第2話 役立たず
「え? ……『旅人』……ですか。珍しいですね。」
「ププぅーー! 使えねぇー。ゲラゲラゲラ! そんな、『職業』で、食って行けねぇだろ!」
「おひおひ……何だ。その微妙な『職業』と、微妙な評価は。」
などと言う無意味な指摘をする者などこの世界に存在しない。
「ほーんと、『旅人』って、『旅』するしか『能』が、無いんだろ。金にならねぇだろ。」
「つまり、奴立たずだって訳だ。『騎士』や『魔法使い』なら兎も角なのにな。」
「そんな、『レア職業』は、貴族様の特権だよ。つか、『農民』にもなれないって何だよ。」
何時の間やら、礼拝堂には、嘲笑が吹き荒れていた。
「え? そんな……家の子に限って、何かの間違いじゃないですか。神官様!」
掴みかからんばかりの勢いで、神官に迫ったのは、お母さんだ。
「お……奥さん、落ち着いて下さい。仮にも神聖な場所、神聖な時間、神聖な儀式の最中です。それに、神様のお告げですよ。『間違い』等あろうはずもございません。ご理解の程……」
そこに、お母さんの肩に置いただけで、落ち着かせたのは、お父さんだ。
「神官様、今年も、例年通り。男子は『農民』。女子は『主婦』でした。2人を除いて……」
「は……はい。ですよね。ディックさん。」
お父さんの気迫に、気圧される貌になった神官だった。
「では、神官様。もう一度。今一度、再度、息子に『洗礼』をお願い致します。」
深々と頭を下げるお父さん。お母さんも、僕も頭を下げた。
何時の間やら、礼拝堂には、そこかしこから漏れていた。失笑が……
ここで、再度、さり気なく『円』に視線を移す神官。
「……良し。未だ、『洗礼』の『効果』は、切れてない。いけるぞ。」
等と言う無駄口を叩かない神官だった。
「……わ……分かりました。確かに、前例の無い事ですし、もう一度『洗礼』しましょう。」
「ありがとうございます。神官様。」
父のお礼の言葉の後、一同礼から、すぐさま背筋を伸ばした。
「では、ゴーダ君。一旦、『円』の外へ出てから、もう一度、入りなさい。」
「はい。神官様。」
母親が、固い唾を飲む音を、BGMに、再度『円』の中へと足を踏み入れる。結果は……
「……同じですな。『旅人』……です。ディックさん。」
「なぁーんだ。結局、何度やっても同じかよ。『恥の上塗り』ってやつか。」
結局、『旅人』と言う『職業』を受け取る事になった。これで、今年の『洗礼』はお終い。
* * *
次回予告
第3話 迫害
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