ダイアンは悪役令嬢
ダイアンは悪役令嬢なのだ。
ヒロインの攻略対象が誰であろうと、彼女は悪役令嬢としてその恋路を阻む。
自身の王太子をヒロインが攻略対象として選んだ時、邪魔をするのは……それは仕方ないと思う。だって、本来婚約者がいる王太子を、男爵令嬢のヒロインが好きになること自体、間違っているのだから。
でも身分違いの恋は燃える。
ということで王太子攻略は、人気の王道ルートとされている。そしてダイアンは婚約者という立場なのに、ヒロインに敗れ、断罪されてしまうのだ。ただ、婚約者に手を出されたから、嫌がらせをしたのだ、という点は加味される。
つまり乙女ゲーム『恋探し~夢見るメルヘン~』では、大勢の前で婚約破棄されるという屈辱を受け、ダイアンだけが国外追放されるだけで済む。いわゆる血生臭い断頭台送りはない。家族が巻き込まれ事故になることもない。
ちなみに兄であるジョシュを攻略された時は、嫌がらせをエスカレートさせ、ヒロインを階段から突き落としてしまう。ただヒロインは兄に助けられ、事なきを得る。よって未遂で終わるのだが、この悪さは婚約者である王太子に知られてしまう。その結果、王太子から婚約破棄される。さらに未遂であっても、その罪を神に懺悔し、許しを請うようにと、修道院へ入れられてしまうのだ。
残りのヒロインの攻略対象、宰相の息子をヒロインが攻略しようとすると、「男爵令嬢の身分のくせに生意気」ということで嫌がらせが始まる。そして死ぬことはないが、辛い症状を引き起こす毒キノコをヒロインに食べさせようしたことがバレ、婚約破棄され、宰相の権限で幽閉の身となる。
神官長の息子をヒロインが攻略しようとすると、「神への冒涜」という若干いちゃもんに近い理由で嫌がらせを始める。神官長の息子は、神職の道を進んでいない、ただの学生なのに。でもってこちらも嫌がらせをしていることがバレてしまい、王太子妃にふさわしくないと婚約破棄、十年間の一切の舞踏会への出入りを禁止される。一見、他の断罪に比べライトに思えるが……。
十年間も社交の場に出ないことは、死んだも同然。婚期も逃し、名誉は地に落ち、何気にボディフローのようにダメージがじわじわ効く断罪だった。
そうではあったとしても。
他の乙女ゲームでは、断頭台送りという、血生臭い断罪が当たり前。
それに比べると『恋探し~夢見るメルヘン~』は全年齢版であるから、断罪内容がかなり優しい。よってダイアンが悪役令嬢街道を突っ走って断罪されても死にはしない……とは思うものの。ドッペルゲンガーである私は、ダイアンと瓜二つ。さらには双子として迎えられ、家族になった。つまり、ダイアンは私の姉。
元いた世界では一人っ子だった私には、兄弟姉妹は憧れの存在でもある。
そんな心理も働き、ダイアンが不幸になるのは……見たくない。
ゲームの運営にしても、ダイアンからしてみても、余計なことはするな!かもしれないが。
私はもう心に決めている。
姉であるダイアンが断罪されないよう、全力を尽くそうと。
できれば家族全員、ハッピーに過ごしたいと。
ということでまずは現状を知る必要がある。
そう、ヒロインであるロザリー男爵令嬢が、一体誰を攻略対象に選んだのかを確認するのだ。今日の宮殿の舞踏会は、基本的に貴族は貴族でも、上流貴族しか来ない。そしてヒロインの攻略対象の全員が、今日の舞踏会には顔を出すことになっている。
その彼らが所属するサロンのメンバーであれば、今日の舞踏会にも顔を出せることは調査済み。さらにヒロインは、ゲームの設定上、攻略対象と一通り出会う必要がある。ゆえに攻略対象が所属するサロンには、すべて入会している。
よってヒロインは今日の舞踏会にも顔を出す!
そこで私は彼女が誰を攻略すると決めたのか、見極める予定だ。
なお、王太子が顔を出しているサロンは「文芸サロン」「絵画サロン」。兄が所属するのは「絵画サロン」、宰相の息子は「文芸サロン」、神官長の息子は「天文サロン」だ。
「ダイアナ、なんだか顔が緊張しているね。初めての舞踏会だから、落ち着かない?」
兄が不意に私の頬に触れた。
兄と妹なのに。
お兄様、距離が近いですよ!と少し焦りながら、答える。
「そ、そうですね。私はダイアンお姉様のドッペルゲンガーなので、記憶やスキルを共有しています。舞踏会には『行ったことがある』という感覚はあるのですが……。元いた世界……前世では舞踏会に行ったことがないので……。緊張は、しているかもしれません」
「じゃあ、手を出して。僕のお姫様」
何をするのかしら?と手を出すと、兄は私の手をギュッと握る。
「不安や緊張がある時、自分の手を握ると気持ちが落ち着くと言われている。でもね、こうやって信頼できる家族が握るのでも、リラックスできるのだよ」
兄はそう言うのですが……。
家族になったのはほんの数時間前。
私からすると兄は……今も見慣れた攻略対象の一人。
勿論、彼は私の兄!と自己暗示はかけるようにしている。
それでも兄はかなりカッコいいのだから……。
リラックス? できるわけない!
もう心臓がドキドキしてしまう。
「ダイアナ……なんだか子供時代に戻ったみたいだ。昔のダイアンは……そう、こんな風に大人しくて可愛らしかった。最近はドレスもお化粧も派手で、すっかりツンツンだから。兄は寂しくて仕方ない」
そう言うと兄は手を握ったまま、私の頭を優しく撫でている。
え、待ってください、兄よ。
これではまるで恋人同士みたいですよ……?
【お知らせ】
>>一気読み派の読者様<<
「完結●断罪回避に成功した悪役令嬢
なぜか2度目の転生へ 」
https://ncode.syosetu.com/n3270if/
上記作品が完結しました☆彡
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イラストバナーもございます。
●あらすじ●
悪役令嬢に転生してしまい、でも断罪を見事回避し、80歳まで生き、天寿を全うしたシャーロット・スウィーニー。人生最期の瞬間に、一つだけ悔いが残ったが、そのまま魂の炎は消えた。
しかし。
再び転生していた。悪役令嬢シャーロットとして。
既に断罪を回避する方法は分かっているのに。まさかもう一度同じことを繰り返せと? 困惑するシャーロットだったが、早速、ヒロインの攻略対象と次々に遭遇してしまう。しかもこの攻略対象達は、なぜかシャーロットのことを甘やかしまくりなのだが……!?
こうして断罪回避方法を知るシャーロットの2度目の悪役令嬢人生がスタートする――。