異世界ロケット作成中 32
ギルマスにあれこれ報告した後、イイ笑顔の受付嬢達につまらないものですがと秘蔵のハチミツ菓子とメルリーゼ特製化粧水を進呈して、なんとか冒険者ギルドから脱出する事が出来た。
「けっこう時間くったなぁ……」
「もう夕方だよ……」
ここまで時間がかかるとは思ってなかったので昼飯を食べ損ねてしまった。
「腹減ったなぁ……」
「そうだねぇ……。何かつまんでいくかい?」
「アルジェをあずけたままだからな」
「ああ……そういやそうだった」
二人してお腹をグーグー鳴らしながらゴランド工房に戻ってきたら、とても美味しそうな匂いが漂ってきた。
「いい匂いだな」
「これはたまらないなぁ」
玄関の扉をノックしたらエプロン姿のミュリスが出迎えてくれた。
同時に中からあふれ出て来た暴力的とも言えるごちそうの香りが俺達を包み込んでくる。
「お二人ともお帰りなさい!」
「ああ、ただいま。良い匂いだな」
「空腹に突き刺さるねぇ」
二人して鼻をクンクンさせてしまう。
「シーサーペントのお肉を使ったシチューを作ってみたんです。美味しく出来たと思うので是非食べていって下さい!」
「ありがとう。ご馳走になるよ」
「ありがたくお誘いにのらせてもらうよ」
シチューが得意料理のミュリスの自信作とか期待しかないぞ。
買い食いせずに帰ってきて正解だったな。
「ミュリスのシチューは美味いからなぁ~」
「ほう、そうなのかい?」
「前にアイアンリザードのシチューをご馳走になった事があるんだが、あれも美味しかったな。二杯もお代わりしちまった」
「味にうるさいタカにそこまで言わせるとは。う~ん、期待してしまうねぇ」
「お二人の期待に答えられたら嬉しいです!」
そうとう自信ありそうやん。
この何日かでこの子の性格は大体わかったけど、結構謙遜するタイプだからここまで言うって事は相当な出来なんだろう。
「…………ケプ」
「おお、戻ったか二人とも」
ソファーで漫画みたいに腹を膨らませて寝転がっていたアルジェは、口を開くのもヤバイのか手をヒラヒラとこちらに振り、食後の一杯にお土産のハチミツ酒を飲んでいたゴランドさんはこちらに振り返ってコップをクイッと上げた。
「どんだけ食ったんだよお前……」
「腹がまん丸としているねぇ……」
「アルジェさんはシチューをとっても気に入ってくれて、鍋一杯分も食べちゃいました」
食いすぎだろ……。
ジト目で睨むとプイッと顔をそらしやがった。
「チビ子がああなったのもまあ分からんでもないわ。今日のミュリスのシチューの出来は今まででも三本の指に入る美味さじゃからの。ほれ、腹を出しっぱなしはみっともないからタオルでもかぶっとけ」
神獣と聞いてアルジェにビビってたゴランドさんだが、俺達がいない間に親交を深めたらしい。扱いが近所の子供レベルになってるな。
「そりゃ期待が高まるねぇ。タカ、白の良いヤツを出してくれないか」
「はいよ。俺にも一杯くれ」
メルリーゼから預かっていたワインをアイテムボックスから取り出し、同時に取り出したワイングラスに注いでお疲れ様でしたと軽く合わせる。
「シーサーペントキングのシチューです。熱いから気をつけて下さいね」
それを見計らってシチューを配膳してくれたミュリスにお礼を言って、早速一口。
「「美味ーい!!」」
ヤバイ俺の中の味KINGが全身からビーム出した。
ホワイトシチューなのにビーフシチューのようなコクがありつつも後に残らないからホワイトシチューのまろやかさを壊さない。
そしてなんと言ってもシーサーペントキングの肉。
適度に柔らかく、しかし肉食ってる感はしっかりあり、何より噛むと旨味が奥から溢れてくる。
「これは……なるほど。アルジェがああなるのも分かるわ。マジ美味い」
「空腹だったってのを差し引いても滅茶苦茶美味いねぇ。いやーこれだけで店を開けるよ。大繁盛間違いなしさ」
いつもはわりとゆっくり食べるメルリーゼですらスプーンを動かす手が止まらないようだ。
「ありがとうございます!でもここまで美味しくなったのもシーサーペントキングのお肉のおかげですので」
「確かにシーサーペントキングの肉は特別なんだろうけど、その味を生かすも殺すも料理人次第だ。ミュリスの腕が良いんだよ」
「その通りだね。そこらの安食堂じゃあこの味は出せないさ」
「「とゆーわけでお代わり!」」
「はい!」
結局三杯もお代わりしてしまい、アルジェの事は言えないなとしばらく休憩する事となった。
「それで冒険者ギルドの方はどうだったんじゃ?」
俺達が腹を休めている間にゴランドさんはハチミツ酒から蒸留酒に切り替えたようだ。
「こっちからはシーサーペント関係の説明をしただけだ。呪術師の件は分かってるところは説明してもらったけどよ」
「今のところは実行犯の刑が決まったってだけだね。ゴランド氏、一杯分けてもらえないかな」
「ええじゃろ。タカ、お主も付き合え」
「そんじゃ一杯だけご相伴にあずかろうかな」
腹がだいぶ引っ込んできたから一杯くらいなら大丈夫だろう。
「ミュリス、頼むわい」
「はーい」
ミュリスに用意してもらった氷の入ったグラスに蒸留酒を注ぎ、四人で軽く乾杯。
うん、前に飲んだ酒とは違うけどこいつも強いな。今回のはウオッカっぽい。
「それで、本命はまだ別にいる、という事かの?」
「その可能性が高いかと」
「誰なのか見当はついとるんかの?」
「第三王女か勇者か、そのどちらもって可能性もあるねぇ」
「本当に勇者様と王女様がそんな恐ろしい事に関わっているんでしょうか?」
「取り巻きの暴走って可能性もあるけどな。鍛冶師は知らんが第一夫人とボンボン兄弟は死刑にしてるし」
第三王女が関与した確たる証拠が出てきたなら神殿側も良くて幽閉、悪ければ死刑を王家に求刑するはずだからな。
そして勇者が関わっていた証拠が出てきたなら、第三王女に命と引き換えに取引を持ちかけて暗殺を試みるだろう。
勇者はその戦闘力の高さ故暴走されると被害が甚大だ。
大昔にゲス勇者が暴虐の限りを尽くして教会と複数の国が協力して暗殺したって記録が残っている。
王女と勇者の行方が漏れ聞こえてこないのもこの辺りが原因かもしれないな。
「第三王女についてはよく知らんがの。呪術師を雇うような考えなしじゃったんか?」
「どうだろうな……」
「勇者と会うまでは良くも悪くも普通の王女様だったはずだよ。恋は盲目って事なのかもねぇ」
「王女に関しては聖都側からの続報待ちという事じゃな」
「そうだな。それに現状こっちにとっての一番の問題は勇者どもがこっちに来るかどうかって事なんだよ」
「実のところあのアホどもには私も会いたくないしねぇ」
メルリーゼと二人してため息をつく。
またウレザスを出てもいいんだけど、本当に来るかどうかも分からない以上下手に動くのもなぁ。
「とりあえず望遠鏡を完成させるのを先にした方がいいね。馬鹿勇者に関しては冒険者ギルドと神殿で情報収集をするくらいにしておこう。ただ直接行くとばったり会ってしまう可能性もあるからそこはミュリスにお願いしたいな。いいかい?」
「任せてください!」
「頼むよ。私も自宅だと噂を聞きつけて直接訪ねてきそうだからタカの宿にしばらく滞在するとしようかねぇ」
「あいつらがこの街に来て俺達を探そうとしたらあの宿も安全じゃないぞ。俺があそこを定宿にしてるってのは知られてるし」
「じゃあ別に宿を借りるかい?」
「期間がわからないとなるとちょっとな。いっその事神殿に頼むか?」
「自称妹さんは大喜びだろうけど私はちょっと遠慮したいねぇ……」
「それならばお主らここに泊らんか?部屋も空いとるしの。何よりその方が望遠鏡を早く完成させるにはええじゃろう」
「勇者の奴がここに来るかもしれないぞ?」
「それを言ったらどこにおっても一緒じゃろ」
「まあ……そうなんだが」
ゴランドさんの言う通り、望遠鏡のためならその方が良いか。
アイツに会ったら何かしら面倒な事態に陥って望遠鏡の作成が遅れてしまうのは間違いないし。
ここはお言葉に甘えるとしよう。
「分かった。お言葉に甘えるよ。ミュリス、すまないが明日宿屋に伝言を頼みたい」
「任せてください。それではお部屋の用意をしてきますね」
「なら私も行こう。お世話になるのだから手伝いくらいさせてくれ」
ミュリスとともに立ち上がったメルリーゼはチラリとこちらに視線を向けた後、そのままミュリスの後について部屋を出ていった。
「…………それで、聞いていいものなんかの?」
何を、とは口にはしなかったが、ゴランドさんが言いたい事は分かる。俺と馬鹿勇者との関係だろう。
「時期が来たら話す。だから少し待って欲しい」
「わかったわい」
「自分で言っといてなんだが……いいのか?」
あっさりうなずいたゴランドさんに思わず質問を返す。
「お主の事は信用しとる。ただミュリスに危険が及ぶような事はないじゃろうな?」
「ないと思う。そもそもそんな血生臭い関係でもないからな。心配なら外に出る時にはアルジェを護衛代わりについていかせりゃ大丈夫だろ」
「チビ子を?」
大丈夫なのか?という表情のゴランドさんに苦笑で返す。
「子どもでも神獣だ。勇者相手でも遅れはとらないだろうよ。それにあいつは鼻がきくから勇者パーティーが近づいてきたら離れるように教えておけば回避出来るだろうしな」
「勇者の匂いを知っとるんかの?」
「いや、アルジェと勇者は会った事はないけど勇者パーティーの一人は知ってるから」
「なるほどの」
当の本狼はいつの間にかソファの上で寝落ちしていた。
腹もだいぶ引っ込んだな。
「お待たせしました。寝室の用意が出来ましたよ」
「アルジェは私と一緒の部屋で寝かせる事にしたから。タカ、運んでやってくれ」
「ほいよ」
アルジェを抱き上げるが起きる気配はない。
しかし狼状態だと俺よりずっと重いのに、人化後はさして力をいれなくてもヒョイっと持ち上げられるくらい軽い。
残りの質量どこにいったんだと改めて人化魔法の理不尽具合を実感する。
「こっちの小さいベッドに寝かせてあげて下さい」
一番突き当たりになる部屋の中には普通サイズのベッドと子ども用のやや小さなベッドが並んでいた。
「私が子どもの頃に使っていた物です。アルジェさんならちょうどいいかなって」
「そうみたいだな。助かるよ」
最後まで目を覚まさなかったアルジェに毛布をかけてやる。
「さて、ちょっと早いが私も休むとしよう。なんだかんだと今朝も早かったからねぇ」
「おう、おやすみ」
寝る時は裸族派のメルリーゼがポイポイ服を脱ぎ出したのを背中に、俺も用意してもらった寝室でさっさと寝る事にした。
「おやすみなさーい」
ミュリスに挨拶を返しながら照明の魔道具を消し、真っ暗になった天井を眺めながら明日以降にどうすべきかを考えていたが、いつの間にか寝落ちしていた。




