異世界ロケット作成中 22
食堂で待たせていたアルジェとミュリスをギルドマスター室に呼び、あらためてアルジェとオーパスを引き合わせた。
ミュリスはギルドマスター室にお邪魔するのは初めてらしくちょっと緊張気味だ。
一方アルジェは室内の調度品(魔物の牙とかボトルシップとか)が珍しいのかキョロキョロと部屋内をながめていた。
「アルジェ、こいつはお前も知ってる骨のおっさんだよ」
「骨のおっさん?」
「ほら、王都のギルドの食堂でよくお前にステーキの骨をくれたおっさんいただろ?」
「骨のおっさん!」
久しぶりーと手を振るアルジェにオーパスは困惑顔だ。
「ほんとにあのチビ助なのか?」
「アルジェ、見せてやれ」
「ほい。『人化解除』」
とたん、美しい白銀の狼が目の前に現れる。
グロット山で見た時より毛づやがいいのは温泉での効果かな。
「納得したか?」
頭をなでながらオーパスに問うと、ひきつった笑顔でうなずいた。
「ああ……。初めて見た時はお前のコートのフードに収まってたチビ助が、ずいぶんでかくなったなぁ」
「ウォフ!」
「なんだって?」
「もう大人だからね、だってさ。何言ってんだか」
まだまだ子どもだろうと言いながらかかえこむように首の下をモフモフしてやると、気持ち良さそうにクゥーンと鳴いてブルブルと身体をふるわせた。
「ウォフ」
アルジェは再び白銀の獣人姿に戻り、どうだ!と言わんばかりのどや顔をオーパスにむけた。
「チビ助は天狼って事でいいんだよな?」
そんなアルジェに苦笑いなオーパスはアルジェの呼び方をチビ助から変える気はないらしい。アルジェも骨のおっさん呼びだから問題なし。
「そうだ」
「そうか。まさかこの目で神獣の人化を見られるとはな」
感慨深げにそう言うオーパスに、完全に同意とばかりにウンウンうなずくミュリス。
「ほんと、お前らが関わると突拍子のないもんを見る事になるよな」
昔からよ、と半分呆れの入った表情のオーパスにやや興奮気味のミュリスが再び同意する。
「私も絵本でしか知らなかった魔法を目の前で見る事が出来て感動しちゃいました」
今度はミュリスの発言にオーパスがウンウンとうなずいた。
「そもそも神獣と出会う事自体が一生に一度あるかって話だしよ。それでメルリーゼ、チビ助に協力してもらうって具体的にはどうするんだ?」
「囮になってもらうのさ。タカと一緒にね」
「俺も?」
「当然だろ。神獣状態のアルジェと話せるのはお前だけなんだから。細かい指示が必要になる場面も出てくるだろうし。それに一緒に行動した方が共存契約を本契約化するのには良いはずだ」
「やっぱり共存契約だったのか……」
「違うぞオーパス。パスが繋がってるだけで共存契約じゃない。仮だ仮」
あとメルリーゼさん、俺は別に本契約をしたいわけじゃないんですけど。
「仮でも神獣とパスを繋いでる奴が世界中に何人いるんだよ」
片手より少ないぞ絶対と呆れ顔のオーパスに反論しようとしたら、アルジェが俺の服の裾を握った。
「どうしたアルジェ」
「アルジェとタカだけ」
「何?」
「今神獣とパスが繋がってるの、アルジェとタカだけだっておかーさんが言ってた」
「嘘やん」
「嘘ちがう」
「マジか」
「マジ。百年ぶりだって言ってた」
百年ぶりて。
もうちょい人とコミュニケーションとろうぜ神獣ども。
自分達の神殿や社の神官や巫女さんくらいにはパス繋いだってよくない?
くそぅ、ほら見ろって顔のオーパスと凄いですって顔のミュリスからの視線が痛い。
たまたま迷子の神獣を保護しただけなんです干し肉で繋いだパスなんですだからそんな目で俺を見るなって頼むから。
「話を戻すぞ。作戦としてはこう考えているんだが……」
俺達はシーサーペントが見えたら空から迎撃して、注意をひいたら低空で湖口まで誘い込む。
湖口は両岸にサンドウォールを展開し、そのまま上も繋げてトンネル状にしておく。湖口の幅と距離なら高さも強度も出せるようだ。
俺達はそこをくぐって、追ってきたシーサーペントの群れを誘導する。
全部は無理でもそれなりの数がトンネルに入ったら入口と出口を遮断して、真ん中上辺りに穴を開ける。そこから俺が上級雷魔法をズドン。
定置網とか逆追い込み漁みたいな感じかな。
ただ、一つ引っ掛かる事がある。
「悪くない作戦だけどよ、俺は今の状態じゃあ上級魔法は無理だぞ。まさかお前……」
「安心したまえ。弟子にそこまでの無茶はさせないよ。そのためのこれさ」
メルリーゼはコートのポケットから何かを取り出してこちらに投げ渡してきた。
「何だこれ、腕輪?」
「あ、それってメルリーゼさんが馬車の中でずっと作ってたものですね。凄く細かく編み込んでて器用だなって思って見てました」
ミュリスがそう言うとメルリーゼはどや顔で胸を張った。
「そうだ。アルジェの毛で作った。揺れる馬車内で作るのは大変だったんだぞ」
「アルジェの毛は一番!」
腕輪はアルジェの毛が三編み状に編まれたヒモの両端に、ミスリルで作られた留め具がつけられていた。
「これ、天狼のお守りや髪紐みたいな魔道具なんだろうけど、どんな効果があるんだ?」
「これはタカ限定の魔道具でね、二人の間にあるパスを利用して減損なしで魔力の相互譲渡を可能にした優れものだぞ。おそらく世界でこれ一つしか存在しないね」
「またなんてもんを作りやがったんだお前……」
下手すりゃ国宝級の魔道具じゃないか。
こいつ、油断してると賢者ムーヴ出してきやがるから油断できない。
「魔力の譲渡って魔法で出来ますよね?」
ミュリスはふと気になったんですけど、とメルリーゼに質問した。
「無属性のギフトの魔法だね」
「それじゃダメなんですか?」
「ギフトの魔法は相手との相性がよくないと使えないし、魔力を百送っても十しか届かないのさ」
「十分の一ですか。じゃあアルジェさん製の腕輪はどれくらいなんですか?」
「百送ったら百届くはずだよ」
「………これ、下手すると御印札がもらえるような魔道具なのでは」
ミュリスもこの腕輪の価値を理解したようだ。
「機能はともかく、見た目はさほどでもないしタカにしか扱えないんだからそこまで価値のある魔道具ではないさ」
「そんなわけねーって……。で、どうやって使うんだ?」
「簡単だよ。身体が接した状態で接した部分に魔力を集中し、そのまま相手側に流し渡せば良いのさ。ほれ、試してみるがいい」
メルリーゼに促されるまま腕輪をはめて、アルジェと手を繋いで魔力を手のひらに集中する。
「アルジェ、ちょっとだけ流してみるぞ」
「どんと来ーい」
軽い返事のアルジェへと魔力を動かしていくと、魔力が手のひらからアルジェの中へと消えていく感覚が伝わってきた。
「何かあったかいのが身体に入ってきた!」
「それがタカの魔力さ。アルジェもタカに魔力を流してみるといい」
「うん!」
「あ、ちょっと待てアルジェ、あまり一度に沢山は送るなよっておい!」
止めるのが間に合わずアルジェから膨大な魔力が送られてきた。
「やっべ!」
アルジェの手を離して魔力パスを切るが、それでも送られてきた俺の魔力の数倍はあるだろうアルジェの魔力が体内で暴れ始めた。
「うっわ身体中が熱い!ヤバい魔力をコントロール出来ねーぞ!」
「タカ、魔力が暴走する前に何かの魔法で魔力を消費したまえ。じゃないと魔力が暴発して身体が弾け飛ぶぞ」
「うわうわうわ!オーパス窓開けろ!」
すぐさま動いて窓を開けてくれたオーパスに下がってくれと言うと同時に俺は空に向けて魔法を放った。
「『滅びの雷竜!』」
とっさに唱えた雷属性の最上級攻撃魔法は、ストランツァーメの街全体を白い光で包みこみ、次の瞬間大轟音とともに巨大な竜の形をした雷が空へと昇っていった。
「あ、危な、かった……」
思わず脱力してその場にへたりこむ。自分自身の魔力までほとんど空になってしまって超だるい。
『滅びの雷竜』は本来空から地上へと竜の形をした強大な雷を落として辺り一面を殲滅する極悪魔法だ。
初めて使ったにもかかわらずとっさに空へと昇るようコントロール出来たのは運が良かったとしか言いようがない。
「…………」
「…………」
「目がチカチカするー。耳いたいー」
「おめでとうタカ。ついに雷魔法を全て習得したな」
オーパスとミュリスは口を開いたまま固まっていて、アルジェは目をギュッと閉じて耳を両手で抑えていて、メルリーゼは平気な顔していた。
「あ、アルジェ、お前どれだけ魔力を俺に流すんだよ」
危うく身体がパーンッてなるとこだったぞ。
「タカが沢山送るなって言ったからちょっとだけしか渡してないよ?」
えー?って感じで両手で耳を抑えたまま首をコテンと傾けるアルジェ。
「アルジェ、ちょっとだけってどれくらいだったんだ?」
メルリーゼの質問にアルジェは耳を抑えていた手のひらを広げて見せた。
「これくらい」
「手のひらくらいであそこまでの量になるのはいくら神獣でもおかしいなぁ」
「お、おかしいくらいじゃ済まねぇだろ?!何だあれ、見たことない雷魔法だったぞ!」
「ド、ドラゴンが、雷のドラゴンが……」
再起動したオーパスとミュリスが初めて見た『滅びの雷竜』に動揺しまくっている。
うん、メルリーゼももう少し驚いてくれてもよかったんだぞ。
その後すぐにギルドの職員がギルドマスター室に駆け込んできたが、再起動したオーパスは腕組みをして平静さを出しながら問題ない、暇してる冒険者に街の住民に大丈夫だとふれて回るよう依頼を出せと言って収集を図った。
落ち着いた姿で指示を出すギルドマスターを見た職員は目に見えて安堵すると、そのまま一階の受付へと戻っていった。
「おいタカ。とっさの事とはいえもう少し大人しい魔法はなかったのか?」
「あー、いや、どの属性でも最上級は派手なんだよ。多分暴発の可能性が一番低くて一番被害が出なさそうだったのがあれだったんだ」
使い慣れていて、さらに発動方向を決めやすいのは雷魔法だと瞬間的に考えた結果だ、一応。
火魔法だと見たことはないが巨大な炎の化身が辺り一面を業火で焼き尽くすって話だし、風だと巨大な竜巻が複数現れて辺り一面をさら地に変えるし、水だと巨大な魚の形をした濁流が現れて辺り一面を押し流してしまうし、土だと地面が割れて溶岩が吹き出て辺り一面を溶岩流が覆い尽くすし。
大体辺り一面を壊滅さしてしまうので、発動する時は周囲に人家がない場所を選ばないといけない。
そんな俺とオーパスのやり取りを気にする事なくメルリーゼはアルジェに魔力譲渡の続きをするよう指示を出した。
「アルジェ、今度は小指ほどの量を私が合図したらタカに渡してみてくれ」
「ほーい」
アルジェはためらう事なく俺の手を握った。
お前もお前で動じないやつだよな、知ってたけど。
「だ、大丈夫なのか?」
だが俺としては不安でしょうがない。
パーンッ!は嫌だ、パーンッ!は。
世紀末アニメで指先一つで弾け飛ばされたモヒカンのシーンが頭の中でループしてガクブルな俺に、しょうがないなといった表情のメルリーゼはアルジェへの指示を変えた。
「ふむ、不安なら小指の爪ほどにしておこうか」
メルリーゼはこちらに近づいて、モノクルを外すと繋いだ手をじっと凝視する。
エルフに多い緑の瞳がモノクルをしていた右目だけ黒みがかっていき、最終的に俺と似たような色合いになった。
「アルジェ、流してくれたまえ」
「ほい」
パスが繋がったと同時に魔力がどっと流れてくる。
体感的に八割くらい魔力が回復した感じだ。
魔力不足の倦怠感が一気に消えたな。
「アルジェ、お前本当に小指の爪の先しか流してない?」
「うん」
「マジか。神獣ってやっぱ魔力量半端ないのな」
自分の魔力量のなさにちょっと凹む……。
「神獣だからってだけじゃないね」
瞳の色が元に戻ったメルリーゼがモノクルをかけ直すと、ニンマリと笑った。
「アルジェの魔力がタカの中に入ったとたん爆発的に増量したんだ。およそ五倍ってとこかな」
「はぁ?!」
「なんだと?!」
あまりの結果に思わず耳を疑う。
オーパスも同様らしく、そんなの聞いたことないぞと額に手を当てて難しい顔になっていた。
「ドラゴンナイト物語で勇者キョーイチが真竜ヴェレーザと協力して最上級神光魔法を使うくだりがあったけどね、あれは多分共存契約による魔力譲渡を行って発動できたのだと思うんだ」
ドラゴンナイト物語はミュリスも大ファンらしいこの世界でも最も有名な勇者譚の一つだ。
悪神に魅いられた堕竜に突如襲撃を受けた真竜母子。
まだ幼かったヴェレーザは人質ならぬ竜質にとられるも母親の犠牲によってからくも逃げ出す事に成功する。
逃げた先の落人草原で力尽き倒れこんだヴェレーザを、偶然その場に召喚された勇者キョーイチが介抱した事により両者は出会い、ヴェレーザから事情を聞いたキョーイチは敵討ちを願う彼女の手助けをしようと決意する。
両者は堕竜から差し向けられる刺客と戦いながら共に成長し、ついには堕竜を討ち滅ぼして、裏で意図を引いていた悪神を神界へと送り返す事に成功した。
メルリーゼが言う最上級神光魔法はこの悪神を神界へと送り返した際に使った魔法の事だ。
「勇者の中でも最上級神光魔法を使えたのは勇者キョーイチしかいない。同時に神獣と共存契約をした勇者もキョーイチ以外にいないとなれば、もはや説明は不要だろう」
「そう言われると何かそんな気もしてくるがよ……」
そう簡単に飲み込めないぞとため息を吐くオーパス。
「つまりお前が作ったこの腕輪が擬似的に本契約と同じような魔力譲渡を可能にしたからここまで魔力が増量したって事か。分かってやったのか、これ?」
「いやいや、流石の私も共存契約がどんなものなのかは知らなかったよ。契約者を見たことなかったからね。腕輪だってテイマーやサマナーが契約相手と魔力をやりとりするための触媒を参考に作ったのだよ。それにこれはあくまで仮契約時の値さ。仮契約ですらこれなんだから、本契約すれば一体どれくらい魔力量が増えるのか」
実に興味深いね、とモノクルをクイッとしながらメルリーゼはニンマリ笑った。
「まあとにかく、これで雷属性の上級魔法は使えるめどがついたわけだが……練習が必要だな」
魔力の必要量を調整できないとひどい目にあいそうだからなぁ。
「あ、あの、シーサーペントクイーンはさっきのドラゴンの魔法で倒す事は出来ないんですか?」
「クイーンどころか群れまるごと倒せるね」
ミュリスの質問にメルリーゼはあっさりと答えた。
「なら……」
「でも、そうすると素材も残らないくらい黒焦げになるか木っ端微塵になるだろーね」
「ですが、その方が安全では?」
「ミュリス、さっきの雷魔法は本来ならタカは扱えないレベルの魔法なんだ。空に向かって撃てたのも偶然だろうし、そもそも発動出来ずに暴発する可能性の方が高いんじゃないかな」
はい、その通りです。
いくら得意の雷魔法とはいえ、あんなバカみたいなエネルギーの塊を発動出来たのも操作出来たのも火事場の馬鹿力みたいなもんですわ。
「それにね、冒険者たるもの高額素材を得られずにただ倒すだけなんてドブに金を捨てるような真似はしちゃいけないものさ。ギルド側としてもこれだけ被害がでかくなった以上はその補填をするのにもシーサーペントの素材で得られる資金を当てにするのは間違いないだろうしね」
「その通りだ。負傷した冒険者達の治療費とかもそこから出してやるつもりだからな」
冒険者に怪我はつきものだ。
本来なら怪我の治療は自己負担だし依頼の失敗も自業自得だが、今回は依頼時と実際の難易度が大きく乖離していたって事でギルド側がその謝罪もかねて治療費を出すようだ。
こういった措置は権限を持つ支部長の判断次第だが、大抵の支部長は治療費を払うのが普通だ。
怪我をしたのはこの支部の稼ぎ頭の高ランク冒険者で、代役なんかそう簡単には見つからないからな。
彼らの早期復帰、自支部での活動継続、それを考えればまともな頭をしていれば払うのが当たり前なんだけどね。
だけど、中にはまともじゃない頭の持ち主もいる。困った話だ。
「それにミュリス。フィーティーも言っていただろう、色んな素材が必要になるってね。シーサーペントの魔石は体に見合ったでかさだぞ。それに鱗も貴重な魔力含有素材さ」
「それに血は錬金素材として有名だしよ、内臓は薬の、皮は武具や服飾の素材になる。捨てる所が少ないのもシーサーペントの良いとこだな」
メルリーゼとオーパスの勢いに気圧され気味なミュリスを横目で見ながら、アルジェと魔力譲渡の練習をするのだった。




