シャルマエ in 『名前の無い世界』 ~魔王様、諭す~
エルトリア様原作『リトルパラディン ~田舎娘だけど、聖剣に選ばれたので巨大ロボットに乗って騎士団長をやります!~』にて行われている、サカキショーゴ様企画【シャルマエシリーズをエルトリア嬢に贈っちまおう企画!!】に参加しないかとエルトリア様から申し出を受けました。自作小説、『秘密結社の改造人間だけど、異世界召喚されたので魔王になって頑張ります』とのコラボ作品です。
ここは何時もの魔王軍本部基地司令室。魔王軍幹部連中がずらりと勢ぞろいする中、魔王ブレイド・JOKERはやれやれと首を振って言った。
「……ふう。アオイとミズホが風呂に入っていたら、突然水柱が立ってその少女が風呂の中に『ぷかあ』と浮いていた、と?」
「うん、魔王様」
「そうなんです」
アオイとミズホは、ブレイドに対し頷いて答える。彼女らの傍らには、簡素な間に合わせの衣類を着せられた12~13歳程度に見える少女が、ロープでぐるぐる巻きに縛られていた。もっとも未だ、目を覚ましていないのだが。
アオイたちはさらに言葉を続ける。
「最初は刺客の類かと思った。だけどこんな間抜けな刺客がいるだろうか……って事で」
「それに、現れた時は素っ裸でしたし。寸鉄も身に帯びずに。あと、浴場は天井まで4m無いのに、なんか20~30mは落下してきた様なダメージを受けてましたね。縛り上げてから、治癒魔法かけましたけど。」
「40mからの落下で、水面がコンクリートの硬さ相当になるんだったかな。……お、目を覚ましそうだな。さて……」
今まで気さくだったブレイドの様子が、威厳ありげな様子に変わる。アオイとミズホも、他の幹部連中も表情を引き締めた。少女がうめき声を上げる。
「う、ううん……。はっ!?ここは!?……うわっ!なんで縛られてやがるんだ!?」
「静かにしていただけますかね。魔王様の御前です」
「え、な、うわっ!?ば、化け物!お前ら魔族か!?ちくしょう、こんな……」
大魔導師ザウエルの言葉を無視し、縛られた少女は必死に縄を解こうと暴れ出した。どうやらパニックを起こしている模様だ。
ブレイドは溜息を吐くと、無詠唱で『鎮静』の術法を使う。縛られた少女は、半ば恐慌状態に陥っていた精神を強制的に平常に戻されて、暴れるのをやめた。と言うか、きょとんとしている。
「落ち着いたか?貴様は突然、空間転移系か何かの魔法効果で、わたしの部下が風呂に入っている所に飛び込んで来て、気絶してしまったのだ。と言うか、この魔王軍本部基地は転移系魔法への対抗処置はしっかりしているはずなのだがな……。
となると、予測されるのは次元跳躍系の術による異世界間転移だな。予算関係の問題で、次元跳躍攻撃に対する防御は、まだ完璧では無かったのだ。まあ、近い内にその処置もする予定であったが、の」
「……あっちゃあ~。またかよ……」
「「「「「「また!?」」」」」」
その場の魔王軍幹部連中が、一斉に驚きの声を上げる。
「……アタシはなんでか分からないけど、元の世界で風呂入ってるとその場所の性質なのか何なのか、ときどき異世界へ行っちまう癖がついちまってさ。ときどきは、副団長もいっしょに来るんだけど、今回はアタシ1人だけか」
「それはとんでもない話ですね……。いや、実に興味深い。解剖して調べてもいいですか?」
「だ、ダメダメダメ!! なんて事言うんだ! これだから魔族は! ……あんたら、魔族、だよ、な?」
少女はザウエルの冗談を本気にして、必死で拒否する。ザウエルは自分が悪いと思ってもいない風情で、肩を竦めて首を振った。
「冗談も分からないとは、やはり人間ですねえ。ええ、僕は魔族ですよ。ですが魔王様は異世界の改造人間、親衛隊長と親衛隊副長は異世界の人間、そちらは魔法で彫像に意識を移していますが魔竜で、そちらの鎧は戦闘ドロイド、あちらの武人姿のは獣人タイプの魔獣、あっちの半透明なのは怨霊です。
魔族は僕と、そちらの文官たちだけですよ」
「え? え? ま、魔獣? 魔竜? も魔獣、だろ? ああ、いや世界が違うから?」
「世界には、それぞれ世界ごとに常識が違うからな。魔族と言う言葉の意味すら、そちらの世界とこちらの世界では異なるだろうて。
こちらの世界では、人型に近く、高い魔力を誇り魔法に長けている魔物の1種族を、魔族と呼んでおるのだ。また、魔獣はその肉体に獣の特質を宿し、しかして一定以上の知恵を持った魔物をそう呼んでおるのう。魔竜は、いわゆる竜であり、そのうちで魔王の配下になった者を魔竜と呼んでおるわ。」
いかにも偉そうな口調で、ブレイドは少女に教える。普段はもっと気さくなのだが、ここは少女と言う外来者がいるから、態度を飾っているのだ。少女は目を白黒させつつ、それでも口を開いた。
「はぁ……。なんか、あんたら嫌な感じがしないな。この世界では、その……魔物? って、人間と敵対してないのか?」
「しておるぞ?」
「!! ……じゃあ、なんでアタシを殺さない?」
「まず第一に、貴様を殺す意味が無い。貴様は我々が敵対しておるこの世界の人間では無い。その様な無意味な殺戮は、先代魔王ならばともかく、我は禁じておるわ。
そして第二に、貴様は……。人造人間か改造人間、その末裔であろうが?」
「!!」
少女は愕然として、目を見開く。ブレイドは続けて言った。
「貴様の体内には、普通の人間には存在せぬ臓器がある。魔道の術で調べたが、どうも魔力素を蓄えて扱いやすいエネルギーに変換する物らしい。だが、自然の進化で獲得した臓器にしては、周囲の他の臓器とちょっとばかり違い過ぎる。取って着けた様にの。
普通の人間でない以上、なおさら敵に回す意味が無いと言う物よ、のう?ああ、いや。貴様らの世界においては、既にソレが普通の人間なのやも知れぬが、な。
……ハッ!」
「!!」
ブレイドは、右前腕に装備されている長大な刃状のトゲを振るって、少女を縛り付けているロープを断ち切った。
「……!! な、なんでアタシを自由に?」
「敵ではない、からな。この場で無駄に暴れる程、愚かでもあるまい?……諸君、せっかくの珍しき客人だ。茶会で持て成そうではないか」
その言葉に、アオイとミズホはそれぞれ簡易キッチンと冷蔵庫に向かい、お茶の支度と菓子の準備をする。大魔導師ザウエルは、未だ表情を顰めていたが、実の所頬がピクピクと、笑みの形に歪みかけていた。何を隠そう、ザウエルは甘味が大好物なのだ。
やがて茶会が始まった。お茶請けは、プリンのパフェである。ブレイドは徐に、口を開く。
「さて、まだ皆を紹介しておらなんだな。我は魔王ブレイド・JOKER……。魔王軍を率い、この世界を征服するために戦っておる。そちらの2人の人間は、親衛隊長アオイ・カンナと親衛隊副長ミズホ・クオン。
そちらで菓子を満面の笑みでぱくついているのが、大魔導師ザウエルだ。プリンの器に頭を突っ込んでいるのが、魔竜将オルトラムゥだ。オルトラムゥは本当は40mを超える巨大な魔竜なんだが、『パペット』の魔法で意識を小さな彫像に移してここに居る。
あちらの獅子の顔をしているのが、魔獣将ガウルグルク。種族的に食べ物が食べられないから給仕をしてくれているのが、魔像将ゼロ。同じく怨霊だから物が食べられないのだが、香りはわかるのでお茶と線香を楽しんでいるのが、怨霊将伊豆見鉄之丞。
あとは、そちらの6名は文官で、クリフトン、デズモンド、エヴァン、フレドリック、ガドフリー、ヘクターだ」
「あ、アタシはシャルロット・リ……じゃねえ、新しい姓になったんだ、シャルロット・エル・ヴァース。クルセイダー第二師団ヴァース・アンセムの団長だ。ま、まあちょっとした成り行きで団長になっちまったから、実力はたいした事ないんだけど、よ。
……しかし、これ美味いな。クーリィに連れてってもらった、街一番の菓子店のプリンと同じか、それ以上だ」
「そ……」
「ふはははは、そうでしょうとも!魔王様が御手ずからお作りになられたプリンですよ?」
「「「「「「その通りですとも!!」」」」」」
ブレイドが何か言おうとした矢先、ザウエルが満面の笑みで言い放つ。そして文官6名もそれに追従した。ブレイドは顔面の装甲板を、がりがりと鋭い爪で引っ掻いている。照れているのだ。
「ええっ! あんた、自分で菓子を作るのか!? そのいかにも恐ろし気なその風体で!?」
「まあ、な。」
「ふぁ……。人? は見た目によらねえなあ……。うーん……。人、と言えば、なんでそっちの親衛隊長さんと副長さん? あんたらなんで、人間なのにこっちの陣営に付いてるんだ? あ、いや。あんたらも異世界の人間なんだっけか。だから魔王とかの敵じゃないってことかな。」
一瞬、空気が凍った。シャルロットは、自分がマズい質問をしたのでは、と焦る。
「あ、いやいや! 無理に答えなくていいから! 悪かっ……」
「わたしたちは、最初は魔王の敵として、召喚された。」
「!?」
アオイは呟く様に言う。その言葉に秘められた、ぞっとする様な響きに、シャルロットは凍り付く。アオイは言葉を続けた。
「わたしは先代魔王、ゾーラムを倒すための戦力として、『リューム・ナアド神聖国』と言う人間の国に召喚された。そして長い旅の末に、先代魔王ゾーラムを倒した。だけど、旅の仲間だった奴らがその瞬間裏切って、背中から心臓を貫かれた。
理由は、わたしを召喚しておいて、それなのに元の世界に還す方法が無かったから。それで復讐される事を恐れた『リューム・ナアド神聖国』の首脳陣が、わたしを殺したの。でも、死にかけていたところを今代の魔王様が命を救ってくれた。それだけじゃない、復讐に力を貸してくれると約束してくれた。
だからわたしは魔王様に従って、戦っている。」
「わたしもそうです。わたしは今代の魔王様を殺すために召喚されました。魔王様を倒したら、自分の世界に還してくれるって。でもそれは嘘で、わたしも殺されるところだった。それを魔王様が助けてくれた。そして復讐に力を貸してくれるって……。
わたしたちだけじゃなく、そちらの鉄之丞さんも、『リューム・ナアド神聖国』に嵌められて殺されて、怨霊になったんです。」
ミズホも続けて言う。その言葉には、怨念が込められていた。シャルロットは、呆然と呟く。
「な、なんでその『神聖国』とかはそんな事をするんだ。ぜんぜん『神聖』なんかじゃ無いじゃんか……」
「奴らが、『正義』だからさ。」
ぽつりと、ブレイドが言う。その言葉は空っぽで、空っぽで、空虚すぎて、しかしそれ故に重く響いた。
「奴らは、正義のためなら何をしたって良いって、そう考えている。魔王を倒して自国を平和に導くためなら、何をしたって良いと。農作物の不作も魔王のせい。税金が高いのも魔王のせい。貴族や高僧が贅沢をするのも魔王のせい。ぜんぶ悪い事は、何故か魔王のせいだから、魔王を倒さないとって。阿呆めが。
そして魔王を倒したら、魔王を倒すため召喚された勇者が、還れないと知ったら復讐に来るかも知れない。そんな勇者は、悪だ。自国に逆らうんだから、悪だ。だからその前に殺してしまえば安心だ。それは『神聖国』のためだから、正義だ。
……そう言う事なのだよ」
「……そんなの、そんなの正義じゃ」
「貴公がどう思うかは、奴らには関わりが無い。奴らがどう思っているか、がこの場合の問題なのだよ。
だが……」
ブレイドは言葉を切り、そして再度口を開く。
「だが、君がもし正義でありたいと思うなら。その正義が正しいのかどうか、常に自分に問いかけ続ける事だ。行き過ぎた正義は、看板が違うだけであって、悪となんら変わりは無い。そして人は、正義のためならばどこまでも醜い行いをする。
正義は、常に心の中に持っておきたまえ。ただし、正義を行使するのは、ほどほどに、だ。行き過ぎた正義ほど、迷惑な物は無いのだからね。」
「……」
シャルロットは、しばし黙りこくってしまったが、やがて小さく頷く。と、その瞬間、シャルロットの姿が薄れ始める。
『あ……。』
「ほう? 何が帰還のキーになったのかは分からんが……。元の世界へ還る様だな。
……わたしの言った事を、忘れないで欲しい。正義は大事に、だけど……」
『あ、ああ!常に自分に問いかけるよ!』
「それと、まだプリンパフェが残っている。もったいないから、掻っ込んでいきなさい。ククク」
『あ、そ、そうだな! 出された食べ物を残さないのは、間違いなく正義だ!』
シャルロットは、消える寸前に何とかプリンパフェを食べ終えた。そしてその姿は完全に消えて行く。
「……還った、ね」
「ちょっと羨ましいです……」
アオイとミズホが肩を落とす。ブレイドは手をのばし、その2人の頭をそっと撫でさすった。
そしてザウエルがぽつりと言う。
「あ。パフェの器とスプーン……。持っていかれてしまいましたね」
「「「「「「あ……」」」」」」
締まらない終わり方であった。
この作品は、シャルロットが『秘密結社の改造人間だけど、異世界召喚されたので魔王になって頑張ります』の世界に召喚されるお話です。よろしければ、そちらもご覧ください。魔王様の御姿を見てみたい方は、アルファポリス様にも『召喚魔王様がんばる』のタイトルで投稿しておりますので、そちらにはキャラ紹介にイラストが付いております。