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異世界ロケット作成中 12



 冒険者ギルドを後にした俺達は市場に来ていた。


 朝一番の混雑が引いた後で比較的人は少ないのでのんびりと商品を見て回れる。


「で、何で市場なんだい?」


「カクテルの材料を買いに来たんだよ」


「酒屋じゃなく?」


「酒屋も後で行くけどまずは市場だ」


 果物を扱うスペースに行くと、まだまだ品物は沢山売られていた。

 

 見たことのない物も結構あるなぁ。


「おばちゃん、これはどんな果物なんだ?」


 トゲがついたオレンジ色の果物だが、匂いは桃みたいだな。


「こいつはね、見た目はあれだけど甘みが強くて美味しいんだよ。試食してみるかい?」


「いいのか?」


「足が速くてね、今日売れなきゃどっちみち自分で食べちまうからさ。ほら」


「ありがとさん。お、こいつは美味いじゃないか」


 食感と味は桃よりバナナ寄りだな。


「何で朝売れなかったの?」


「ちょいと値段がねぇ」


「あー、なるほど」


 こいつ一個でリンゴ五個分くらいの値段だ。確かに高いが。


「おばちゃん、三個くれ」


「あらありがとさん。毎度ありぃ」


「ところでおばちゃん、レモンか酸っぱいオレンジみたいな果物を扱ってる店知らない?」 


 レモンはこっちの世界にも似た果物があり、過去の勇者がレモンと呼んだらそっちが定着した。リンゴや他の果物も同様だ。


 名前が分からない物は元の世界になかったか、定着しなかったか、そもそも落ち人に見つかってないかだな。


「レモンならこの先の角のとこの店に沢山あるよ。酸っぱいオレンジみたいなのはもしかしたら野菜の店の方に似たようなのがあるかもねぇ」


 おばちゃんに礼を言って教えてもらった店でレモンを購入し、ついでに売っていたオレンジも買う。


 ちなみにアイアンホーンドフロッグに投げつけた汁はレモンをベースに色んな柑橘系果汁をミックスしたものだ。


 カエルはクエン酸に弱いのでこいつを皮膚呼吸している肌にかけるとあっという間に吸収して死に至る。


 野菜スペースで適当な野菜を買いながら聞き込みした結果、ついに目的のそれっぽい果物にいきついた。


「こいつを一つくれ」


 店番していた男の子に金を払うとその場でナイフで切ってみる。果肉は緑色がかっていた。期待をして口に含んでみる。


 うん、見つけた。ライムだ。ちょっと苦味が強いけどちゃんとライムだ。


 今まで探そうとしてなかっただけで探せば案外あるもんなんだな。


 まあカクテル作ろうなんてこの世界に来てから初めて考えたし。


 ライムってカクテル作る時以外に必要とする事が日常生活でないからなぁ。


 とりあえずライムをあるだけ買って、こいつは定期的に仕入れられるものなのかと聞いたら月に一度くらいで仕入れているという。


 次回の仕入れはいつ頃だと聞いたら今日仕入れたから来月だとの事。ついでにミントも買って、また来るよと言って男の子にチップがわりの銅貨を渡して次の店へ。


 調味料や香辛料のスペースで砂糖やシロップ、ハーブなどの香草に、塩漬けにされていたオリーブも購入。


 ちなみにこの世界の油はオリーブか獣油(ラード)だ。さらに薬草や飲み薬も購入。


 何だかんだと大量の戦果にホクホクですわ。


 研究や仕事に使う材料や道具を購入していたメルリーゼもたまには市場も良いものだなとけっこうご機嫌だった。


 二人で戦果を自慢しあいながら酒屋へと向かう。


「はいいらっしゃい。おやタカさんじゃないか」


「どーも」


 顔馴染みのおばちゃんに挨拶して、普段は見ない度数の高い酒の棚を漁る。


 ゴランドさんが持ち込んだ酒、あれはジンっぽかった。


 ならばテキーラやウオッカとかもありそうだなとおばちゃんに質問しながら何本か購入。


 これだけ買えばある程度は作れるだろう。


 ちなみに普段はメルリーゼ用のワインなど度数の高くない果実酒を買っている。俺自身も基本節約生活を送っているから魚に合う安物の白ワインをたまに買うくらい。


 こんなに大量の種類を買ったのは初めてだな。


「いやぁ~今晩が楽しみだなぁ」


 俺が買った酒の量に期待を高まらせているメルリーゼ。


 よし、酒をより美味く飲む方法を教えてやろうじゃないか。夜にはまだまだ時間があるからなぁ。


「な、何でそんな邪悪な笑みを浮かべているんだいタカ」


「弟子として師匠を心配しているからですよ?」


「師を心配する表情じゃない絶対。ちょ、待った、落ち着いて話し合おうじゃないか!」


「問答無用」


 俺はメルリーゼを引っ張って神殿へと向かった。


「こんにちわー」


 神殿の扉を開けると聖堂に神殿長がいるのが見えたので声をかけた。この時間は本来なら部外者はご遠慮下さいって感じなのだが、俺は顔パスだ。


「おや、タカ君。久しぶりじゃないか」


「どうもご無沙汰してます、ロドルフ神殿長」


 聖堂から降りるとこちらに来ながら気さくに手を上げるロドルフ神殿長に頭を下げる。


「とは言っても先日神殿に来ていたよね。リズリットがご機嫌だったよ」


「ちょっと聞きたい話があったんで」


「例の仮札の男の事だったみたいだね」


 眉間にシワを寄せて、まったくろくでもない輩だったと珍しく語気を強めるロドルフ神殿長。


 この人は国内で三番目に大きな神殿のトップにも関わらず清廉潔白な神官を貫いている、こう言っちゃなんだが珍しいタイプの人だ。


 神に仕える神官だとて、権力の座につくのは良くも悪くも欲深いタイプが多い。


 国内で一番でかい王都の神殿なんかはひどかったよほんと。多額のお布施を強要する金の亡者みたいな奴が多くて、金さえ払えばなんでもやってやるみたいなところだった。


 おそらくボンボンは王都の神殿のように多額のお布施をチラつかせれば仮札なんかなんとでもなると思ったんだろう。


 上から目線であれこれ言ったんだろうなぁ。温厚なロドルフ神殿長を激怒させるくらいには。


「その関係で中央からお客さんが来られるそうですね」


「驚いた。よく知ってるね」


「例の話、ギルマスに報告したのが俺で、突き止めたのがこいつなんで」


 文字通り引きずってきたメルリーゼを指差すと、ロドルフ神殿長はそうだったんですか、ありがとうございますとメルリーゼに頭を下げた。


「偶然ですけどね」


 メルリーゼはやれやれって感じで首を振った。


「例の奴、メルリーゼのとこにも行って同じようにあれこれ上から目線で依頼してきたそうで」


 学習しない輩ですよねぇと首を振ると、まったくだねとロドルフ神殿長も呆れ顔でうなずいた。


「タカ兄さんの声がしました!」


 聖堂の奥のドアが勢いよく開いてリズが顔を出した。


「よーっすリズ」


「タカ兄さん!神殿に来たのならまず私のところに来てくれたら良いのに」


「相変わらず拗らせてるねぇ聖女様」


「え、メルリーゼ(森の魔女)さん?」


 何でここにと驚くリズに、こいつのせいだと未だにひっ捕まえたままの俺の手をアゴで示すメルリーゼ。


「タカ兄さん?」


「リズ、今日はこいつに聖堂の床磨きをやらせてやろうと思ってな」


「素晴らしいですタカ兄さん。メルリーゼさんがいと高き座の神々の祝福を受けられるようその機会をお与えになるなんて」


「俺、師匠思いの弟子だから。やり方を教えてやって」


「はい。タカ兄さんとメルリーゼさんのためにもビシバシ指導しちゃいます」


 リズ、良い笑顔してはるわ。


 なんだかんだと修行には熱心だからなぁ。


「嫌だぁ~やりたくない~」


「今晩の酒を抜きにするぞ」


「それも嫌だぁ~」


「なら頑張れ」


 ぶつくさ文句を言うメルリーゼをこちらですと引っ張っていくリズ。


 それを苦笑いで見送るロドルフ神殿長。


「良いのかい?」


「最近堕落していたあいつには良い薬です。そちらこそ良いんですか?」


「普段は本当に良くやってくれているからね。あの子があそこまでの神官に育ったのも君のおかげだ」


「リズの才能ですよ」


「才能は鍛えなければ実力にはならない。君はよく知っているはずだろう?」


「どうでしょうね。それよりお客さんの事なんですけどね」


「うん?」


「こっちまでお客さんの護衛で来る冒険者の人柄は信用出来ます。守秘義務を怠るような事はないでしょう。問題は」


「王都に余計な気を遣う輩が聖都にいるかどうか、だろ」


「王都の冒険者ギルドにもいないとも限りませんが」


「それを言い出したらキリがないが、こちらに関してはおそらく大丈夫だろう。聖皇猊下も元々対呪術のエキスパートだった方だからね。事呪術に関しては非常に厳しい態度で臨むはずさ」


「それは初耳ですね」


「意外だろう?若い頃の猊下はそれはもう激しいお方でね。メイスを振り回しては呪術師を血祭りにあげていたんだよ」


「えええぇ……」


 脳裏に一瞬銃剣を携えた神父が浮かんだ。


 狂信者やん。


「ついたあだ名が『血濡れ法衣』。白い法衣には常に返り血がついていた事実がその理由さ。血は中々落ちないからシスターが洗濯の度に悲鳴をあげていたよ」


 シスターかわいそう。


「ずいぶん詳しいですね?」


「私に神官のいろはを教えてくれた師でもある」


「まさかロドルフ神殿長も……」


「私はメイスなんて重いものを振り回せるような体格じゃなかったからね」


 はっはっはと笑うロドルフ神殿長。


 その笑顔は妙に嘘臭かった。


 温厚なじいさまだと思っていたが、人柄だけでは神殿長なんて務まらないかとちょっと納得。


「護衛のパーティーは知り合いなのかい?」


「一応。ただ俺やメルリーゼの話はしないで下さい」


 ライアンは守秘義務は守るだろうが俺の事は知れば絶対王都でネタにするだろうからな。面倒な奴らの耳に俺のネタを入れたくない。


「分かった。リズリットにもそう伝えておこう」


 深くは聞かず了解してくれるロドルフ神殿長に頭を下げた。


「ありがとうございます」


「それで、君はこれからどうするんだい?」


「俺も久しぶりにいと高き座の神々に奉仕するとしますよ」


「その言葉を待っていたよ」


 ロドルフ神殿長はニヤリと笑った。





「う、腕が、つりそう……」


 神殿の一室で机に突っ伏しながら両の腕をピクピクさせているメルリーゼ。


「し、神殿の奴らは頭おかしい。なんだってわざわざ雑巾絞る水をあんな離れた場所まで汲みに行かなきゃならないんだ」


「神様のいらっしゃる聖堂は常に祝福された聖水で清められた布で拭くのが伝統なんだ。穢れた水や布などを使うのは許されないんだと」


 俺もここに下宿している時に何度かやった事があるが、けっこうキツい作業だった。


「だったらせめて桶を沢山用意するだとか泉の近くに戻って絞ればいいんじゃないか?」


「修行もかねてますのでそのような堕落した行為は許されません」


 リズがお茶を運んできてくれて、俺とメルリーゼの前にそれぞれ置く。


 そしてささっと椅子を俺の真横まで寄せて座った。


「お、美味い」


「タカ兄さんがお土産にくれたシロップを早速使ってみました。疲れた身体には甘味を、と思いましてやや多めに」


 褒めて褒めて~と視線を向けてくるリズの頭を撫でてやると、デュフフフとちょっとあれな笑い声をあげながらも自分のお茶に口をつけた。


「むう、確かに中々だなって違う!なんでタカは手伝ってくれなかったんだ!私一人だけ小姑に見張られながらひーひー言ってたのに」


「俺は神殿長のお手伝いをしていたからな」


 小姑発言にムッとしたリズの頭をポンポンしつつ、別にさぼっていたわけじゃないぞとメルリーゼに反論する。


「神殿長様も最近は忙しかったので公務が溜まっていらっしゃいましたから」


 一瞬で機嫌が治ったリズも俺のフォローをしてくれる。


「公務ってようは書類仕事だろ?なら私がそっちでもよかったじゃないか」


「メルリーゼさん、タカ兄さんは書類仕事の達人なんです。それに外部の方に見せるのははばかられる内容の物もございますので」


 達人というほどのものじゃないが、前世のリーマン時代に培った書類処理能力は異世界でも存分に発揮していた。


 パーティーを組んでいた時も予算から手続きから運営に関して全て俺一人でやっていたし、神殿に下宿中も今日みたいに神殿長の手伝いであれこれ事務仕事をやっていた。


「こいつが妙に書類に強いのは知ってるけどさ、でもタカだって部外者じゃないか」

 

「いいえタカ兄さんは当神殿の関係者です」


 メルリーゼの発言にかぶせながら即答するリズ。


「何せ(副神殿長)の兄さんなのですから」


「そこじゃないでしょ。契約冒険者だからだっての」


 俺が神殿を顔パスなのも俺がウレザスの神殿の契約冒険者って事になっているからだ。


 ロドルフ神殿長は書類仕事が苦手らしくて早い段階から俺に仕事を頼みにきたんだけど、俺が見ていいものなの?って内容の書類まで回してきて流石に注意したら『合格だ。君は当神殿と専属契約を結ぶに値する』と言って俺を契約冒険者にしてより大量の書類を回してきた。


 溜めすぎだ!とロドルフ神殿長に説教して処理する書類の順番なんかをあれこれ教えていたら神殿全体が俺を見る目が変わり、今みたいに常に顔パスで神殿に出入り出来るまでに信用されるようになった。


 ちなみにロドルフ神殿長は定期的に仕事を溜めるのでその度に冒険者ギルドで俺に指名依頼が入る。


「それにどちらにしろメルリーゼには向かないぞ。神殿の書類は書式と字の綺麗さには凄く厳しいからな」


 計算だとかなら同じレベルだがメルリーゼの書く字はエルフ文字の癖があるし書式も同様。


 ぐぬぬと唸るメルリーゼと自分の発言を否定されて不満げなリズに挟まれながらお茶を飲みほすのだった。


 

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