guard-EN<病める女王の夢>
冴えない毎日を送るわたし。
学校が終わったら、ケータイ見て、テレビ見て、
一日を早く終わらせて、
落ちるーー
「りい君、まあ君ーー」
ーー夢の中へと。
わたしがアリスのように落ちる夢。その先には、真っ暗な闇がある。落ち着く闇。そこにはわたしの箱庭がある。そして、そこにはわたしを待ってくれる人がいる。
「りい君、まあ君、来たよ」
執事のように燕尾服姿でわたしを待ってくれているのは、所謂イケメンの兄弟。金髪で無愛想だけど、紳士的で優しいりい君。黒髪で大人しそうな見た目の割に、ちょっとチャラくて砕けた調子のまあ君。冴えないわたしは、箱庭では二人を従える女王。冴えない女子高生から解放されるのだ。
「お待ちしてました、ハコ!」
りい君もまあ君も、わたしの好きな漫画のキャラのような完璧超人。背も高くて、わたしにとても優しい。りい君が、制服姿のわたしに王様のガウンを着せてくれる。そしてまあ君が、王笏を持たせてくれる。
「今日は何をするんだ?ハコ」
「ん、今日はねぇ…楽しいことがしたいなぁ」
わたしが闇から箱庭に足を踏み入れると、箱庭の床が万華鏡のような無機質な世界に組み変わる。
「…。」
「…へぇ、じゃあお茶でもする?冒険?それとももっと違うこと?」
「うーん、そうだなぁ…」
ーー人の迷惑も考えてよ!!!
わたしの脳裏に、一瞬少女の険しい顔が浮かび、怒鳴り声が耳をつんざいた。わたしは両手で耳を塞ぎ、突然の「邪魔」をやり過ごした。
「…今日はまったりお話したいかな!ねえ、聞いて。お昼にね、とても面白いことがあったの。同じクラスの、ゆなちゃんがねーー」
ーーえぇ?!ゆな、落書きヤバすぎ
へへへ〜。だって、センセ話長くない?
ちょ、箱田さん何勝手に見て笑ってんの?!キモっ
ちが…見えちゃった、だけで…。
「ハコ?どうしました?」
「…ん?ああ、なんか…頭、痛くて…」
わたしは、立っていられなくなって頭を抱える。
(りい君、まあ君、つらいよ…)
視線で助けを求めれば、二人はわたしを甘やかしてくれる。大きな手で、わたしの頭を撫でてくれる。
二人は不安そうに顔を見合わせている。
「いた…っ」
わたしの頭痛がひどくなるにつれ、だんだん世界が揺れ始める。強い縦揺れにそのうち立っていられなくなって、わたしたちは地に伏した。
「…まずい、来ます!」
獣の雄叫びが聞こえて、闇の中から巨大な鬼が現れる。わたしの箱庭を棍棒で壊して、中に侵入してくる。
「だめ…やめて……壊さないで!」
侵入者に、二人の少年が立ち上がる。
「利斗、やるぞ!」
「言われなくても…眞翔!」
二人は巨大な鬼に向かって走り、素手で殴りかかる。わたしは王笏を一振りすると、りい君とまあ君に鎧とガントレットを授ける。
「剣を使って!」
闇の中に光り輝く剣を、二人のわたしの騎士が掴んで立ち向かってくれる。それでも、わたしの頭痛はひどくなるばかり。頭痛が強くなるほど、鬼は大きく強くなっていく。二人の騎士も、簡単に吹っ飛ばされてしまう。
「ぐうっ…!」
「だめ、りい君!まあ君…!」
二人に慌てて駆け寄ろうとして、気付く。鬼が自分を真っ直ぐに狙ってくる。棍棒がわたしの脳天に振り下ろされようとしていく。
(あ…)
鳥の囀る声。
わたしはかっと目を開く。天井を見て、今いるところを確かめて、ようやく落ち着いた。
(ゆ、夢…)
わたしは充電していた携帯を取り出し、検索画面を表示させる。
検索ワードは、「夢占い」と「鬼」。
「危険が迫っている…負けると更に状況が悪くなる…」
弾き出された結果に、わたしが頭を抱えていると、階下からわたしを呼ぶ声が聞こえる。
「葉子、早く起きなさい!」
「はあい!!」
わたしは、夢の中では女王。
いつだって特別な存在になれる、はずなの。
夢の中で戦う女子高生のお話です。
長編向きの設定なのですが、気分的にとても書ききれる気がしないので、短編としてとりあえず書くだけ書いておきました。
いつか取り掛かれそうな時が来たら、よろしくお願いします。