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異世界ロケット作成中 33


 昨晩シチューをあれだけ食べたのに朝から食欲全開なアルジェの隣でサンドウィッチをつまみながら今日の予定を考えていた。


 勇者はほぼ間違いなくこの街を目指しているだろう。


 いつ来てもおかしくない状況なので顔の割れていないミュリスと同じく獣人状態なら顔が割れていないアルジェのコンビで俺の宿と冒険者ギルド、神殿にお使いを頼む。


「えー。アルジェはタカと一緒が良い」


「俺は勇者達に見つかると面倒なんだよ」


「アルジェがそいつ見つけるから大丈夫」


「あいつらが全員一緒に動いていない可能性だってある。アルジェは勇者の匂いは知らないだろ?」


「そうだけど」


「買い食い用にお小遣いやる」


「イカ焼き食べて良い?」


「お小遣いの範囲内なら好きなだけ食え」


「アルジェにおまかせ」


 チョロい。ちょっと心配になる。


 食い物に釣られて知らない人についていかないようにしろよ?


「それじゃすまんがミュリス」


 それぞれ宛の手紙と宿への土産兼口止め料の食材が入ったバックをミュリスに託す。


 宿屋はマーゴットさんに、冒険者ギルドはミャーナちゃんに、神殿は受付のシスターさんにリズ宛だと渡してもらうようお願いする。


 さらに念の為一人と一柱に勇者の外見や性格を説明。


 目立つ奴だからすぐに分かるだろう。


「勇者様がいずれかに先にいらっしゃった場合はどうしましょうか?」


 宿屋は回れ右して回避。


 冒険者ギルドはミャーナちゃんが奴らの対応をしていたら別の受付にギルド長宛にと言付けして。


 神殿は裏門に回って誰かに声をかけて。リズの兄から預かり物だと言えば大丈夫だから。


「わかりました!」


 がんばるぞいとばかりにこぶしをグッとするミュリスさん。


 何を食べようかなと今から思案顔なアルジェ。


「ま、アルジェの鼻があれば大丈夫だろ」


 同じ事を考えていたメルリーゼに軽くうなずく。


「危険はないんじゃろ?」


「ないよ。仮にも奴ら勇者とそのパーティーだ。万が一ミュリスが俺と今パーティーを組んでるとばれてもだからって強硬な手段に出るような事はしないってかそうされる理由がない」


 絡まれたら面倒なだけで勇者とは別に敵対はしていない。


 超絶面倒なだけで。


 うん、だから見つけても絶対関わらないようにな。


 目も合わせちゃ駄目ださぞ。


 特にアルジェ。干し肉やるから頼んだぞ。


「はーい」


 朝食を終えてすぐ一人と一柱は出発した。





「それじゃ早速新しい天体望遠鏡を作るとしようじゃないか!」


「何でそんなに張りきってんのお前」


「私は最初の組み立てには参加していなかったからね」


「作る事に関してはそこまで興味を持ってなかったろ?」


「まさかあそこまでの物だとは思いもしなかったからさ。さらに新型はあれ以上の性能だというじゃないか。異世界の技術はやはり気になるものさ」


「魔女殿の言う通りじゃな。お主の技術は魔法抜きでも破格の性能を持っとる。何故そうなるかと興味は尽きんわい」


 だよねーと意気投合する二人。


 メルリーゼは基本人付き合いが嫌いな引きこもり堕エルフだが、魔道具作りに関しては妥協をしない職人気質も持ち合わせているため、ゴランドさんのようなガチ職人とはけっこう仲良くなるんだよな。


「「さあ早く作るぞ!」」


「はいはい……」


 二人がかりの圧の強さに押されてしまったが、作る事自体は何の問題もない。


 まずは部品のチェックから始めていこう。


「それじゃ肝心のレンズから確認しないとな」


 今回一番重要なパーツだ。


 ギャロ工房のマークが焼き印された桐箱を開くと、大小様々なレンズが綺麗に並べられていた。


 その一つを手に取り、側面を見てみる。


「うん。良さそうだ」


 素材の種類が違う二つのレンズを凹凸にして重ね合わせ、一枚のレンズにするアクロマートレンズ。


 このレンズの特徴はそれぞれ屈折率と色の分散が違うガラスを使用する事により、色収差を相殺して焦点距離を合わせてブレていない対象像を見る事が出来る。


 より詳しく説明すると、色は種類によって屈折率が異なる。青にピントを合わせれば赤が、赤にピントを合わせれば青がブレるといった感じ。


 なのでこれを修正するために凸レンズで屈折した色を凹レンズでさらに屈折させる。


 異なった屈折率によって分散した色をもう一度屈折させる事により、内に絞って集結させて補正するってわけだ。


 それによってぼやけが大幅に緩和して綺麗な像を見ることが出来る。


「ふむ……」


「なるほどねぇ」


 分かったような分からないようなといった感じのゴランドさんに、理解出来たよとうなずくメルリーゼ。


「ま、実際に見た方が早いか」


 レンズを事前にゴランドさんにお願いしておいたレンズセル、レンズと望遠鏡本体を繋ぐカバーのことだが、そいつに取り付けていく。


 見ただけだとどれが使用可能かは分からないので、レンズ全てにセルを取り付けていく。


 今回は口径60㎜のレンズとより大きい口径70㎜の二種類をそれぞれ三枚づつ用意してもらった。


 天体望遠鏡の対物レンズは口径が大きいほど暗い天体の観測に有効だが、今回は初めてのアクロマートレンズ作製ということで入門者向けこの2サイズで作成。


 その代わり接眼レンズは数を用意。


 天体望遠鏡の倍率は実は対物レンズではなく接眼レンズの焦点距離で決まる。


 天体望遠鏡の筒部分は鏡筒と呼ばれ、対物レンズによる鏡筒内での焦点距離を接眼レンズの焦点距離で割った数が倍率となる。


 例えば鏡筒の焦点距離が1000㎜で接眼レンズが20㎜なら、倍率は50倍となるわけだ。


 問題は、今回作ってもらった対物レンズも接眼レンズも焦点距離がまったくわからない事だ。

  

 なので数を作ってその中で一番はっきり見える組み合わせを探っていく作業が必要だ。


 そもそもレンズの出来次第では焦点距離が正確に鏡筒内で収まるかも分からない。


 軸が中心からそれたり、長すぎたり、短すぎたりするかもしれない。


 ギャロさんの腕は間違いないけど、アクロマートレンズを見本も無しに初めて手作業で作るのだから一度で完成品が作れると思ってはいけない。


 この中の一組だけでも上手くいけば御の字じゃないかな。


 倍率も反射式望遠鏡より高い倍率になるといいけど。


 反射式望遠鏡は多分50倍くらい


「数が多いから間違えないようにレンズに番号を割りふらないとね」


「そうじゃな。白い塗料で直接書き入れておくかの」


 ゴランドさんから白い塗料を受け取ったメルリーゼがレンズセルにさくさく書き入れていく。 


 鏡筒も複数作成してあるのでこちらにも書き入れなきゃな。


「で、こいつが頼まれとった台座じゃな」


 グロット山に向かう前に三百六十度回転して脚の伸縮が可能な架台と三脚の作成をお願いしていたのだ。


 ネジ式なので作りは簡単なものだからさして時間もかからなかったらしい。


 試しに一セット組み立ててみる。


「うん、悪くない」

 

 元の世界で見慣れた望遠鏡だ。


 ただ、個人的に鏡筒は白色でレンズセルは黒色がよかったな。


 今回は木目調のままだが、そのうち塗装してやろう。



「とりあえず夜まで待つかい?」


「そうだな」


 日中でも調整は出来るが、日が高い内は空気中のチリやゴミで視界はよくない。


 それに外に出るのはたとえ庭先だろうとミュリスが帰ってくるまではやめといた方が良いと俺の第六感がささやいている。


 勇者がこっちに来るかはまだ分からないって話ではあるが、もう俺の中では来る事が決定している。


 あいつがこっちの存在に気づいたら絶対絡んでこようとするだろうし、そうなれば望遠鏡作製も何もかも滞る事になるだろう。


 今はとにかく何の邪魔も入らない環境で事を進めたい。


「ならば、タカに見て欲しい物があるんじゃ」


「空飛ぶ船か?」


「その通りじゃ」


 それに関しては俺も興味がないわけじゃない。


 果たして、俺が思い描いているような物なのかと。


 実はファンタジーらしく本当に金属製の船だったりしないかなとかも考えているんだけども。


 アイアンリザードを解体した時に入った鍛治工房の中じゃ大きな布が被せてあったので見ていなかったからな。


 意識的に視界から外していたってのもあるが。


「わかった、見てみよう」


「神託の船か。興味深いねぇ」


 ワクワクなメルリーゼと一緒に工房の大きな扉をくぐると、前回同様布が被せられた大きな物が工房の中央に鎮座していた。


「これが空飛ぶ船じゃ!!」


 バサリと布が取っ払われて、その全貌が明らかになる。


「なぁっ……?!」


「えぇ……?」


 俺とメルリーゼは対照的な一声を上げた。


「これが……船だって?」


「…………魔女殿の言いたい事も分かる」


 絞り出すようにそうつぶやいたゴランドさん。


 確かにこれは船にはまったく見えないからな。


 だが俺にとってはそんなやり取りなんかどうでも良かった。


 俺は、こいつを知っている。


「こいつは……『ネル』」


 俺は少しの高揚感と、しかしそれを塗りつぶすほど大きな絶望感が胸の内に広がっていくのを感じた。



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