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異世界ロケット作成中 23


 

 町外れの砂浜で、天狼姿のアルジェにまたがりながら上級雷魔法を放つ練習をする。


「『戦神の裁き!』」


 ごん太の雷が轟音をたてて砂浜に落ち、大量の砂を舞い上がらせながら中心部を黒く焦がしてクレーターが出来あがる。


「何とかやれるようになってきたな」


「ウォ~ン」


 そうだね~と相づちをうつアルジェを撫でながら誉めてやる。


「アルジェが魔力を上手いこと調整してくれてるおかげだよ」


「ウォン!」


 頑張った!と嬉しそうに吠えるので、ご褒美だと背中から降りて正面からモフモフしてやると、お返しとばかりに顔をペロペロ舐められた。


 練習を始めてから数時間が経過して、すでに陽は傾き赤く染まっていた。


 後一時間もしないうちに日が暮れるだろう。


「しかし、けっこう難しいもんだなぁ」


 腕輪を使用しての魔力譲渡。


 最初こそ失敗したものの二度目からは結構スムーズにいっていたので大丈夫かなと思ったのだけど……。



 § 



「タカ、とりあえず神獣状態のアルジェと魔力譲渡を練習したまえ」


 何故かミュリスを巻き込んでオーパスとシーサーペントの素材について取り分をあーだこーだと話し合っていたメルリーゼが、ふと思い付いたかのようにそう言った。


「そうだな、天狼姿だと跨がって移動しながら行動する分接触面も増えるし身体が安定しないから難易度が上がりそうだしよ」


「それもあるけどね、人化って魔法は本当に特殊なんだ。()()だけじゃなくて中身まで人になってるのさ」


「そりゃ、人に化けるで人化なんだから当たり前だろ?」


 メルリーゼは「はぁ~」と大げさにため息をついた。


「分かってない、分かってないぞ弟子よ!どうせお前の事だから獣人の獣化魔法の人版だろくらいに思ってるんだろ?」


 獣人のみが使える固有魔法の獣化。


 身体の一部を自身の獣種に変化させる魔法で、狼系なら顔を狼にして鋭い牙を生やしたり鳥系なら腕に羽を生やしたり。


 その中でも特に才能のある奴は獣そのものに変化出来たりする。


「違うのか?」


「全っ然違う。いいかい?獣化魔法は獣人が身体の一部や全体を獣っぽくがわだけ魔力によって変化させるものなんだ。鳥系の獣人が羽を生やした時に羽が抜け落ちても、羽は魔力に戻って消滅するじゃないか」


 それは見た事があったな。


 鷹の獣人が獣化して羽を使った攻撃スキルを発動した時に、抜け落ちた羽が魔力の粒子となって消えていった。

 

 大量の羽が粒子となって空中に消えていく光景は中々神秘的だったなぁ。


 当の本人は魔力がすっからかんになって地面に倒れて息も絶え絶えだったけど。


「でも人化は違う。人化は発動後に魔力を消費し続ける獣化と違ってそもそも魔力を消費しない」


「え?そうなん?」


「しないよー?」


 思わずアルジェに確認すると、人化する時もした後も魔力は使わないらしい。


「さらにだ、人化後の神獣から抜け落ちた髪の毛や切り取った爪は、人化を解除しても消えてなくならずにそのまま保存されるんだ」


 どうも昨晩寝る前にアルジェにお願いして髪の毛と爪をもらってあれこれ調べていたらしい。


 アルジェは最初俺と一緒の部屋で寝たがったのだけど、メルリーゼが取り出した彼女のとっておきのつまみである最高級干し肉(レッサードラゴンの肉を使い丁寧に熟成し燻されております)の前にあっさり懐柔された。


 その時に人化を解除しても爪も髪の毛も消えずに狼状態の爪や体毛にも変化もしなかったので、人化状態のまま固定されるとわかったようだ。


 魔力を消費する事なく自身の身体を変化させ、固定しつづける事が出来る。


「それ、もう魔法じゃなくね?」


「その通りだタカ。私は人化は魔法じゃないと思う。これは言わば存在の()()()()だ」


「書き換え?」


「そうさ。天狼のアルジェが獣人のアルジェへと変わる瞬間、世界の記録はアルジェが獣人であると書き換えられるんだ」


「世界っすか」


 なんかアカシックレコード的なでっかい話になってきたな。


「世界はアルジェを獣人であると記録したからアルジェが人化中の髪の毛や爪は獣人の物として保存されるのは当たり前。人化を解除して獣人から天狼に再度書き換えられても獣人だった時間は記録保存されているから髪の毛も爪も消滅しないのさ。あり得ない事だぞ」


 流石は神獣、理不尽過ぎて恐れ入ったよと両手をあげて降参ポーズ。


 当のアルジェはメルリーゼの話に反応することなく俺があげた干し肉をかじるのに忙しいご様子ですが。


「アルジェは人化について何か知ってる?」


「大人になったしょーこ」


「他には?」


「特になし」


 特にないかー。


「人化する時ってどうやってんの?」


「人になりたいって思うとなれて、元にもどりたいって思うと元にもどる」


 思うだけかー。


「何か詠唱だとかを頭の中で唱えたりとかは?」


「しない」


 しないかー。


「人化してから何か変わった?魔力増えたとか新しい魔法覚えたとか」


「フォークとスプーンがもてるようになった」


 持てるようになったなー。


「初めて人化した時ってどうやって覚えたんだ?」


「何か人化できそうって思ったらできた」


 できちゃったのかー。


「神獣は神々の御使い。我々の常識なぞ通用するはずがないぞ」


 昨晩散々質問したのに結局よく分からなかったらしいメルリーゼさんは呆れ顔で俺にそう言うと、アルジェに天狼になるように告げた。


「タカ、アルジェにまたがって魔力を譲渡してみたまえ」


「へいへい」


 とりあえず魔力をちょっとだけ両手にこめて先ほどのようにアルジェへと流し込む。


「ん?あれ、なんだ?」


 なぜか両手に込められた魔力がアルジェの中にある何かにさえぎられているかのように流れていかない。


「ふぬ!この、おらぁ!」


 それでも魔力を無理やり流し込んだら、チョロチョロっと少しずつ入り始めた。


「ぐぬぬぬぅ~~あかん、もうダメ……」


 堪えきれなくなり力が抜けて、両手に込めた魔力が霧散してしまった。


「アルジェ、さきほどのようにタカに魔力を流してみてくれ」


ウォフ(了解)~」


「ちょっとずつな」


「ウォン。…………ウォフ?ウォーン」


 あれー?入んなーいと、俺と同じように魔力を譲渡出来ないらしいアルジェが首をかしげた。

 

「やはりな。お互い魔力を譲渡しようとしても相手の中に壁のようなモノがあって入って行かないだろう?」


「ああ、その通りだ」


「ウォーフ」


「テイマーやサモナーが召喚相手に魔力を譲渡する場合、最初にぶつかるのがこれだ。私もウロロに魔力を譲渡しようとしたら同じように中々上手くいかなかった」


 メルリーゼのペットのミニチュアウロボロスのウロロは、見た目こそミニチュアだがウロボロスの名を冠しているだけあってかなり高位の魔獣だ。


 普段はペットとして常時家の中でのんびりトグロを巻いているけど、それなりに強い。


 テイムに成功しているのもメルリーゼを含め世界でも極わずからしい。


「人化と獣化の違いを説明したのもこのためさ。人化した状態だとアルジェはタカと()()()()が一緒だからその腕輪があれば譲渡は容易いし減損もしない。でも神獣状態だと人と大きく違うから人と同じように魔力を譲渡しようとしても上手くいかないのさ。ただ譲渡しにくいだけで減損はしないけどね」


 魔力構造ってのは、要は体内で生成された魔力を魔法などの形にして外に顕現させる一連の動作の事を指す。


 昔メルリーゼに教わった話によると、人族ならばエルフだろうがドワーフだろうが獣人だろうが共通して下腹部、元の世界では丹田と呼ばれていた辺りで魔力を生成し、手のひらや手に持った杖等から魔法を発っするのが基本らしい。


 逆に人族以外はけっこうランダムで、例えば鳥系でも妖精と魔物では異なるし、同じ種族でも飛ぶのが苦手な鳥と普通に飛ぶ鳥では違ったりするとの事。


「ウロロの時はどうやって出来るようになったんだ?」


「ウロロは口の上に特殊な器官があってね、そこに魔力を通しているラインの源を辿っていったら脳の下側あたりだってわかった。そこに新しく魔力のラインを繋ぐイメージでやったら上手くいったね」


「特殊な器官ね」


 おそらくピット器官ってやつだろう。


 蛇の一部の種類がもっている赤外線感知機能を持った器官だ。


「アルジェの場合だとどこなんだろうな」


「神獣は身体全体に魔力が漲っているからパッと見だとよくわからないね」


「アルジェ、分かるか?」


「ウォン!」


 分かんない!と元気の良い返事が反ってきた。


「ふむ。アルジェ、何か魔法を使ってみてくれないか?出来れば魔力消費が大きいものが良いな」


 メルリーゼは再びモノクルを外して目を細めた。


「ウォフ!」


 りょーかい!と返事をして空けっぱなしだった窓の前で魔力を溜め始めた。


 ずごごごごー!と室内に濃密な魔力が充満して肌がピリピリしてきた。


 取り分を話し合っていたミュリスとオーパスも何事かとこちらに驚きの視線を向ける。


「アルジェ、ストップ」


「ウォフ」


 若干残念そうに溜めていた魔力を霧散させる。


 うん、絶対俺の魔法(滅びの雷竜)よりヤバい魔法を繰り出そうとしたな。


「メルリーゼ、どこか分かったか?」


「あー、多分首の下辺りじゃないかな。魔力がそこだけちょっと濃いめだったから」


 魔力が多すぎて目がチカチカしたよと言いながらモノクルをかけ直した。


 ふむ、普段俺がモフモフしているとこか。


「よっしゃ、行くぞアルジェ」


「ウォン!」


 アルジェの肩辺りにおいた両手から放出した魔力をモフ毛を沿うように首の下へと流していく。


「お、マジだった」


 先ほどよりずっとスムーズに魔力が入っていく感覚があった。


 それでもまだ人化モードの五割くらいって感じかな。


「あー、どうやら上手いこといったみてえだがよ、さっきみたいなのは心臓に悪いからやめてくれや」


「また雷のドラゴンが出てくるのかなって身構えちゃいました…」


 メルリーゼに何が起こったか説明を受けた二人が安堵のタメ息をつく。


「いや、それにしてもアルジェの魔力は凄まじいな。魔力量だけならフィーティーよりもあるんじゃないか?」


「ウォ~フ」

 

 わかんなーいと言いながら今度は俺にむかって魔力譲渡をしようとするアルジェだが、上手くいかないようでクゥ~ンとしょげてしまった。


「人化したときに魔力をどこから作ってどう流しているかもう一度体感してみたまえ」


「ウォーフ」


 メルリーゼの助言に再び人化したアルジェが俺の手を握る。


「ん~~、お腹?」


 空いた手で自分のお腹をさすさすして首をひねり、ちょっとだけ俺に魔力を譲渡し、また首をひねる。


「タカ、ちょっとだけ魔力ちょうだい」

 

「ほいよ」


 今度はこちらから少しだけ魔力を譲渡すると、再びお腹をさすさすしてウンウンうなずいた。

 

「人化解除」


 神獣状態に戻ると、お座りからお手のコンボで俺の手のひらに自分の前足をおき、魔力を譲渡し始めた。


 そのまま肉球をぷにぷにしていると、ゆっくりと魔力が流れ込んできた。


「お、入ってきた」


「ウォン!」


 やったー!と尻尾をブンブン振って喜ぶアルジェの頭をよくやったと撫でてやり、感触を忘れない内に練習だとお互いの魔力を行きつ戻りつと繰り返す。


「どうやらあちらは上手くいったようだねぇ」


「コツを掴んだみてぇだな」


「アルジェさんの尻尾が凄い勢いで振られてますね」


「お、またがってからもスムーズに譲渡出来てるね」


「何かすげぇ勢いで魔力を回してないか?」


「私はまだ魔力をやっと感じ取れるくらいですけど、それでもタカさんとアルジェさんが短い間に凄い回数の魔力譲渡を繰り返しているのが分かります」


「そうだね、曲芸みたいなやり取りをしているなぁ。コツを掴んだとは言ってもあり得ない習得速度だよ」


「俺も現役時代に魔力譲渡を経験した事はあるが、なんなんだありゃ。まったく別の魔法に見えるぞ」


「腕輪で補助をしていると言ってもパスを繋いでいるとあそこまで早く出来るようになるものなんですか?」


「まさか、あいつらが特別なのさ。私だって真似出来ないよ。変態染みてるなぁ」


「お前には言われたくないぞー」


 本人の背中越しに変態呼ばわりする失礼エルフに抗議の声を上げておく。


「こと魔力に関しては変態はお前の方だろ賢者サマよ。俺は魔力は()()()()()


 モノクルを上げる真似をすると、どや顔を返された。


 皮肉のつもりだったんだけど通じなかったらしい。


 俺の発言を聞いてミュリスがおずおずと質問した。


「そういえばメルリーゼさんが先ほどモノクルを外されていた時に瞳の色が変わったように見えたんですけど、あれは……」


「私はね、魔眼持ちなのさ。タカが言ったように私は魔力が見えるのだよ」


 どうだ凄いだろうとどや顔のまま胸を張るメルリーゼ。


 あ、聞いても問題なかったんですねと気を遣い損なミュリスは苦笑いだ。


 メルリーゼが賢者と認められた要因の一つ、魔力を可視化出来る魔眼『メルレーンの眼』。


 魔法の神様とされる魔神メルレーンの加護を持つ者に与えられる特別な眼だ。


 メルリーゼの名前の由来もそこからきているらしい。

 

 普段はモノクルにエンチャントされた魔法によりその能力を制限しているのだが、モノクルを外して魔力を込めると瞳の色が変わり能力が最大限発揮される。


 ただ魔力が見えるだけでなく魔力をまとった対象のあれやこれやまで見えるようになるらしく、出会った当初はモノクルも持ってなかったから、見たくもないものまで見せられてもねぇと本人はその能力をあまり好んではいなかった。


 あの頃は自分の髪で片目を隠すキ◯ローヘアーだったなぁ。


 髪に魔力を通して魔眼を制限していたらしいが、完全には制限出来ないのと視界が遮られて不便なんだとこぼしていた。


 魔眼抑止のモノクルをゲットして以降は魔眼の能力をある程度自由に操作出来るようになったので、今ではどや顔出来るほどに自慢の能力となっている。


 でもいつまでどや顔してるし残念エルフ。


「そこまでスムーズに出来るようになったのなら実際に魔法を使用した練習に移行したまえ。オーパス、あいつらの練習を砂浜でやらせるから人避けをお願いするよ」


「わかった、Eランクまでの奴らで警備させよう。問題が起きないよう俺も一緒に行く」




 §



 アルジェにまたがって警備してくれている冒険者達の中心にいるオーパスのところに歩いていく。


「だいぶ様になったみてぇだな」


「ああ、バッチリだ」


「ウォン!」


「流石()()()()()だな、凄まじ魔力量だ」


「ああ、上級魔法を使うには俺の魔力量じゃとても無理だからな」


 アルジェは神獣だってばらすわけにはいかないので、俺がテイムしたA級のホワイトシルバーウルフだって事にしてある。


 FやEクラスの冒険者からすれば神獣もA級の魔物も変わらないからな。


 実際オーパスの近くにいた冒険者達のアルジェを見る目は、驚きと称賛と恐怖がない交ぜになった感じだし。


「これならシーサーペントクイーンも殺れそうだな」


 期待してるぜとばかりにアルジェの頭をなでるオーパスに、お前も働けよと返す。


「元Aランク、『ワイルドハント』のオーパスさんよ」


 オーパスは子供が泣きそうな凶悪な笑顔でニヤリと笑った。



 

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