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異世界ロケット作成中 26



「『終末の嵐』」


 メルリーゼが放った風の最上級魔法によりクイーンの周囲にいくつも現れた竜巻は、辺りの砂や海水を吸い上げながら徐々に包囲を狭めていき、ついにクイーンをも巻き込んで一つの巨大な竜巻となった。


「ギュアァァァー!」


 竜巻の中で切り刻まれたクイーンは断末魔を上げながら空高く打ち上げられ、そのまま地面に落下して動かなくなる。


「よし、タカの応援に行くぞ。オーパス、後は頼んだ!」


「ウォフ!」


「おう!そっちは頼んだぜ!」


 アルジェはすぐさま反転してタカの元へと急ぎ駆けていく。


 もう一体のクイーンはラアヌの網からその身を完全に抜け出そうとしてか物凄い勢いでもがいており、そこから離れた場所でミュリスが倒れているのを見つけたアルジェはすぐさまその横に降り立った。


「ミュリス、しっかりしたまえ」


「ふやぁ~……」


 メルリーゼは目を回してしまっているミュリスに気付け薬として回復ポーションを飲ませた。


 アルジェも心配そうにペロペロと顔を舐めている。


「うぅん……あ、メルリーゼさん。そちらは……」

 

「こっちのクイーンは倒したよ。どこか痛む所はないかい?」


「ちょっと目を回しただけですので大丈夫です。タカさんが身体強化の魔法をかけてくれたおかげです」


「タカはどうしたんだ?」


「えっと……私がクイーンにハンマーを打ち込んだ隙に土魔法で作ったアイテムをタカさんが口の中に投げ込んで、そこから……」


「ギュボアァァァー」


 ラアヌの網から抜け出そうともがいていたクイーン?が、唐突に口から大量の水を吐き出した。


「なるほど。あの中か」




 §




「あー、くそ。飲み込まれちまった」


 暗がりの中で愚痴をこぼす。


 足元はネチャネチャするし、何より臭いんだよクイーン?の口の中。


 そして一番最悪なのが。


「毒、だよなこりゃ」


 牙から垂れ落ちた毒が口の中に水溜まりを作っていた。


 しかもラアヌの網から抜け出そうとごそごそと動きやがるので注意しないとこの毒だらけの中を転がり倒す事になりかねない。


 こりゃ早めに脱出しないとなぁ。


 『ウービ(己の在処)』で繋げておいた土魔法入りの袋の中身に魔力を送り、魔鉄針に通す。

 

 この土魔法は『サンドグレネード』。


 土魔法製の手榴弾だ。


 魔鉄針は信管代わりで、ある一定まで魔力を通すと砂とともに圧縮された魔力が行き場をなくして爆発を引き起こすように作られている。


「食らえ」


 ドドドドドンッ! 


 胃の近くまで運ばれていたサンドグレネードが爆発し、衝撃がこちらまで響いてきた。


 飛ばされないようにとっさに剣を足元に刺す。


 食道を逆流して胃液と血と他色んなものが混ざった液体が飛んできた。


 が、次の瞬間クイーン?が痛みに耐えかねてかやたらめったら暴れだした。


 口を開かせようと起爆したのに、こちらの考えを読んでか頑なに口を開かずどたんばたんと暴れまくる。


 剣を掴んで耐えていたのだが、身体強化が切れたタイミングで上下が逆さまになり、剣から手を離してしまう。


「ガハッ!」


 上顎に叩きつけられたと同時に脇腹にするどい痛みが走る。


「ミスった……」


 奥歯が脇腹を貫通していた。


 毒牙のように長くはないが、サイズがサイズなだけに奥歯でも人間にとっては剣で刺されたようなものだ。


「ぐ、ぬぁっ!」


 内側に向かって曲がった形をしている奥歯をなんとか引き抜くと、大量の血がこぼれ落ちる。


「ひ、『ヒール(小治癒)』」


 治癒魔法をかけるが、わずかに出血が弱まった程度で回復しない。


「ど、毒か……」


 毒がまわって回復が遅い。


 アイテムボックスから解毒ポーションを取り出して飲むも、効果が薄い。


「やべ、毒、強すぎ……」


 麻痺って身体に力が入らなくなってきた。


 呼吸もし辛い。


 出血が多くて意識を保っていられない。


「く、そ……」


 俺はヌチャヌチャした口内に倒れた。


 あー、こりゃ本格的にヤバい。


 全然身体に力が入らん。


 つーか意識朦朧としてきた。


 そして唐突の浮遊感。


 またクイーン?の奴が暴れだしたらしい。


 口内を飛んだりヌチャヌチャ転がったりとまるでピンボールのように翻弄される。


 あー、あかん……。


 意識が途切れようとした瞬間。


 ドクン。


 ドクン、ドクン。


 ドクンドクンドクンドクンドクン。


 心臓がうるさいくらいの音を出しながら物凄いスピードで鼓動していく。


 身体の奥から魔力が湧きあふれ、全身に行き渡る。


「う~、くそ、やっと()()()()


 意識がハッキリとした俺はクイーン?の臭いベロから立ち上がった。


「毒のせいでスキルが発動するまでにタイムラグがあったな」


 さっきまで一割を切っていた魔力があっという間に回復していく。


 アルジェとの魔力譲渡には及ばないが、普段の俺からは考えられない魔力量まで増えた。


 これは俺のもう一つの固有スキル、『死への救済』の効果だ。


 死にかけてHPがレッドになると自動的に発動するスキルで、魔力だけでなく全能力が一定時間二倍になる。


 RPGのラスボスが使うようなかなり強力なスキルだが、発動条件がドMすぎてソロでは滅多に使うことがない。


 特に今回みたいな強敵相手だと能力が倍になろうとも勝てるかどうか分からないからな。


 いのちをだいじに、ですよ。


「『ミドルヒール』『アンチドーテ』」


 中級回復魔法でひとまず止血と解毒をする。


「ツッ〜!流石に中級魔法じゃS級の毒を完全には抑えきれないか」


 とりあえずこれ以上毒を受けないようさっさとこのダメージ床な口の中から出るか。


「『ユールナの泉』」

 

 クイーン?の喉に向かって上級水魔法を発動させると、俺の周辺から溢れだした大量の水が胃にむかって流れ込んでいく。


 この魔法は干ばつなどで水不足の時に重宝される魔法で、神界にあると言われる水神ユールナの神殿がある聖なる泉と同じ量の水を作り出せる。


 クイーン?がほかのシーサーペントより巨大と言っても泉の水を飲み干せるほどじゃない。


 最初こそサンドグレネード同様に口を閉じて我慢していたクイーン?だが、堪えきれなくなって勢いよく水を吐き出した。


「あぶぶぶぶ」


 俺も狙い通り水と一緒に外に放り出されたけど、勢いが強すぎてそのまま流されてしまう。


「はぁはぁ……ひどい目にあったな」


 少し距離は離れたが、まだ魔法の射程圏内だ。


 スキルと俺自身の体がもつ間にケリをつけてやる。


「クギャアァァ……」


 水を吐き出し終えたクイーン?はぐったりとして動かない。サンドグレネードとユールナの泉によってクイーン?もそれなりのダメージを負ったらしい。


 今がチャンスとばかりに畳み掛ける。


「『炎蛇の抱擁』」


 上級火魔法の火で出来たシーサーペントと同じくらいの大きさの蛇がクイーン?へと絡みつく。


 巨蛇VS巨蛇だ。B級映画みたいな絵面だなぁ。

 

 クイーン?も反撃しようと炎蛇に噛みつくが逆にダメージを受けている。火を相手に噛みついたところで火傷するだけだからな。


 この魔法は一撃の重さはないが、一度捕まると抜け出しにくく、継続してダメージを与える事に特化している。


 クイーン?もそれに気づいて海中に逃げようとするが、そうはさせるか。


「『アントライオンゴーレム』」


 上級土魔法で巨大なアリジゴクのサンドゴーレムを作り、その巨体に見合った深いすり鉢状の巣へと引きずり込ませる。


 クイーン?が抵抗して砂の中までは中々引きずり込めないが、炎蛇のダメージによって徐々に抵抗が弱まっていき、ついには力尽きて動かなくなった。


「……何とか、殺れたか」


 視界のすみにこっちに向かって走ってくるアルジェとメルリーゼを収めながら、俺はそのまま真後ろにぶっ倒れて気を失った。



 §



「………知らない天井だ」


 目を覚ましてすぐにネタに走ってしまった。


 久しぶりに死ぬかと思ったわ。


 S級のクイーン?相手によくまぁ無事だったなぁ。


 『死への救済』は能力は倍化するけど怪我までは治してくれない。


 ミドルヒールをかけたとはいえあの出血量と毒のせいで正直ヤバいかもとは思っていたけど何とかなったらしい。


 いや~良かった良かったと現実逃避をしてから、目の前の状況に向き合う。


「うにゃ……タカ兄さん……」


 何故かリズが一緒のベッドて寝ていた。


 しかも上は俺の替えのシャツ、下は下着って姿でひっついて。


 逆側では獣人状態のアルジェが毛布から耳だけだしていた。


 毛布の下では俺の右腕を両手両足で抱え込んでいる。


「ないごて?」


 ないごてこの状況?


 俺のつぶやきが聞こえたのかアルジェが目を覚ましたらしくもぞもぞと毛布から顔を出した。


「タカ、おはよう」


「ああ、おはよう」


「怪我、大丈夫?」


「大丈夫だ」


 ペタンと折れたケモ耳をモフモフと撫でてやると、良かった~と言って頬をペロペロなめられた。


「アルジェ、その格好の時は……まぁ、いいか」


 心配かけちまったみたいだし。


 安心したのか満足したのか顔をなめるのをやめると、そのまま俺の手のひらをつかんで自分の顔に押しつけると毛布の中に戻って二度寝を始めてしまった。今度は耳も隠して。


「うぅん……あ、タカ兄さん!」


 今度はリズか。


 俺の胸に乗っかって顔をズイッと寄せてきた。


「おはようリズ」


「おはようございます、タカ兄さん。怪我の具合はいかがですか?」


「ああ、痛みもないしすっかり良くなったよ。リズが治してくれたんだな、ありがと。助かったよ」


 左手で頭をポンポンすると、目を輝かせながら胸に頬をすり寄せてきた。


「妹として当然です!」


「そこは聖女としてって言ってええんやで」


「聖女である前に妹ですので」


「そうっすか」


 ぶれないなぁこの子も。


「にしても、何でリズがストランツァーメに?」


「はい、実はタカ兄さんが危ないから助けに行くよう運命の女神ロアンナ様より突然神託が下りまして、その瞬間から全速力でこちらに参った次第です」


「いやいや待て待て」


 呪術師はどうなったんだよ。

 

 貴族のボンボンは?


 アホの筆頭鍛冶師は?

  

 俺の焦り顔を見ても何も心配ないとばかりにうなずくリズ。


「大丈夫です。お越しくださった聖皇猊下と神殿長様が不正を企んだ貴族の次男と偽筆頭鍛冶師、それに加担した呪術師をまるごと捕縛されました」


「待て待て待て待て!」


 何がどうしてそうなったんだ?!


 聖皇様?!聖皇サマナンデ?!


「タカ兄さんが驚かれるのも無理はありませんが、お忍びで来られた聖皇猊下はそれはもう殺る気満々でした」


「お忍びなのかよ!」


「でなければ聖皇猊下御自ら呪術師の討伐になど来れないですよ。護衛の冒険者の方達も知らされてなかったようでとても驚かれていました。あ、従者の方々はご存じだったようですが」


「そりゃ驚くでしょうよ……」

 

 ライアン達にちょっと同情してしまうな。


「今頃聖都は大慌てなんじゃ……?」


「替え玉を置いてきたから問題ないと笑われておられました。凄くそっくりな方らしいですよ」


「影武者使ってまで来たかったのかよ……」


「聖皇猊下は久しぶりの呪術師、しかも手練れと思われる相手にどうしてもメイスをぶちこみたかったからと」


 血濡れ法衣(聖皇猊下)ェ……どんだけ呪術師血祭りにするの好きなんだよ。


「ロドルフ神殿長の反応は?」


「お顔を確認した瞬間は膝から崩れ落ちておられましたが、すぐに『来ちゃったものはしょうがないですね』と装備を整えておられました」


 振り回されるの、慣れてるんだろうなぁ……。


「装備って、ローブとか杖とか?」


 ロドルフ神殿長が戦闘装備を着てるのは見たことないな。


「いえ、祝福された黒色ミスリルの軽鎧とショートソードに銀の投げナイフでした」


 暗殺者っぽい……。


「若い頃のお二人は師弟でバディを組んでおられ呪術師や悪魔などの教会や神々に仇なす者共と戦っておられたそうです」


 やっぱりロドルフ神殿長もそっち側だったか。


「お二人は用意が出来たらすぐにヴェンテ商会へと向かわれ、私と冒険者の方々も同行しました。そのまま店舗の中に押し入って貴族の次男とその護衛を戦闘不能にして拷も、じゃなく尋問されて、呪術師の居場所を聞き出しました」


 言い間違えた言葉は聞かなかった事にしよう。


「商会内にはいなかったのか」


「はい。そもそも商会長を人質に乗っ取ったようなものですから内部にはおけなかったのでしょう。近くの空き家を借り上げて隠していたようです。結界を張って隠蔽までしていたのですが、そこに聖皇猊下がメイスで結界を破壊して突入しまして、高度な闇魔法と光魔法の応酬の後、猊下のメイスが呪術師をとらえて壁をぶち破り隣の家の中までぶっ飛ばして戦闘不能に追い込んで捕縛に成功しました」


「そのメイスって教会の聖武器かなんか?」


「いえ、祝福はされていましたけど物凄く頑丈なメイスってだけでした」


「物凄く頑丈なメイス……」


「猊下の若い頃からの相棒だそうです。久しぶりに神々の敵の血を吸わせられて良かったよと物凄く良い笑顔で仰られていました」

 

「俺の思ってた聖皇様と違う」


「私もあんな方だとは思ってもみませんでした。過去に何度かお会いした際には、公の場では厳かな雰囲気のまさに聖皇猊下って感じで、私の場ではおちゃめなおじいさんって感じだったのですが、あれは……」


 リズも何気に色々思うところはあったようだ。


 これ以上突っ込むと教会の知ってはいけない部分を知ってしまいそうだったので話題を変える。


「リズはいつ神託を受けたんだ?」


「捕縛を終えて教会に戻った後に上機嫌な猊下とちょっと疲れた神殿長様と三人でお茶をしている時です。急に神気が満ちて神託が下り、他のお二人も気づかれました。内容を話して今すぐ行きますとお伝えしたら、猊下から一人じゃ危ないから冒険者に護衛してもらいなさいと護衛の冒険者の方に同行していただいて、一番早い走竜でこちらに向かいました」


「え?ライアン達来てるの?」


 あんまりあのおっさんには会いたくないんだがなぁ。


「いえ、パーティーリーダーのライアン様は残られまして、サブリーダーの方が。私もタカ兄さんが会いたくなさそうだったのでお断りしようとしたのですけど、一人でもいいから連れていきなさいと猊下に仰られて断りきれず」


 ごめんなさいとしょんぼり謝るリズの頭を再びポンポンする。


「何言ってんだ。リズがすぐ来てくれたから今こうやって喋っていられるんだろ。謝ることなんてないぞ。むしろ謝らなきゃならないのは俺の方さ」


 気を遣わせてしまってごめんなと謝り、ありがとな~と頭を撫でると、リズはデュフフフとあれな声ではあるが笑ってくれた。


「フへへへ。久しぶりのベッドでナデナデ……ずっとこの時間が続けばいいのに」


「いや、そろそろ起きようや。腹減ったし飯食おうぜ」


「ご飯!」


 寝ていたはずのアルジェが毛布から飛び出してきた。


「起きたかアルジェ」


「お腹空いた!ご飯!」


「おう、腹減ったよな。ほら、リズも着替えて一緒に飯食いに行こう、ぜ……?」


 リズは能面のような表情でアルジェを凝視していた。


「タカ兄さん、その子、何ですか?」


 お前ら、同意して一緒にベッドに潜り込んでた訳じゃなかったのか。

 

 

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