異世界ロケット作成中 19
「タカとアルジェの間にある契約は、神獣しかできない『共存契約』ね」
へそ天ではなくなったもののヨダレの後がくっきり残ったままフィーティーはミュリスの疑問に答えた。
「『共存』契約、ですか?」
ミュリスは初めて聞いた契約に?顔だ。
冒険者の契約と言えばテイマーやサモナーなんかの従魔契約だったり召喚契約が普通だからな。
ミュリスが知らないのも無理はない。
「ええ。神獣と共に生き、お互いが困ったら助け合うパートナーとしての契約ね。一番有名な共存契約だと勇者と真竜の話かしら」
「それって絵本にもなってる勇者キョーイチとドラゴンのヴェレーザの『ドラゴンナイト物語』ですか?!」
「そうそうそれよ。真竜はとてもプライドが高い神獣だから本来人を背中に乗せる事なんてしないものなのよ。でもあの勇者は邪悪に染まった堕竜を倒すために堕竜に母親を殺された幼い真竜と共存契約を交わしたの。その後一人と一頭は協力しあって堕竜を倒すことに成功したわ」
「じゃ、じゃあ、タカさんも勇者キョーイチと同じように」
キラキラした目をこちらに向けてくるミュリス。
期待させてしまって申し訳ないが……。
「ふふふ、ミュリスちゃんには悪いけど、実はアルジェとタカの共存契約は正式なものじゃないの」
「と、言いますと?」
「そのままの意味よ。アルジェが初めてタカとパスを繋いだ時はこの子が幼すぎて契約がなんたるかを知らなかったの」
メルリーゼが補足して説明する。
「契約ってのはねミュリス、互いの深い部分の魔力を繋いで行われるものなんだ。だから契約の前に会話を重ねたり相手を打ち負かしたりして契約内容を詰めるのさ」
魔物を使役する従魔契約の場合、大体が相手より自分もしくは自分達の方が強いんだぞと示して従わせるのが一般的だ。
召喚契約は力づくの場合もあるけど基本は対話がメイン。
妖精や精霊、知恵のある魔物がこちらに該当し、自分の魔力や相手の望むものを用意する事により呼び出す事が可能になる。
「メルリーゼの説明の通り、当時のこの子じゃ契約内容の確認とか細かい詰めができなかったのよ。それに共存契約はね、互いが互いを本当に必要としないと成り立たないの」
「本当に必要、ですか」
「当時タカはアルジェの事を可愛いペットの子犬程度としか思ってなかったから。別にタカがアルジェの事を軽んじていたとは思わないけど、共存契約は神獣にとって本当に重要な契約だからただ仲が良いだけでは中々発動しないものなのよ」
「契約が出来なくてもお話ができるのは何ででしょうか?」
「アルジェは自分を保護してくれたタカに無意識に契約を願ってパスを繋いだの。パスは互いの意識を繋ぐもので、契約で縛るものじゃなかったから相手が拒否しない限りは繋げるのよ」
ちなみにこのパスが繋がった事によりアルジェはマジで単なる頭の良い野犬じゃねーなと確信した。
「ウォフ!」
「ダメダメ、しません。てゆーか今の話なら出来ません」
「クゥ~ン?」
「あのな、契約しなきゃならないような状況じゃないだろーが。俺は別に神獣の力が必要になるくらい強くて邪悪な怪物と戦わなきゃならないような生活はしてねーから」
安全第一無茶はしませんがモットーですよこちとら。
「果たしてそうかしら?」
「え?」
フィーティーは俺の発言を否定すると、キリッとした表情になりこちらをじっと見つめてきた。
だめだ、真面目な空気なんだけどヨダレのあとが気になる。
「タカ、私は神獣よ」
「知ってるよ」
「神獣はいと高き座の神々の使徒。神託の事ももちろん知っているわ」
「だろーな」
神託と聞いてミュリスが身体をびくりとさせる。
あら?といった表情のフィーティーにミュリスが神託を受けたドワーフの孫だと伝えると、そうだったのと納得した。
「空からくる魔王を倒すために私達もあなたに協力するわ」
「あのなフィーティー、俺は単なるBランク冒険者だ。魔王を倒すなんて無理に決まってるだろーが。魔王退治は勇者の仕事だろ」
「でも、ミュリスちゃんと一緒にいるって事はあなたも空飛ぶ船作りに協力しているんでしょう?」
「それは、そうなんだが……」
「あなたが魔王を倒すかどうかはともかく、神託に協力して空飛ぶ船を作るならきっと色んな素材を取りに行く事になるでしょう。アルジェを連れていきなさい。役に立つから」
「いや無理って痛てててて!こらアルジェ噛むんじゃない!」
即答で断ったらアルジェに噛みつかれた。
牙をたてるな牙を!
本気じゃなくても痛いもんは痛いんだぞ!
小さい時と違って今のお前の牙はしゃれにならんくらい鋭くなってるんだから!
「ウゥ~!」
何でダメなの?!って怒るアルジェに説明する。
「あのな、今俺は宿屋に泊まってるんだよ。前みたいにペット可の部屋を借りてるわけじゃないんだ。宿屋はペット禁止だしそもそもお前でっかくなりすぎて部屋がパンパンになっちまうだろーが」
「あら、それも大丈夫よ。この子『人化』を覚えたから」
「な?!」
事も無げにそう言うフィーティーに思わず言葉が出なくなる。
人化は神獣のみが会得できる特別な魔法だ。
フィーティーが言ったように神獣はいと高き座の神々の使徒で、その役割の一つが人々の暮らしぶりを見守り、報告する事。
そのために人に化ける魔法を神々から賜ったらしい。
中には正体を隠してずっと街中で暮らしているやつもいるからな。
「神獣が人に変化出来るって本当なんですか!」
俺とは裏腹にミュリスは大興奮だ。
絵本の話は本当だったんだと目をキラキラさせてるよ。
「本当よ。ブラッシングのお礼に特別に見せてあげるわ。『人化』」
ボフン!と煙がたち、目の前に白銀の髪色をした絶世の美獣人が現れた。
しかし、ヨダレのあとがそのままなのが残念極まりないな。
「す、凄~い!まさか本当に……」
感動のあまり言葉が続かないミュリス。
「ウォン!」
アルジェもボフンと煙をあげると小柄な獣人姿に変化した。
小柄なミュリスよりさらに小さいな。
「アルジェ、人になった!これでタカと一緒!」
ぽすっと腰に引っ付くと、そのまま背中を登って無理矢理肩に乗ろうとする。
しょうがないので肩車の姿勢になってやる。
「一緒!」
「………」
「一緒なの!」
「分かった、俺の負けだ……」
頭にヒシッと引っ付いて離れないアルジェに白旗を上げた。
「いつの間に人化を覚えやがったんだ……」
「フェルム様の神託が降りてからすぐね」
「…………そうかい」
何だろう。
また一つ外堀を埋められたかのような気持ちになった。
いと高き座の神々は今さら俺に何を期待してやがるんだ?
勇者じゃない俺に。
「タカー?」
「うわッ!舐めるなアルジェ!」
俺の顔を覗き込んで頬をペロペロなめだしたアルジェに止めなさいと肩車をやめて地面に下ろす。
「アルジェ、その格好の時は舐めるの禁止」
「何でー?」
「何ででも」
「わかったー」
はーいとばかりに手を上げると、ボフンと煙をあげて再び元の姿に戻ってペロペロなめだした。
「あなたの言うことは素直に聞くのよね」
苦笑いのフィーティーも同様に元の姿に戻った。
「さて、話がまとまった所でだ、そろそろ下山しないと暗くなる前にシエロ村に着かなくなるぞ」
今まであまり会話に参加せずに抜け毛を使って何やら作っていたメルリーゼは、太陽の位置を見てあれこれ片付け終えていたようだ。
「それもそうだな」
「暗くなっちゃったら危ないですもんね」
メルリーゼから袋詰めにされた抜け毛を受け取りアイテムボックスにしまう。
「今回もありがとうね、タカ。そしてアルジェを頼んだわよ」
「ああ、また来るよ。アルジェの面倒をみるのは久しぶりだけど、大丈夫さ。アルジェは良い子だからな」
「秋は私は来るかは分からないが、また会おう。アルジェとタカの面倒はちゃんと私がみるよ」
おい、どっちかってーと普段面倒をみているのは俺の方なんですが?
「人化を見せていただいてありがとうございました。天狼様をブラッシングさせていただいた事も含めて貴重な体験でした!」
「ふふふ、メルリーゼもよろしくね。ミュリスちゃんはタカと一緒に行動するならこれから何回も人化を見る事になると思うわ。よかったらまた来てちょうだいね。それと、私の事はフィーティーと名前で呼んでもらってかまわないわ。様もいらないわよ」
「はい、フィーティーさん!」
「ウォーン」
「行ってらっしゃい。タカの言うことをちゃんと聞くのよ」
「ウォフ!」
ちょっとお泊まりみたいな母子の会話だったが、長寿の神獣的にはそんな感覚なのかな。
「ウォン、ウォン!」
「え?飛んで行くの?」
神獣天狼は、その名の通り天空を自在に駆け巡る事が出来る。その速さたるやどんな魔物も敵わない。
だからまあ大丈夫かと背中に乗る。
「ウォフ!ウォン!」
「ミュリスも背中に乗れってさ」
「え?は、はい」
「じゃあ私も」
メルリーゼも背中に乗ろうとすると、アルジェが待ったをかけた。
「ウォフウォフ」
「三人はアルジェの背中的にちょっとせまいらしいぞ」
「え、なら往復するのかい?」
「ウォ~フ」
「咥えてくって」
「それは嫌だな……。タカ、あれ出してくれ」
「あれって……あれか?ディヴァイディングクロウの時の」
「そう、それだ」
俺はアイテムボックスから頑丈な板の両端にロープが結ばれたものを取り出した。
はい、つまりはブランコですね。
これはとある依頼で召喚士のいるパーティーと組んだ時にとある湖の真ん中にある島に移動するために作った物だ。
召喚されたディヴァイディングクロウというカラスの妖精に鬼◯郎方式でロープを咥えて運んでもらった。
諸事情で船が使えなかったためどうしようかと悩んだ末に冗談で提案したら通ってしまったんだけど、意外と快適だった。
ちなみに楽しんでいたのは俺とメルリーゼと召喚士だけで、他の面子は泣きそうな顔でロープを握りしめていた。
「ロープを短めに両方を結んでくれ」
「へいへい」
「で、ロープの結び目部分にアルジェのおやつになったロックボアの毛皮をあてて完成だ。アルジェ、この毛皮の部分を咥えて飛んでくれ。ああロープは切らないように気をつけてくれよ」
「ウォッフー」
ロープを咥えたアルジェはゆっくりと宙に浮き出した。
「わわわ、飛んでます!」
初めて空を飛んだミュリスが俺に抱きつきながらおっかなびっくり下を見ている。
地上から前足を器用に振っているフィーティーに手を振り返し、アルジェにシエロ村の方向に向けてゆっくり飛ぶようにお願いする。
「うーん、何回体験しても良いもんだな、空を飛ぶってのは」
「凄いです。あんな遠くまで見えるなんて……」
ブランコに乗りながらご満悦のメルリーゼに、抱きつく力をさらに込めながらも周りの景色に感動するミュリス。
身体がミシミシ言い出したんでそっと身体強化の魔法を使う。
ミュリスさん、ちょっとヤバいです。
「よし、村のちょっと手前の森の中に降りてくれ」
「ウォッフー」
アルジェは俺が指差した少しだけ開けた森の中にゆっくりと降りていった。
「よっと」
「ウォフー」
先に降りたメルリーゼがアルジェの口からブランコを外し、俺とミュリスも地面に降りた。
「わわッ!」
「おっと、大丈夫か?」
足がもつれてよろめいてしまったミュリスを受け止める。
「す、すみません。ちょっと足に力が入らなかったもので」
「怖かった?」
「あはは…。とっても感動したんですけど、やっぱりちょっと怖かったです」
そう言いつつもすぐに立てるようになったミュリスは見どころがある方だ。
あいつらなんかしばらくの間地面に寝っ転がって震えてたからなぁ。
「アルジェ、ありがとうな」
「ウォン!」
ペロペロと俺の顔をなめると、人化して獣人姿になったアルジェが再び背中に登って肩車状態になった。
「さて、シエロ村に戻るか」
「待つんだタカ。アルジェの事をどう説明する気だい?」
「どうって、知り合いから預かったって言うつもりだけど」
獣人の中には修行目的で信頼できる友人知人に我が子を預ける習慣を持つ種族もいるから大丈夫かな~と思ったんだが。
「モルバス村でもアルジェが天狼だって分かって凄い騒ぎになってたじゃないか」
「獣人姿でもバレるかね?」
「獣人は見た目だけじゃなく匂いや気配といった我々では気づけない五感や六感で感知する。バレる可能性は高いと思うぞ」
「何か手はあるか?」
「無くはないけど、通じるかは分からないね」
メルリーゼは魔石のついたネックレスを取り出すと、魔石に魔法をエンチャントして俺に屈むよう指示した。
「簡易だけどハイドの魔法をエンチャントしたよ。本来はアサシンやレンジャーが身を隠すのに使う魔法だけど、そもそも気配が強すぎるアルジェなら存在感を薄くする程度に収まるはずさ」
外しちゃ駄目だぞとアルジェの首にハイドのネックレスをかけるメルリーゼに、よく分かってないながらもありがとー!とお礼を言うアルジェ。
「これで誤魔化せるといいんだが」
アルジェを肩車したまま立ち上がって歩き出し、俺達は想定より早い時間にシエロ村に帰り着いたのだった。
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