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異世界ロケット作成中 30



「ようやく帰ってきおったか」


 ウレザスに帰ってきた俺達はひとまずゴランド工房へと向かうと、家の前で仁王立ちしていたゴランドさんに出迎えられた。


「おじいちゃん、ただいま!」


「お帰りミュリス。旅はどうじゃった?」


 ゴランドさん、可愛い孫が帰ってきたのが嬉しくて瞬殺で顔デレッデレですやん。


「凄く楽しかったよ。貴重な経験も沢山出来たし。おじいちゃんにお土産もあるの!」


「おおそうか、よかったのミュリス。積もる話は中で聞かせておくれ。ほれ、お主らも来るんじゃ!」


 俺達の生暖かい視線に気づいて、こちらにむかって無理矢理しかめっ面をするゴランドさんに思わず笑ってしまった。和む。

 

「それで、バルバロッサ(ギルマス)から今朝チョロっと聞いたがの。何やら色々あったようじゃな」


 どうもギルマス本人がわざわざ午前中にやってきて、俺達が今日の昼頃に帰ってくると伝えてくれたらしい。


 それからずっと家の前で仁王立ちしてたん?


「まあな。そのおかげで予定より大分遅くなったよ」


 シーサーペント試食会の後、報酬の手続きやらであれこれやっていたら日が暮れてしまったので、結局もう一泊する事になった。


 早朝にオーパスに見送られながらシーサーペントを満載した臨時馬車数台と一緒にストランツァーメを後にしたのだが、さすがに量が量だからオーパスが事前に連絡を入れていたらしい。


 ちなみに臨時馬車を出してくれたのはマカリスタ商会長。

 

 とてもじゃないがアイテムボックスに入りきらなかったから、馬車の人員ともどもありがたくお借りした。


 当初の予定より数日遅くなりはしたが、こっちの世界じゃスケジュール通り進むほうが珍しいので誤差の範囲内なんだけど、ゴランドさんのリアクション的に結構心配していたようだ。


 まあたった一人の家族だからな。送り出す時はわりとあっさりしていたが内心ではやはり不安だったんだろう。


 ちなみに臨時馬車には先に冒険者ギルドへ行って荷卸しするようお願いしてある。


 ナマモノだから早めじゃないとね。


 ストランツァーメでの騒動の説明にゴランドさんはどうりで遅くなるわけじゃいと呆れると、ちょっと考え込んでからアルジェの方を見た。


「それで、そっちの獣人の嬢ちゃんはどうしたんじゃ?」


 部屋の中を興味深そうにキョロキョロ見回しているアルジェをゴランドさんに紹介する。


「こいつはアルジェ。昔俺が世話した天狼の子供でな、色々あってついてきた」


「………すまん、聞き間違えたかの。今、お主天狼と言わんかったか?」


「言ったぞ」


「タカ、今回の依頼は神獣の一柱である天狼の抜け毛の採取じゃなかったんか?」


「そうだぞ」


「何で抜け毛じゃなくて本体を連れて来とるんじゃ?!」


「抜け毛を採取したら本体も一緒に行くって言い出したんだよ」


「そんなわけあるか!いやそもそも神獣が人に懐くなぞ考えられん!タカ、お主ワシをからかっとるのか?!」


 腰を浮かして激昂するゴランドさん。


 気持ちは理解出来るけど、現実を見てもらってクールダウンしてもらうしかないか。


「アルジェ、見せてやれ」


「らじゃー」


 ピカッと光った後に人化を解除したアルジェがお座りしていた。


 ゴランドさん家のリビングは結構広いけど、神獣バージョンのアルジェだとやはりちょっと狭く感じるな。


「アルジェ、狭いから人化して」


「ウォフ」


 獣人モードに戻ったアルジェはそのまま俺の背中に引っ付いてきた。


 ソファーとの隙間に無理矢理入ってくんなし。


「本物、じゃと……」


 浮かせた腰を力なくソファーに戻したゴランドさんは、両手を顔に当てて嘘じゃろ、とつぶやいた。


 そんなゴランドさんの様子にミュリスはオロオロしながらどう声をかければ良いか困っているようだ。


「一応しばらくは秘密にって事で。普通の獣人って事にしといてください」


「そんな軽々しく周囲に言えるワケなかろうが!」


「確かに神獣と出会う機会って普通の人は中々ないと思うがね、あいつらの中には長年人種に紛れてこっそり街に隠れ住んでる奴とかもいるから実はそこまで珍しいわけじゃないのさ。驚くに値しないよ」


「フォロー下手か」

 

 メルリーゼさんは少し黙っていような。


 不満そうな顔すんなし。


「あいつら、じゃと?お主ら、他にも神獣と出会った事があるのか?!」


「あー、まぁ、二体ほど」


 クワッと目を見開いてこちらに前のめりになったゴランドさんの勢いにちょっとビックリしてしまう。


「ど、どの神獣と出会ったんじゃ?」


「緋獅子と雪狐」


「そ、そうか……」


 何故かがっかりした顔をするゴランドさん。


「神獣に何か思い入れでもあるのか?」


「う、うむ、まあ神獣なんぞそうそう会えるものではないからの。それよりもじゃ、中々面白そうな素材を手に入れたようじゃの」


 チラリとミュリスを見ながらそう言って露骨に話題を変えたゴランドさんに、それ以上突っ込むことなくそのまま話題に乗る事にする。


 わけありっぽいから話してくれるまでは触れない方が良さげだな。


「ああ。シーサーペントの特異個体の素材だ。ゴランドさんでも見たことないだろう超レア素材だぞ」


 アイテムボックスをごそごそやってキングとクイーンの鱗を取り出した。


 鱗全部は流石に入りきらなかったので、一抱え分くらいだけアイテムボックスに収納しておいた。


 残りはとりあえず冒険者ギルドに預ける事になっている。ゴランドさんの工房にいきなり全部持ってくるわけにもいかないし、ましてや宿屋に保管するのは問題外。


 一応こういった大型素材用に規模の大きな冒険者ギルドにはかなりの収納量がある大型マジックバックが配備されていて、Bランク以上の冒険者なら使用料を払えば貸してもらえる。


 鱗もそうだけど馬車数台分のシーサーペントじゃああれですら入るか怪しかったけど。

 

 入るとしたら勇者の奴の無限アイテムボックスくらいだろう。


 ゴランドさんは机の上に並べた黒光りしている鱗を手に取ると、指でノックするようにコンコンと叩いた。


「なるほどの。こら中々硬そうじゃの。普通の鋼の武器ではろくに傷もつくまい。それに……なんじゃろな、なんぞ変わった属性がついとるの。耐性?いや違うの。まさか反属性かの?」


「驚いたね。()()だけでそこまで見抜いたのかい」


 他人の技術に滅多に驚かないメルリーゼが、目を丸くしてゴランドさんの指の動きを真似た。


 俺も驚いた。何せゴランドさんは本当に軽く叩いただけだ。魔力だって一切通していない。


 それで何で反属性だって見抜けるんだよ?


「長年の勘じゃな」


「さすが直接神託をいただいた筆頭鍛冶師だけの事はあるねぇ。ちなみに今持っているのはシーサーペントキングの鱗でね、雷属性の反属性を持ってるのさ」


「雷の反属性とは……。通りで今まで触った事のない感覚だと思ったわい」


「ちなみにこっちの鱗はシーサーペントクイーンのものでね、氷属性持ちさ」


「ふむ……こっちも同じくらい硬そうじゃな。削って素材として混ぜれば氷属性の武器が出来るじゃろう。ミスリルなら魔剣レベルもいけそうじゃ」


 さらりと言ったけど、魔剣なんてそうそう作れるものじゃないぞ。


 ゴランドさんまじパねぇっす。


「あ、あとこれがあったんだった」


 アイテムボックスから天狼(アルジェ達)の抜け毛を取り出してゴランドさんに渡す。


「天狼の抜け毛か。この街でもここ何年か定期的に入荷できとるのを不思議に思っとったが……」


 まさかお主の仕業じゃったとはと感心半分呆れ半分で天狼の抜け毛が入った袋を受け取った。仕業て。


「これもやはり素材としては極上。この量なら風属性の魔剣や防具が作れそうじゃな」


「アルジェの毛が一番!」


 ゴランドさんの褒め言葉に反応するアルジェの頭を背中越しに撫でながら、今度はこっちから質問する。


「それで、鍛冶師組合の方はどうなったんだ?」


「うむ……」

 

 ちょっと苦い顔をしながらゴランドさんは顛末を話し始めた。


「お主らがこの街を離れてすぐに、聖都から高位の神官が派遣されてきたそうじゃ」


 その高位の神官さんの話はリズに聞いた話よりもう少しマイルドな内容になっていたがおおむね一致。


 呪術師を捕縛した後のヴェンテ商会と鍛冶師組合の話を聞く事が出来た。


 リズは神託を受けてすぐに俺のところに来てくれたのでその辺りの話を知らなかったから気になってたんだよな。


「ヴェンテ商会のフスターは呪いを解いてもらってだいぶ回復したらしい。とはいえ奴ももう年じゃからな、まだ体力が戻ってなくてベットからは出られんようじゃ」


 ゴランドさんはフスター商会長とは彼が若いころからの知り合いで、以前はよく一緒に飲みに行っていたらしい。


「商会を乗っ取っておったどこぞの男爵家の小僧は捕縛されて、ゴミクズ作っとったどこぞの鍛冶師の小倅と半殺しにされてまともに動けんらしい呪術師と一緒にそのまま神官殿に聖都にしょっぴかれて行ったわい」


「その男爵家はどんな処罰を受けたか聞いたか?」


「一家全員捕縛されて取り調べを受けとるようじゃな。聖都には犯罪者の嘘を見破る魔道具があったじゃろ。あれにかけられるらしいの」


「王家の反応は?」


 自国の貴族が呪術師と関係があったんだ。黙っているわけにはいかないだろう。


「さあの。今のところこっちにはなんの話も入ってきておらん。領主のとこには何か伝わっとるかもしれんがの」

 

「そうか」


「お、おじいちゃん、組合の人達とはどうなったの?」


 ミュリスの心配そうな表情に、ゴランドさんはニヤリと笑った。


「グルドの奴を先頭に組合の奴ら全員がノコノコ家の前までやって来てな、すまんかったと謝ってきおった。なんの話かわからんし近所迷惑じゃから止めろと怒鳴ってやったわい。それでも止めないもんだから、辛気くさくてかなわんから美味い酒を奢れば許してやるとバリーの店を貸し切って一日中宴会してきたんじゃ」


「じゃ、じゃあ、組合にも復帰出来たんだね!」


「うむ」


「筆頭鍛冶師にも戻れたの?」


「いんや、そっちは辞退した」


「何で?!」


「一度は降りた身じゃからの」


「おじいちゃんは何にも悪くなかったんだから、戻っても誰も悪く言わないよ……」


 驚きと悲しみが混じった表情のミュリスに、ゴランドさんは穏やかに笑いながら彼女の頭をなでた。


「今は神託に従い空飛ぶ船造りに集中したいからじゃ。筆頭鍛冶師じゃと組合経由の専用依頼を断れんからの。どこぞのお偉いさんや金持ちの依頼なんぞより神託の方が大事に決まっとる。世界を救うための仕事に肩書きなんぞ必要ないわい」


 ミュリスは呆気にとられた顔をした後、パァーっと笑顔を浮かべてゴランドさんに抱きついた。


「おじいちゃんはやっぱり世界一の鍛冶師で世界一のおじいちゃんだよ!」


「わしが世界一だとしたらそれはミュリス、お前みたいなジジイ想いの孫がいてくれるからじゃろうな。お前こそ世界一の孫じゃわい」


「おじいちゃーん!」


「ミュリスー!」


 ひっしと抱き合う祖父と孫。


「うむ、善きかな善きかな」


 和む光景だわ~。


 おじいちゃん子の魂異世界まで、ですなぁ。


「仲が良いねぇ…」


 メルリーゼはちょっと呆れ顔だ。


「タカもアルジェと一緒」


 そして背中から漏れてくる謎の対抗心。


 とりあえず干しシーサーペントの一夜干しでも食べてなさい。


「うおっほん!それで、例の望遠鏡なんじゃがな」


 俺達の視線が恥ずかしくて赤くなった顔が収まりきらないまま話を変えるゴランドさんだが、正直俺もそっちは気になっていた。


「ああ、レンズの方はどうなった?」


「お主らが出掛けてからギャロの奴がそれは張り切ってのう。かなりの数の試作品を持ってきよったわい。数は多いがどれも全力で作ったと目の下に隈を作りながら胸を張っとったぞ」


「そりゃ期待出来そうだ」


「早速作ろうと言いたいとこなんじゃがな。タカ、お主とメルリーゼ殿はバルバロッサからこっちの挨拶が終わったら報告に来させるよう強く頼まれとる」


 チッ、このまま望遠鏡作りに入るか宿に帰ってゆっくりしたかったのに。


 メルリーゼも同じ考えだったらしく、えぇ~と不満げな声をあげた。


「報告なんて明日でも良いじゃないか」


「そう言うのが分かっとるからワシに頼んだんじゃろうな。お主らあ奴とは長いようじゃの」


「俺が冒険者になる前からの仲だからな。しょーがない、行くぞメルリーゼ」


「タカだけで良くないか?」


「ご指名は二人ともだからな。アルジェはひとまずここで待っていてくれ」


「うい」


 干しサーペントの追加を渡して、ミュリスにも後をお願いする。


「任せてください」


「すまんな、帰ってきたばかりで疲れてるのに」


「お互い様ですよ。あ、でも行く前におじいちゃんへのお土産を出してもらっていいですか?」


「ほいよ」


 シエロ村の蜂蜜酒とシーサーペント各種のかたまり肉をミュリスに手渡す。


 蜂蜜酒は交換市の時に手に入れたらしい。


 ゴランドさんは意外にも甘いものもいける口らしく、蜂蜜酒も絶対喜びますとミュリスは嬉しそうだった。


 ちなみに俺もメルリーゼから一瓶わけてもらった。


 そういやアルジェは飲めるのかな?


「?」


 うーん、もしも酒癖の悪さも母親に似ていたとしたら……。


 不幸な未来しか見えなかったので本人?本狼?が飲みたがるまでは与えないでおこう。


「よし、面倒はさっさと片づけるぞ」


「はいはい」


 不承不承という感じのメルリーゼを引っ張って冒険者ギルドへと向かった。


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