異世界ロケット作成中 13
「えー、それでは第二回天体観測会を始めます。カンパーイ」
「「「「「「「「カンパーイ」」」」」」」」
何故か俺の挨拶とともにギャロ家での天体観測が始まった。いや本当なんで?
とりあえず最初の一杯を飲み干してギャロ一家のために試作反射式天体望遠鏡を月に向けてセット完了。
「それじゃあ最初は月の観測から始めっかね」
まず家主のギャロさんが接眼レンズを覗き込む。
「これは……凄い!」
ここまで間近にハッキリ見られるとは!と凄い感動していた。
この人、見た目の印象より感情が表に出る人だよなぁ。
「まあ本当!よく見えるわね~」
「凄い……。まるで目の前まで月が降りてきたような感覚だ」
「あの月の模様は枯れた池のようなくぼみが集まって出来たものだったのか」
「もっと白色なのかと思ったら本当は灰色だったんだなぁ」
アンナさんや息子ズも見る度に驚いている。
かわるがわる観測しては、ゴランドさんやミュリス、メルリーゼと同じような反応をしているな。
「ナハティア様の神殿もムーンラビットも見えなかったわね」
「それどころか誰も住んでなかったよ」
「そもそも木どころか雑草の一つも生えてなかったように見えるよね」
「川や海も見当たらなかったな」
「タカさん、月には生物は存在していないのですか?」
ギャロさんの質問に俺は即答した。
「していませんね」
「何故なのでしょうか」
「月は生き物が住める環境じゃないからです。水も草木もない土地じゃ生物は生きていけません」
より正確に言えば空気がないからだけど、それを何故知っていると聞かれたら色々面倒なので見える部分からの返答をする。
この世界では空気を吸わなくても生きていける生物とかが存在してるのかなと気になった時期もあったが、今まで出会った生物はすべて酸素ありきの内臓構造だったのでやはり無理なのだろう。
異世界あるあるのゴーレムは全て人為的に作られた魔法ロボットなので、月に誰かが打ち込まない限りは存在しない。
いやもしかしたら月の地下に巨大ゴーレムとかが隠されている可能性もゼロではないけども。
「神話だとナハティア様とムーンラビットが住んでいる、と教わりましたが」
「それは神界の月に、でしょう。人界の月じゃないですね」
「「「「「はぁ~。なるほど」」」」」
昨夜のゴランドさん達と同じリアクションだな。
「あ、あの、気になっていたんですけど、月の満ち欠けは何故起こるのでしょうか」
次男セロ君が手を上げて質問をする。
「あ、それ私も気になってました」
ミュリスも同様に手を上げる。
「月の満ち欠けは太陽と関係があるんだ。メルリーゼ、ライトの魔法を頼む」
「はいよ」
俺はギャロさんから板切れをもらい、木炭で図を描いた。
太陽を中心に丸を描き、その丸線上にこの星を、さらにこの星を中心に丸を描きその丸線上に月を書いた。
この世界では星が丸い、という事は過去の落ち人により知られているが、地動説だとかまでは流石に一般庶民には知られていない。
一部の知的階層では教わる事もあるらしいけどね。
「この星は太陽の周りを一年かけてグルグル回っている。その場所によって春や夏が存在するんだな」
この地域は一応四季が存在している。夏は日本ほど暑くならないし冬もさほど雪は降らないけど。
「で、この星自身も回っている。だから朝と夜がある」
「えっと、今が夜なのは回転して太陽の裏側にいるからですか?」
「正解だミュリス。で、月も回転しているんだ。この星の周りをな」
「月は自分でも回転しているんですか?」
「してるよ」
「でも月の模様っていつも一緒ですよね?」
「良い目のつけどころだなセロ君。月が一回転するのにかかる日数を自転周期という。そして月がこの星を一周する日数は公転周期だ。これらが同じくらいだから今日のような満月の時に見える模様が常に変わんねーんだよ」
地球だと月は自転も公転も27日かかっていた。
常に地球に向いている面は同じだからいつでも月にはうさぎがいるってわけだ。
そしてこの世界の月もほぼ同じ。常に見える模様は変わらない。ちなみにこの世界の月の模様は女神ナハティアの横顔である、との説が一番多い。
自宅(領地?)に自分の横顔をデザインするとかどんだけ自分が好きなんだって事になると思うんだが、この世界の人達はその部分にはつっこまない。
「つまりだ、月はこの星の周囲を回りつつ一緒に太陽の周りも回っている。で、月の位置が真裏に来た場合俺達からは見えないから新月となる。徐々に見える位置に移動してくるから満ち欠けが起こるってわけだ」
図に三日月半月満月と書き入れて説明すると、セロ君とミュリス以外の皆もなるほどねーと納得した。
唯一メルリーゼだけは知っていたらしく、ニヤリと笑ってコップを傾けた。
「他に何か質問はある?」
「あ、じゃあこの図だと月はこの星よりだいぶ小さくて、太陽はとても大きいですけど実際にこんな感じなんですか?」
「それはな……」
セロ君は他にも色々質問をしてきたが、とりあえず答えられるものだけ答えて分からない事はストレートに分からないと答えた。
「さて、では忌憚のないご意見をお願いいたします」
俺以外の男性陣は月以外の天体を観測しては盛り上がっているが、俺はその後ろでミュリスとアンナさん、ついでにメルリーゼにカクテルの試飲会をお願いした。
ちなみにライトの明かりが邪魔にならないようにメルリーゼに土魔法で衝立を作ってもらった。
カクテルは見た目の綺麗さも重要。見て楽しみ味も楽しむってね。
女性陣には最初に酒の強さを正直に自己申告してもらう。
ミュリスは強い。
ドワーフの血が色濃いんですと自信満々。昨日の飲みっぷり見てればうなずける。
メルリーゼは普通よりやや強いくらい。
飲むのは好きだがある一定量を越えるととたんに眠くなるんだよねぇと。うん、嫌と言う程知ってます。
アンナさんはあまり強くないとのこと。
嫌いじゃないけどそんなに沢山は飲めないんですよね、すぐ顔が赤くなっちゃって、との事。
酒の好みはミュリスが甘くて強め、メルリーゼはなんでもいい、アンナさんは甘くても苦味があってもいいけど弱め。
俺自身は人間ならばかなり強い方に入る。元々そこそこ強い方だったけど、就職してから鍛えられた。
九州男児は焼酎を水みたいに飲むのでそれに付き合う内に強くなったんだな。
もちろん無理矢理飲まされたりしたわけじゃない。
俺が就職した時は飲みニケーションに対してネガティブな意見も多くなっていたが、それは悪い面ばかりクローズアップされている所もあると思う。
もちろん断れない飲み会や無理矢理飲まされる飲み会、嫌いな上司や先輩との接待飲みはノーセンキューだが、気の合う同僚や上司部下との少人数の飲み会は楽しかった。
特に俺は地元生まれじゃなかったから地元の美味しいお店に連れてってもらうのは楽しかったし、仲の良い人達は皆本当の酒好きで、無理矢理飲む酒なんか美味しいわけがない、ちゃんと味を楽しめ!というスタンスだったから自分のペースで飲めたのも良かった。
こっちの世界に来てからはとりあえずエールと安い料理で馬鹿騒ぎなザ・冒険者な飲み会ばかりだったからたまに昔のような飲み会が懐かしくなったりする。
「じゃあまずはミュリスに」
金属製の水筒をシェイカー代わりにして、氷と材料の酒とライムジュースとシロップをシェークする。氷は魔法で水筒内に作成できるのでこの辺りは楽。
シャカシャカとシェークすると、女性陣から驚きの声があがる。
俺も始めてバーで生シェーク見た時は『おお!』と声を出してしまったのを思い出してしまった。
蓋をとり、魔法で冷やしていたギャロ工房謹製の透明度の高い浅めのグラスにカクテルを注ぎ入れる。
今回のグラスは全部ギャロ工房の商品をお借りしていて、お酒の映えるグラスを、と言ったら色々揃えてくれた。
本来ならストレーナーという中蓋みたいな道具で中の氷を落とさずカクテルだけコップに注ぎ入れるのだけど、ないので網杓子を使う。
「はい完成。ギムレットだ」
「昨日とは違うカクテルなんですね」
「昨日のは甘さ重視だったがこいつは強さもあるぞ」
ミュリスはグラスに顔を近づけて軽く香りをかいだ後、コクリと一口飲み込んだ。
「わ、わ、甘いです。ですけど強さもちゃんとあって、それに爽やかな味の果物が凄く合っていて美味しいです!」
ミュリスは気に入ったようだ。昨日のオレンジ・ブロッサム同様ごくごく飲んでいる。
「爽やかな果物って、市場で買った緑色のオレンジみたいなライムって奴かい?」
「そうだ。本来は船乗りが長い航海で野菜のかわりとしてジュースにして飲むものなんだけど、酒との相性も抜群なんだよな」
お次はアンナさん用に軽めのテキーラサンライズを作る。
軽めならカルーアミルクでも作りたかったのだが残念ながらカルーアが見つからなかった。
テキーラサンライズは見た目も美しいしオレンジジュースを多めに作ればアルコール度数も抑えられる。
グレナデンシロップっぽいものも見つけられたのも大きいな。
グレナデンシロップはザクロが原料のシロップで、綺麗な赤色をしている。
ちなみにこの世界では砂糖は高級品だが買えないレベルではない。
シロップ類は薬として薬屋で販売されているし同じくハチミツも養蜂に成功しているので砂糖より安く薬屋で手に入る。
テキーラっぽい酒は酒屋のおばちゃんから原料が麦でもジャガイモでもない植物の根だと聞いて購入した。味もテキーラっぽかった。
テキーラっぽい酒とオレンジを細長いグラスに注いで軽くステア。
グラスの縁から静かにグレナデンシロップを注ぎ入れて、飾りにオレンジをグラスに飾り完成。
オレンジ色とシロップの赤色のコントラストが上手く出来たと思う。
「わぁ~綺麗なお酒ですね~」
アンナさんは飲むのがもったいないかも、と言うほど見た目を気に入ってくれたようだ。
「これはテキーラサンライズってお酒です。この色合いは朝焼けを表現しているらしいですよ」
「「「へぇ~」」」
アンナさんだけでなく他の二人も興味深そうにグラスを眺めている。
「これはどう飲めばいいんですか?」
「かき混ぜてもいいですし、そのまま飲んでもかまいません。この赤い部分はシロップなので混ぜれば全体が一口めから甘めに、混ぜなければ徐々に味が変化していくのが楽しめますよ」
「じゃあ混ぜずにいただきますね」
小さな両手でグラスを傾けて一口飲むアンナさん。
小人用に小さめのグラスの方が良かったかな?
「あら、美味しい!オレンジジュースにお酒がほどよい濃さで混ざってて飲みやすいわ」
アンナさんも好感触。やはりオレンジジュースを使ったカクテルは外れないな。
「本当に味が変わるのね。面白いわ~」
そのまま二口三口と飲むアンナさんに刺激されたのか。
「タカ、私の分のカクテルも」
最年長なのに一番こらえ性がないメルリーゼが急かしてくる。
「分かってる。ちょっと待ってろ」
アルコールポーションと適当なスパイスと白ワインを割ったドライベルモットという食前酒っぽいもので、なんちゃってマティーニを作る。
ちなみにアルコールポーションは昔メルリーゼが薬屋で見つけてきて、身体に良い酒なんて最高じゃないかと一口飲んだら青臭っ!と吐き捨てて、二度と飲まないと叫んでいた。
お前はエルフなんだから元々草食だったんじゃないのか?と言ったら落ち人の偏見だ!と返され、エルフだって大半は肉を食うんだと説教されてしまった。
ベジタリアンなエルフは一応とある部族がそうらしいのだが、ずっと山奥に引っ込んでて他の部族との交流も最低限の引きこもりな奴らだと引きこもりがちなメルリーゼがおまいう発言するくらい会うことはないらしい。
とりあえずなんちゃってドライベルモットとジンを大きいグラスで軽くステアして、オリーブの入ったワイングラスに注いで完成。
「あのシャカシャカはしないんだな」
「あれは種類によるんだ。はい完成。マティーニだ」
ふーんと言いながらメルリーゼは一口飲んだ。
「お、こりゃ美味しい。なんだろ、白ワインと何か香草とか入ってるな。爽やかでどこか苦味もある。上品な味だね」
「実はそれ、ちょっとだけアルコールポーションが入ってるんだよ」
「ええぇ!あの草の味がする奴がかい?」
信じられないなぁとまた一口飲んでうむむ、と唸るメルリーゼ。
「あれはストレートで飲むときついけど、香りつけにするなら良い酒なんだよ」
「そうだったのか……」
確かにこの苦味はそれかもしれないなぁと言いながら一口づつよく味わって飲んでいるメルリーゼ。
普段はカパカパ勢いよく飲んでいるから気に入ったんだろーなと思う。
「タカさん、他のカクテルはありますか?」
「他のね、ちょっと待ってね」
「あ、私もいただけますか?」
「私も欲しいぞ」
「へいへい」
三人が二杯目をお互い飲み比べながらワイワイやっているのを眺めつつ、自分になんちゃってシャンディーガフを作り、ミュリスとアンナさんが作った夜食に手を出した。
ふむ、ミュリスが作ったサンドイッチはツナサンドか。俺のリクエスト通り魚系。しかも中々美味いじゃないか。
お、アンナさんはオーク肉の煮込みか。口の中に入れるとホロホロとけて美味い!
さらに枝豆まであるぞ。
いいねー酒が進むねー。
「タカさんが飲んでるのはエールですか?」
「違いますアンナさん。こいつはシャンディーガフって言ってエールにショウガの入ったソーダ水を混ぜたものです」
ショウガは元の世界とほぼ同じ種類なのだが、落ち人が発見するまでは調味料としては見向きもされていなかったらしい。
なので名前も発見者の日本人落ち人が呼んだショウガでそのまま使用されている。
「そうなんですね。我が家は旦那とミロとセロがエールが好きなんですけど、ナロと私はちょっと苦手でして」
「あ、ならこれ一口飲んでみます?エールの苦味がショウガに抑えられてて飲みやすいですよ」
「そうなんですね。なら一口いただいちゃおうかな」
アンナさんは俺から受け取ったグラスをかたむけて一口飲むと、あらっ!と驚きの声を上げた。
「これ、美味しいですね!今日一番かも。アルコールも強くないのもいいわぁ~。これならナロも飲めると思います」
「ほうほう、私にも一口くれないか?」
「あ、わ、私もお願いします!」
「いやもう三人とも作ってやるから空いたグラス持ってこいや」
そのままシャンディーガフを三杯作って出してやる。
「へー。中々だな」
「ショウガってショウガ湯だけじゃなくお酒にも合うんですねぇ」
「このショウガのソーダ水はジンジャーエールって言ってな、そのまま飲んでも美味いんだ。エールとは言ってもアルコールは入ってないから酒の代わりとして飲まれているんだ」
自家製ジンジャーエールの入った瓶を取り出して説明すると、ナロ君が自分の名前が呼ばれたのを聞こえたらしくこちらにやってきた。
「何か俺でも飲めるとか聞こえたけど?」
「タカさんが作ってくれたショウガを使ったエールのカクテルの事よ」
「エールゥ~?」
「一口飲んでみなさいな。あなたショウガ湯好きでしょ」
「うん。それじゃ一口……ウマッ!え?これ本当にエール?美味いなー」
ナロ君はショウガが効いてて美味いと絶賛している。
「ナロ君、ならこっちも飲んでみな」
ジンジャーエールをそのまま氷と一緒にグラスに注いで渡してやる。
「これは?」
「ショウガといくつかのスパイスとハチミツを混ぜて作ったソーダ水で、ジンジャーエールって言うんだ。エールって名前だがアルコールは入ってないぞ」
「へー。良さそうですね………美味い!なんだこれ滅茶苦茶美味い!さっきの酒はこいつが混ぜてあったからか!タカさん、これ分けてもらえませんか?」
お願いしますと頭を下げてくるナロ君。
「いや、どうせならレシピ教えてやるから自分で作ったら?」
「良いんですか?!」
「良いよ。後で必要な材料メモして渡してやるから。それよりテロ君てエールとか苦味のある酒は苦手なの?」
「あー、はい。苦手ってーか美味いと思えません。果実酒とかのが好きですね」
「酒には強い?」
「そこそこだと思います」
「なら、オススメのカクテルがあるよ」
ウオッカっぽい酒とジンジャーエールとライムジュースを氷を入れたグラスに入れて軽くかき混ぜ、カットライムを添えて完成。
「ほい、モスコミュールってカクテルだ。飲んでみ」
「はい………これも美味いですね!」
気に入ったいただけたようだ。
「でも、このカットされた果物はどんな意味があるんです?」
食べるものなの?と疑問顔。
「それはどっちかってーと飾りだね。カクテルは見た目も楽しむものなんだ」
食べてもいいけどと答えると、ナロ君は一口食べて酸っぱ~と口をすぼめた。
「最初のテキーラサンライズもそうでしたけど、これだけ綺麗なお酒ならグラスも凝っちゃいそうですよね」
「ミュリスの言う通りカクテルはグラスも重要だ。本来はカクテルグラスって言ってな、ワイングラスをもう少しスリムにした逆三角形のグラスがあるんだ。ミュリスが飲んだギムレットやメルリーゼが飲んだマティーニなんかはそれのが合うな。逆にアンナさんに出したテキーラサンライズは細長いグラスの方が映えるからカクテル全てがカクテルグラスでってわけじゃないんだけどな」
「その話、詳しくお願いできますか?」
モスコミュールを飲み干したナロ君がずずいっと顔を寄せてきた。
「今までも色んなグラスは作ってきましたがそのカクテルグラスは聞いた事がなかったです。冒険者として外の世界を旅してきたタカさんが知ってる色んなグラスを教えてください」
「え?まあ良いけど」
職人顔のナロ君の勢いに負けて色んなグラスの話をしている内に、いつの間にかギャロさん達もこちらに来て話に参加して、観測会は酒宴へと変わっていくのだった。




