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肉料理は箱の中  作者: りゅうや
3/5

三話「衣の中」

 

 久しぶりに好物を食べた翌日。

 寒いながらもハンバーグを食べられてホクホクした気持ちで一夜を過ごせた。

 そして目が覚めてからも昨日食べた肉の味を忘れられず、口の中にハンバーグの味や肉の食べかすが残っていると期待して口をもごもごとさせている。

 しかし前日の寝る前にはしっかりと歯を磨いているためそんな物は残っていない。

 かれこれ二時間程。仕事もせず、公園のベンチに座りながら空を眺めて。

 公園を通り過ぎる人達はそんな彼の姿を怪訝や侮蔑の目を向け、そそくさと通り過ぎて行く。

 しかしそれを気にする事なく今晩も食料を探しに行く事を考えながら口をもごもごさせる。



「マジで美味かったなぁ……」


 久々に食べた肉、それも好物であるハンバーグを食べられた。

 口に広がった肉の旨味、肉の弾力、鼻を突き抜けたスパイスの香りなどを思い返し、再度余韻に浸る。

 贅沢を言えば米も一緒に、ついでに言うのならそれをハイボールで流し込みたかったな……

 皆はビール、ビールって言うけど、ビールは苦いから苦手なんだよな。

 ホームレスに成り立ての時は酒盛りに呼ばた事もあったけど、ビールって事で避けたら仲間外れにされたっけなー。


「ま、仲間だなんて思っていなかったから全然良いけどな! へっ!!」


 当時の光景がフラッシュバックしかけたので虚勢を張って乗り越える。


「こんなつまらない事より、今日の事を考えよう!」


 そして話題を明るい方向に切り替える。

 昨日の今日ではあるがまた食べたいと思っている。久々に食べたとはいえ、あの美味しさは犯罪的だと思うね。

 だから何度でも食べたいと感じてしまうのは当たり前、自然の摂理と言って良いだろう。

 ただあの箱のゴミを漁り始めてから……いや、ホームレスを始めてからあんな経験は初めてだし、同じ食料ゴミが捨てられている事はまずない。

 それでも! 期待せずにはいられない!


「神様! どうか今日もお願いします!」


 手を勢いよく合わせ、良い音を立てて合掌する。

 ホームレスに成ってからは神に祈る事が減ったような気もするが、神なんてこんな時くらいにしか頼らないのだから。

 そんな神に祈ってでもあの料理をもう一度食べたい。

 そう思わせる程にあの料理は魅力的だった。


 時間は経ち深夜。

 人の気配は昼間と比べて少なくなっている。それでも車や人は少なからず行き交っている。

 それらに怪しまれないよう気をつけながら寝静まっているであろう箱を目指す。

 肉料理の事を考えていたため長い一日に感じられたが、それもようやく報われる時間となった。

 今の彼の思考の中に『捨てられていないかもしれない』というものはない。

 そしてアパートの前まで来た仲谷は、ゴミ回収箱を漁らず一目散に資源ゴミを置く場所に目を向ける。



「!」


 するとそこには昨日と同様に桐の小箱が置いてある。

 当然ゴミが回収されていないだけという事もある。

 事実昨日よりも段ボールが増えている。

 それでもある可能性はゼロではない。ゼロではないのなら確認してみる価値はある!

 僅かな可能性に賭け、胸を躍らせながら箱を開ける。

 小箱を開けた瞬間閉じ込められていた匂いが一気に解放される。


「っ!」


 昨日嗅いだスパイスとは別の、少しピリリとした感じ。

 料理を見なくても分かる。これは辛い料理だ。

 そう予想を立てながら蓋を退かす。

 箱の中に入っていたのは昨日と同じく箱ギリギリに収まる皿。

 その上には赤い衣を纏った一口サイズの何かが六つ。

 自身の祈りが神に届いた事よりも。今日も箱の中に料理が入っていた事よりも。

 そんな小さくどうでも良い感情を凌駕したのは、昨日と同程度の食欲だった。

 そして食べたいという気持ちに駆られ、今度は何も前置きを置かずに料理へと手を伸ばす。


「はんっ……!」


 迷わずに口へと運んだ料理。

 サクサクとした衣から顔を出したのは弾力のある肉。昨日は挽き肉だったためこちらの方がより肉らしさを感じる。

 そして肉を感じている舌の奥に電撃の様に痛みが、否辛味が走る。

 予想通り辛い料理だったそれは、しかしその辛くも食欲を増進させるスパイスを纏った衣を纏う肉料理に心を奪われる。

 そうしてハンバーグの時と同じく物の四、五分でそれを食べ終える。


「はぁ…………美味かったー……」


 昨日とは別の美味さを堪能出来て満足する。

 まだ舌はヒリヒリするし喉の奥も熱く痛い。まるで口の中に炎が燃え盛っているのではないかと思える程に。

 しかしそれでも美味かった事に変わりはない。

 正直そこまで辛い物が得意という訳ではないのだが、大切な食料であり、それでいて美味いのだから残すなんて事はない。

 ましてや手に入らないかもしれない食料が手に入ったのだから文句なんか言えるはずもない。


「ただやっぱり米と酒も欲しかったな……」


 文句はないが注文はある。

 そんな贅沢を望みながら指に着いた衣の油と香辛料をねぶる。

 料理的にはスパイシーチキンに似ていた。しかし肉が鶏肉ではなかった。

 鶏肉より歯応えがあり、少し硬く筋張っていた。

 しかし……今回の料理は昨日よりも少なかったため満腹には至っていない。

 そして昨日と違い辺りには誰の気配もない。なら、ゴミを漁れる。

 そんな訳で食料探し第二弾の開幕だ。が、残念ながら昨日とゴミの内容は変わっておらず、結果最初のスパイシーチキン・モドキのみが本日の食事となった。

 足りない……


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