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異世界ロケット作成中 11


「改めて自己紹介しましょう。私の名はギャロ。このガラス工房の店長です。そちらは妻のアンナ、むこうで作業をしているのが長男のミロ、その隣が次男セロ、さらにむこうの奥で作業しているのが三男ナロです」


 こんにちはーとハモって挨拶をする三人の息子さんにどうも~と返事を返す。お子さんは全員アンナさん似だな。


「より性能の良い望遠鏡のレンズを作るための特殊技術をご教授いただけるとのお話ですが本当ですか?」


「正確には俺はそのレンズの構造を知っているだけなんです。作る技術は持ってないのでそこはギャロさんの腕にかかってますね」


「ほう。それはそれは」


 面白いと言わんばかりに腕を組むギャロさん。


 ゴランドさんと仲が良いだけあって、この人も工芸ギルドの筆頭工芸師で職人気質だから『お前の腕前次第だ』と言われればプライドが刺激されるようだ。


「ギャロさんが作ったレンズはどれも凄く高品質でしたよ。ただゴランドさんが注文した特大の凸レンズ、あれに関してはレンズをただ大きくしても望遠鏡に組み込むと構造上の問題でレンズに写る像が乱れちゃうから上手くいかないんですよね。なんでその像の乱れを今から説明するレンズで調整したいんです」


「なるほど、レンズの質ではなく望遠鏡の構造ではどうしようもありませんね。それで、どのような構造なのでしょうか?」


「構造自体は単純。凹レンズと凸レンズを重ね合わせて一枚のレンズにするんです。ただしレンズはそれぞれ素材の違うガラスを使用して作ってください。レンズとレンズの間の隙間はできるだけゼロになるようお願いします」


 この凹凸を重ね合わせて一枚にするレンズはアクロマートレンズと言い、本来なら事前に焦点距離などを設定して作る代物なのだが、俺はそんな設定の仕方は知らないのでギャロさんの職人の勘と技術にかかっている。


 一応、凹凸に少し間を空けて向かい合わせにするだけでも出来なくはないのだけど、新技術の方が本人達のやる気も違うだろうし、レンズの質向上にも繋がるからそっちの方がいいだろう。


「凹凸レンズを重ね合わせて……なるほど、盲点でしたな。それと異なるガラスの素材、と言うと?」


「凸レンズは従来のもので構わないけど、凹レンズはクリスタルガラスを使用してください」


「クリスタルガラス、ですか?」


「表の商品棚にあった切子、じゃなくてカット模様の入ったコップに使われているガラスですね」


「ああ、鉛ガラスですか」


「そうそう、それです」


「大きさはどれくらいにしましょう?」


「まずは十センチを作ってください。凸レンズの曲面の厚さはそこまででもなくて良いですので出来れば厚さの違うものを複数お願いします。それが成功したならもう少し大きいサイズを頼むかもしれません。ちなみに最小サイズだとどれくらいのが出来そうです?」


「最小、ですか」


 ギャロさんはふむ、とアゴに手を当てた。


「希望としてはミュリスの小指の爪の半分くらいの大きさですかねぇ」


 私ですか?といった顔をしながらとりあえず小指をピンと立ててこちらに向けるミュリス。


 ギャロさんはそれをみてニヤリと笑った。


「アンナの小指の爪の半分くらいのモノを作ってみせましょう」


 私?といった顔をしながら小指をピンと立ててミュリスの小指と隣り合わせにするアンナさん。


「あまり変わらない気もするけどね」


 二人の爪と長い自分の爪を見比べるメルリーゼ。


「小さなレンズは覗き込む側のレンズじゃろ?試作機の時も少し疑問だったんじゃが覗き込む側のレンズも見やすいように大きく出来んもんかの?」


 見にくいんじゃよと苦笑いのゴランドさん。


 確かにホリが深くて鼻も大きく髭もじゃのゴランドさんだと反射式だと覗き込みにくいかな。


「今回作るのは試作機とは違う、ゴランドさんが作ったのと同じ型だから前よりは覗き込みやすいと思うぞ。それに覗き込む側のレンズが小さいのには理由があるんだよ」


 俺はギャロさんに木炭と板切れを借りて天体望遠鏡の簡単な図を書いた。


 大きな方のレンズ、対物レンズと呼ばれるんだけど、こいつの直径を底辺とした二等辺三角形を書き入れ、その頂点からさらに二辺の線をちょっと伸ばした図を描く。


 さらにちょっと伸ばした先に覗き込む側のレンズ、接眼レンズと呼ばれるレンズを書き入れる。


「大きいレンズは遠くのものを大きく見せる役割を、小さなレンズはその大きいレンズが写したもをさらに拡大する役割があるんだ。凸レンズは曲面の厚みによって拡大する強さが変わる。だから試作機の時に俺が頼んだ小さなレンズは大きなレンズと比べて厚みがあるんだよ」


 虫メガネでもそうでしょ?とギャロさんに言うと、確かにそうですなとうなずいた。


「凸レンズを大きくすると色や像が滅茶苦茶になるのはゴランドさんも知っての通りだろ。だから覗き込む側のレンズは大きく出来ないんだよ。むしろ小さい方がよりはっきり見えると考えてくれ」


「なるほど、理解出来たわい。しかし試作機と型が違うのは何故じゃ?」


「試作機の方が安く簡単に作れるから」


「なら試作機をより大型にすればよかったんじゃないかな?」


「メルリーゼの疑問はもっともだけどね、あっちはあっちで大型化には問題もあるんだ。今回はゴランドさんに凹面鏡と斜面鏡を作ってもらったけど、あの程度の倍率ならともかくより高い倍率を目指そうと思うと鏡の質にこだわらなきゃならない。具体的に言うと物凄く高純度で髪の毛より薄い銀のメッキを両方に貼らなきゃならない」


「それはまた金と時間がかかりそうだね」


「それに覗き込む側のレンズも小さな凸レンズを二枚向かい合わせにするだけの簡単な作りだったけど、大きくするならこっちも凹凸レンズを使わないとダメだったからどちらにしろギャロさんに凹凸レンズは頼まなきゃならなかったしな」


「凹面鏡のメッキに関しては腕がうずく話じゃが、より短時間で出来るならその方が良いわい」


 ゴランドさん的にはプライドが刺激されたみたいだが、魔王を発見するため神託された地平座標の期間は一ヶ月程度だった。もう残り時間は半月ほど。この期間を過ぎると見つからなくなりそうだしなぁ。


「そーだよな。つまりなメルリーゼ、短時間で安上がりなのがこっちの型だったってことさ。どっちが優れているとかじゃなくどっちがこの状況に相応しいかって話だ」


「なるほどね」


「あの、先ほどから話題に上がっている試作機って、見せてもらうわけにはいきませんか?」


 ちょっと興味が湧いたんですと研磨作業をしていた次男のセロ君がおずおずと申し出た。


 それに続いて俺も僕もと長男ミロ君と三男ナロ君が同乗し、さらにアンナさんも見てみたいですと手を上げた。


 ゴランドさんに目線を向けるとええんじゃないかとうなずいたので、アイテムボックスから試作機の反射望遠鏡を取り出した。


「へぇ~」


「これが」


「なるほど」


「思ってたより四角いな」


「あら、鏡がついてるわ」


 ギャロ一家全員が試作機に集まってわいわい見ている。


 わりと適当に作ったものだからなんだかこそばゆいな……。


「この覗き込む部分に前回の注文品が使われているのか」


「大きな鏡に写った景色を小さな鏡に反射させるのは分かるんだけど、これで星が大きく見えるのが分からないな」


「この箱は伸縮するんだな」


 息子ズは特に興味津々のようだ。


「実際に星を観測してみたいですな」


 ギャロさんの発言にうなずく一家。


 まあ、構わないか。


「なら今晩観測してみましょう。場所は庭をお借り出来れば」


「良いのですか!」


「別に大丈夫でしょう。いいよな、ゴランドさん?」


「ギャロも目指すべき目標が分かった方が仕事に熱が入るじゃろ。しかし街中でも観測出来るんかの?」


「そこは大丈夫だ。昨日平原まで行ったのは周りが暗くて何もない方が観測に適しているからってのと例の地平座標を測るためだったからな。月を見るくらいなら街中でも全然問題ねーよ」


「そうじゃったか。ならワシらも参加するとしようかの、ミュリス」


「はい、お願いします」


「私も参加するぞー」


 結局全員で観測する事になった。


「そうと決まればお夜食を作りましょう」


「私も作りますので内容がかぶらないようにメニューを決めませんか?」


「そうしましょうミュリスちゃん」


「ギャロ、久しぶりに飲まんか?」


「ご相伴にあずかりましょう」


「私もいただくぞ!」


「お前ら……張り切るのは良いけどまだ夜まで時間はあるんだからひとまず仕事をしなさい」


 つれない奴めとこずいてきたメルリーゼをお前は俺と一緒に冒険者ギルドに来いとひっ捕まえた。


「例のボンボンの件の進捗を確認しに行くんだよ」


「え~面倒」


「ギルマスは王都土産にゲートバレイの酒を買ってきていたぞ」


「たまにはあいつの顔を拝みにいってやろう」


 チョロい賢者様でよかったよ。


「タカ、ワシらは一度工房に戻るが新型の天体望遠鏡の部品を作ろうかと思っとる。何か具体的な注文はあるかの?」


「とりあえず普通の望遠鏡と同じように筒を作ってくれ。ただドロチューブ、覗き込むほうの筒な、あの伸縮する機構は魔術機構じゃなく手でやる感じで。おそらく一発では長さ調節は難しいだろうからね。筒の直径は今からメモする感じで前後を作ってくれ」


 簡単な図と説明書きと一緒に各種数字を書き入れたメモを渡す。


「了解じゃ」


「タカさん、何か食べたい物の希望はありますか?」


「魚系」


「分かりました!」


「それとアンナさん、表の商品で欲しいものがあるんでお願いします」


「あらあらありがとうございます」


 俺は切子のグラスと透明度の高いグラスを一つずつ購入し、ギャロさんの工房を後にして冒険者ギルドにむかった。




「やっほーミャーナちゃん」


 朝の依頼受付があらかた終わって閑散としている冒険者ギルドは、ミャーナちゃんの受付もちょうどよく無人だった。


「あら、タカさん。先日はお手紙ありがとうございました」


「中々刺激的な内容だったでしょ?」


「ええ、思わずギルドマスターに自慢してしまうくらいには。それで、今日は依頼の方を?」


 メルリーゼをチラリと見てから確認をするミャーナちゃんにいやいやと首を振った。


「ギルマスに話があると彼女がね」


 俺達の一連のやりとりにフードの下で呆れたような表情をしているメルリーゼに苦笑で返したミャーナちゃんは、少々お待ちくださいと二階に上がっていった。



「久しぶりだな、メルリーゼ」


「やあ、久しぶり」


「流石だなタカ。こんなにあっさりメルリーゼを引っ張り出せるとは」


「報酬はゲートバレイの酒さ」


「ぐぬ、やっぱりタダでは引っ張り出せなかったか」


「そりゃそうさ。私を誰だと思っているんだい?」


「不健康引きこもり堕エルフ」


「タカ、師匠の心の広さを測るのはやめろ」


 ぶつくさ言うメルリーゼだったが、ギルマスにゲートバレイの酒をコップに注がれると瞬時に機嫌を直した。


 アル中賢者マジチョロい。


 肴は?と二人から催促されてイカの干物を出してやる。


 この世界の住人はイカだろうがタコだろうが何でも食べる。


 そもそも魔物のほうが見た目ヤバげな奴が多いからな。


「それで、何か進捗は?」


「王都支部と神殿に呪術が使用されている疑いがある人物がいると報告したら速攻で返事が来てな。聖都ホレバスからは対呪術の専門家の高位神官を、王都支部からはその護衛にAランクパーティーを寄越すとよ」


「Aランクパーティーとは本部も奮発しましたね。どのパーティーです?」


「『鉄のライアン』だ」


「ライアンって元門番だったあのライアン?」


「そのライアンだな」


 ほ~、あのおっさんAランクになったのか。やったじゃん。


「ライアンを中心とした護衛の固さに定評のあるパーティーだ。高位の竜種でも出てこない限り問題ないだろう」


「つってもエモニ男爵家の横やりもあるかもしれないでしょ。よっぽど慎重に行わないとヤバくないですか?」


「だろうな。だから今回の話は極秘裏に進められている。何せ王家にすら知らせていないからな」


「マジですか」


 神殿と冒険者ギルドは独立した組織なので国王の言葉に絶対従わなければならないわけではない。


 それでも呪術の使用の疑いが出た時点で警告もかねて発生した国のトップには伝えるのが普通だ。


「第三王女様対策と言えばそれまでだが、現状色々おかしい点が多い。知る者が少ない方がバレにくい。この街でも俺達以外だと神殿長と副神殿長しか知らない」


「いつ頃到着予定です?」


「もうすでにむこうを発ったはずだから、早けりゃ明後日には着くと思う」


「そりゃ早い」


「本部も神殿も呪術には目を光らせているからな。それでメルリーゼ、もう少し詳細を聞きたいんだが」


 手酌でもくもくと飲んでイカをランプで炙っていたメルリーゼは、ギルマスの言葉に手を止めた。


「詳細ねぇ。呪術師に関してはボンボンは誰かは知らないみたいだったよ」


「呪術師はエモニ男爵家が雇ったのは間違いないんだな?」


「正確には男爵夫人だね。母親が自腹はたいて高給で雇ったと聞いたって言ってたから。で、呪う相手を選ぶために現地の状況を裏ギルド雇って調査してヴェンテ商会を目標にした訳だ」


「やはり裏ギルドも噛んでたか」


 裏ギルドはイリーガルな仕事を高い料金で受け持つ社会の暗部的な奴らだ。ヤクザやマフィアをもう少し諜報機関寄りにした組織だな。


「あのボンボンにはそんな調査出来るような頭はないよ。勇者のおこぼれをいただく事で頭がいっぱいだったからね」


「その話に噛んでるのは夫人と次男だけか?長男や男爵本人は?」


「男爵本人は多分関わってないよ。ボンボンは父親の事を肝の小さなダメ親父呼ばわりしていたからねぇ。長男は知らないよ。そこまで聞いてないなぁ」


「例の半人前鍛治師はどんな奴なんだ?」


「どうもどっかの鍛治屋の息子らしいんだけど、過去の勇者が使った剣だとかをアレンジした物を屑鉄使って劣化コピーしてお土産屋に卸していたらたまたま討伐依頼で立ち寄った勇者がそれを気に入って、お前は才能があるだとか勘違いされて舞い上がったみたいだね。それでエモニ家を紹介されて言われるがままにこっちに来たみたいだよ」


「馬鹿だな」


「馬鹿ですねぇ」


 やってられんわと俺もさっき買ったばかりの切子グラスにゲートバレイの酒を注ぎ入れた。


「お、シャレたグラスを持ってるじゃないか」


「中々良いでしょ。ここに来る前にギャロさんの工房で買ったんですよ」


「筆頭ガラス細工師のマスターギャロの作か。ゲートバレイの透明な酒にはよく合うな。俺も今度のぞきに行こう」


「年を取ると昔みたいに潰れるまで飲むよりもゆっくり味わう飲み方に変化していくじゃないですか。うまい酒をよりうまく飲む工夫の一つですよ」


「お前はまだそんな年じゃねーだろ」


「ふっふっふ。そういやこっちってあんまりカクテルとか見ないですけど、何でですかね?」


「カクテルって酒を別の酒やジュースと混ぜるあれだろ?王都は勇者の影響が強いから一部の高級バーや王都在住の貴族の一部で飲まれてはいるみたいだけどよ、普通は混ぜ物で誤魔化してると思われて敬遠されるもんだ」


 昨日のミュリスの反応をみるに結構受けそうなのになぁ。


 俺は元の世界でも酒は好きだったから色々飲んでいたけど、カクテルもちょっとだけ手を出していくつか作れたりする。


 今晩の観測の時にミュリスとアンナさんに女性受けしそうなカクテルをいれてみるか。


 何だメルリーゼ?お前は飲めればなんでも良いタイプだから参考にならないので却下。


 ぶつくさ言うな。


 お代わりでも飲んでなさい。


「それで、お前らはやっぱり参加しないのか?」


「やめときます。ライアン達とも会う気はないですんで」


「私も面倒事はごめんだねぇ」


「はぁ……。お前らが協力してくれりゃあ成功率も上がるんだがなぁ」


「Aランクパーティーがいるんだから大丈夫でしょ」


「ぬかせ。まあいい、とりあえずまた何か進捗があってお前らの話が聞きたくなったら人を寄越すからな」


「その時に手が空いていたら考えます」


「その時美味い酒が用意されていたら考えるよ」


 ギルマスのガックリ顔に見送られながら俺達は冒険者ギルドを後にした。



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