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異世界ロケット作成中 14



「なるほど、エール用のガラスジョッキですか」


 ナロ君とのカクテルグラスの話からそれぞれの酒に合うグラスの話になり、エール用のグラスもあるよと話したらギャロさんが興味を持った。


「そうです。この辺りでは木製のジョッキが主流ですが、王都はガラスと木製が半々です」


「何でガラス製にするんじゃ?」


「それは現物を見てもらうと早いかな」


 アイテムボックスから魔法で冷やしておいたガラス製のジョッキを取り出して、キンキンに冷やしておいたエールを注ぎ入れる。


 もちろん、泡をギリギリまでためてな。


「ほい、ギャロさん」


「ふむ、なるほど。ング、ング………なるほどなるほど」


 受け取ったギャロさんはまず見た目でうなずき、ごくごくと半分くらい飲んでさらにうなずいた。


「一つは見た目ですな。エール特有の泡を目に見えるようにする事によってより美味しそうに見えます。そしてジョッキの温度。このジョッキは冷やされているようですが、木製とガラス製だったらガラス製の方がより冷えるし保冷効果も高そうですね」


「その通りですね。苦味のある酒は喉越しを楽しむもの。喉越し感を上げるには冷やすのが一番です」


「ただ、木製と違いガラス製は割れてしまうのが欠点と言えば欠点ですな」


「なので酔って暴れるのが普通みたいな酒場では敬遠されますね」


「冒険者や傭兵が集まる酒場ではオススメ出来ないという事ですな」


 残りをゴクゴクと飲み干したギャロさんは、美味い!とジョッキを机にドンと置いた。


「タカ、ワシの分も」


「はいよ、分かってるって」


 ギャロさんからジョッキを受けとると、軽く水洗いしてから氷魔法を軽くかけて表面に霜がおりるくらいに冷やし、同様にエールを泡ギリギリまで注いで手渡した。


「ング、ング、ング……プハァー!こいつは確かにいいのう。我が家でもエールは冷やしとったが器まで冷やすというのはやったことがなかったわい。今度からはそうするかの。ギャロ、ジョッキをワシ専用に一つ頼むわい」


「いいでしょう。私も自分専用のジョッキを作るとしますかね」


 飲んべえ親父達はビールジョッキの形や大きさをあーでもないこーでもないと相談し始めた。


「タカさん。他に何かガラスを使った製品はないんですか?」


「パッとは思いつかないな~」


 ナロ君の質問にちょっと考える。


 ギャロ工房のグラスがカクテル映えしそうだったからグラスやジョッキの話しはしようと思っていたけど、それ以外となると何かあったかな?


「何でもかまいません」


「飲食関係じゃなく美術品とかでもいいんです」


「あんな高性能な望遠鏡や凄く美味しい飲み物を作れるタカさんなら、何か僕達の知らないガラス製品を知ってるんじゃないかと」


 期待の眼差しを向けてくる三兄弟。


 特にナロ君、ジンジャーエールのレシピはちゃんと教えるから目力を抑えて下さい。


「そう言われても」


 ビー玉か金魚鉢くらいしか思い浮かばないぞ。


 どっちも需要があるとは思えないし。


「う~~~ん………あ」


「「「何か思いついたんですか?!」」」


「怖い怖い勢いが怖いよ」


 三人がかりで問い詰められてちょっと引いてしまう。


「思いついたってわけじゃないんだけど」


 俺はアイテムボックスに手を突っ込んで目的のものを引っ張りだした。


「それは……糸、ですか?」


「茶色い糸ですね」


「かなり細いみたいですが」


 三人の言う通り、俺がアイテムボックスから取り出したのは茶色い糸の束だった。


「あれ?それってマグナル島で拾ってきたやつだよな」


 自分で冷やしたグラスでエールを飲みながらこっちをニンマリと笑いながら見ていたメルリーゼが見覚えがあるぞと糸を指差した。


「そうだ。マグナル島の火山周辺で拾ってきた糸だよ」


「火山って火を吹く山ですよね?」


「ミュリスは見たことあるか?」


「ないです。でもお母さんから聞いた事はあります。昔、東にあるニューライ山から火が吹いて、溢れ出た火泥が周辺の町を飲み込んだって」


「へー。俺はそっちは知らなかったな」


「ニューライ山は今はもう火を吹いていないんじゃ。最後に火を吹いたのは二百年も前じゃからな。ここ最近じゃ話題にのぼることも少ないから知らんのも無理はないの」


「そうなんだ。ニューライ山にもいつか行ってみよう。さて三人とも、この糸は特定の火山周辺でしか採取出来ない貴重な糸だ。この糸は山が火を吹いた時に自然と発生する糸なんだが、実はこいつ、ガラスなんだよ」


「「「「「えぇー?!」」」」」


 ギャロ一家が全員で驚きの声を上げた。


「ほ、本当なんですかタカさん!」

 

「本当だ」


 驚き顔のセロくんに糸の束を渡す。


「はい……本当だ。細いから別物に見えたけど感触はガラスっぽい」


「束だとわかるけど一本だけだったら絶対分からないよ」


「細工物を作る時に出るガラス屑に近いけど、こんなに細くて柔らかくはないな」


「何よりも驚きが、これが天然自然の作り上げたものだということですな」


「カツラとかも作れちゃいそうですねぇ」


 ギャロ一家は代わる代わる触っては感想を口にしている。


「俺の地元にマグナル島と同じようにこのガラス糸が採取出来る火山島があるんだけど、そこではこの糸を島の女神様の髪の毛だって言ってましたよ」


「女神様の抜け毛ってことかい?」


「そうだ。その女神様は火と大地を司っていてな、火山の噴火は女神様の怒りだと言われていたんだ」


「それは中々気性の荒い女神様だね」


「火の女神様ってのは大体嫉妬深くて怒りっぽいのが相場だからなー」


「怖いねぇ。それで、気になっていたんだけどそのガラス糸で何が作れるんだい?」


「そこは私も気になりますな」


「俺が知ってるのは断熱材かな」


「「「「「「「「だんねつざい?」」」」」」」」」


 俺の発言に全員がなにそれ?って顔をした。


「熱を断つ素材って意味で断熱材だよ。この糸を綿状にしてまとめた物を壁の中に敷き詰めると外の寒さを防げるのさ。おまけにガラスだから燃えにくいしね。後は防音材、音を抑える機能もあるらしい」


「それ、マジか?」


 あの家は冬は本当に寒いんだよと愚痴るメルリーゼにマジだと返す。


「ただ、綿状にしたものを隙間なく施工しなくちゃならないらしいけどね」


「それでも家の中まるごとエンチャントするよりマシだ。エンチャントすると他の魔法に干渉する事があるから迂闊に出来ないんだよなぁ」


 自宅が工房のメルリーゼにとって、緻密な魔力操作や繊細な魔法行使が必要な依頼が多いため作業時は屋内での別の魔法の使用は控えたいらしい。


「防音ってどれくらいの効果があるんですか?」


「どれくらい……う~ん、部屋の中を全面的に防音材を施工すれば今出ている音漏れがかなり収まるとは思う。だけど正直静音魔法(サイレンス)のが効果は高いよ」


 ミュリスはそうなんですかーとちょっと残念そうだった。


 ゴランドさんの工房はサイレンスがエンチャントされた扉を使っているみたいだけど、魔力補充もタダじゃないから節約したかったのかな。


「タカさん、私は今日あなたに会えて本当に良かったです」


「はい?」

 

 ギャロさんは唐突にそう言うと、俺の両肩をがっしりと掴んだ。


「レンズ作りの腕ならこの辺りでは一番と評価されてきましたが、さらに向上の余地がある事を示していただいただけでなく、新たなグラスやその効果的な使用法、さらに今までとはまったく異なるガラス製品の存在まで……。今日一日だけでギャロ工房の未来はとても明るいものとなりました。ああ、この出会いを感謝します酒の神ディオク様!」


 無理矢理俺にジョッキを握らせると、かんぱーいと酒をイッキ飲みするギャロさん。


 この人、顔色はまったく変わってないけどめちゃくちゃ酔っぱらってるよ!


「あらあらアナタ、飲み過ぎじゃないですか?」


「アンナ、今日という日に飲まずにいられるわけがない。我が息子達の、未来が、明るいものになるに違いないと確信した今日に!息子達の未来に!乾杯!」


「乾杯じゃ!」


 アンナさんの心配をよそに今度はゴランドさんと乾杯してイッキ飲みするギャロさん。


「ギャロさんって酒強いの?」


「飲んでる時は勢いがいいんですが……」


「顔色が変わらないだけでさほどでは……」


「おそらく明日は二日酔いで青くなってるでしょうね……」


「そうか……」


 二人に混ざってかんぱーいと酒をあおるメルリーゼを見ながら、三兄弟と一緒にため息をついた。


 この後もしばらく酒宴は続いたが、酒が底をついたのでお開きとなった。


 メルリーゼは案の定潰れたので、しょうがないので俺が宿泊している月馬亭まで背負っていき、新しく部屋を借りてベッドに転がしてやった。




 翌朝、食堂で朝食後のお茶を飲んでいると気だるげな顔をしたメルリーゼが降りてきた。


「おはよう」


「タカ、酷いじゃないか。起こしにも来ないで一人で先に朝食を食べているなんて」


 アンチドーテをかけてもらいたかったのにと愚痴るメルリーゼに、マーゴットさんが注文を取りにきた。


「今朝の魚セットはサルモの塩焼きで肉セットは鳥肉の香草焼きだよ」


「鳥は何の肉だい?」


「コールケィさ」


 コールケィはこっちの世界でいう野生の鶏の一種で、肉はやや固いがあっさりしていてけっこう美味い。値も安いから庶民の味代表みたいな肉だ。


「肉セットで。ワインもよろしく」


「はいよ」


 マーゴットさんの背中を見送りながらメルリーゼは今日はどうするのかと質問してきた。


「望遠鏡はギャロ氏のレンズ次第だろ?それ以外の部品もゴランド氏ならさほど苦労せず作れそうだしね」


「まあな。正直今すぐやる事はないんだが……」


「ライアン達かい?」


「ライアン達もそうだけどあいつらが護衛してくる神官が呪術師を発見してエモニ男爵家の企みがバレた後の事も考えるとなぁ……」


「面倒な事になりそうだよねぇ」


 はぁやれやれとおおげさに頭を横に降るメルリーゼに全面的に同意する。


「王家やあいつ(勇者)と関わりが深い貴族家が呪術に絡んでいたなんて大問題だ。取っ捕まえて王都に送ってはい終わり、で済めばいいんだけどよ」


「そうなる事を願ってるけど、そう上手くはいかない気がするね」


 マーゴットさんから肉セットを受け取ったメルリーゼの、ここのご飯は中々美味いよな、との言葉に同意しながら話を続ける。


「早けりゃ明日には来るって話だ。どちらの陣営にも顔を合わせたくないな」


「なら一週間前後は依頼で街の外に出た方がよくないかい?」


 面倒だから私も一緒についていくぞと言うメルリーゼにそうするかとうなずいた。


「前から頼まれていた天狼の抜け毛を採取するためにグロット山まで行くか」


「流石に馬車だよね?」


「麓の村まではな。本当なら身体強化なしの徒歩でお前の性根を叩き直したいんだが、今はあまりウレザスの街から離れるのもなぁ」


「望遠鏡の事もあるし、ゴランド氏の事もあるか」


「ああ、俺達と違ってゴランドさんは当事者だ。呪術師討伐とボンボンと半人前の捕縛が上手くいった後に、鍛冶師組合と何らかの話し合いはしなきゃならんだろう。そうなる前に天体望遠鏡だけでも仕上げたいけど難しそうだ。ならいっそ話し合いが終わるまで街を離れていれば良いかなって」


「ならギャロ氏とゴランド氏に一言断ってからグロット山まで行くとするか」


「そうするか。ひとまずギャロ工房に行こう」


 朝食を食べ終えたメルリーゼとギャロ工房へ行くと、すでに工房は開店していた。 


「ちょっと朝早いかなって思ってたけど」


「開いてて良かったじゃないか」


「そうだな。すみませ~ん」


 俺の声に昨日同様アンナさんがトテトテと店の奥から歩いてきた。


「あらあらタカさんとメルリーゼさん、おはようございます」


「どうも、おはようございます」


「おはようございます」


「昨日は本当にありがとうございました。望遠鏡を見せていただけただけでなくお酒や新商品のアイディアまでいただいてしまって」


 いただいてばっかりでと頭を下げるアンナさんにとんでもないと返す。


「ギャロさんにはこれから沢山返していただく予定ですから」


「はい。ギャロ工房の総力を結してタカさんの要望にお答え出来るレンズを作ってみせますね」


 アンナさんは胸を拳でポンとたたいて力強くうなずいた。


 見た目は年下に見えるけど、腕利き職人の奥さんだけあって肝っ玉もありそうだよな、アンナさん。


「それで、ギャロ氏は今朝はどうですか?」


「ええと、その……昨日飲み過ぎたようでして」


 お恥ずかしい限りですと苦笑いのアンナさんに、メルリーゼはポケットから薬の瓶を取り出してカウンターに置いた。


「こちらは二日酔いに良く効く私特性の酔いざましです。一口飲むだけで頭痛や吐き気がかなり緩和されますのでよろしかったらどうぞ。ああお代はけっこうですよ。もと値はタダのものですから」


 お前、そんなんあるんだったら俺にアンチドーテ頼むなし。


 メルリーゼは俺のジト目に気づかないふりをして薬の用法用量をアンナさんに説明した。


「まぁまぁすいません。メルリーゼさんにもお世話になってばかりで」


「かまいません。実は私達は今日から一週間ほど留守にします。その間に存分にタカの依頼品を作っていただきたいと思いまして。私も新しい天体望遠鏡が待ち遠しいですからね。その先行投資みたいな物です」


「そういう事でしたらありがたくちょうだいします。それで、一週間となるとどこか遠方まで行かれるのですか?」


「グロット山まで天狼の抜け毛を採取しに行くんですよ。麓の村まで馬車に乗っても片道二日はかかりますから」


「まあ、グロット山まで。暖かくなってきたとはいえ山の方はまだ肌寒いでしょうから気をつけて下さいね」


「ありがとうございます。それではまた」


「お邪魔しましたー」


 アンナさんの笑顔に送り出されながらギャロ工房を後にした。



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