異世界ロケット作成中 27
「お、起きたかい」
「お疲れ様ですタカさん。お身体はもう大丈夫なんですか?」
食堂ではミュリスとメルリーゼが二人でお茶をしている所だった。
あの後無事シーサーペントクイーンの討伐が確認され、功労者の俺達には街一番の高級宿でゆっくり休んでくれとオーパスが気を利かせてくれたとリズが説明してくれた。
そのオーパスは一度見舞いに来た後、大量のシーサーペントとクイーンの解体指揮を取っている。
海産物は鮮度が命だからなぁ。
リズは俺の治療後の経過を見るためと自分の部屋を隣(ベランダは繋がっている)に指定して看病してくれていたらしい。
アルジェは容体が落ち着いたとはいえ目を覚まさない俺を神獣状態で顔をペロペロなめながら心配してくれていたらしいのだが、リズが俺のシャツに着替えてベッドに入ったのを見て自分も入りたくなって人化して潜り込んだようだ。
リズは相手が神獣だと知って、『タカ兄さんが寝ているのを見たら我慢出来ないですよねー』と笑ってごまかしていた。
ちなみに沖で倒したシーサーペントは俺の魔力をたどってアルジェとメルリーゼが回収してくれていた。
ウービは発動後は自動なので俺の意識がなくても魔力さえあれば途切れる事はない。メルリーゼならウービの微弱な魔力も魔眼で追えるってわけだ。
ただ、大量のシーサーペントの死骸には他の魔物が集まっていて、中には海竜などのA級以上の奴もいたため全部は回収出来なかったとの事。
「おう、お疲れ。もうなんともねーよ。リズの回復魔法のおかげだな」
「タカの怪我を見て大慌てだったからねぇ。ハイヒールとハイキュアを連発してたよ」
俺の腕に引っ付いているリズに視線を向けながらからかうようにニンマリと笑みを浮かべるメルリーゼに、リズは何を言ってるんだかとため息をついた。
「当たり前です。タカ兄さんが大怪我をしていたんですから。それにメルリーゼさんだって私が来るまではけっこう慌ててたじゃないですか」
「そ、そんな事はないぞ」
俺の背中に引っ付いていたアルジェがひょこっと顔を出した。
「メルリーゼも慌ててた」
「ぬぐ……」
「私も慌てちゃいました……。タカさん、私をかばってあんな大怪我を。本当にすみません」
落ち込むミュリスに大した事じゃねーよと首を振る。
「あんな大物相手に初心者のミュリスに手助け頼んだのは俺だ。危ない目に合わしたこっちが謝る事はあってもミュリスが謝るような事はないぞ」
すまなかったと頭を下げると、いえいえそんな私の方こそとお互いに頭を下げあって、その辺にしとくがいいとメルリーゼにあきれられた。
「それで、ですね、タカさん。聖女様との、ですね、その、非常に距離感が近いように思えるのですが、お二人は……」
「妹みたいなもんだ。聖女になる前に知り合ったって言ったろ。昔こいつがウレザスに来る時に面倒みてやってな、それからずっと兄さん呼びだ」
俺の腕にひっついたままのリズを見ながら聞きにくそうなミュリスにズバッと答えてやる。
大っぴらにしているわけじゃないけど、実際のとこ熱心な信者さんやご近所さんにはわりと知られてるから今さらミュリスに知られたところで問題ない。
「妹さん、ですか」
「そうだ。こいつと初めて会わせた時は仕事中に人と会う時は俺相手でもきちんと聖女として振る舞うよう言ってあったからあんな感じだったんだ。別にミュリスにだけ隠していたわけじゃないぞ」
相手が誰であろうと公私混同はよくない。
「私としては別に気にしないのですが」
「一応聖女様なんだから気にしてくれ」
「私はタカ兄さんと出会ってなかったら聖女どころか生きてさえいなかったので、私が聖女としてタカ兄さんに接するのならば私を聖女になるまで育ててくれたタカ兄さんを聖女を育てた聖人として接しなければならないのでは?特別な兄妹として周囲から認知されるならむしろそう接しないとダメですね。なら私の中の聖人列伝永久トップのタカ兄さんをウレザス神殿の聖人欄に追加すべく…」
あかん、リズの病み妹スイッチが完全に入っちまった。
「兄せーじん?」
「変な言葉作るなアルジェ。そしてもどってこいリズ」
「あ痛!」
強めにデコピンしてリズを妄想から引き戻す。
「うぅ、酷いですタカ兄さん」
両手でデコを押さえながら涙目のリズ。
「変な方向に突っ走るお前が悪い」
「でも愛も感じましたのでこれはこれでご褒美です」
「歪んでるよこの聖女」
「はいはい仲が良いのは分かったから。タカが寝ていた間の話をしていいかい?」
「頼むわ。ただまずは腹ごしらえが先で」
かなり腹が減っていたので、とりあえず朝食を注文させてもらう。昨日の朝に携帯食料を食ってから何も食べてなかったからな。
朝定食セットをたいらげながらメルリーゼに説明してもらう。
「まず最初に。タカ、お前が倒したのはシーサーペントクイーンじゃなかった」
「はあ?」
「あれはね、シーサーペントキングだったよ。オスだったのさ」
「キング?」
だから何かクイーンよりトゲトゲしてたしデカかったのか。
「キングの存在は今回初めて確認されたんだ。おめでとうタカ。君はこの世界で初めてキングを倒した冒険者として歴史に名を残す事になるぞ」
「興味ねぇよ。それより報酬と素材のが気になる」
「はいはい。報酬だけどね、S級二体同時にB級三桁討伐だから最低金貨一万枚にはなるらしいぞ」
「き、金貨、一万枚?!」
「???」
「さすがタカ兄さん」
ミュリスがムンクみたいな表情で固まり、貨幣価値をまだあまり理解してないアルジェはしっくりこないらしく首をかしげ、リズは当然ですって顔でうなずいた。
リズ、さすがに一万枚は兄さん的にも初めて聞く額ですよ。
「山分けしても一人頭三百枚か……」
「実際には一番貢献度が高いタカが四割、残りの六割の内四割を私とオーパス、残り二割を残りの参加者で山分けって感じかな。ミュリスはその中でも特に貢献度が高いからそれなりに色がつけられるだろうね」
アルジェは今回は俺の契約魔獣ってことでノーカウント。
「う~ん」
「不服かい?」
「あんまり目立ちたくないからなぁ。特に今のタイミングでは。お前とオーパスで倒した事にして報酬は七割をお前ら二人で山分け、三割をミュリスだけ色つけて残りで山分けくらいが良いんだが」
「それはさすがにオーパスが良い顔しないぞ」
「そのかわり素材はこっちに優先権をもらうって事でどうだ?」
「それでもどうかな……」
「キングとクイーンの魔石と鱗全部とかでは?」
「オーパス次第かねぇ?」
「残りのシーサーペントに関してはオーパスさんから解体と販売は引き受けるから半々でどうかと打診されました」
そーいやミュリスはオーパスとあれこれ話していたな。メルリーゼに押し付けられたからだけど。
それはともかくミュリスはマスターゴランドの工房で成人前から経理を担当していたらしいから、こういった交渉事は経験がありそうだ。
「ミュリスはどう思う?」
「解体はともかく販売に関しては部位によるんじゃないでしょうか。腐らない、もしくは腐りにくい部位はウレザスまで持ち込んだ方が高く買い取ってもらえるでしょうし、それにこれだけの数なら付き合いも考えていくらかは納入した方がいいと思います」
「つまり?」
「先ほどのタカさんのお話も加味して六対四あたりが妥当かな、と」
メルリーゼに視線を向けるとニンマリと笑いながらうなずいた。
アルジェは誰にもらったのか干し肉をかじっている。
リズは聖女スマイルを浮かべていた。
「よし、それでいくか」
「「「はーい」」」
「話しはまとまったみたいだな」
食堂の外から声がかかった。
さっきから誰かが中をうかがっている気配はしていたが……。
「お邪魔するぞ」
挨拶とともにフルプレートに近い騎士のような鎧を着た男が入ってきた。
「………ミックか」
「ライアンだとでも思ったか?」
「リズから違うとは聞いてたよ」
「その割には微妙な面向けてきやがったな」
「悪かったよ。察してくれ」
「ま、しゃーないよな」
ハッハッハと笑いながら差し出された手を握り返す。
「久しぶりだな、タカ。相変わらずみたいじゃねーの」
「そっちこそ、Aランクに上がったって聞いたぞ。上手くやってるみたいだな」
ミックは王都の門番だった奴らが結成した冒険者パーティー『鉄のライアン』のサブリーダーだ。
お堅いリーダーと違って柔軟な思考の持ち主で、変人揃いのパーティーの頭脳にして良心だ。
「リズの護衛をしてくれたみたいだな。礼を言わせてくれ」
「聖皇様から聖女様を護衛せよと直々のご指名さ、嫌とは言えないって」
ミックがリズに視線を向けると、リズは聖女スマイルのまま頭を軽く下げた。
どうやらリズはミックが食堂の中をうかがっていた事に気づいて聖女スマイルを発動したらしい。
「にしても『リズ』ねぇ。お前、またか……」
「偶然だ」
「こんな偶然あってたまるか。ライアンの奴が来なくて正解だったな」
「あいつが来てたら物凄く面倒だったろうな……」
「その時はこいつの目が覚める前だろうと馬車に乗って逃げ出していたさ」
やれやれとばかりに首を振るメルリーゼにミックは苦笑いを返した。
「嫌われちまってるなぁライアンの奴も」
「自業自得さ」
「違いない。そっちは相変わらずみたいだしな」
「ふん。そっちは子供が出来たみたいだね」
「よく分かったな?」
「首から下げてるお守り、安産祈願のじゃないか」
「よく見てるな」
「エマ、妊娠したのか」
「今六ヶ月目さ」
ミックの嫁さんのエマはミックの幼なじみで、王都でも評判の宿屋の看板娘だ。
俺もパーティーを組む前はそこで長いことお世話になった。
飯も美味いし部屋も清潔、おまけに広い風呂もある。
宿泊費もそこまで高額ではなく、個人的には王都で三本の指に入るだろうと思っている宿だ。
「じゃあお祝いにこいつをやるよ」
アイテムボックスから天狼の毛が入った袋を取り出し、そこから一つまみ分の抜け毛を布に包んでミックに手渡した。
「これは?」
「天狼の抜け毛」
「神獣じゃねーか!じゃあこれが有名な天狼の髪紐の素材だってのか?」
「その通りだ。今回俺らの本当の目的は天狼の抜け毛の採取でさ、シーサーペント討伐はその帰りにオーパスに強制的に指名依頼されただけなんだ」
「お前はまた……そんなところも相変わらずか。まあいい、こんな貴重な物を貰えたんだから感謝しないとな。ありがとうよタカ、エマも喜ぶよ」
「俺と会った事はエマとエマの親父さんとお袋さん以外には話さないでくれよ。面倒な事になりそうだからな」
「分かってるよ。今回の護衛も実は俺らには神託の内情は教えられてなかったんだ。ここに来てからオーパスさんとメルリーゼに会って初めてお前の存在を知ったくらいだ。俺が黙っとけばバレないさ」
「頼むわ」
ライアンには過去にとある理由で一方的に嫉妬されていて、やたらと絡まれてめちゃくちゃ面倒だった。
今でも俺に対してあまり良い感情を抱いていないはずだから、俺がウレザスにいると知ったらあちこちに吹聴するに違いない。
「ミック様、タカ兄さんとライアン様の間に一体何があったんですか?」
リズが聖女スマイルのままミックに質問する。
リズ、目が笑ってねぇよ。
ミックもリズが発するただならぬ気配に気づいたのか言葉を濁してこちらに投げてきた。
「あ~それはですねぇ~、えーとぉ~、その、あれだ、タ、タカに聞いて下さい」
「タカ兄さん?」
「大した事じゃないよ。でもあまり言いふらすような内容でもないかな」
「そうですか」
聖女スマイルのままうなずいたリズは、もう興味がないとばかりにスッと一歩後ろに下がった。
でも目を見れば分かる。この子絶対納得してない。
あーあ、この感じだとウレザスに戻った後はライアンに対してかなり塩対応になるだろうな。
「えーと、オーパスさんがタカさんの目が覚めたら顔を出すようおっしゃっていましたので一度解体作業場に行きませんか?」
微妙な空気を払うかのようなミュリスの提案にありがたく乗ることにする。
「そうだな。報酬の話も早めにした方がいいだろうし」
ついてくるかと聞いたらその場の全員がうなずいたので、そのままぞろぞろと外へむかう。
途中朝食セットだけでは足らなかったので一昨日も食べたイカ焼きを購入し、肩車しているアルジェにも買ってやる。
俺の頭の上にタレこぼすんじゃねーぞ。
そしてリズ、肩車を羨ましそうに見ないでくれ。




