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異世界ロケット作成中 18


「あ~そこそこ。もうちょっと強く、そうそうそれくらいで」


 フィーティーの背中にブラッシングをしながら抜け毛を採取していく。


 天狼は普通の狼や犬のように年に二度毛が生え換わる。換毛期ってやつだ。


「わわわ、凄い沢山取れます」


「うむ、大量大量」


 フィーティーは大きいためミュリスと二人がかりでブラッシングをし、メルリーゼが抜け毛を回収して袋に詰めていく。


 一人だと中々の大仕事だが、今回は三人なのでサクサク進むなぁ。


「タカさん、このブラシは初めて見ましたけどどちらで買われたんですか?」


「これは特注なんだ。王都にある有名な金物細工師の工房に頼んで作ってもらったんだ」


 俺達が使っているのはスリッカーブラシと言って、くの字型の針金が薄い金属板の表面に取り付けられたものだ。


 前世では実家で柴犬を飼っていたんだけど、このスリッカーブラシはとにかく万能で使い勝手がよく換毛期の度に大活躍だった。


 柴犬は狼同様ダブルコートといって長い毛と短い毛の二種類が生えてるので抜け毛の量が多い犬種だったからなぁ。


「この中くらいのと小さいブラシはアルジェさん用ですか?」

 

「いや、大部分はこの大きなブラシで、足の先やお腹周りは中くらいので、顔周りは小さいので、それぞれ使い分けてるんだ」


「なるほど~」


「ミュリスちゃん、もう少し力をいれて構わないわ」


「は、はい」


「そう、それくらいの方が気持ちいいわ。あぁ~」


 フィーティーさん、神獣天狼にあるまじき気の抜けた顔でブラッシングを楽しんでいらっしゃるなぁ。


 一人の時だとそこまで余裕がないからあまり気にしてなかったけど、ヨダレ垂らしそうなくらいリラックスした表情だ。


「ズズ、いけないいけない、ヨダレが……」


 すでに垂らしていた。


「神獣もタカの手にかかれば骨抜き、いやこの場合は牙抜きだねぇ」


「人をたらしみたいに言うんじゃねーよ」


「たらしだろう?」


「狼や犬限定だ」


「でも緋獅子も牙抜きにしたじゃないか」


「あれは怒ったあいつの気をそらす目的でマタタビ球を投げつけただけだ」


「物凄い効果だったよねぇ」


「俺も正直あそこまで効くとは思ってなかった」


 神獣だろうと猫科は猫科だということが証明されてしまった瞬間だった。


「ああ、そう言えば緋獅子のがタカを探していたわね。もとから赤い顔をさらに赤くして絶対許さんと息巻いてたわ」


「……フィーティーさん、まさか」


「安心しなさい。知らぬ存ぜぬを突き通したわ。あなたが居なくなると私もアルジェも困るもの」


 もうこのブラッシングなしには生え換わりの次期は過ごせないわとフィーティーは深くうなずいた。


「助かる」


「ウォン!ウォン!」


「もうおやつを食い終わったのかアルジェ。もう少し待ってろよ。ほら、次はこれでも食ってな」


 口の周りを赤くしたアルジェが早く私も~とばかりに吠えたてるが、順番だからとなだめ、アイテムボックスからアイアンリザードの骨を出して取ってこいとばかりに投げてやる。


 やっほ~とばかりにそちらに走っていくアルジェを後に、今度はフィーティーのお腹をブラッシングしていく。


 俺が喉元から外側を、ミュリスが内側から尻尾までを丁寧にブラッシングしていく。


「ああ~もう気持ち良すぎてだめぇ~」


 声こそ艶があるが、目の前にはヘソ天でヨダレを垂らしながら寝転ぶ狼、とゆーかワンコだよこれ。


 実家の柴犬がこんな感じで寝落ちしていたなぁ。


 その瞬間をスマホで撮影して待ち受け画面にするくらいお気に入りだった。


「ミュリスはそのままお腹周辺をお願い。俺は足をやるからさ」


「分かりました」


「やりにくい所はブラシを持ち代えてね」


「はい!」


 そんなこんなでフィーティーのブラッシングが終わったので今度はアルジェの番だ。


 ちなみにフィーティーはヘソ天したまま寝落ちしてしまっている。


「アルジェ、こっちこい。ひとまず口周りを洗ってやるから」


「ウォン!」


 先ほど顔を洗ったものよりやや大きめな水球を作り、アルジェに口を突っ込ませてそのままわしゃわしゃ洗っていく。


 まだ血が固まる前だったので簡単に落ちたな。


 綺麗になったのでタオルでがしがし拭いてやる。

 

「メルリーゼ、温風頼むわ」


「はいはい」


 仕上げにドライヤー代わりの風魔法で乾燥させ、準備オーケー。


「さて、そんじゃまた二人がかりで」


「ウォフ!」


「え?何で?」


「ウォン!」


「はぁ、そうですか。すまんミュリス、アルジェは俺一人でブラッシングするからメルリーゼに代わって抜け毛を袋に詰めてくれ。メルリーゼは一先ず先に抜け毛を小袋に分けといてくれ」


「分かりました」


「りょ~かい」


 何故か俺一人にやらせたがるアルジェにしょうがないなと言いつつブラッシングを始める。


 出会ったばかりの頃は普通の子犬サイズだったから、よく膝の上に乗せてブラッシングしてやったもんだ。


 今は顔をやる時だけ膝の上でやっている。


 アルジェが俺の膝の上に乗りたがるからだ。


 膝の上の次に背中や肩に乗りたがるのだが、これはアルジェが小さい頃にフードの中に入れて移動していたのが理由だ。


 アルジェと初めて出会ったのは王都から北に行った所にある遺跡の中だった。


 この遺跡自体は観光名所みたいな場所で、ギリシャのパルテノン神殿があるアクロポリス遺跡みたいな所だ。


 観光名所みたいと言っても一般人が観光目的で来る事はまずないくらい人里から離れた場所にあり、しかもすぐ近くにダンジョンまで存在する。


 冒険者達はこの遺跡の中でベースキャンプを設営しダンジョンへと挑戦するという流れになっていて、俺達もそれが目的でその遺跡に入った。


 到着したのがお昼過ぎだったためダンジョンへは翌日から挑む事にして、まずはゆっくり休もうと天幕を張っていた時に、気づいたら足元にアルジェがいた。


 最初は野犬の子供かと思って親を探したのだが見つからず、どーすんべと思いながら干し肉をあげていたら懐かれてしまい、そのまま離れなくなってしまった。


 ダンジョンには連れていけないと、最初は遺跡内で冒険者相手の移動商店を開いていた王都の有名な商会の商隊に預かってもらおうとしたのだけど、めちゃくちゃ嫌がって服の裾に噛みついて離れなかった。


 連れていくにしても放し飼いだと危ないからと首輪に簡易のリードをつけたらそれを嫌がったアルジェが物凄い悲しい目付きでこちらを見てきた。


 再びどーすんべと悩んでいたら、実家が羊飼いの商隊のリーダー(犬好き)からまだよちよち歩きの牧羊犬の子犬を背中に背負った籠に入れて移動していたという話を聞いて、あれこれ試したらフードの中を一番気に入ったのでしょうがなく、といった感じだったのだがアルジェは終始ご機嫌だった。


 しかしアルジェは子供でも神獣だった。


 ダンジョンに入ると俺達より早く敵に気づいて知らせてくれたので、一度も不意打ちされる事なく進む事が出来た。


 しかも敵とやりあう前に自主的にフードから出て後ろに下がり、戦い終わるとジャンプしてフードに戻るといった芸当を見せて。


 この時点でこいつ単なる子犬じゃねーなと気づいたのだけど、まさか神獣だとは思いもよらなかった。


 俺達はアルジェの協力によりサクサクダンジョンを踏破して歴代最短記録を更新。


 この頃にはアルジェをパーティーの一員にする事に全員が賛成し、王都の下宿に連れ帰った。


 お前をコ○マルみたいな立派な戦士に育ててやるからなと鼻歌混じりに初ブラッシングをしてやったら物凄い気に入って、何度もブラッシングをせがむようになった。


 休日なんか朝起きたら枕元でブラシを咥えてスタンバってた事もあったくらいだ。


 それから2ヶ月ほど一緒に冒険をしたのだが、出会った頃の二倍くらいのサイズになって小型なら単独でC級の魔物を狩れるくらいにまで成長したアルジェはすっかりパーティーの一員として馴染んでいた。


 冒険者ギルドが特別にCランク認定するくらいには。


 その後とある依頼でモルバスという村に行ったのだが、この村は天狼を信仰していて毎年代表者がグロット山までお参りに行くくらい熱心な信者だった。


 そこでアルジェを見た村人達が天狼ではないかと言い出して、実際に若き日に天狼を目撃した事のあるという長老が間違いないと断定した。


 アルジェ自身にお前って天狼なん?と聞いたらそうかもしれなーいと軽い返事が帰ってきた。


 マジかよ、どーするのさ?母親が心配してるのでは?なら家に送ってあげましょうとパーティーで相談していたら、村の巫女さんがお社にご報告してそれが母親に通じてしまった。


 怒り狂って我を忘れたフィーティーが物凄いスピードでやってきて、俺達におのれ誘拐犯どもめがと襲いかかってきた。


 神獣だけあってめちゃくちゃ強く、まともにやりあえばどちらもただでは済まない、血の気が収まるまで逃げるしかないと耐えて避けてと一時間。


 ようやく息があがってきたフィーティーに、危ないからと村人に預けていたアルジェが間に飛び出してきてお母さん、メッ!とばかりに物凄い勢いで吠えた。


 そこでようやく我に返ったフィーティーにアルジェは今までの事を話して聞かせ、俺達は誘拐犯じゃないと納得してもらった。


 むしろ保護した立場だと知ると意外にも丁寧に謝罪された。


 フィーティーは俺達に名乗った後にどうしてアルジェと離れ離れになったのかを説明し始めた。


 アルジェの顔合わせのために神獣の寄合に出掛けたところ、宴会中に寝てしまったアルジェをホストの狐の神獣の配下にまかせてそのまま一晩中酒を飲み続け寝落ち。


 その日の昼に目を覚ましてアルジェを連れ帰ろうとしたら、アルジェが寝ているはずの部屋から居なくなっている事が発覚。


 屋敷内をくまなく探したが見つからず、外に出てしまったのではと青ざめる。


 どうして目を離したのかと狐の配下を責め立てるも、どうも昨晩フィーティーと狐の神獣が酔って喧嘩を始めたらしく、配下達は止めに入ったものの何人も吹っ飛ばされ負傷者続出。


 人手が足りなくなりアルジェを見ていた配下の人もそちらに駆り出され、何とか最終的には仲直りして終わったらしいのだが、後片付けやら何やらで時間を取られ、気づいたら居なくなっていたとの事だった。


 まさか自分にも原因があるとは思わず謝罪して、見つけたら連絡をくれと外に探しに出たものの、まったく見つからない。


 神獣には肉親との間に特別なパスが繋がっているから、もし何かあったらすぐに分かるのでどこかで生きてはいると自分を励ましながらずっと探し続けていたらしい。


 そこでようやくこの村の巫女から天狼の子供を連れた冒険者が現れたとお社越しに連絡を受け、冒険者に拐われていたのかと早とちりしてしまったらしい。

 

 パーティーの神官がアルジェが寝落ちした時点で帰ればよかった、母親としての自覚が足りないと説教をして、その通りだと凹むフィーティーにアルジェは凄く楽しかった、タカ達がいたからお母さんがいなくても全然寂しくなかったよとフォローとみせかけた追い討ちをかけていた。


 あの時は凹みに凹んだフィーティーをフォローするのに一苦労だったなぁ。


 アルジェにどうやってあの遺跡まで来たのか聞いてみたら、狐の屋敷の中にあの遺跡に通じる転移の魔方陣があるらしく、配下がそこに乗って移動する時に一緒についていったらしい。


 狐の配下はそれに気づかずそのままどっかに行ってしまい、しょうがないので周囲を探検していたら俺達と出会ったらしい。


 俺から良い匂いがした!と言っていたのでお手製の干し肉の匂いを嗅ぎ付けたんだろーなー。


 俺とアルジェの出会いにミュリスはあははと笑った。


「まるで絵本みたいな大冒険をしたんですね、アルジェさん」


「言われてみるとそんな感じだな」


 小さな狼の大冒険とかありそうなタイトルが浮かんだ。


 最後はちゃんとお母さんと再会してめでたしめでたしってエンディングだし。

 

「ちなみに今使ってるこのスリッカーブラシは特注だって言ったけど、商隊のリーダーの紹介で貴族向けのジュエリーを手掛けている有名な工房に頼む事ができたんだ。高い金を払っただけの出来だよな」


 ちなみにその時リーダーも自分の分を注文、実家の犬をブラッシングしてみたらあまりのブラッシングのしやすさに驚愕したという。


 これは売れる!となって値段を抑えたい俺とリーダー、弟子に安価な商品でもいいから経験を積ませたい工房の思惑が合致。


 それなりの数が作られて、瞬く間に完売。


 今では犬好きの貴族達にも人気の商品となり、完全受注販売となった。


 実は俺は開発者の一人として毎月売り上げの五パーセントが冒険者ギルドの俺の口座に振り込まれている。


 基本あまり数の出るものじゃないし俺の希望で安価なので金額自体は普段はそこまででもないが、たまに入る貴族向けの高級品のおかげでがっつり入る時もある。


 不労所得バンザイですわ。


 実際こういった知識チートってのは異世界人が多いこの世界ではあまり通じるものではなく、俺もスリッカーブラシ以外では活用できていない。


「ウォン!」


 ブラッシングを終えたアルジェが一声吠えて俺にすり寄ってきた。


「おいおい」


「アルジェさんは何と?」


「また一緒に冒険したい、だってさ」


 首にかけていた冒険者証をくわえてこちらにアピールするアルジェに思わず苦笑いしてしまう。


「ウォフ」


「だめだめ。フィーティーの後を継いで立派な天狼になるんだろ?まずは会話が出来るくらい神力を高めないとな」


「ウォン!」


「何言ってんだ。確かに身体は大きくなったけどまだまだ子供だぞ、お前」


「クゥ~ン」


「はいはい拗ねないの」


「あの、実はさっきから凄い疑問だったんですけど、何でタカさんはアルジェさんの言ってる事が分かるんですか?」


「あー、何か俺とアルジェの間にある種の契約に関するパスが出来たみたいでさ」


 出会って最初は何となくニュアンスが伝わるくらいだったが、ある時を境に完全に理解出来るようになっていた。


「メルリーゼさんも分かるんですか?」


「いや、パーティーでも契約した(パスが通じた)のはタカだけだよ。私も喜怒哀楽とかは分かるけど細かい内容まではさっぱりさ」


「どんな契約なんですか?」


「神獣との『共存』契約よ」


 ヨダレの後をつけたフィーティーが寝そべった状態で答えた。


 

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