ダイアンの想い~私とダイアナ~
フランツ殿下が私を嫌いになり、婚約破棄を申し出てくれる。
それを期待し、私は殿下に対し、無理難題を突き付けるようになったわ。さらに表向きは変らず円満そうに見せかけ、でも水面下では彼を攻撃するような行動をとるようにしたの。
こんなことをすればすぐに婚約は破棄される……そう思ったのに。
フランツ殿下はとても忍耐強い人だった。
どれだけ私が彼の嫌がりそうな行動をしようと、声を荒げて怒ることもない。ぐっと堪え、我慢し、そして小さくため息をつく。それで自身を律してしまうの。
これにはもう、驚くばかり。さすが王太子だと思ったわ。将来、国の上に立つ人間というのは、ここまで精神力が鍛えられているのかと、感動すら覚えた。
同時に。
無理なのかしらと追い詰められたわ。
どれだけアーロン先生を好きでも。
この気持ちは諦めないといけないのかと。
何より、私は想いを募らせても、この気持ちをまだアーロン先生には伝えていなかったの。
だって。
王太子の婚約者である私がいくら好きだと伝えても。真面目なアーロン先生は、絶対に私に振り向いてはくれないと思ったから。
婚約破棄をされて初めて、アーロン先生に気持ちを伝えられる――そう思っていたの。
でもそれは……さらに自分自身の首を絞めることになったと思うわ。
せめてアーロン先生に気持ちを打ち明け、どうしたら婚約破棄してもらえるか、相談することが出来ていたら……。
自分の中で膨らんでいくアーロン先生への想いを、誰かに打ち明けることもできず。どれだけ嫌われようと奔放になっても、殿下から婚約破棄されることなく。時間だけがどんどん過ぎて行くのよ。
それに。
父親から「そろそろフランツ殿下との結婚式について、考えてよさそうだね」と言われた時。
私の焦りは頂点に達したと思うの。
ある朝、目覚めたら、隣に私がいた。
もう本当に驚いたわ。
寝ぼけていると思った。
でもそっと横にいる私に触れると……。
感触があったの。しかもちゃんと温かい。生きている。
そう分かった瞬間、あまりの衝撃に、私は私をベッドから突き落としてしまったけれど……。
それが私のドッペルゲンガー、ダイアナとの出会いだったわ。
精神的に追い詰められた私の魂の一部が体から抜け出し、ドッペルゲンガーになった。そこに異世界から来たというダイアナの魂が宿ってしまったのね。
その結果、私のドッペルゲンガーは、よく知られたドッペルゲンガーとは違い、独自の人格を持ったの。当事者である私にもしっかり見えて、アーロン先生にも家族にも、それ以外の人達にもちゃんと見えている。
幻などではなく、そこに実在しているのだから、本当に驚いてしまったわ。
もうしっかり一人の人間としてそこに存在している。しかもアーロン先生の説では、ダイアナに何かあれば、私にも影響が出るかもしれないというのだから。無視できない。ダイアナと私は一心同体と考えることになったの。
だから双子の妹としてダイアナを受け入れたのだけど……。
ダイアナは面白いことを言い出したわ。
自身が元いた世界には、今、自分がいるこの世界に関する予言書があったのだと。その予言書には私が存在するというのだから、驚いてしまう。
でもそこで私は、素晴らしい情報を得ることになる。
予言書では、ロザリー男爵令嬢とフランツ殿下は恋に落ちると言うのだから。その結果、殿下は私と婚約破棄し、しかも私だけ国外追放にするのだという!
それはまさに願ったり叶ったり。
婚約破棄され、国外追放されるのは私だけなのに。
ダイアナは家族が悲しむ、ローズ家も没落し、みんな不幸になるというの。そうならないよう、フランツ殿下と仲良くし、ロザリー男爵令嬢に嫌がらせはやめて欲しいというのだけど……。
正直。
誰か特定の令嬢に嫌がらせをした記憶はないのよね。でも私は勝気な性格なので、敵が多いから……。
ともかくダイアナのおかげで、婚約破棄の道筋が分かったの。そうなったらその方向に進むよう、準備するのみ。
私が着々とフランツ殿下に嫌われ、ロザリー男爵令嬢との仲が深まるよう工作している。一方のダイアナは、それを阻止しようと必死になっているの。私になりすまして殿下とのデートも重ねているのだから、もうびっくりだわ。
とてもお人好しね、ダイアナは。
そして……気づいたの。ダイアナは自覚していないみたいだけど。私の代わりでフランツ殿下に会っているうちに。ダイアナは彼に恋をしている。無自覚のまま、恋にダイアナは落ちていたのよ。
では殿下はどうなのかしら? 私のフリをしているダイアナとのデートを重ね、そもそも相手がダイアナだと気づいている? ダイアナのことをどう思っているの?
それは舞踏会でフランツ殿下に会って、すぐに分かったわ。
彼は文武両道の完全無欠の王太子様。
ここ毎日のように会っているダイアンが、ダイアナであることはお見通し。そしてそのダイアナに間違いない。恋をしていた。
だって。
私と一緒にいるのに。私をエスコートして歩きながら、ダンスをしながら、その碧い瞳が追うのは、ダイアナなのだから。
仕方ないわね。
私がいる限り、ダイアナの恋は実らない。フランツ殿下の気持ちも救われない。さらに私の恋もこの国(ここ)にいては実らない。
だったら……。
もうこうするしかないわよね。
私はアーロン先生に気持ちを打ち明け、すべてを話す。そして彼と二人、国外へ脱出。殿下には手紙を書き、私とは婚約破棄し、ダイアナを新たな婚約者に迎えて――ってね。
ダイアナ。もう一人の私。
あなたも絶対に、幸せになりなさい。
こうして私は屋敷を飛び出した。
お読みいただきありがとうございました!
ダイアン、悪い子ではないんですよね~
ちなみに兄も筆者としては気に入っているのですが
皆さんはどうでしょうか?