異世界ロケット作成中 29
リズを見送った俺達はキングの素材の確認をすべく再び倉庫を訪れていた。
「これがキングのウロコだ。身体のサイズに見合った大きさだな」
オーパスに案内された倉庫の奥の部屋の中には、俺の手のひらより大きなウロコが二つの山となって積まれていた。
あの巨体だからサイズもそうだが量も半端ないよな。
「こっちはクイーンだな」
量も大きさも一緒くらいでパッと見はどっちがどっちだかわかんねーな。
「属性判定とかやった?」
「いや、まだこれからだ。うちの職員よりメルリーゼにやらせた方が正確だと思ったからな」
魔物素材は採取した魔物の属性と同じなのがほとんどだが、中にはプラスで別の属性がついていたりまったく違う属性になっている物もある。
討伐難易度が高いほどその傾向が強く、クイーンとキングも複数属性持ちなのは間違いない。
そして、俺の見立てが確かなら。
「メルリーゼ、頼むわ」
「はいよ」
メルリーゼはカバンから布製の工具差しを取り出すと、中から歯医者が使う歯石取りのような先の尖った金属の棒と小さな木製のケースを取り出した。
「ほう、流石だな。どの属性魔石も質が良い」
木製ケースに入っていたのは極上の魔石で、全属性の魔石が綿によって傷つかないよう丁寧に梱包されている。オーパスの言う通りどの魔石も濁りのない最上級品だ。
「じゃあ一通りやってみようか」
金属の棒の尖っていない方には小さな台座があり、その台座には魔石を取り付ける事が出来るようになっている。
魔石に内包された属性魔力を対象に流した時の反応で属性判定を行うようになっている。
まずはキングからだ。
「火……反応なし。水……反応あり。土……反応なし。風……反応なし。光……反応なし。闇……反応あり。基本属性は水、特別属性は闇だね」
カチリカチリと魔石を換えながらテンポ良く属性を判定していく。簡単にやっているように見えるけどかなり繊細な魔力操作を必要とする作業だ。
俺だったらもっと時間がかかるし、冒険者ギルド職員のベテラン専門家でもここまでスムーズにはいかないだろう。
「見た目通りだな~」
「黒は闇っぽいですよね~」
「はいはい。それじゃ派生属性はどうかな」
俺とミュリスにヒラヒラと手を振りながらメルリーゼが魔石を複数セットした。派生属性は複数の属性を重ね合わせて発生する属性だからな。
「氷……反応なし。雷……おや、反属性だ」
「やっぱりか」
ライトニングを弾かれた時にそうじゃないかと思ったが。
属性に対する耐性は効きにくいってのがほとんどだが、完全に無効化出来る反属性となると滅多に存在しない。
これは貴重だぞ。
何せ、これを加工すれば絶縁体を大量生産出来る可能性があるからな。
「驚いたな。雷魔法の反属性素材となると雷鳥くらいじゃねえか?」
「そうだね。流石S級だよ」
雷鳥は日本の某山脈に生息する特別天然記念物の鳥ではもちろんなく、どちらかというとインディアンの神話に出てくる雷の精霊に近い。
S級上位の難易度のうえ滅多に人前に出てこないから幻扱いで幻獣種と呼ばれている。その雷鳥と同じ反属性持ちとなればオーパスが驚くのも無理はない。
メルリーゼは同様にクイーンも調べていき、キング同様基本属性は水、特別属性は闇だった。
「派生属性は魔道具を作る時に氷属性があるってのは分かってたけど、雷はどうかな……おや、クイーンは何も反応なしか」
クイーンは氷属性を持っている代わりに雷の反属性は持ち合わせていなかったらしい。
「しかし、クイーンもそうだったけどキングもあまり魔法攻撃を仕掛けてこなかったな」
つーかキングに至っては魔法攻撃を一度も放ってこなかったような。
「クイーンはおそらく統率スキルに魔力をほとんど振っていたからだと思うんだけどね。それに今回はいくら何でもシーサーペントの数が多すぎた。こっちに引っ張ってくるだけでも相当に消費したんじゃないかな。氷属性持ちで氷魔法を使えないなんて事はないハズだしね」
「キングは?」
「考えられる理由は二つだね。一つはラアヌの網から抜け出すために身体強化に魔力を相当量つぎ込んでいた。もう一つはタメが必要な魔法しかなくて、タカの初撃が早すぎて対応出来なかったから警戒してる内に出すタイミングを逃したとかかな」
「その両方って可能性もあるかもな」
「どんな魔法を使うのかちょっと見てみたかったねぇ」
「余裕がなかったからしょうがねーよ。インパルス・アクセラレーションでもほとんどダメージが入らなかった奴だぞ。ラアヌの網だってまさかあんなに早く破られるとは思わなかった。俺とミュリスだけじゃ荷が重い相手だったし早めに手を打たなきゃこっちがやられてたっての」
クイーンを倒した最上級魔法もオーパスが足止めしてメルリーゼの詠唱時間を稼いでいたからな。強い魔法ほど発動にはそれ相応の時間がかかる。
「キングの強さはクイーンを上回っていたのは間違いない。おそらくS級中位に認定されるハズだ。報告書にもそう記載する予定だしよ」
ラアヌの網を破って抜け出せた時点でパワーはリヴァイアサンを上回るものだと判断していたが、さらに反属性持ちとなればクイーンやリヴァイアサンより上位なのは当然だな。
「魔石の大きさもかなりのもんだったぜ」
オーパスがウロコの足元に置いてあった木箱を開けると、中にはバスケットボールより一回り大きな魔石が入っていた。
「こりゃ凄い」
「ドラゴン並みだねぇ」
「ほわ~~大きいですね~!」
クイーンの魔石もウロコ同様同じくらいの大きさだ。この二つだけでも数年は遊んで暮らせる金額になるだろうな。
「通常のシーサーペントの倍以上のサイズだ。おまけに質も最上級。さすがはS級だぜ」
「このサイズならかなり大量の魔力が込められるはずだね」
通常のシーサーペントの魔石ですら中級魔法ニ回分の魔力を込められるのだから、このサイズなら上級魔法を複数回は絶対だし、もしかしたら最上級魔法一回分くらい込められるかもしれない。
ちなみに魔力を込めた魔石は一度使用すると、もう一度込めようとしてもまるで穴でも空いたかのように魔力が漏れだしてしまうので、容量の多いものほど使いどころが難しい。
「お前ら本当に魔石とウロコだけでいいのか?肉とか内蔵は?」
「内蔵は別に要らないかな」
「解体している時に内蔵を見たけど普通のシーサーペントと変わらなさそうだったしねぇ」
「肉はどうかな、普通のやつと味とか違うのかね?」
「味見してねぇからわからねぇな」
「じゃあちょうどいいから試食してみるか」
いいよな?とオーパスに聞くと好きにしろと返された。
「とゆーわけでタカのお手軽クッキングの時間だ」
わーパチパチ~と棒読みで口に出しながら手を叩くメルリーゼに、真似をして一緒にパチパチ~と声に出すアルジェ。
オーパスはハイハイとばかりにメルリーゼからわけてもらったワインを黙って口にしている。
「今回用意した食材は普通のシーサーペント、シーサーペントキング、シーサーペントクイーンのバラ肉のかたまり各一キロずつ。片栗粉と小麦粉を五対四の割合で適量。醤油を肉一キロ毎に百ミリリットル、酒も百ミリリットル、すりおろしたショウガとニンニクは大さじ一と半分。ではアシスタントのミュリス君、今回の料理は何か分かるかな?」
「はい!唐揚げです!」
「正解だ。素晴らしいぞミュリス君」
ウレザスでは地球食も庶民にかなり浸透している。
落ち人だった初代ウレザス公が自分の作れる食事をレシピ本にして低額で公開し、さらに他の落ち人からも情報を得て追加でもう何冊か公開したおかげだ。
「ではまずはこの普通のシーサーペントとキングとクイーンのかたまり肉を食べやすいようにそれぞれ一口大くらいのサイズに切り分けてくれ」
「はい!」
手慣れた手つきで包丁を動かすミュリスに合計三キロもの肉のかたまりを任せて、三つの鍋に入った油を火にかけてから片栗粉と薄力粉を混ぜあわせる。さらに下味用の醤油、酒、ショウガ、ニンニクをボウルに混ぜ合わせておく。
「切れました」
「ほいよ」
俺は風魔法のウィンドボールを唱える。
本来は空気の弾を打ち込む技なんだが、内部を空洞にしてさらに上部に穴を開ける。
「ではまず普通のシーサーペントの肉をこの中に投入してくれ」
「は、はい」
ミュリスはおっかなびっくり最初の一つを中に入れると、パッと見空中に肉が浮いているように見えるその光景におお~!と驚きの声を上げてから残りの肉も全部投入した。
「次にそこのボウルに入ってる調味料も入れてくれ」
「はい」
調味料を上から満遍なくダラ~っとかける。
「それでは蓋をして、調味料が肉全体にからむように混ぜ合わせます」
ウィンドボールの内部でシーサーペントの肉がグニョングニョンかき混ぜられていく。
「「おお~~!」」
ミュリスとアルジェが驚きの声をあげた。
「アルジェ、触るのはダメだ。魔法がとける」
「はーい」
伸ばそうとした手を引っ込めたアルジェは肉がぐるぐるだ~と言いながらお腹を抱えて笑い出した。ツボに入ったらしい。
「あいかわらず変なとこで器用だよなこいつ」
「ウィンドボールを料理に使うのはタカくらいだよねぇ」
オーパスとメルリーゼは感心と呆れが半々の表情だ。
「これ、凄く便利です!一度にこんな沢山の食材の味付けが出来るなんて!」
普段から家事全般を担っているミュリスからは大好評。
「本来なら味が染み込むようこのまま少し寝かせるのだけど、今回は少し濃いめにしてこのまま他の二つも味付けに移ろう」
充分に調味料が絡んだので大きめのボウルに移し、クイーンとキングも同様に下味をつけていく。
「ではミュリス君、そちらの鍋の油の温度を確認してもらえるかな」
「はい………大丈夫そうです!」
菜箸を鍋に入れて、泡立ちで温度を確認する。こちら二つも大丈夫そうだな。
「それではさっそく揚げていこう。ミュリス君は二度揚げをしっているかな?」
「はい。まず最初にある程度の色合いまで揚げて、取り出してから少々時間を置いて、さらに最初より高温で揚げる工程ですよね」
「素晴らしい。パーフェクトな回答をありがとうミュリス君。では君にノーマルのシーサーペントの唐揚げをお願いしよう」
「はい!」
ボウルに入った肉を汁気を切ってから混ぜ合わせた粉の入ったボウルにいれて、粉をまぶしたら鍋に投入。ジュワ~っと良い音がするなぁ。
ミュリスも慣れた手つきでサクサク揚げていく。流石の手際だ。
「「完成!」」
ミュリスとやった~!とばかりにハイタッチする。
数が数なので少し時間はかかったが無事全部揚げ終えた。さっそく試食に入ろう。
「ん?」
「これは……」
「へぇ~」
「意外だな」
「美味い!」
それぞれのリアクションをしながら三つを食べ比べる。
「ノーマルのシーサーペントはやっぱりサッパリした味だな」
過去にも食べた事はあるけど、たんぱく質が豊富そうな鶏胸肉に近い感じ。だけど鶏胸肉ほどパサパサしていない。
「でもそれがこの濃いめの味に合っていますよね」
「だよな」
「クイーンはもうちょっと肉自体の味が濃いめだね。部位は同じはずなのに肉質もちょっと違うな~」
「クイーンの方が脂がのってる感じがするよな」
ジューシー感があり、鶏股肉をもう少しもちっとさせたような食感だ。
「しかしそれを上回るのがキングだな」
「肉の旨みが違うねぇ。酒が進むよ」
いつの間にかワインから冷えたエールにかわっていたコップを傾けながら、飲み屋のメニューに欲しいと笑い合う飲んべえ二人。
「切っている時に思いましたけど、普通のシーサーペントとクイーンとキングだと肉の色合いがかなり違いました。キングは特に赤身が強かったです」
「なるほどな。噛みしめた後の旨みが強いのは赤身のおかげって事か」
「タカ、おかわり!」
無言でかっこんでいたアルジェは、あっという間に平らげてお代わりを所望。
「はいはい。野菜もちゃんと食えよ」
唐揚げ三種盛りの付け合わせにキャベツっぽい葉野菜のみじん切りとトマトのくし型カットを一緒に渡してやる。
「お肉だけで良い」
「好き嫌い言う子は唐揚げなし」
「アルジェ、好き嫌いはない!」
下げようとした唐揚げの皿を両手で掴んで、ウルウルとした上目遣いでこちらに訴えかけてくるアルジェに思わず皆で笑ってしまったのだった。




