姉妹の会話
舞踏会の翌日。
真っ赤なストロベリー色に白のドット柄のドレスを着た私は、ダイアンの部屋を尋ねた。
舞踏会の翌日は、ブランチが朝食兼昼食になり、そこには両親と兄が揃った。でもダイアンの姿はない。なんでも舞踏会の翌日、ダイアンはアフタヌーンティーの時間にならないと、姿を現さないというのだ。
そして現在。
今は、アフタヌーンティーの時間まで約30分。さすがにダイアンも起きてドレスに着替えているはず。
案の定、部屋に行くとダイアンはちゃんと起きていて、既にドレスに着替えていた。
「ダイアンお姉様、おはようございます。少しだけ、お話しをするお時間、いただいてもいいですか?」
「……いいわよ。そこにお座りなさい」
ダイアンはそう言うと、自身が座るソファの対面の席を、手に持つ扇子で示す。「ありがとうございます、ダイアンお姉様」と答えた私は、ソファへ腰をおろす。
「それで、何?」
「ダイアンお姉様に、とても大切な話があるのです」
そう切り出した私は、元いた世界に存在する予言の書について話す。
予言の書。
つまりは乙女ゲームのこと。乙女ゲームと話しては伝わらない。だからこの言い方をした。
「ダイアナが見たその予言の書に、私のことが書かれていたというの?」
「そうなのです、ダイアンお姉様。その予言の書は多分、この世界と連動していると思います。不思議なことに、この世界で変化があると、それが反映されるのですよ。見る度に、予言の書の内容は変っていました。でもその中でダイアンお姉様は……」
つまりはダイアンの未来は、予言の書でヒロインと言われる謎の乙女が、誰と恋に落ちるかで変わる。でもそれはたいがいがアンハッピーであると明かした。その上で、どうも今、私がいるこの世界は、そのヒロインがフランツ殿下に恋をする世界であること。もしヒロインが殿下と結ばれると――。
「私はフランツ殿下から婚約破棄され、国外追放になるのね!」
なぜかダイアンはソファから立ち上がり、興奮気味に私を見る。
「そ、そうです。そんなことになれば、お父様もお母様も、お兄様も私も、悲しい気持ちになります」
「え、どうして? 婚約破棄されるのは私よ? 国外追放になるのも私だけなのよ?」
どうして分からないのですか、ダイアンお姉様!と思いながら口を開く。
「お父様もお母様も、お兄様も私も、ダイアンお姉様が大好きなのです。そのお姉様と離れ離れになるのは悲しいですから」
「そもそも娘は、嫁に行くものよ。しかも隣国にお嫁に行かれる方もいるのだから。そうなったら簡単に会えないわ」
ダイアンは……家族愛をあまり感じないタイプなのかしら?
とてもドライだわ。
「そうかもしれませんが、国外追放になったら、ダイアンお姉様はこの国に戻って来られないのですよ?」
「そうね。でもそうなったら国外にいる私のところに、みんなが会いにくればいいでしょう」
「そ、それはそうかもしれませんが! お姉様がフランツ殿下と婚約破棄になれば、お父様は肩身の狭い思いをすることになります。王族からも嫌われ、今後、ローズ家が没落するかもしれないのですよ」
ストンとソファに腰をおろしたダイアンは、腕組みをして脚を組み、背もたれに身を預けた。
「そもそもフランツ殿下と私の結婚は、私の気持ちなんて考えずに決められたものよ。おかげで王太子妃教育なんて押し付けられて。いい迷惑。でも私はちゃんと王太子妃教育を終えたわ。それでヒロインという謎の女性が現れ、フランツ殿下を好きになってしまい、それで殿下が心を奪われたとしても……知らない。その責任を私に押し付けないでほしいわ」
「で、でもダイ」
「それにね、ローズ家が没落するなら。いいわよ。追放された私がどこかの国でちゃんと家族が住める場所を確保するから。そこにみんな来るといいわ」
これにはもう、口をぽかんと開けるしかない。
もしかすると。
断罪内容が甘いのではないか。
もしこれが断頭台送りだったら、ダイアンは心を入れ替えるのでは?と思ってしまうぐらいだ。
何か、ダイアンの気持ちを変える手立てはないの?
「ダイアンお姉様がフランツ殿下に冷たくあたるのは、王太子妃教育のせいですよね?」
「……? ダイアナ、あなた、何を言っているのかしら?」
「王太子妃教育が辛くて、でもそれはやらなければいけなかった。誰のせいでこうなったのかとなった時、それはフランツ殿下のせいになりますよね?」
するとダイアンは呆れたという顔になり、私に指摘する。
「王太子妃教育が嫌だった。そしてその責任を、フランツ殿下に私が押し付けたと言いたいのかしら?」
「そうです。だからフランツ殿下にお姉様は冷たくて、お二人はいつも臨戦態勢なのではないですか? オペラの観劇も、貸し切りがいいなんて難題を殿下に突き付けるなんて……。あれでは殿下がお可哀そうです。これでヒロインが現れ、殿下が心を奪われても仕方ないと思います」
するとダイアンは……黙り込んだ。