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第4話 懐かしい味と未来の旦那様-2

 ようやく一息付けるな。

 久遠はシャワーに入っている。

 ようやく一人になれた。

スマホ、見てみるか……。


「うげっ」


『ゆー君ち行っていいー?』

『おーい!』

『おーい!!』

『どうしたの? 具合悪い? 今日元気無さそうだったもんね……。心配だよ~』

『本当に大丈夫? なんでもいいから返事ほしいな』

『今から家行くね! もし気づいたら連絡ちょうだい!』


 最後のメッセージが送られたのが三分前。

 今から連絡すればギリギリ言い訳できるか……?

 ……けど、そもそも言い訳する必要なんてあるか?

 先に裏切ったのはあいつだし、別に何と思われようと関係ないか。


いや待て、今バレたら愛衣はただ竜胆と正式に付き合うだけだ。

だったら今はまだ取り繕っておくべきか。


『ごめん、気づいてなかった。今日は亮介の所に泊まるから会えないや』


 メッセージを送ると、すぐに返事が来た。


『そっかー、分かった。じゃあ今日は帰るね~』

 なんか、妙に物分かりがいいな。

 普段なら亮介の家に来るとか言い出すのに……。

 あー、わかった。

 アイツに会うんだな。

 まあいいか、俺も注意できるような状況じゃないし……。

 

なんかもう、どうでもいいや。

 なるようになる。

 どうせ本当は今日終わってた人生なんだ、流されていけ。


「あなたはシャワー浴びる?」

「うわっ!?」


 びっくりした……。

 いつ上がったんだ? 全然気づかなかった……。

 ……ほんのり濡れた綺麗な長い黒髪と、Tシャツ一枚になったお陰でより強調された綺麗な形の胸がそこはかとなくエロイ。

 多分、Dカップとかか……?


「なんでそんな驚くの? ……やましいことでもしていたの?」

「急に声かけられたら誰だって驚くよ」

「……まあいいわ。それより、お風呂はどうするの?」

「俺は基本朝派だから明日にするよ」

「そ、じゃあそろそろベッドに行きましょう?」

「……はい?」


 ……まーた突拍子もないこと言い出したよ。

 

「この家、ベッドルームが一つしかないの」

「そうか、じゃあ俺はこのソファで寝るよ」


 リビングで寝るのも別に苦じゃないし、これでいいだろ。


「駄目」


 ですよねー。

 なんとなく久遠の行動が読めてきた。

 こいつ、俺に尽くしてくれる感じは出してるけど、本質的には暴君だ。


「ベッドルームに二つベッドがある認識で相違ないか?」

「相違あるわ」


 でしょうね。


「ダブルベッド?」

「ええ、そうよ」


 よし……!

 取り敢えずこれで離れて寝られる。

 これなら理性も持つだろ。

 彼女と別れる前に別の相手とやるとか、そんな屑《愛衣》みたいなことしたくない……キスはしちゃったけど。


「けど、くっついて寝ます」

「なんでだよ」

「あなたが私の未来の旦那様だから」

「仮な?」

「私はいつでも外す準備万端よ」


 久遠が胸をはる。

 だから強調しないでくれ、理性が……。


「はぁ……。わかった、一緒に寝よう」


 先にトイレで抜いてこようかな……。


――

―――

――――


 数分後、そのまま手を引かれてベッドルームに到着したせいで抜くこともかなわず俺はベッドの中でひたすら母親の裸を想像していた。

 静まれ、静まれ……!


スゥーーー。

スゥーーー。

スゥーーー。


 首元から鼻息が聞こえる。

 ……大丈夫?

ちゃんと息吐いてる? 

呼吸って、吸うだけじゃ成立しないよ??


「はぁ……クラクラする……! 幸せ……。」

 

 後ろから久遠の蕩けた声が聞けてる。

 背中越しに感じる二つの柔らかい“何か”と、この声のせいで俺の理性まで蕩けそうだ。


「あなた、寝てる……? 寝てるわよね? なら、シても……」


 俺の腕を掴んでいた手が離れ、“どこか”へ向かう。

 いや、まずいまずいまずい!

 このまま寝たふりしてたら始まるぞ!?


「……起きてるよ」

「そう、ならこっちを向いて?」


 間一髪で止めたと思ったら、今度は別の試練が待っていた。


「俺は壁を向かないと寝れないんだよ」


 この部屋はそんなに広くない。ダブルベッドを置いたら殆どそれだけで埋まり、後は化粧台とクローゼットがあるくらいだ。

 俺は白い壁にくっつくように置かれていたダブルベッドの端に寝ている。

 当然、久遠も俺の隣にいるので、大変もったいない位にベッドのスペースが余っている。


「本当? 何かを隠してるとかじゃないの? 例えば……」

 

俺の股間に誰かの手が伸びて来て、ズボン越しに当たる。

いやまあ、誰かというか一人しかいないんだけど……。


「やっぱり、固くなってる……」


 残念ながら、母の裸は全くの無意味だった。

 ちなみに、断じてマザコンではない。


「ねえ、これはなぁに? これを隠そうとしていたの?」

「別に固くなってない、だから離してくれ」

「ふーん、もっと大きくなるってこと? 意外と見栄っ張りなのね」


 クスクスと煽るように笑いながら、股間に触れている手がゆっくりと上下に動いていく。


「わかった、わかったからそれ以上触るのは……!」

「じゃあ、こっちを向いてくれる?」


 俺は渋々寝返りを打つ。

 目の前に久遠の顔が見える。

 つい数時間前にキスをした唇が、今また目の前にある。

 

「また、キスしたい?」

「いや、それは……」


 そんなことしたら、今度こそ理性が持たない。


「ねえ、しましょ? キスも、それ以上の事も……」

「……しない」

「どうして? 私、そんなに魅力ないかしら」

 

 ほんの少し、声が上擦っている。


「魅力的だよ、今だって必死に我慢してる」

「それならなんで……? 私、なんでもするわよ。あなたが望むなら、手も、口も……アソコも、おしりだって、なんだって捧げるわ」

「そういう問題じゃないよ」

「全部初めてよ? 誰にだって触らせてない、全部あなたのために残してある。身も、心も。あんな中古とは……」

「だから、そういう事じゃないんだって」


 深夜、二人きりの部屋で、私を抱いてと叫ぶ魅力的な女性が目の前にいる。

 それでも、一線を越えるのは嫌だ。


「アイツ《愛衣》みたいになりたくない。だから、別れるまで待ってくれ」

「……本当に、別れてくれるの?」

「明日にでも別れたい位だ」


 これは本心だ。

 俺は愛衣と別れたい。別れて、楽になりたい。

 もう、引きずりたくない。


「……わかったわ、その代わり今日は私を抱いて眠って?」

「だから……」

「そういう意味じゃなくて、なんて言うのかしら……うーん、物理的に?」

「ああ、そういう事か。わかったよ」


 首に手を回し、強く抱きしめる。

 正直、これで手を出さずに寝るのもそれはそれで苦しいものがあるけど……。


「やっぱりあなたはいい匂いね」

「汗臭くないか?」

「それがいいのよ」

「なんか、変態っぽいな」

「あなただけの変態なお嫁さんよ」

「なんだそれ」


 さっきまでの淫靡な雰囲気とは違う、どこか懐かしい空気を感じる。

 ああ、そういえば昔一緒にこうして寝たことあったような……。

 そんなことを考えているうちに、俺は眠りへと落ちていった。

 


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