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肉料理は箱の中  作者: りゅうや
4/5

四話「ステーキの中」


 それから翌日も、翌々日も……一週間も連日して訪れたが、毎夜別の肉料理が桐の小箱に入っていた。

 それでも仲谷は足蹴もなく通い続け肉を堪能した。

 しかし彼は朝起きた時から腹痛に悩まされていた。

 恐らく昨日食べたレアのステーキに当たってしまったのだと。

 美味ではあったが、と満足はしたが食べた事を後悔しながら公園の公衆トイレに籠っている。


 腹を下してからさらに二日後。

 ろくに出歩く事も出来ず、寒くて臭い公衆トイレに軟禁され続けていた。


「あぁー……ステーキ美味かったなー……」


 腹痛の原因であろうステーキに恨みは持ちつつも味や舌触りを思い返す。

 少し筋張ってはいたが柔らかく、ソースが赤みの旨味としっかり絡んでいてマジで美味かった。

 しかし腹を壊すのは訊いていない。

 ホームレスにとって病気は天敵だ。ただの風邪から虫歯の一本に至るまでなってはいけない。

 特に虫歯は死を意味すると言っても過言ではない。

 それにホームレスに成った最初の頃と比べて、ゴミを食べても腹を下し難くなっていた。

 だから油断していた。

 まさかレアぐらいで腹を下すなんて……


「というか今更だけど、あれなんの肉だったんだ……?」


 レアで腹を壊すって事は牛ではないはず。

 ……いや、絶対に腹を下さないとは言い切れないか。

 そして味わっていた時は気にしていなかったが、食感が近いのはイノシシだった気がする。

 しかし仮定しておいてあれだが、イノシシという感じでもない。

 昔から肉が好きで毎日肉を食べていた。一日最低一食は肉を食べていた。

 それに親戚がマタギを営んでいるから会いに行けば普段食べられない物が食べられた。

 ウサギやシカ、熊にイノシシ、キジなんかも食べられた。

 だから俺の舌が「あれはイノシシではない」と言っている。

 しかしだからこそあれがなんの肉か分からず困っている。


「…………んー、やっぱりイノシシだったのか?」


 確かに色々な肉を食べてきたのであの肉がイノシシではないと感じた。

 しかし食べてきたのはもう十年以上も前だ。

 マタギをやっている親戚が亡くなってからは普通にスーパーで売っている肉とか、珍しくてもジンギスカンとかしか食べれていない。

 そして一人暮らしを始めてからは鶏胸肉ばかりを食べ続けていたし、ホームレスになってからは二年以上もまともな食事を摂っていない。

 そんな人間の舌が、今更優秀であるはずもない。


「──うっ、また来た……」


 落ち着いたかと安心していた所に再びの腹痛の波が襲う。

 急いで回れ右をしてトイレに駆け込む。


 結局腹痛が治るのに翌日までかかった。

 度々トイレで出し続けたため今は非常に腹が減っている。


「かなり早いけど、今日の分を食べに行くか」


 人目はあるだろうけど、平日の昼前だからそんなにいないだろう。

 それに流石に三日も何も食べていないので限界が近い。

 腹痛の中摂っていたのは水だけだったし、それも全部流れて行った。

 だから正真正銘空腹なのだ。

 人間三大欲求には勝てない。ホームレスになるとよく分かる。

 自由ではあるが制限が多く、楽ではあるが苦労が多い。

 結局ホームレスだろうがフリーターだろうが、学生だろうがその時その時に感じている想いは、より自由になる(下へ堕ちる)と意外と贅沢な想いであり自分が自由だったと分かる。

 ま、分かった頃には遅いがな。


「……はは、どうしたんだ、急にこんな事を考えて。まるでこれから死ぬみたいだな」


 自堕落に生きていた学生時代。アニメや漫画に勤しんでいたために、自分がこれから死ぬモブの様な行動を見せていたから思わず笑ってしまった。

 過去を振り返り、物想いに(ふけ)る。

 所謂死亡フラグというやつだ。

 しかし俺がいるのは現実。過去を振り返って物想いに耽る事なんてよくある。

 ただそれを分かっていても、突然自分が死亡フラグを立てて死んで行くモブの様な行動をしたから笑えた。


「……」


 そこで道を歩いていた人に不審な者を見る目を向けられる。

 いたのに気がつかなった。

 俺の様な浮浪者が独り言を呟いて笑っていれば、そんな目を向けられるのは当然だろう。

 むしろ通報されてもおかしくない事案だ。

 普段から同じ様な視線を向けられているが、今回は俺の方にも怪しさを出してしまった責任があるので少々居た堪れない気持ちだ。

 そんな訳でそそくさとこの場を離れたいが、それはそれで怪しいという理由で通報されかねないので平静を装って逃げる。

 ホームレスに優しくない世界だ。早くなんとかしろよ政治家!

 悪態を吐きながらいつもの箱へと歩みを進める。

 そして普段利用しているアパートの前まで来ると、その前に人(だか)りが出来ている。

 さらに敷地内にパトカーの赤灯ランプも見える。


「な、何があったんだ……?」


 まさか俺が利用している事がバレて警察が動き出したのか? いやでも、たかがゴミを漁っていただけだぞ?

 あーでも、『不審者が〜』って事で通報された可能性も。

 それでもここまで大事にするか? 普通。

 などと俺が考えていると人集りの後ろの方にいた小汚い男が俺の独り言に答える。


「遺体が見つかったんだってよ」


 やや馴々しく声をかけて来た目の前の男。俺はこいつに見憶えがある。

 何故ならホームレスに成り立ての頃、一番最初に俺をリンチにして来た奴なのだから。

 不意に昔の記憶がフラッシュバックする。当時こいつに殴られた時の記憶が。


「アパートの一室からバラバラにされた男女の子供の遺体が見つかったらしいぞ」


 しかし相手はフランクな感じで話を続ける。

 ……まさかとは思うが──こいつ俺の事を憶えていない、のか?


「んで、そこに住んでた大学生が行方を(くら)ましてるっぽくてな。調査してるって感じらしい」


 何があったのか聞きたかったのは確かだが、ここまで訊いてはないのに彼は喋り続ける。

 漫画とかでよくいる異様に事件の内容を知っている奴がまさか現実に、しかも目の前に現れるとは思わなかった。

 犯人だけが知っていそうな内容を知っていても全然犯人ではないという謎の人物。

 その情報は本当にどこから手に入れているのか。


「オレの予想ではその大学生が犯人だと思うんだ」


 でしょうね。ほぼ間違いなくそうだろうよ。

 冤罪の可能性がなくはないが、状況的に考えてまず間違いなくその大学生が犯人だろう。

 そしてそんな事は皆が考えている内容だ。

 それをまるで事件を推理したキャラの様にキメ顔で言うのは辞めて欲しい。

 この男から早く離れたいのと食料を探せないのではここに居ても仕方がないのでとっとと公園に帰る事にする。


「あっ、おい!」


 男が立ち去る俺に何か言いたそうにしているが無視である。

 早足気味で帰宅したが、問題が残っている。

 結局食事にありつけていない事だ。

 あれだけ人がいたのではゴミを漁る事なんて出来ない。ましてや警察が近くにいるのだから。


「あーくそ! 腹減ったなー!」


 空腹のせいかムシャクシャする。

 足元に転がっていた小石に気持ちをぶつけるように思いっきり蹴飛ばす。


「痛っ」

「──っ⁉︎」


 その小石は誰かを探していた青年の背中に当たってしまった。

 俺は一気に青ざめて、自分の身体から血の気が引くのを感じた。

 ホームレスである俺らが何か厄介ごとを起こせばタダでは済まない。

 仲間を呼ばれて毎日石を投げられたりリンチされたりするのはもちろん、警察は完全にあっちの味方なため何も出来ずに終わる。

 だから二択を迫まれる。

 土下座か逃亡か。

 そんな物、逃げる一択だ!


「あ、待ってください! 貴方を探していたんです!」


 逃げ出そうとした時青年が静止を呼びかける。

 その言葉に駆け出そうとしていた足を止め、ゆっくり振り返る。


「さ、探していた?……え、俺を……?」

「はい。良かったです。すぐに見つけられて」


 朗らかに笑う青年からは普段自分に向けられる侮蔑の目はない。

 普通の人と接する様な自然な感じだ。

 そんな扱いはここ数年程された憶えがない。

 だから嬉しい反面困惑する。

配分ミスで文字量が増えました。申し訳ないです。

それと次で最終話です。今年中に終わらせたいので、近日投稿します。

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