異世界ロケット作成中 21
再びストランツァーメに戻ってきた俺達は、冒険者ギルドへと足を向けた。
「シーサーペントクイーンの討伐、どうなったと思う?」
「クイーンの退治は出来なかったにしろある程度の数は減らして撤退したってくらいじゃないかねぇ」
「やっぱり退治は難しいですか?」
「クイーンにたどり着くことさえ難しいだろうね」
「メルリーゼの言う通りだな。今回は周囲を守っているシーサーペントの数が多すぎる。十匹でも減らせれば御の字じゃねーかなー」
普段が単体~三匹くらいの依頼だからな。
いくら手練れの海専門の冒険者とは言え難しいだろう。
「タカ、あれ食べたい」
勝手にどっかに行かないよう手を繋いでいたアルジェは、屋台のジャンクフードが出す美味しそうな匂いに目を輝かせていた。
「イカ焼きうめー」
「うまー」
口元を汚しまくっているアルジェを綺麗にぬぐってやりつつ、冒険者ギルドストランツァーメ支部の前に来たのだが。
「何か中でバタバタしてないか?」
「オーパスの怒鳴り声も聞こえるねぇ」
「……………」
「……………」
俺とメルリーゼはクルリと背を向けた。
「え?え?行かないんですか?」
「ミュリス、俺の地元の格言を教えてやる。賢い人は危ない場所に近づかない、だ」
「やれやれ、この感じじゃあシーサーペントの素材のやり取りをしている暇はなさそうだ」
スタスタと足早にギルドの前から去ろうとしている俺とメルリーゼの肩に、ゴツイ節くれだった手が待ったをかけた。
「そう言わずにちょっと寄ってけよ。タカ、メルリーゼ」
海賊も一目で漏らしそうな凶悪な笑顔を浮かべたオーパスが、絶対逃がさないからなと肩に置いた手に力をこめた。
「緊急クエストだ」
「え~。お断りします」
「え~。面倒だからやだ」
「お前ら上位ランクは強制参加だ」
「「え~」」
「お前らも見ての通り、昨日出発したシーサーペントクイーン討伐隊は大敗した」
ストランツァーメ支部内には負傷者が何人も横たわっていて、誰も彼もが重傷だった。
中にはシーサーペントの毒にやられた人もいて、メルリーゼ特製解毒ポーションを飲ませなければ手遅れになっていたかもしれない。
「二十人からのA、Bランクパーティーの冒険者が足の早い船と腕の良い船員をつけてこの有り様だ。船は片方は沈み、戻ってきた船も生きて帰った来た奴は半数しかいない」
「壊滅じゃねーか」
「いくら相手の数が多かったとはいえ被害が大きすぎるね。何か想定外の事態が起こったのかい?」
賢者モードのメルリーゼが腕を組んでそう言うと、その通りだとオーパスは深いため息をついた。
「クイーンが生まれる理由はこの前メルリーゼが言った通りだが、生まれたクイーンが何を目的としてどういう行動を取るかまではそこまで詳しく話してなかったな」
「種の保存、だね」
「その通り、繁殖だ。今までの記録だとクイーンはあくまでシーサーペントの数の回復を目的として産卵地から出ないという話だった。だから討伐隊はまずクイーンの周囲を護衛している普通のシーサーペントをおびきだして個別撃破って戦法をとった」
「手堅い作戦だな。俺でもそうする」
数が問題ならまず減らすのがセオリーだよな。
「ちょっと待ってくれ。前回も気になっていたんだがシーサーペントの産卵場所は沿岸部の岩礁帯のはず。あまり沖だと水深がありすぎて産卵出来ないのではないかな?」
「普通ならそうなんだがな。今回クイーンがいる海域には一部だけ極端に浅くなっている場所があってな、岩場が海底で盛り上がっているらしい。その周辺以外はどれだけ深いかわかったもんじゃねえらしいのによ」
「そこ、もしかして他の場所より水温高いとか?」
「そうとも言ってたな」
「タカ、何か知ってるのかい?」
「多分海底火山だ」
「海底火山?海の中にも火山はあるのかい?」
「あるよ。一部だけ極端に浅くなっているのも火山が噴火し続けて徐々に高くなっていったからだな」
「そうなのか……」
「その海底火山?なんだがな、ここらの船乗りじゃあ有名な場所でよ。その周辺は色んな大型の魔物が住みかにしていて危ないから近寄れないらしい。伝説の海賊『無風のギャリー』のお宝が隠されているとか与太話もあるくらいさ。普段なら外敵が強すぎてシーサーペントも産卵場所には選ばないんだがよ、おそらくクイーンが外敵を全て排除したんじゃねーかな」
「クイーンってそんな強いのか?」
「単体でもAの上位かSの下位くらいだな」
「なるほどな」
「で、想定外の事態って?」
「クイーンが群を率いて襲ってきたらしい。しかも執拗に船を追いかけてな」
「それは……妙だな」
シーサーペントは毒蛇なので執拗に獲物をつけ狙うようなイメージがあるが、実際はその逆で自分のテリトリー内でのみ狩りを行う。
獲物を逃してしまった場合、無理にテリトリーの外まで追うような事はせずに諦めて別の獲物を探すのが普通だ。
シーサーペントは弱い魔物ではないけどシーサーペントを餌にしている大型の魔物もそれなりにいて、そいつらは大概シーサーペントより泳ぐのが早い。
なのでシーサーペントは砂の中や障害物に身を隠し、頭上を横切ろうとする獲物を下から食い上げて捕獲、その後すぐさまねぐらに戻って時間をかけて咀嚼といった狩猟方法を取っている。
普段ならサーチの魔法を使ってシーサーペントを探し、見つけたらわざと頭上を横切って誘いだす。
こちらを飲み込もうとした瞬間に魔法で船を急速旋回させて避け、無防備になった頭を魔法や巨大な銛で狙い打つのがシーサーペント狩りのセオリーだ。
それが今回は海中を群で泳いでいた事、さらに本来群を作らないシーサーペントをクイーンが統率していて集団で襲ってきた事、テリトリーを無視して追いかけてきた事など想定外が色々重なってしまい対処出来なくなったらしい。
「片方だけでも船が帰ってこられたのは奇跡だな」
「船に乗っていた魔法使いの魔力量の差だな。風魔法でめいっぱいぶっ飛ばして逃げ続けた結果、やられた方の魔法使いは途中で魔力切れを起こしちまったようだ」
元より帆船補助の魔法使いは中~下の魔力量しかない人が主につく職業で、帆船を動かせるほどの風魔法を長時間連続して行うなんて無理な話だ。
俺もメルリーゼくらいしか出来そうなやつを知らない。
「で、そっちの船にシーサーペントが気を取られている間になんとか逃げ帰ってきたらしい。連中も怪我がひどくて当分動けねぇ。補助の魔法使いも二度とごめんだと辞めちまった」
オーパスは深いタメ息をついて自分のスキンヘッドをゆっくり撫でた。
「それで、俺達にどうしろと?」
「先に言っておくけどクイーンを討伐しに船に乗れって話ならごめん被るよ」
「いや、流石にそれは言わねぇよ。今海に出たところでここにある船じゃあいつらに勝てるとは思えん」
ここの船は元々ストランツァーメ湖内や沿岸部での使用がメインの小型船なので、外洋向きの大型の帆船は出撃した二隻を除いてほとんどないらしい。
「じゃあ何をしろと?」
「数の減った上位ランクの依頼をやれるだけやれって?」
「それも頼みたいところだが違う。クイーンはおそらくこの街を狙ってくる」
「はあ?マジかよ?」
「なぜそう思うんだい?」
「こいつを見ろ」
オーパスは足元に置いてあった袋から一匹の魚を取り出した。
袋に収まりきらない尾びれがずっと気になってましたよ。
「こいつはツインレモラっていうサメの魔物だ」
机の上にドカッと置かれたツインレモラは一メートルくらいの大きさで、頭の上から背中にかけて特徴的な模様の半円形をしたギザギザが入っていた。
うん、コバンザメだ。異世界にもいたのな。しかも魔物。
でも俺の知っている地球のコバンザメとは少し形が違う。
なんてゆーか、左右非対称だ。
右側にしかヒレがないように見える。
これでちゃんと泳げるのか?
「このレモラってサメはこのギザギザの部分でピタッと大型の魚や魔物にくっついて行動する変なサメでな、くっついた相手のおこぼれを狙って生きてるんだ。その中でもこのツインレモラは特に変わっていてよ」
オーパスはツインレモラの左側の腹をこちらに見せた。
あれ、頭みたいな模様があるな。
「こいつは生まれてきた時は左右対称の形をしているらしいんだけどよ、成長して繁殖相手見つけたらわざわざ自分のヒレを変化させて横腹同士でくっつくんだ。で、どっちかが死なない限りはずっと一緒にいるらしい」
ツインって双子じゃなくて番って事なのか。
しかし自分のヒレを変化させるって凄いな。
「だがな、ずっと一緒にいるって言っても何かの拍子で離れたりする事もあるんだが、こいつらは離れ離れになると互いを探し出すんだよ。こいつらお互いの魔力同士を結合しているらしくてな、どれだけ離れていても正確な居場所がわかるらしい。で、そいつが戻ってきた船の船底に引っ付いてやがったんだ」
船底に何度も体当たりを食らって浸水もしていたらしく、全員降ろした後に急いで陸に上げてチェックしていたら、その途中で発見したらしい。
「こいつが生きてる内に探知が得意な魔法使いに見せたらよ、魔力のラインが沖に向かって伸びてやがった。船員に確認したらクイーンがいた海域方向で間違いないってよ。それに気づいたのはお前らが来るちょっと前だ」
どうやらオーパスが怒鳴り散らしていたのはこいつを発見した船員からその特殊な生態を聞いて緊急クエストを発令していたところだったようだ。
「待てよオーパス。まさかこいつを利用してクイーンがここまで来るって言いたいのか?」
「その通りだ」
「おいおい……いくらクイーンとは言えそこまで頭が良いとは思えないんだけど?」
「いや、あり得ない話じゃあないぞタカ」
「なんでだ?」
メルリーゼは腕を組むとモノクルをクイッと上げた。
「南の大陸にはね、シーサーペントを飼い慣らして漁をする海洋民族がいるんだ。彼らの飼っているシーサーペントは長年人によって育てられてきたからかなり頭が良いらしい。人語を解して指示にもちゃんと従うそうだ」
「それは初めて聞いたな」
「モゴロ族だな。南大陸南西部で小さな湾の上に海に浮かぶ家を建てて暮らしているって聞いた事がある」
オーパスは知っていたらしい。
「そう、そのモゴロ族さ。つまり私が何が言いたいかと言うとね、シーサーペントは地頭は悪くないんだ。猿の魔物が道具を使って襲ってきたり、狼の魔物が囮を使って狩りをするんだから、シーサーペントにだってそれくらいの悪知恵は働くと思って間違いないだろう?」
メルリーゼの説明を聞いて、確かにな、と納得した。
前の世界にだってカマキリのハリガネムシやカッコウの託卵とか他種を利用している生物は沢山いた。
それが魔物で突然変異ならなおのこと、だな。
「納得したようだね」
ニンマリ笑うメルリーゼに苦笑しながらうなずいた。
「ああ、賢者様の言う通りだわ」
「よし、話を進めるぞ。問題はクイーンがどれくらいでここまで来やがるかだが、それについちゃあ多少時間はあると思っている。ツインレモラは普段二匹で一匹だ。片割れなしでこのヒレじゃあそんなに速くは泳げねぇ」
「どれくらいとみているんだい?」
「休まず泳げば半日強から一日くらいじゃねぇかと人魚族の奴が言ってたな」
「翌朝未明から昼間にかけてか」
「湖内の船は全部陸に上げて、周辺住民の避難をするには充分な時間だ」
「それで、作戦はあるのかい?」
オーパスは難しい顔をして腕を組んだ。
「浅瀬に呼び寄せて叩くくらいしか今のところは思いつかねぇな。クイーンの狙いがここだとしてもよ、あの浅い湖口以外に侵入路はねえし」
「奴らは魚じゃない、蛇だ。多少の陸地は乗り越えてくるぞ」
「サンドウォールはどうだ?」
「どれだけ広範囲になるんだよ」
「メルリーゼならやれるだろ?」
「ここは砂地だからそれなりに出来るとは思うけどね、おそらく高さが足りないと思うよ。高くすればその分範囲は狭まるし。それに広範囲のサンドウォールをカバーできるだけの数の冒険者をどうやってかき集めるんだい?おまけに主力は壊滅状態ときた」
「サンドウォールで時間を稼ぐ間に俺とタカで外の奴らをある程度間引いてやるのはどうだ?」
「三十匹からなるシーサーペントを二人で?流石に無理だろ」
「三十匹全部を相手どるとは言わねえよ。せいぜい一人十匹だ。残りをクイーンとともに全員で叩く」
「普通のシーサーペント十匹くらいならタカとオーパスでやれるだろうけど、相手はクイーンに統率された群れだ。そう上手くはいかないと思うぞ」
「たとえクイーンがいなくても一人で十匹相手どるとか絶対嫌ですけど?」
無理無茶無謀はしませんの三無しですよこちとら。安全第一ですわ。
「つってもお前の雷魔法が一番効果的なんだぞ」
「シーサーペント相手じゃ一匹に中級雷魔法を一発食らわしても殺れるかどうか微妙なとこだぞ。そんな連発できねーよ」
「うーん、ここは誘き寄せて数を減らす方向で動いた方が良さげだね」
「何か思いついたのか?」
「ああ、アルジェの力を借りよう」
「え?マジで?」
「アルジェってお前らが連れてきたちっこい獣人のガキか?」
大丈夫なのか?という表情のオーパスに、メルリーゼはニンマリと笑った。
「タカ、喋って構わないな?」
「まあ、事態があれだし。オーパスなら大丈夫だろ」
「何なんだよ?」
「オーパス、アルジェは確かにあの小柄な獣人の事だけどね。あの子はあれでCランクだ。それに君は彼女と以前にも会っているよ」
「以前にもって事は王都時代の話か?」
「そうさ。まだ私達が王都にいた頃、短期間だったけどアルジェと一緒にパーティーを組んでいた事がある」
「パーティーを?あの二人以外にか?」
「あの二人も一緒だね。例の遺跡のダンジョンを最速攻略した頃さ」
「あの頃だと……ああ、お前らが犬を拾って連れ帰った時か。あのお利口さんのチビ助、特例でCランクに……って、ちょっと待て、まさか……?」
「そのまさかさ」
「マジか?」
「マジだよ」
「おいおいおい嘘だろ……」
オーパスは頭痛が痛いみたいな顔をして額に手を当てて脱力してしまった。
「神獣だったのかよ……」




