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異世界ロケット作成中 35


 俺とゴランドさんがウンウンうなっている横で、そういえばとメルリーゼが手をポンと叩いた。


「代わりになる燃料なんだが、ラーヴァサーペントの火袋の中身なんてどうだい?」


「ラーヴァサーペント?知らん名じゃな」


「火山に生息する大蛇だよ」


 滅多に会うことはない希少な魔物なのでゴランドさんが知らないのも無理はない。


 シーサーペントよりやや小型だが、それでも十メートル前後の巨体でマグマの中を回遊しているとんでもない奴だ。


 気性はめちゃくちゃ荒い。


 一歩でも縄張りに入ると炎のブレスを撒き散らして周囲を焼き尽くそうとするし、シーサーペントと違い縄張り外までも執拗に追っかけてくる。


 動きもかなり俊敏で、大きな河か湖や海が近くにない限り振り切るのも難しい。


 それらが近くにない場合は上級水魔法や上級氷魔法でもぶち当てない限り止まらないだろう。


 俺が足止めで出したロックウォールを割るのでなく溶かすほどの高温を長時間維持出来るからな。


「岩を溶かすとはまた物凄い奴じゃな。よく倒せたもんじゃい」


 しっかり準備して討伐に行ったんだが、それでも俺ともう一人の両手が炭になるくらいには苦戦したなぁ。


「炭…お前さんよう今まで生き残れたの」


 メルリーゼ、ウンウンうなずくな。


 お前が素材欲しさに一狩り行こうぜって誘ったんだぞ。


「アイツの素材は超超希少品だからね。余った部分も良い値で売れたからかなりの儲けになったし」


「で、肝心の火袋なんだがもちろんあるんだよな?」


 まさかすでに何かの実験に使用したり売っぱらって別の素材買ったりしてないよな?


 今から一狩り行こうぜじゃないよな?


「そこは大丈夫。ほんのちょっとしか使ってないからね」 


 保存が難しく扱いにくい素材なので使い所がなく放置していたらしい。


 ちょっとしたことですぐに火が付くし、専用の容器以外だとすぐに魔力が抜けてダメになる。


 空気に触れるとすぐに気化して燃えるところはガソリンと一緒だな。


「それ、今持ってるのか?」


「あんな危なっかしいものを常日頃から持ち歩くわけないだろう」


「ですよねー」


「試すにしても後日じゃな。それでタカよ、このロケットについてあらためて詳しく説明してくれんかの」


「説明?なんで?」

 

「図面は部品の説明と製造方法が記されとったがの、じゃが実際にどう機能してどう作動するかは完全には理解出来んかったんじゃ」


 それでも作れるあたりドワーフはやっぱり物作りに関してはマジチートだな。


 ドワーフってかゴランドさんが、かもしれないが。


「そこは私もお願いしたいね。何で燃料が二種類必要なのかとか色々疑問に思ってたのさ」


「ふむ…まぁいいか」


 ネルの横で再びでっかい板切れと木炭で図解説明だ。


 〇を書き、そこに△を先端がささるように書き込んで二つの図を繋げてみせる。


「まず、ロケットエンジンについて説明しよう」


 エンジンとはロケットを空に運ぶための推進力を生み出す部分だ。


 図の△はネルの一番下についているこのノズル部分を表している。


 〇は燃料を燃やす燃焼室で、ここで燃料を燃やす事によりこの△から上へと向かう力が吐き出されるわけだ。


「では何故燃料が二種類あるかだ。ゴランドさんは毎日のように大量かつ高温の火を扱っているが、その火に吹き飛ばされた事はあるか?」


「ないのう」


「メルリーゼは火をおこして吹き飛ばされた事は?」


「火をつけるだけではないね。火を使って薬品を調合していたら熱を上げすぎて薬品が爆発して吹っ飛んだ事はあるけど」


「そうだ、火をただ燃やすだけでは上へと進む力は得られない。何らかの別の力を与えないとな」


 〇の上に上下二つの長方形を書き加え、それぞれを〇に繋げる線を書き入れる。


「この四角はそれぞれ別の燃料が入っている」


 上の四角に(ガソリン)と書き入れ、下の四角に液体酸素と書き入れる。


 ガソリンは燃料、液体酸素は酸化剤。


 この二つを燃焼させる事により発生するガスの圧力がノズルを通して下へと噴射され推進力へと変換されるわけだ。


 なので燃料と酸化剤をまとめて推進剤と呼んだりする。


「なるほどの。火に燃えている炭以外に火薬をぶち込めば爆発する、みたいな感じじゃな」


「そうだ。そっちは個体燃料ロケットだな」


「火を燃やすための力と火がつく事により起こる力か。なるほどね。それならゴランド氏が言った火薬の爆発力で打ち上げる個体燃料ロケットの方が簡単に作れるんじゃないか?」


「メルリーゼの言う通り個体燃料ロケットなら液体燃料ロケットより簡単に作れるだろうけど、こっちも同様の問題がある。燃料だ」


 こっちの世界にも火薬は存在するが、正直あまり普及していない。


 火薬を作るくらいなら魔法の方が簡単で安全で金がかからないからな。


「火薬を沢山作るくらいなら出来そうじゃが?」


「火薬だと力不足なんだよ。どれだけ沢山集めてもおそらく宇宙にたどり着けない」


 現代個体燃料ロケットの燃料は特殊なアンモニアとアルミニウムをゴムに混ぜて固体化したものらしいが、作り方なんてさっぱりだ。

 

「なあ、実は神託の話を聞いた時からずっと気になってたんだけどさ、魔力そのものを直接燃料にしたらダメなのかい?」


 核心をついてきたなメルリーゼ。


 実の所俺もそれは考えた。


 考えたがどうにも難しい気がするんだよなぁ。


「魔力で何とかなるなら最初からロケットなんて神託してこないと思うんだよな」


「それは……確かにそうだね」


「しかしそうなるとラーヴァサーペントの火袋とやらも無理なんじゃないかの?」


「無理なら無理でまた何か手を考えればいいさ」


 ただ俺は多分問題ないと思うけどね。


 おそらく空気中なら魔力由来でも問題なく作用すると思う。


 問題が出てくるのはおそらく空気が薄くなってからだ。


 魔力がこの星に存在するオリジナルのエネルギーだとしたら、それが宇宙へ出た場合きちんと作用するのか。


 星から何らかの影響を受けているならどこまでがその有効範囲なのか。


 俺の中では結論は出ているけど、実験してみない事には断言出来ないな。


「じゃあひとまず酸化剤?ってやつを作ってみるかい?」


「いや、そっちもいくつかの実験が必要だから万が一を考えて街の外でやろう」


「そんな危険なものなんかの?」


「ラーヴァサーペントの火袋ほどじゃないよ。ただめちゃくちゃ冷やさないとだめだからそのための魔法が大規模になるかもしれなくてさ」


「あ〜。それだとご近所さんを寒さで凍えさせちゃうかもねぇ」


「そらだめじゃな」



 


― ミュリス&アルジェside ―



 アルジェさんと一緒にまずは宿屋さんに向かう事にします。


 行く途中にあるイカ焼き屋さんに立ち寄り、アルジェさんは一匹まるごと、私は足を一本買いました。


「おいしー」


「おいしいですね」


 久しぶりのお友達との買い食いは楽しいな。


 あ、でもお友達と言ってしまっていいのかな?


 アルジェさんは神獣様だしそこまで馴れ馴れしくしたらさすがに不敬になっちゃうかな。


「ん」


 アルジェさんが自分のイカ焼きをこちらに差し出してきました。


 どうしました?


「この耳の部分特においしい」


 私にもわけてくれるんですか?


「昨日のシチューすっごく美味しかったからお礼。それにミュリスは友達だから、特別」


「アルジェさん…!ありがとうございます。いただきますね!」


 思わず感激しちゃいました。


 アルジェさんも私の事をお友達と思ってくれていただなんて。


「アルジェ」


 え?


「アルジェはアルジェ。さん要らない」


 あ、そういう事ですか。さんだと他人行儀なんですね。


 うーん、それならあだ名で呼び合うとかどうでしょう?


「あだ名?メルとかモニモニとか?」


 モニモニ?えーと多分そんな感じです。


 私はアルちゃんって呼びたいですけどいいですか?


「よき。ミュリ」


 はい!ありがとうございますアルちゃん!


「ですますもいらない」


 うん、わかったよアルちゃん。


 ああ、タカさんと出会えて本当によかったなぁ。


 私もおじいちゃんも助けもらって、メルリーゼさんに魔法も教えてもらって、新しいお友達まで出来るなんて!


 タカさんには何度お礼を言っても足りないのだけど、本人に大したことじゃないから何度も言わなくてもいいよと謙遜されちゃったし。


 だから今日みたいにお手伝い出来る時は頑張らないと!


 ふんす!と気合いをいれてまずは宿屋さんへ。


 月馬亭、月馬亭……あった。ここだ。


 アルちゃんが宿屋に入る前にクンクンと匂いをかぎだしました。


「多分大丈夫」


 そのまま宿屋の中に入って行きます。


 私も後ろについて入ったら、中の食堂では朝食には遅い時間にも関わらずまだかなりのお客さんがいました。


 女将さんと思われる女性が元気よく配膳しています。


「ほいよいらっしゃい!飯かい?泊まりかい?」


「飯!」


 え?アルちゃん朝食食べたしさっきイカ焼き食べたでしょ?


「良い匂いだったからつい」


 すいません。私達はタカさんに頼まれてこれを。


 手紙と食材が入ったバックをそのまま手渡します。


「何々……ふーん、なるほど、了解したよ。あんたら急ぎかい?」


 いえ、そこまで急いでいるわけでは。


「じゃあそこに座ってちょっとだけ待っててちょうだいな」


 はい。アルちゃん座ろ。


「うい」


 ポケットから取り出した干し肉をカジカジしだしたアルちゃんを眺めながらぼんやりしていると、すぐに女将さんが戻ってきました。


「こっちの袋はタカに渡してちょうだい。こっちはあんた達へのお手伝い賃さ。大したもんじゃないけどオヤツに食べな」


 美味しそうなジャムサンドをいただいてしまいました。


 ありがとうございます。


「こっちこそ助かったよ。タカの奴によろしくね」


 はい。それでは。


「バイバーイ」


 タカさんがお気に入りだと言うのが凄く良く分かる宿屋さんでした。


「美味しそう」


 そうだね、お使いが終わったら食べよっか。


「ういうい」


 今度は冒険者ギルドへとやってきました。


「大丈夫、多分」


 時間帯的には皆さんもう依頼を受けて出発しているくらいなので中は人もまばらです。


 あ、ミャーナさんがこちらに気づいて手を振ってくれました。


「こんにちはミュリス。話は聞いたわよ。良かったわね」


 ギルド長さんから細かい内容を聞いたミャーナさんが自分の事のように喜んでくれました。


 ミャーナさんがタカさんにお話してくれたおかげです。ありがとうございました!


「私はただちょっと話しただけ。あなたの頑張りの結果よ」


 でもミャーナさんも耳とか。


「その話はここではなしで」


 横で聞き耳を立てている同僚さんにコラっとばかりにシッシと手を振ったミャーナさん。


「それでミュリス、そっちの子は?」


 さっきから黙ってジッとミャーナさんを見ていたアルちゃんを私の前に立たせました。


 この子アルジェちゃんです。タカさんのお知り合いの娘さんです。


「アルジェはアルジェ」


「こんにちはアルジェちゃん。私はミャーナ。ミュリスの隣の家に住んでるの」


 その後何故かお互いをジッと見たまま黙り込んでしまいました。


 獣人の方的な何かでしょうか?


「タカのお気に入りの耳の一番はアルジェ」


 何故かアルちゃんはミャーナさんに対抗心を抱いたようです。


「そこは私は別に一番なりたいとは思ってないからゆずるけど」


 ミャーナさんは席を立つとカウンターのこちら側にやってきました。


「アルジェちゃん、髪を触らせてもらえないかな?」


「えー」


「お菓子あげる」


「いいよ」


 もらった蜂蜜菓子を即座に口に入れてご満悦なアルちゃんとは対照的に、ミャーナさんは難しい顔をされました。


「凄い。なんてサラサラで綺麗な髪…」


 お気づきになられましたか。


 分かります、分かりますよミャーナさん。


 アルちゃんは今朝我が家でタカさんと朝風呂に入ったのですが、今回もシャンプーとコンディショナーを使用していました。


 我が家にお風呂があると知ったタカさんは大喜びで、魔法でお湯をわかすから朝風呂に入らせてくれとお願いされ、いいですよーと言ったらアルちゃんも自分も入るといって二人で入浴したのです。


 お風呂上がりのアルちゃんを見た私とメルリーゼさんがぐぬぬとなったのは言うまでもありません。


 でも、家主だからと私も今晩お貸しいただけると言っていただきました。お風呂が待ち遠しいなぁ。


 ミャーナさんだけでなく他の女性職員の方や女性冒険者の方も何事かと集まってきました。


 みなさんはアルちゃんにお菓子や干し肉をあげる代わりに髪にさわられていき、その度に驚きや感嘆の声をあげられています。


 アルちゃんは沢山のお菓子と干し肉を手にご満悦です。


 皆さんがアルちゃんに夢中になってる間にミャーナさんへそっと手紙を手渡しました。


 これ、タカさんからです。


「あら、ありがと」


 ミャーナさんは素早く中に目を通すと手紙をポケットに仕舞いました。


「返事を書くからちょっと待ってね」


 カウンターに戻ったミャーナさんはササッと手紙を書くとこちらに差し出してきました。


 ありがとうござ…。

 

 ガッシ!


 あの、ミャーナさん?何で手を掴むんですか?


「アルジェちゃんの髪の秘密、あなたは何か知ってるんでしょう?」


 あの、痛いですミャーナさん。


「そしてその余裕からしてあなたもあの子のような髪になるチャンスを得たんじゃないかしら」


 さすがギルド一番のやり手受付職員とされてるミャーナさん、鋭いです。鋭いですが手が痛いです。


「今晩お邪魔させていただくわね」


 分かりました。分かりましたから手を離してください。


 ミャーナさんから逃げ出した私はアルちゃんの手を引っ張ってギルドから逃げ出しました。


 怖かった……。




「あ、いる。ダメ」


「え?」


 教会についた私達は裏口へと回ったのでした。



 

  

 

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