表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/42

異世界ロケット作成中 3


 冒険者ギルドでの手続きを終えてミュリスの実家であるゴランド工房へとやってきた。


 この街、ウレザスはそれなりに大きい。


 この国はファーレン王国といい、この周辺で一番でかい国だ。


 ウレザスは国内で三番目の大きさで、海からの侵略を防ぐために作られた砦が元だったらしい。


 内部は主に北西が住宅街及び宿屋街、南西が商店街、南東が職人街、北東が領主の館のある貴人街になっている。


 我が定宿の月馬亭は商店街と宿屋街のちょうど狭間に位置している。


 宿屋街と冒険者ギルドがある商店街ばかり行き来していた俺は、南東のさらにはしっこにあるミュリスの家の辺りに来るのは初めてだった。


 この辺りは鍛治師や硝子細工師が多いようだ。


 ちなみにミャーナちゃん家は硝子細工師らしい。


「ただいまー」


「おじゃまします」


 ミュリスの家は街の外壁の際にあるかなり大きな家だった。


 自宅と工房が一体化しているからですよとミュリスは笑ったが、それにしても大きい。


「おじいちゃんは工房にいると思います」


 ミュリスについて家の奥に進んでいくと、他の扉より頑丈そうな扉があった。


 ここが工房の入り口らしい。


「おじいちゃん、ただいまー」


 ミュリスが声をかけながら扉を開けると、中からはカンカン金属を叩く音が聞こえてきた。


 この頑丈な扉は防音機能(サイレンス)付きらしい。


 扉に刻まれた魔方陣(エンチャント)がそれだろうな。


「うぉ、暑いな」


 熱のこもった工房では、年配のドワーフが何かの金属部品を一心不乱に叩いていた。


 彼がゴランドさんのようだ。


「今は集中していると思うので、ひとまず母屋で待っていましょう」


「分かった」


 さすがにこの暑い部屋の中では待ちたくない。


 リビングに案内された俺はミュリスから冷たいお茶をご馳走になる。


「冷蔵庫あるのか。すげぇな」


 この世界にも冷蔵庫は存在する。過去の勇者が開発して普及させたらしい。


 普及と言ってもかなりの高級品で、普通の家庭にはまずない代物だけどな。


「おじいちゃんが鍛治仕事の後の冷えたエールがたまらんって言って買ったものです。物凄く高かったのでお父さんとお母さんは大反対したみたいなんですけど、使い始めたらコロリと意見を変えたとおじいちゃんは笑ってました」


 大好きなおじいちゃんの話を楽しそうに口にするミュリス。


 その後もしばしおじいちゃんの武勇伝を聞くことになった。


 俺もおじいちゃん子なのでこういった話は嫌いじゃないのだ。


「あ、す、すみません!何か私おじいちゃんのことばっかり喋ってて」


「気にしてねーよ。むしろ中々面白かった」


「あ、うぅ~。私、おじいちゃんのことを話し出すと止まらない時があって、それをたまにお友達にも指摘されたりするんですけど中々直らなくって」


 赤くなった顔を両手で隠して恥ずかしがるミュリス。


 うむ、美少女の照れ顔は美味しいお茶菓子ですなぁ。


「それで、あの、あらためまして本当にありがとうございました!」


「もうお礼は何度も聞いたよ」


「あの、廃鉱の事もですけど、ミャーナさんとの事も」


「やっぱり何か忠告されてたんだな?」


「は、はい……。昨日ミャーナさんに冒険者登録してもらったんですけど、『焦ってはだめ。おじいちゃんを手伝いたい気持ちは分かるけど、それであなたが怪我をしたらもとも子もない』って言われました」


「その通りだな。そしてミャーナちゃんの危惧した事になりかけた、と」


「うぅ、その通りです」


「君がお祖父さんを大好きで大切に思っているのは会ってからの短い時間でもよく分かったけどよ、君同様にお祖父さんも君の事を大好きで、大切に思っているんじゃないか。そんなお祖父さんが自分のためとは言え大好きな孫が大怪我して帰ってきたら、きっと悲しむはずだ」


「は、はいぃ……」


「君がお祖父さんにしてあげられる事は自分を危険にさらしてまで必要な物を集める事じゃなくて、もっと別の方法がないか探す事だった。ミャーナちゃんにも何かそれらしい事を言われたんじゃないか?」


 受付嬢であるミャーナちゃんはきっちりとした仕事で評価が高い冒険者ギルドで一番信頼できる受付嬢だ。


 だから表だってミュリスをひいきするわけにもいかないし、ましてや職場で()()()()()()()()()()()()をハッキリ口にすることも出来ないしな。


「あ……そういえばミャーナさんはすぐには無理だけど何とかなるかもしれないから今度お話しようって。でも私は今すぐじゃないとって聞き流してて」


 やはりそうか。ミャーナちゃんは真面目な子だけどそれと同じくらい情に厚い子だ。


 だから今日俺がミュリスと一緒にいた事にも深くつっこまなかったんだろう。


「そうだ。君の周りにはまだ君を助けてくれる人がいるはずだ。その人達と一緒にどうすれば良いか考えるべきじゃねぇか?」


 多分この子はすでに鍛治師仲間の人達に頭を下げてお願いしてまわったに違いない。


 筆頭鍛治師と言えばこの街でもかなりの立場だから懇意にしていた相手は沢山いたはずだ。

 

 それでも皆に断られてしまったのだろう。


 今まで仲良くしてきた人達に拒絶されて、人間不信になってしまい、だから自分だけでどうにかしようと思い至ってこんな無謀な行動をしちまったんじゃねーかな。


 でもやはりちょっと気にかかる。


 いくらとち狂ったかのような行動をして、筆頭鍛治師を首になったとはいえたった一ヶ月弱で除名までされるもんか?


 それに周りが全部距離をおいてしまったのもおかしい。ドワーフの結束の固さは有名だからな。


「とりあえずミャーナちゃんは今日あたり来るだろうから、頭を下げて相談しな」


「う、うぅ~、わ、私、皆が私達を、見捨てて、誰も助けて、くれないのかなって、そう思って、うわぁ~~ん!」


 ミュリスは大きな声で泣き出してしまった。


 無理もない、こんな若い女の子一人でどうすれば良いかも分からずもがいていたのだから。

 

「どうしたんじゃミュリス!!!」


 不意に扉がバァン!と開いて、先ほどまで工房にこもっていたゴランドさんが駆け込んできた。


「なんじゃ?!何でそんなに泣いとるんじゃ?!」


「タ、タカさんがぁ~~」


 ミュリスは泣きじゃくりながら俺の名前を口にする。


 待てミュリスもっとちゃんと答えろそれだと俺が悪者みたいじゃないか。


「タカ?お主、ミュリスに何をしたぁ!!!」


 ゴランドさんはこちらをおっかない顔で睨むと、壁にたてかけてあったミュリスが使っていたハンマーを手に取ってこちらに振り下ろしてきた。


「ちょ、待て待て待て!違う、俺は何もしていない!俺じゃない!俺は無罪だ!」


「なら何でミュリスがこんなに大泣きしとるんじゃ?!」


 俺の反論にハンマーで返答してくるゴランドさん。


 一発一発がめちゃくちゃ重いぞ!


「いや、だから、泣くきっかけは、俺だけど、泣いた原因は、俺じゃ、ない!」


「やっぱりお主が泣かせたのかー!!!」


「だから違ぇっつーのー!」



 §



「で、こんな惨状なんですね」


「俺は悪くないです」


「うぅ、ごめんなさいぃ~」


「悪かったとは思っとる」


 ミュリスは泣きじゃくって、ゴランドさんはハンマーで大暴れして、必死に逃げ惑う俺。


 そんな中にやってきたミャーナちゃんはミュリスをさっと泣き止ませてゴランドさんの誤解を解いてくれた。

 

 ミャーナちゃんがこなかったらこの家が潰れていたかもしれん。


「はぁ、とにかく誤解が解けてよかったですけど、とりあえずゴランドさんはタカさんにきちんと謝罪して下さい」


「うぬぅ、しかしこやつは」


「タカさんは今日ミュリスの命を救ってくれたんですよ。ゴランドさん、ミュリスがあんな無謀な行動に出たのはあなたにも責任があるはずです。それを助けてくれたタカさんに、きちんと頭を下げて下さい」


 ミャーナちゃんはジトっとした目でゴランドさんを睨んだ。


 流石のゴランドさんも孫と同じような年齢の女性にお説教されて、身を縮ませている。


「そ、そうじゃな。タカとやら、ミュリスが危ないところを助けていただいて深く感謝しとる。また勘違いで襲いかかってしまったこと、深く反省しておる。申し訳なかった」


 ゴランドさんは俺へと深く頭を下げた。


「もう過ぎた事です。俺も気にしてません。それじゃもう時間も遅くなってきたのでそろそろ俺は帰ろうかなぁ~」


 席を立ってその場を離れようとすると、隣に座ってたミャーナちゃんが俺の腕をガッシリ掴んで引き留めてきた。


「何を言ってるんですか。まだ本題に入ってないのですから最後までお付き合いしてもらいますよ?」


 いい笑顔でそう言うミャーナちゃんは、絶対に離さないからなと腕を掴む力を強めてくる。


「いや、そもそも俺はそこまで深く関わろうとは……」


 ミャーナちゃんに『勘弁してくれ』と目で語りかけると、ミャーナちゃんは視線をチラッとミュリスの方へ向ける。


「…………」


 ミュリスが泣きそうな顔で俺とミャーナちゃんのやり取りを見ていた。


 これは、俺がこのまま強行的に帰ろうとしたら泣きだして俺が悪者ってパターンですかね?


 俺の思考を読んだかのようにミャーナちゃんはコクリとうなずいた。


 正直面倒事の匂いがプンプンする。


 せっかく助けたのにまた特攻しそうだったミュリスを説得して、あわよくば杭を作ってもらおうとしただけなんだが俺は。


 しかしミャーナちゃんはがんとして俺の腕を離さない。


 だけど何の報酬もなく面倒事に巻き込まれるのも納得いかない。


 俺は『耳としっぽをモフらせろ』とジェスチャーでミャーナちゃんに要求する。


『しっぽはダメ。耳なら一撫でさせてあげる』


『一撫でじゃモフる内に入らない。しっぽと耳を俺の気が済むまでモフモフさせろ』


『しっぽは絶対ダメ。耳なら二撫でさせてあげる』


『しっぽは諦めるから耳を気が済むまでモフモフさせろ』


『分かった。耳を三撫でさせてあげる』 


『耳を、気が済むまで、モフらせろ』


『分かった。耳を1分モフらせてあげる』

 

『耳を、10分、モフらせろ』


『分かった。耳を5分モフらせてあげる』


『交渉成立だな』  


 俺はミャーナちゃんとのジェスチャー会話を終了し、やれやれと肩をすくめた。


「はぁ、分かったよ。可愛い女の子のお誘いを断るのも野暮ってもんか。でも話を聞くだけだぞ」


 椅子に戻るとミュリスはパァーっと笑顔を浮かべる。


 くそぅ、美少女の涙と笑顔は卑怯だぞ。


「ありがとうございますタカさん。それじゃ、話を始めましょうか」


 泣き止んだミュリスの淹れてくれたお茶を飲みながら、ミャーナちゃんの話を聞く。


「まずミュリス。今回は偶然タカさんがいたから無傷で済んだけど、本当なら死んでもおかしくはなかったわ。二度と無謀な真似はしないでね」


「は、はい。本当にごめんなさい」


 そうな、ミャーナちゃんが()()俺にアイアンフロッグの捕獲依頼を勧めなかったらほぼ間違いなく怪我で済まない事態になってたろうな。


 ニヤニヤしながらミャーナちゃんを見ると、ちょっと頬を赤くしながら申し訳ないような顔をして軽く頭を下げられた。


 真面目なミャーナちゃん的には俺をだますような形になったと思っているのだろう。


「そしてゴランドさん。あなたもミュリスの事をちゃんと気にかけて下さい。普段のあなたなら絶対にミュリスの様子がおかしい事に気づいたはずです」


「……ダグマんとこの嬢ちゃんの言う通りじゃ。孫一人救えないで世界を救う手助けなぞ出来るハズがない。ワシが悪かった」


 ゴランドさんはミュリスに深く頭を下げた。


「本当にすまんかったミュリス。一番大事なお前を、一番守らなければならないお前を、ワシは失うとこじゃった」


「ううん、おじいちゃんは悪くないよ。私がもっと色々うまくやれれば、ミャーナさんの忠告をちゃんと聞いていれば、こんな事には……」


「違う、お前が抱え込む事ではなかったんじゃ。神託を受け、ワシの今まではこの時のためにあったのかと舞い上がり、ひたすら鍛冶ばかりしてそれ以外の全てが見えなくなったワシが一番悪かった」


「おじいちゃんは世界を救うためのお仕事をしているんだから孫の私がお手伝いする事は当然だもん。私こそ上手くお手伝い出来なくてごめんなさい」


「ミュリス……お前は本当に良い子に育ったのう。お前みたいな孫を持って、ワシは世界一幸せなじじいじゃわい」


「私もおじいちゃんの孫として生まれて世界一幸せな孫だよ!」


「ミュリス!」


「おじいちゃーん!」


 二人はヒシッと抱き合ってワンワン泣き出した。


 うんうん、善きかな善きかな。


「これにて一件落着」


「いえ、まだ本題には入れてないんですけど……」


「この様子じゃしばらく無理だろ。今の内にモフらせて」


「し、しょうがないですね」


 顔を赤くしながら椅子をこちらに寄せて耳を差し出してきたミャーナちゃんをモフりながら、俺は祖父と孫の感動のシーンをかぶりつきで見続けたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ