次々と現れる攻略対象
テールコートと同じ、碧い瞳と目が合う。
鼻梁の通った顔立ちで、女性のような美しい唇をしている。
サラサラのプラチナブロンドが、キラキラと輝いて見えた。
「ダイアン嬢、ここにいたのですか? 中庭で待ち合わせと思ったのですが」
スラリと長身の美貌の王太子フランツ・W・シモンズ!
「行きますよ」
「えっ、あっ」
フランツ殿下は、私の手を慣れた様子でとると、そのまますたすたと歩き出す。すると背後に控えていた数名の近衛騎士が、後ろに続く。
ダイアンは私より20分程早く、屋敷を出発していた。
もうてっきりフランツ殿下と合流していたと思ったのに。
「ダイアン嬢。あなたに言われたオペラの件ですが。さすがに今、最も人気で、皆、観劇したいと思っています。劇場を貸し切りにするのは、少し横暴過ぎます。ロイヤルボックス席での観劇で、我慢いただけないでしょうか?」
!
ダイアンったらそんな我がままを、フランツ殿下に言っていたの!? 人気のオペラを貸し切りなんて。多くの貴族から、権力の乱用だとブーイングだろう。ダイアンのせいで、殿下の評判がだだ下がりになる。これは……見過ごすことはできない。
ひとまず私から返事をしておいて、ダイアンのことを説得しよう。
「フランツ殿下、申し訳ありませんでした」
フランツ殿下が一瞬、立ち止まりそうになりながら、私を見た。
「人気のオペラの貸し切り観劇だなんて、寝ぼけたのようなことを口にしてしまい、申し訳ありませんでした。ロイヤルボックスでの観劇で、問題ありません」
絶句したフランツ殿下だったが、なんとかという感じで言葉を絞り出している。
「ロイヤルボックスの観劇で、いいのです……ね?」
「はい。公務もお忙しい中、お手を煩わすことになり、本当に申し訳ありませんでした」
そこでまじまじと私を見たフランツ殿下は……。
「ドレスはいつも通り。でも髪をおろしている。化粧は……いつもより抑え目。そして今の言動。……あなたはダイアン嬢ではないのですね? 話は既に聞いています。あなたが双子の妹のダイアナ嬢、ですか?」
……! フランツ殿下……!
ゲームでは、兄と同じく文武両道という設定だったけれど、まさにその通りね。鋭い観察眼。あっさりダイアンではないと、バレてしまった。
「も、申し訳ありません。騙すつもりではありませんでした。ただ、ダイアンお姉様があまりにもヒドイことをフランツ殿下に言っていると思い……。私からダイアンお姉様を、説得するつもりでして……」
もうしどろもどろになると、フランツ殿下は天使のように笑っている。
「これは驚きです。見た目は限りなくダイアン嬢なのに。性格はまったく違うのですね」
「そ、それは……」
「実に新鮮で驚きました。……と、ここまでエスコートしていましましたが。ダイアン嬢が中庭にいる可能性が高い。……参ったな。これは荒れる……」
フランツ殿下は大きなため息をついている。
なんだろう。
ダイアンとフランツ殿下は、うまくいっていないのかしら?
いっていない……としか思えない。
その原因は……ダイアンが作っているように思える。
こんな状態では、ヒロインに攻略されなくても、ダイアンは婚約破棄を宣告されそうだ。
「ごめんなさい。私がダイアンのフリをしてしまったせいです」
するとフランツ殿下は、碧い瞳を細め、微笑んだ。
「勘違いしてエスコートしたのは私です。あなたに非はないですよ、ダイアナ嬢。……優しく気遣いができる方なのですね、あなたは」
フランツ殿下はそう言うと、エスコートしていた私の手をそのまま持ち上げると……。
「最後までエスコートできず、申し訳ありません、ダイアナ嬢。ホールはもうすぐそこです。お一人で向かわせる非礼を、お許しいただけますか?」
「勿論です。私のことは気にせず、ダイアンお姉様のところへ行ってください。もしキツイ言葉をかけることがあっても、ダイアンお姉様は……根は悪い子ではないので、どうか寛大なご対応をお願いします」
私の言葉を聞いたフランツ殿下は一瞬、息を呑み、そして「ええ、分かりました。アドバイス、ありがとうございます」と言うと、持ち上げていた私の手の甲にキスをして、静かに手を離す。
「またゆっくり、あなたと話せるといいのですが」
「いつでもお呼びいただければ対応しますので。どうかダイアンお姉様をお願いします」
頭を下げると「大丈夫ですよ、顔をあげてください」と言われ、私が顔を上げると「では失礼します」とフランツ殿下は自身の右手を左胸にあて、会釈する。その後、元来た通路を素早く歩き出した。
改めてその後ろ姿を……そのスラリとした後ろ姿、特に長い脚を見て、イケメンだなぁと思ってしまう。
でもその姿は、後に続く近衛騎士により、すぐに見えなくなってしまった。
どうかダイアンが、フランツ殿下を責めることがありませんように。
そう祈り、舞踏会が行われるホールへ入ろうと、歩き出すが……。
「こんばんは、ダイアン様」
この声は……知っているわ。
ヒロインの攻略対象の一人で、宰相の息子ピエール・ルーシャス・ウォラックだ!