異世界ロケット作成中 15
「わ、私も連れてって下さい!」
「は?」
「ふむ?」
ギャロ工房を後にした俺達はミュリスとゴランドさんにも一声かけてからグロット山に向かおうと家をたずねたら、何故か話を聞いたミュリスが自分も連れていってくれとお願いしてきた。
「いやなんでだよ?」
「そ、それは、あのですね、私は駆け出し冒険者ですのでお二人に色々教えて欲しくて、ですね」
「それなら帰ってきてから教えてやるぞ?」
「う……でも、その」
ミュリスはあうあう言いながら俺とメルリーゼの顔を交互に見つつ、胸の前で両手をギュっと握って困り顔だ。
「そもそもアイアンリザードが欲しくて冒険者登録したんだからもう無理に冒険者しなくてよくない?」
「いえいえ私は鍛治が出来ないのでおじいちゃんの後を継げませんから冒険者のお仕事を頑張ろうかと思ってですね。母も冒険者でしたし」
「一生続けられるような仕事じゃないぞ。お袋さんも親父さんと結婚して引退したんだろ。ミュリスはこの工房の経理とかもやってるんだから冒険者なんかしなくても就職先には困らないだろ」
この世界はなんだかんだとこういった地方都市での教育レベルは前世の中世くらいだから読み書き計算が出来る人材は引く手あまただ。
学校がないこの世界では学歴も存在しないので就職は基本コネだけど、このゴタゴタが片付けばミュリスならかなり条件の良いところをいくつも紹介してもらえるだろう。
それに、正直ミュリスは冒険者には向いてないと思うし。
「いえですからおじいちゃんのお仕事を手伝いつつ私自身も職を持とうという感じでですね、家業と副業と申しましょうか。それに今はおじいちゃんは神託の船を作る事が一番大事なので私自身も冒険者として稼いで金銭的に助けたいという考えもあったりですね」
矢継ぎ早に言葉を重ねるミュリスだが、本音は別の所にあって伝えたい事が上手く言葉に出来なくてもどかしい、そんな感じに見える。
そんなミュリスの反応を見ながらメルリーゼはニンマリと笑った。
「いいんじゃないか?」
「メルリーゼ?」
「新人に正しい知識と経験を教えるのも先達の仕事ってもんさ。それに帰ってきてからは忙しくなってそんな時間がとれない可能性もあるしね」
「あのな」
ちょっと待てと言おうとしたが、メルリーゼの発言で期待満々な顔をしたミュリスに思わず口ごもる。
「そのな、数日とはいえゴランドさんの世話とかもあるだろ?」
そう言いながらゴランドさんをうかがうが、予想に反してゴランドさんはミュリスの同行をあっさりと認めた。
「ワシは足腰立たぬほど耄碌しとらんし鼻たれたガキでもないわい。自分の面倒くらい自分でみれるわ!」
「いや、そうなんだろうが……」
あっるれぇ~?
孫バカなゴランドさんなら『ワシの可愛い孫をお前のような奴と一緒に行かせられるかぁ~!』とか絶対言うと思ったのに。
ゴランドさんの反応に違和感を感じている俺を無視してメルリーゼはパンと手の平を合わせた。
「決まりだな。保護者の許可も取れた事だしすぐに準備にとりかかろうではないか」
「はい!」
「お、おう」
腕を組んで黙ってしまったゴランドさんを気にしつつ、俺もなし崩し的にミュリスの同行を許可したのだった。
「じゃあ俺は馬車を借りてくるからミュリスの装備を見てやってくれ」
「板バネ付きのを頼むぞ」
「すみません。よろしくおねがいします」
ミュリスは冒険者装備を最低限しか揃えていなかったので野宿などに必要な道具を買い足すために冒険者向けの道具屋へメルリーゼについていってもらい、その間に俺は馬車を借りる事にした。
途中までは乗り合い馬車の定期便も出ているが、最寄りの村まで行かずその途中にある街までしか出ていない。
その街から運が良ければ行商人の馬車なんかに便乗出来ることもあるが、運に頼って失敗するとその街で高い金を出して馬車を借りるか徒歩になってしまう。
馬車の金額は田舎料金で足下見てくるからやたら高い。街までの乗り合い馬車の料金と合わせるとウレザスで馬車を借りるより高くついてしまう。
徒歩はそもそも論外だ。
グロット山は標高がけっこう高いし登山道は五合目から上は獣道と変わらない険しさ。
ミュリスはハーフドワーフだから体力はあるだろうが山登りの経験はほとんどない。
慣れない山道では余計に体力を消耗するからせめて麓の村でゆっくり休める時間は欲しい。
「さてさて、板バネは空いてるかね」
貸し馬車屋に行くと、すでに何人か先客がいた。
その中には知り合いの冒険者パーティーもいて、挨拶がてら順番が来るまでちょっと世間話をする。
むこうはどうやら日帰り出来る距離にある海沿いの村でサハギンの討伐依頼を受けたらしい。
あいつら、暖かくなると海から出てきて干物を盗んだりするからな。
こっちは天狼の抜け毛を採取しに行くついでに新人教育だと告げるとビックリしていた。
俺は基本ソロだからってのもあるが、新人をグロット山に連れていくのもビックリらしい。
確かにあそこはけっこう険しいが、ちゃんとルートを見極められれば危険はそれほどでもないんだがなぁ。
そうこうしている内に彼らの番になり、板バネ馬車を借り受けていた。
俺の番になったので板バネ馬車を借りようとしたのだが。
「え、マジか」
「はい。今日は珍しく全部借りられてしまって空きがないんです」
受付の兄ちゃんは申し訳なさそうに頭を下げた。
うーん、普通の馬車でも速度はあまり変わらないのだが、ノーマル馬車は揺れが激しくて慣れないとめちゃくちゃ疲れるしケツが死ぬ。
未舗装のでこぼこ道をノーマル馬車で走るくらいなら馬か亜走竜を借りた方がいい。
問題はミュリスが馬や亜走竜に乗れるか、だが……。
悩んでる俺を見て先ほどのパーティーが声をかけてきた。
何、板バネ馬車を譲ってくれるだって?
いやお前らはどうするんだよ?
亜走竜を借りると。
もちろんこっちとしてはありがたいけど。
この借りは天狼の抜け毛をゆずってくれれば良いと。
天狼の抜け毛が前から欲しかったけど自分達では取りにいけないからちょうど良い?
そうか。なら取り引き成立ということで。
素直に好意に甘え、板バネ馬車を借りる事が出来た。
とりあえず貸し馬車屋の前でアイテムボックスからクッションを取り出して下に敷く。
アラクネのキクエさんの店で買った特別なクッションで、中の綿にアラクネの糸を混ぜる事により柔らかさが調整できる優れものだ。
転生前にも持っていた人をダメにするクッションのさらに上を行くダメさ具合で、いつか俺が冒険者を引退したら特大サイズを作ってもらって一日中そこに埋もれる予定だ。
「お、ちゃんと板バネ馬車を借りられたようだな」
「タカさん、お待たせしました」
ミュリスとメルリーゼが買った物を両手に抱えてやってきた。
「何をどんだけ買ったんだお前ら」
「酒とつまみを沢山」
「寝袋とランプとランプの予備とマントと厚めの手袋とアラクネ特性靴下とその予備の靴下とポーション一式とタオルと簡易調理器具と予備の靴と予備の…」
酒の入った袋を得意げに掲げるメルリーゼに、初めての遠征にあれもこれもと買い足したミュリス。
俺は無言でメルリーゼのフードを下ろして掴みやすい長い耳を引っ張った。
「あだだだだだ痛い痛い痛い!」
「ちゃんとあれこれ指導しろと言ったよなメルリーゼ」
「ちゃ、ちゃんと最低限買わなきゃいけないものは教えたってあだだだだ捻るのはなし捻るのはなしぃ!」
「どこがだこのアホ。ミュリスが買ったもん全部担がせたら自分の身長くらいあるじゃねーか。しかもお前は何でそんなに酒を買い込んでんだよ」
「と、途中で飲もうかと思って痛ててててちぎれるちぎれるぅ!」
「多すぎだろうが。荷物も酒も。せめて果実酒一本くらいにしとけ」
「わかったわかったからゴメンて謝るから耳離してくれぇ!」
泣きの入ったメルリーゼの耳を離して、荷物を持ってオロオロしているミュリスに買ったものを馬車の荷台に並べるように言う。
「とりあえず今回必要になる最低限の物を背嚢に詰め込んで要らない物は俺のアイテムボックスに入れるから」
「は、はい。分かりました!」
ミュリスに荷物を最低限でコンパクトになるよう仕舞い方を教えながら選別させ、背嚢に詰め込ませる。
俺のようなアイテムボックス持ちと必ず一緒に行動出来るとは限らないのだから荷物の選別や収納の仕方は重要だ。
特に泊まりでの遠征時はこういった手間隙が命をわける事も多い。
出先で手に入れられる物とそうでない物を覚えたりだとか、すぐに必要な物は取り出しやすい場所に入れたりだとか新人の内から学んでおくにこした事はない。
ミュリスが荷物を詰め終わるとやっとメルリーゼが復活した。
「うう、ひどい目にあった。エルフの弱点である耳を引っ張るとはなんて卑劣な弟子なんだ」
「新人に正しい知識と経験を教えるのも先達の仕事って言ったよなお前」
誰が遠征に酒を大量に買う姿を後輩に見せろと言ったしこの反面エルフめ。
「いや、だから最低限必要な物は教えて後は自分で考えさせるのも経験かなって。荷物を買いすぎるのも新人あるあるだし」
「酒を買いすぎたお前が言っても説得力皆無じゃねーか!」
「そこはタカのアイテムボックスに入れればいいかなって」
「常にアイテムボックス持ちがパーティーにいるとは限らねーだろーが」
はっはっはと笑ってごまかす反面エルフの耳をもう一度掴んでやろうとしたら、勘づいてすぐさまフードを被り直すと荷台に飛び乗った。
「ほら、さっさと出るぞ。ぐずぐずしてると鉢合わせになるかもしれないからな」
「この、誰のせいだと……はぁ、とにかく出発するか。ミュリスも荷台に乗れ」
「はい!」
ミュリスが荷台に座るのを確認してから俺も御者席に乗り込んだ。
「うわー。ウレザスの街がもうあんなに小さくなっちゃいましたね」
さっきまでずっとメルリーゼとおしゃべりしていたミュリスは、荷台の布をめくって後ろの景色を見ると驚きの声をあげた。
「実は私、ウレザスの街の外に泊まりで出かけるのは初めてなんです」
ミュリスの年齢で旅行とかに行った事がないのはこの世界じゃ珍しい事じゃない。
前世と違って魔物が頻繁に出るし、乗り合い馬車なんかだと乗り心地はよくないし狭いしでとてもじゃないが快適とはほど遠いので、必要がない限りウレザスのような治安の良い街の庶民はわざわざ街の外に出る事がないからな。
こうやって馬車を借りるとしても、一日で往復できないような距離だと普通の人なら護衛を雇わなければならないからその分費用もかさむので、金持ち以外はまず利用しない。
それでもウレザスみたいなでかい街なら街道沿いを衛兵が巡回するから日帰りできる距離ならわりと大丈夫なんだが、それも百パーセントとまでは言えない。
この世界はなんだかんだと危険が多い。
「今はどこに向かっているんですか?」
「湖の街『ストランツァーメ』だな。昼飯はそこで食べる」
街の名前にもなってるストランツァーメ湖は海と繋がっている大きな汽水湖だ。一周するのに馬車で半日くらいかかるほど広い。
この世界には海にももちろん魔物がいる。しかもでかい。クラーケンとかシーサーペントとかは大型バスくらいのサイズの船をあっさり沈められるくらいでかい。
沖に出る漁師はその魔物とやりあえるくらい強い選ばれし海の男達だ。その辺の騎士なんかよりよっぽど強い。
ただストランツァーメは海と繋がる水路が狭く浅いため、大型の魔物は入ってこれないのでさほど危険はなく老若男女全てが海産物で生計を立てている。
貝にカニやエビ、この世界では珍しい魚と海苔の養殖など色々盛んだ。
ウレザスも海が近いから魚料理は盛んだが、こっちは海際なのでより新鮮な海の幸が楽しめる。
俺の説明を聞いたミュリスは目を輝かせた。
「楽しみです!」
「うん、あそこの料理はとにかく酒に合うから私も楽しみだ」
「俺も何だかんだ久しぶりだから楽しみだなぁ」
街に近づくにつれて俺達以外の馬車や徒歩の人達が増えてきた。
ほとんどはストランツァーメに買い付けに来た商人達のようだ。
ストランツァーメは塩や乾物も盛んだから山側の街や村では必ず売れる。
駆け出しの商人が資金稼ぎするにはうってつけの手堅い商売だ。
「ストランツァーメにようこそ。商売かい?」
「いや、昼飯に立ち寄っただけだよ」
街の入り口で門番に冒険者証を見せながら軽く世間話をする。
「久しぶりに新鮮な海の幸が食いたくなってな。今年は漁の方はどう?」
「中は例年通りだが、外はシーサーペントがやたら多くてな、沖の魚が値が高めだ」
門番は御者席に出てきた(狭いんだが)メルリーゼとその後から顔を出したミュリスの冒険者証も確認しながら、俺の好物は沖の魚のフライだから最近かかぁが晩飯に出してくんねぇのよとため息をついた。
「近い内に冒険者と協力して大規模なシーサーペント狩りが行われるらしい。あんたらも良かったら参加してくれよな」
「タイミングが合えばな」
愛想の良い門番は昼飯を楽しんでこいよと言って俺達を中に通してくれた。
「シーサーペントが大量にねぇ。値崩れしそうだから素材を買い付けるなら帰りにもう一度確認するか」
メルリーゼはウレザスより安い海の魔物の素材を買い込もうと思っていたらしい。
「シーサーペントはお肉を食べた事がありますけど、さっぱりした白身で美味しかったですのでもしあったらおじいちゃんのお土産に買って帰りたいです。でも何で今年は沢山いるんでしょうか」
「さてねぇ。沖の潮流のせいか、外敵に追いやられたか、はたまた別の理由か」
シーサーペントは沖に生息するが産卵は比較的沿岸で行うため今の時期はわりと陸に近い場所で目撃されるのだけど、産卵場所はこの辺りのような遠浅の砂浜地帯ではなくそこそこ水深のある岩礁帯だったはず。
「私としては外敵に一票かな」
「ほう。理由は?」
「西の海で暴れた奴の討ちもらしだろ」
「……そういやそんな話をギルマスが言ってたなぁ」
「ど~せデカイ魔法を一発適当に撃ち込んではいさよならって感じだったんだろうさ」
「そうだろうなぁ」
「????」
俺達の話についてこれないミュリスに説明をする。
「ちょっと前に勇者が国の依頼でシーサーペントの討伐に行ったんだ。その討ちもらしがこっちまで来た可能性があるってことだ」
「勇者様、ですか」
「そうだ。あいつは勇者のみが使える神光魔法っていう反則みたいな威力の魔法があるからな。シーサーペントの産卵場所にドカンと一発ぶちこんだんだろ」
神光魔法は属性魔法の何倍もの威力があり、上級魔法一発で地形を大きく変えるほどの破壊力だ。
例えるなら属性魔法=銃で、神光魔法=ミサイルって感じかな。
ミュリスには静電気とアイアンホーンドフロッグを倒した中級雷魔法くらい違うと言ったらええっ?!と目をまん丸にして驚いた。
「そんな恐ろしい威力の魔法を使用しても討ちもらしするくらい沢山いたのでしょうか?」
「討ちもらしとか気にしなかったんだろうよ。目に見える範囲で倒したからこれでいいだろって勝手に判断して帰ったんじゃないかな」
「で、でも国からの正式な依頼なんですよね?一応討ちもらしを魔法で確認したりしなかったんでしょうか?」
ミュリスが言う魔法はサーチの魔法だろう。牧場の人や狩人なんかが覚える無属性魔法で、特定の範囲内で指定した対象を補足できる。
俺も使えるしメルリーゼも使える。冒険者には有用だからパーティー内に一人は覚えておいて損はないと冒険者ギルドからも推奨されている魔法だ。
ちなみに無属性魔法は魔力を必要とするけど属性は必要ない魔法で、魔法の知識ではなくその魔法に関する経験が獲得条件だ。
狩人や牧場の人なら獲物や家畜の数や居場所を把握するために仕事をこなしていく内にサーチを覚える、みたいな感じだな。
だから無属性魔法は個人的には魔法と言うよりスキルと言った方がしっくりくる。
「あの勇者は魔法の練習を全然しないから神光魔法以外は使えないんだ。しかも上中下の三種類しか撃てないのさ。おそらく下と中では威力が足りないと思っていきなり上をぶちこんだんだろうね。あいつのパーティーは勇者の言うことにはハイとしか言えないイエスマン連中しかいないからサーチを覚えていても使わなかったんだろ」
呆れるよとばかりに両手の平を上に向けて首を振るメルリーゼに、ミュリスは微妙な表情だ。
「でも勇者様ですよね?いくらなんでもそんな……」
「ありえるから質が悪いんだよ」
「えぇ~……」
「ミュリス、君の中の勇者像とはかけ離れているかもしれないけどあの勇者はそーゆー奴なんだよ」
「そう、なんですか……。じゃあやっぱり……」
ミュリスの視線を背中に感じつつも気がつかないふりをして、目的地に着いたから馬車から降りろと二人を急かすのだった。




