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異世界ロケット作成中 17


 あまり目ぼしい物がなかった道具屋をすぐに出てストランツァーメを後にした俺達は、道中に野営で一泊する事になった。


 予定通りではあるのだが……。


「まさか我々しかいないとは予想外だったねぇ」


「珍しい事もあるもんだな」


 ストランツァーメからグロット山方面に向かう街道にはいくつかの野営スポットがある。


 野営向きの地形と馬車や徒歩の距離間に合わせた地点にあり、大体いつも何組かの商人や冒険者、参拝者と一緒に夜を明かす事になる。


 一番の理由は安全のためだ。


 近くに大きな都市部がない街道などは定期的に冒険者が魔物を駆除する依頼を受けているけど、完全に出ないわけじゃない。


 同様に魔物が跋扈するこの世界では山賊や盗賊は思っていたほど多くはないけど、まったく出ないわけでもない。


 それに奴らは冒険者や商人に化けている事も多い。何組も同じ場所で夜を明かすのは相互に監視するって部分もある。だから街道沿いの野営では知らずと大人数になる時がある。


 にも関わらず今晩は俺達しかいないってのは、かなり珍しいってわけだ。実際俺がこの世界に来てから初めてだと思う。


「ま、私的には余計な気を遣わずに済んだから逆にありがたいけどさ」


「それには同意する」


 ちなみにミュリスはすでに馬車の中で眠りについている。


 馬車に揺られる時間が大半だったとはいえ、初めての旅行なのだから疲れがたまるのも無理はない。


 何となく夜空を見上げると、平地で拓けた場所なので星がよく見える。


 前世とは全く違う星の位置。


 俺が勝手に決めた異世界北極星は今晩も一際輝いていた。


 異世界オリオン座まではさすがに見つけてないけれど、一年での星の位置は大体頭の中に入っている。


 でも宇宙の彼方から魔王がやってくるなんて知ってたら星図でも作っておいたんだけどな。いや、今からでも遅くはないか?


「…………タカ、君は昔私にこっちの世界に『セイザ』はあるのかって聞いたよね」


「よく覚えてんな」


「星と星を繋げて空に神話を描くだなんて未知の発想だったからね」


 そう、こっちの世界には星座は存在しない。


 天体好きとしてはちょっと寂しい。


「なぜこの世界には星座がないのかな?」


「そらあれだ、神話を空に描く必要がないからだよ」


「必要がない?」


「神々はこの世界じゃ姿こそ見せないが身近な存在だ。誰もその存在を疑わない。でも俺のいた世界じゃそうじゃなかった。それだけだ」


「それは……なんだか寂しい世界だなぁ」


「……かもな。そろそろ寝ろ。感知結界が張ってあるとはいえ見張りは必要だ。ただでさえお前は早起きが苦手なんだから」

 

「はいはい」


 夜空から視線を戻してミュリスを起こさないようそっと馬車に乗るメルリーゼの背中を見送り、そのまま周囲の警戒に視線をめぐらした。




 何事もなかった野営の一晩を過ごした後、日が落ちる前に最終目的地であるグロット山の一番麓にあるシエロ村に到着した。


「今日はここで一泊するぞ」


「はい。やっぱり山の方はまだ肌寒いですね」


「ここらは陽が落ちるとすぐに冷え込むからねぇ」


 二人ともすでに上着を羽織っていたが、口に出した通りそれでも寒さを感じる程度には気温が低い。


 グロット山の上の方にはまだ雪も残っているから無理もないな。


 馴染みの宿屋にチェックインして、部屋に荷物を置いた後に食堂で夕飯をとる。


 暖炉とシチューの温かみに思わずホッとする。


「私達以外のお客さんは獣人の方が多いですね。それも狼獣人の方ばかりです」


「神獣は獣人達から信仰されているからな。ここの神獣は天狼だから狼系の獣人がよく参拝に来るんだ」


「山の中腹にお社があってね、ここに泊まってる人達はそこにお供えをしにいくのさ」


「なるほどです。そういえばミャーナさんのお家にも猫の像が祭壇に安置されていました。あの像も神獣を模した物だったんですね」


「多分な。ガラス細工の神様じゃなけりゃ神獣だろう」


「猫系の獣人に人気の神獣は『緋獅子』か『絹猫』だろうね。工芸師なら絹猫かな」


「獅子には見えなかったのでそうだと思います」


 メルリーゼがミュリスに絹猫の逸話を話していると、年配の狼獣人が宿に入ってきた。


 銀髪にシワが刻まれた厳つい顔こそ老人だが、体つきはまだまだ若い者には負けんわいと言わんばかりのマッチョぶりだ。


「おーい、こっちだ」


 俺の呼び掛けにこちらを向くと、片眉を上げてこちらにやってきた。


「タカ、半年ぶりだな」


 ガシッと手を握り、よく来たとばかりに空いた手で肩をポンポンとたたく。


「久しぶりだな、マードック」


 このマッチョじいさんはマードック。


 俺に天狼の抜け毛の採取を依頼してきた依頼人で、このシエロ村の村長だ。


「またよろしく頼む」


「ああ」


「今回は魔女殿と新顔も一緒か」


「紹介するよ。この子はミュリス。俺が世話になってる鍛冶師の孫で、新人冒険者だ」


 俺の紹介を受けたミュリスはにこやかに挨拶をした。


「初めまして、マードックさん。私はFランク冒険者でハーフドワーフのミュリスといいます」


「この村の村長をやってるマードックだ」


 マードックは無表情だが、自分の厳つい見た目に物怖じしないミュリスの事は気に入ったらしい。尻尾が穏やかに揺れていた。


「久しぶりだな、村長殿」


「魔女殿も久しぶりだな。今回は何かあるか?」


 メルリーゼはこの村に来ると、魔道具やポーションの類いを高山帯に生える薬草や高山帯に出没する魔物の素材と物々交換していた。


「今回は急に決まったから数はさほどではないけどね」


「あんたの作る物はどれも質が良い。頼む」


「採取から帰ってきたら交換しよう。明日の夕方でどうだい?」


「わかった。それまでに物を用意しておく」


「コプティスがあるならいくらでも引き取るよ」


「村の連中に伝えとくよ」


 マードックは俺達に一杯奢って帰っていった。


「メルリーゼさん、コプティスって何ですか?」


「グロット山に生えてる薬草さ。胃薬の材料でね、よく効くのだよ。後は水に煎じた水薬が目のできものにも効くね」


「グロット山でしか採れない薬草なんですか?」


「この辺りではそうだね」


「やっぱりグロット山はとても高いからなんでしょうか」


「高いから、というより涼しいからだね。コプティスは暑い場所だと生えないからね。だから北の大地だと平地でも生えてるよ」


「なるほど~。メルリーゼさんは色々ご存知で本当に凄いです。他にもグロット山で採れる薬草はあるんですか?」


「もちろんさ!コプティス以外にもこの山には沢山の貴重な薬草があってね……」


 マードックに奢ってもらったシエロ村特製のミード(蜂蜜酒)が気に入ったらしいミュリスが、お代わりを頼みながらメルリーゼにあれこれ質問しては凄いですと驚きの声をあげ、気を良くしたメルリーゼが得意気に蘊蓄を語っている。


 何か、昔の自分を見ているみたいだ。


 メルリーゼに弟子入りして魔法を習い始めた頃の俺もあんな風にスゲースゲー言ってたな。


 今のミュリスほどピュアではなかったにしろ、初めて覚えた魔法には純粋に感動したし、かなりメルリーゼをよいしょしてあれもこれもと教わったなぁ、無料(ただ)で。


 メルリーゼも最初の頃は賢者の知識は値千金なんだぞ、とか言ってたんだけどね。


「さすがメルリーゼさん」


「はっはっは。何でも聞いてくれたまえ」


 おだてられると弱い系賢者メルリーゼさんはお酒の援護もあって今晩も絶好調だ。


 ただ調子に乗ると飲むペースが早くなるからここらでセーブしとかないとな。


「二人とも酒はそこまでにしとけ。体内に酒が残ってると明日が辛いぞ」


 ちなみにメルリーゼは身体強化無しで登るようにと告げる。


 抗議の声を無視して俺は自分の部屋へと戻った。





「さて、絶好の登山日和だな」


「いいお天気で良かったです」


「……眠い、寒い」


 一人だけブツブツ言ってるエルフがいるが、気にせずそのまま出発。


 天狼の毛が採取できるのは頂上付近。


 標高千メートル越えのグロット山はまだ雪が所々に残っているが、日当たりがよくて雪が融けているルートを選んで登っていく予定だ。


 最短ルートよりは距離があるが、無理して残雪の中に突っ込んで行くよりはずっと早く登ることができる。


 それに五合目にあるお社までは地元の人がこまめに除雪しているのですいすい行けるしな。


「まずはお社まで行くぞー」


「お供え物を持っていった方がいいんでしょうか?」


「必要ないよ。我々が行く事自体がお供えみたいな物だからね」


「そうなんですか???」


「ま、ついてからのお楽しみってやつさ」


 疑問しかない顔のミュリスにニンマリと笑ってからこちらに意味ありげな視線を向けるメルリーゼを無視してそのまま参拝道を登っていく。


 たまに早起きの信者さんとすれ違っては挨拶をするが、只人に(ハーフ)ドワーフにエルフの三人組が珍しいのか、おや?といった顔をする人ばかりだ。


 まあ実際この山で獣人以外とすれ違う方が珍しいんだけど。


「お、見えてきたな」


 視界の先に巨大な岩で作られたお社が見えてきた。


 お社って言っても神社とかじゃなくて奈良県の石舞台古墳みたいな感じ。


 参拝者の人はここに干し肉をお供えしてお祈りするのがスタンダード。


 生肉だと季節によっては腐ってしまうからな。


 お祈りは主に子供の健康に関してで、強い子に育ってほしいと願うのだそうだ。


「立派なお社ですね」


「やれやれ、やっと半分か」

 

 まだまだ余裕の表情のミュリスとすでに若干へばり気味なメルリーゼ。


 ミュリスは予想以上に体力があってメルリーゼは予想以上に鈍っているな。


「ここからは整備された参拝道じゃなくて荒れた山道を歩く事になるぞ」


「頑張ります!」


「その前に、ちょっと休憩させてくれぇ……」


 メルリーゼの情けない声に思わず脱力してしまい、お社の脇にある石製のベンチで休憩をする事になった。


「本当なら七合目の尻尾岩で休憩しようと思ってたんだけどな」


 アイテムボックスからハチミツレモン水を取り出して二人に渡す。


「お、出たな。タカ特製疲労回復ドリンク」


 酒でも飲むかのようにゴクゴク飲むメルリーゼと、対照的に一口一口味わって飲むミュリス。性格が出るなぁ。


「甘くて美味しいです。ハチミツとレモンってこんなにも合うものだったんですね」


「甘いものの代表と酸っぱいものの代表だから意外だったろ。こいつは俺の地元じゃ疲れた時に飲むジュースでな、体力ポーションと違って身体を無理に回復させる訳じゃないから後遺症もない」


「え?体力ポーションって後遺症があるんですか?」


 私、飲んだことがないんですとびっくり顔だ。


「体力ポーションは体力を回復させると思われ勝ちだけど、実際には疲労を一時的に忘れさせるだけなんだよ。だから効果が切れると揺り戻しが激しくてね、めちゃくちゃダルい」


 もう一歩も動けないどころか、もう心臓動かすのも辛いって感じだからなぁ。


 前世でも仕事の忙しい時期はエナジードリンクや箱の豪華な栄養ドリンクを飲んで仕事していた時はあったけど、あれは結局カフェインを大量摂取したりして頭を無理矢理シャキッとさせるドーピングみたいなもんだから、仕事終わった後の疲労感が半端なかった。


 家に帰ると布団に倒れ込んでそのまま寝落ちなんてしょっちゅうだったからな。


 で、翌朝慌ててシャワーを浴びて出勤するのが毎度のパターンだった。


 俺が過去の修羅場を思い出している間にメルリーゼが体力ポーション以外の各種ポーションについてもミュリスに説明していた。


「魔力ポーションは魔力を豊富に含んだ素材を魔力を損なわずに液体化したものでね、飲めば魔力は回復するけどポーションに含まれた魔力を百パーセント吸収できるわけじゃないし、回復も個人差があるのさ。おまけに苦い。毒消しポーションはほぼ全ての毒に効果があるけど、あくまで症状の緩和で特効薬じゃないから神官や医者に適切な魔術か薬草を煎じてもらわないと完全には回復しないのだよ」


「ポーションがあれば大丈夫ってわけではなかったんですね」


 ミュリスは新人冒険者が最初に購入する低級ポーションセットが入った腰のホルダーに手をやった。


「緊急時には必須のアイテムだけど、効果を盲信してはいけないね」


 その後もポーションの材料なんかを軽く雑談し、充分に休憩をとってから再出発した。




「そっちに行ったぞミュリス」


「はい!」


「落ち着いて、充分引き付けて……今だ!」


「やあぁぁぁー!」


「プギュワァァァ!」


 ドゴン!と重い音を響かせてヒットしたミュリスのハンマーがロックボアを地面に叩きつけ、ロックボアは断末魔を上げて動かなくなった。


「や、やったぁ……」


 緊張のせいか息の荒いミュリスの肩に手を置いたメルリーゼが祝いの言葉をかける。


「初魔獣退治、おめでとう。これで君もいっぱしの冒険者さ」


「はい!」


 驚いた事に、ミュリスは廃鉱に行った時に途中の森でも廃鉱の中でもアイアンホーンドフロッグに襲われるまでに一度も魔獣と出会わなかったらしい。


 あの森はあの辺りまで行けばウッドボアやシャドーディアがいるし、廃鉱の入り口周辺にはアイアンフロッグやメタルスライム(経験値はくれない)が結構いるはずなんだが……。


 運が良いんだか悪いんだか。


「お二人のおかげです」


「それでも初回撃破がロックボアなんて冒険者は中々いないぞ。そもそも攻撃が通りにくい奴だからね。それを一撃で仕留められたのだから君の実力さ。誇って良いよ」


「ありがとうございます!」


 確かに肌が岩のように固いからそう名付けられたロックボアを一撃で殺れるなんてそれこそ中級クラスの冒険者じゃないと出来ないもんだ。


 いくらドワーフの血が流れてるとはいえ、ポテンシャルは凄まじいものを持ってるな。


「こいつはお土産にしよう」


「良いおやつ替わりになるだろうね」


「おやつですか?」


「ああ、ロックボアは毛皮はそれなりに需要があるけど肉は固くてね、食べようとするとかなり手間がかかる割には然程美味しくもないんだ。でも天狼ならそんなの気にせずバリバリ食べられるから」


 とくに処理せずにアイテムボックスに放り込む。


「記念に何か素材が欲しいのなら上でさばくけど?」


「いえ、大丈夫です」


「じゃ、先に進むか」


 それからは魔獣に出会う事もなく順調に進み、もう一度休憩を挟んでから頂上付近までやってきた。 


「ようやく見えてきたな」


「あそこが頂上ですか。でも」


 キョロキョロと周辺を見回すミュリス。


「天狼様は見当たらないですね」


「天狼は普段は人の前に姿を現さないんだ。そもそも天狼は縄張りに人が入る事を嫌うからね。普通なら天狼が張った結界のせいで頂上にたどり着けないからもっと標高の低い場所を歩き回って抜け毛を探すもんなんだけど……」


 森を抜けて見通しのよい広い場所までたどり着いた瞬間、急に上から何かが降ってきて俺の身体を押し倒した。


「ふぎゅ!」


「タカさん!」


 ペロペロペロペロペロペロペロペロ。


 降ってきた何かは俺の顔をこれでもかとなめ回し始めた。


「だあッ!離れろアルジェ!」


「ウォンッ!」


「え?え?えぇ?」


 俺をなめ回してきたそいつは、わかった!と一声鳴いて俺の上から身体をどかした。


「あ~くそ、ヨダレまみれじゃねーか」


 水魔法で水球を作り、顔を洗う。


「お前はもう俺よりでっかくなっちまったんだから背中に乗るのはやめてくれ。潰されちまう」


「ウォ~ン?」


「ダメなもんはダメ」


「クゥ~ン」


 えぇ~とばかりに尻尾を垂れ下げる姿に思わず苦笑いして、ワシワシと頭を撫でてやる。


「久しぶりだな、アルジェ。今年もブラッシングに来たぞ」


「ウォン!」


 元気よく吠えて、垂れ下がった尻尾を再びパタパタ振り始めた。


「とゆーわけでミュリス、こいつが天狼のアルジェだ」


 白銀の毛色に二本足で立てば俺より一回りでかい狼を撫でながらミュリスに紹介する。


「えぇ~……」


 ミュリスは驚きのあまり言葉もないらしい


「ちょ、君達、少しは待って、くれても、いいじゃ、ないかぁ……」


 息も絶え絶えのメルリーゼが追い付いてくると、アルジェは久しぶりーとばかりにメルリーゼにも飛びついた。


「ちょ、アルジェ、やめてくれ、今疲れてるから。本当にヘロヘロだから、やめ、なめるの、ちょっと、やめてくれぇ~」


 抵抗出来ずに地面に押し倒されたメルリーゼはアルジェのペロペロ攻撃にダウン寸前だ。


「久しぶりね、タカ」


 一エルフと一匹のやり取りをながめていたら背中から声をかけられた。


 ふりむくと、そこにはいつの間にかアルジェよりさらに大きな狼が立っていた。


「久しぶりだな、フィーティー」


「今年もよろしくお願いするわね」


「ああ、まかしとけ」


 俺はアイテムボックスから大きな布と大小のブラシを取り出して、地面にしいた布の上にブラシを並べるのだった。



 

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