そうだと神殿長様も同意しておられましたし。
「確かに私はライアンと違って聖女様達に対しての感情は一般的な崇敬だと思いますし、嫁以外の女性に興味がないのも事実ですね」
日帰り出来る距離の道中とはいえ、過剰な心持ちをされると私も聖女のはしくれですのでそれなりの対応をしなければなりません。
疲れちゃいます。
「おっしゃる通りかと」
ですので、ミック様を指名させていただいたのは大正解でした。
タカ兄さんとのご関係も良好で、護衛としての心持ちも問題なし。
聖皇様にも素晴らしい仕事ぶりだったと伝えておきます。
「ありがとうございます。さて、そろそろウレザスですね」
街道の先にウレザスの街が見えてきました。
二日しか経っていないので久しぶり、という感じはしませんが、やはり住み慣れた街が見えてくると安心しますね。
そのまま何事もなく門を通り、走竜を返して神殿に戻ってきたら、神殿の前に見慣れない馬車が停まっていました。
先に停まっていた聖皇様の馬車より豪華……というか派手ですね。
聖皇様はお忍びなので今回の馬車が控えめな外装なのもありますが、この派手さは高位貴族並みです。
ご領主様の馬車とは違うので、街の外の高位貴族の方でしょうか?
「うわッ!マジかよ、アイツらが来てるのか……」
馬車の持ち主を知ってたらしいミック様が、驚いたが七割、面倒だなが三割な声を上げました。
ミック様、この馬車の持ち主はどなたなのでしょうか?
ミック様は少し逡巡した後、頭痛が痛いといった表情でおっしゃいました。
「これは勇者の馬車です」




