第3話 迫害
村の朝は、早い。日の出直前に起き出して作業する。
お父さんは、山羊の世話と乳しぼり。お母さんは、食事の準備。僕は、玄関前の掃除。
「おや、農作業を息子さんに、手伝わせないのですか。そう言えば、農民にもなれなかったのでしたな。これは、先が大変でしょうなぁ。はっはっは……。」
そんな言葉を、山羊の世話をする父親に放つのは、隣の家の親父、ロイだ。
「いやぁ、家のトゥパは、大工の親方の所に、通いで入門してますぞ。既に。これが、中々……筋が良いと言われているんですぞ。それに、ひきかえ大変ですなぁ。はっはっは……。」
終始無言で、山羊の世話と、乳しぼりを済ませた父親だった。
* * *
昨日の残り物で食事を終え、食器の片付けもそこそこに、桶を持って村長宅に向かう母親。
正確には、村長宅の敷地内、牛舎だ。そこにいる乳牛の、乳しぼりを手伝う為、来たのだ。
少数の『乳の出』がよい牛を、素早く見極めて、素早く乳を搾り、素早く立ち去る。
何故なら、桶一杯の牛乳を村長に売る事で、一家一日分のパンと小銭を貰えるからだ。
「おーや、役立たずの、極潰しの母親じゃないか。オラァッ!」
でっぷり肥えた奥さんに、体当たりされる母親。しかし、乳しぼりの最中に、避けるなど不可能だ。だから、桶と牛を己の肉体で庇うしかない。故に、必死に耐えるのだ。
他にも、桶への泥など異物投入は、最早日常茶飯事。これらの嫌がらせの数々を、耐え忍ばないと、一家で食べるパンが、手に入らない。必死に耐える母親だった。
* * *
「おう! いたぜ! イタゼ! ヤクタタズの、ムノーが、いやがるぜ。」
石ころが、後頭部に命中した。小さい物だったので、出血まではしなかった。
昨日までは、怪我をさせない様、泥団子だったが、ランクアップしたらしい。
「おい! 何だ! その悪質な連中は! つか、背後に回らないと、何もできねぇだけだろ!」
などと言う無意味な指摘をする者などこの世界に存在しない。
「ほんとだ。よけるコトもできないみたいだ。いいマトだよね。ムノーらしい。」
彼等のけたたましい笑い声をBGMに、教会での習い事からの帰り道を進む。
そんなこんなで、今日も終わった。ベッドに入る。その時、全てを『思い出した』。
* * *
次回予告
第4話 思い出した!
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