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マッドサイエンティスト

 俺は引っ張られて走る。ゆっくりと自分の意思で前に進める様になってからは楓の手を振りほどき走った。校舎の裏にある階段を下りて寮へと向かう。階段を上って一番手前の角部屋に鍵を差し込む。カチャリと音が鳴り、俺達は部屋に入り鍵を閉める。


「はぁ……はぁ……アレはやばいと思ったわ」


「あんなのお化け屋敷の変なメイクと一緒よ。変に意識するからダメなんだから」


 そんな風に考えた事なんて無かった。ははっあいつらは変なメイクをしてのっそり歩いてくる奴ら……俺も見習う所があるかもしれない。冷蔵庫からお茶の缶を取り出して楓に手渡した。そして、俺も一口飲んで携帯電話を取り出す。


 親に連絡を入れるが、電源が入っていない……宝塚は電波が届かないと電子音が流れた。


「ったく、あいつら何してんだよ」


「あたしの携帯も充電するから」


 楓はそう言って充電器を取り出して充電を始める。


「まだ電気って通ってるんだな」


「しらなーい。冷蔵庫も使えてるみたいだし大丈夫なんじゃない?」


 楓はそう言って人のベッドに倒れて横になった。


 ネットも使えるので検索すると日本各地で起こっているらしい。俺の周りだけじゃないのか……俺と楓は地方からこの学校に来ていて両親のところに行くには距離がある。今はある程度の情報を集めよう。そう思いネットを漂っていると一つの動画に出会えた。再生数が急激に伸びている動画は昨日の夜にあげられたものらしい。


 楓を見るとベッドで横になって目を瞑っていた。人の家なのにこいつは……俺は放置して動画を再生する。


『マッッッッドサイエンティストの私です』


 ひょっとこを被って白衣の男……かな。音声が加工されていて判別出来ない。


『私が開発したラバーズは楽しんで頂けているかな?』


 ラバーズ? こいつはこの騒ぎに乗じての妄言かと思って動画のコメントを見たら他の人もそう思っているらしい。


『人間は要らないと私は思う。何故ならば! 環境を壊し。自分勝手に生き物を殺す! そんな生き物は居なくなっても良いのでは無いかと……私は思ったら作っていたよ。ラバーズ……をね? このラバーズを体に取り入れると皆は知ってるよねぇ?』


 ハイテンションで喋っているんだろうけど、音声が加工されているせいで読み取りにくい。ただ、ふざけて動画を作っている様にしか見えない。


『そう!! みんな大好きなゾンビさぁ! 愛する者をむしゃむしゃ食べちゃうゾンビィィィッッ! ちなみにぃ、食べられた人もゾンビになるから安心してねぇ。皆で一緒になろう』


 自分の体を強く抱きしめてくねくねと左右に揺れて気持ち悪い。


『だが、ゾンビになりたくない人もいるよね? 私は優しい! なのでそんな人にも救いの手を授けようと思う。私が開発したんだから、当然対策もするさ。欲しい人はここにお金を入金してね』


 画面の下を指さすと銀行口座が表示された。やっぱり混乱に乗じてお金を巻き上げようとしてるだけか……それに自分の銀行口座を晒す何て頭が足りない人らしい。


『ちなみに、私を特定した瞬間に入金した人は無効になるから気を付けてね? さてさて、誰から入金されるかなぁ。もしかして、お外に出れないから入金出来ない? ご安心を。今ならこの動画を見ている人ならネットでも入金可能さ! 素晴らしいよねインターネット! ネット回線は今後止まるかもしれないが安心して欲しい。その対策も出来ている! 5G回線用の端末が電信柱にくっついているからね。日本は普及率が高いからお近くの電信柱を参考に! 近くに無い場合は諦めて? 大丈夫いつかチャンスがくるさぁ!』


 胡散臭すぎる。こんなの信じる人が居るのか……。


『さぁ、この動画を見て胡散臭いと思っている人に決定的な証拠を見せよう。私が開発したラバーズは愛する私に無害なのさぁ』


 そう言って立ち上がるとカメラを持って移動する。スケルトンの部屋が用意されており、中には虚ろな目で漂っている男女が数名入っていた。俺達も見ていたゾンビに酷似している。カメラを置くと自らをマッドサイエンィストと名乗った男が中に入る。すると、ゾンビは何も反応を起こさなかった。彼らの横を通り女性の頭を撫でて男性の肩を叩くが何も反応をしない。


 美しい女性にキスをすると一人で部屋から出て扉を閉めた。そして、カメラの前に来ると指で合図をする。


『彼は今日死ぬ予定の死刑囚だ。そんな彼にもこの部屋に入って頂こう!』


 目隠しとヘッドフォンを掛けた男性が扉の前に立たされてヘッドフォンを外された。そして、彼には部屋があるから中に入って欲しいと伝えて言われるまま中に入ると……先ほどまで無害だったゾンビが彼に襲い掛かりスケルトンの部屋は血飛沫が壁に張り付いた。


『彼もゾンビとなり生き続けるだろう。これで証明出来たと思う。では、ごきげんよう』


 コメント欄を見るとヤラセだ! という声もあるが、昨日の今日でこんな動画をあげれるなら本当なのでは? とコメントにも迷いがある。


 動画を見終わった後に再生数を確認すると五万再生も増えていた……みんな見てるんだな。後ろの楓を見ると寝ているのか寝息を立てている。こんな時に暢気な奴だ。


 楓の携帯電話が充電されているからなのか自動で電源が入っていた。表示を見ると深雪から連絡が着ている……そういえば俺も深雪の連絡先は知ってたな……掛けてみようか。


 久々に連絡をする。どうせ宝塚みたいに電波が届かないか電源が入ってないと思っていたが相手は出た。


『玲くん?』


「おう、俺だよ」


『良かった……無事だったんだね。私みんなとはぐれちゃって……』


「今どこに居るんだ? 一人なのか?」


『うん。一人なの体育館の放送室で鍵を閉めて籠ってて……お願いがあるんだけど……』


「どうした?」


『助けに……来てくれない? ……ううん。お願いします』


「分かった。けど、時間は掛かるかも知れない待てるか?」


『うん。待てるよ、ありがとう玲くん』


 安請け合いかもしれないとは思えたが緊急事態なのは事実で……俺達を倉庫に閉じ込めた一人だけど助けよう。今は一人でも多い方がいい。深雪が居ればあの後に起きた事を知れるだろう、俺と楓が倉庫で過ごしていた時に外では何が起きたのか。通話を切って俺は出掛ける準備をする、ゾンビを人間だと考えてはダメだ。


「楓」


 そう言って寝ている楓の腕を触るととても熱かった。よく見ると汗を掻きながら短く呼吸をしている、額に手をやると……熱が出てんのか。こんな時にめんどくさい。俺は楓の近くに飲み物を置いてタオルを軽く水で濡らして額に掛けた。


 その代わりと言っては何だが楓のカバンの中を物色する。借りても罰は当たらんさ人の部屋をタダで貸してるし。俺は拝借したソレをポケットに入れて他に持てそうな物を探す。


 豚の貯金箱を開けて小銭を取り出して財布に多く入れる。美穂の様子だと物音に敏感だったので小銭を投げれば反応してくれるかもしれない。目がどれくらい悪いのかも気になる。美穂自身が悪くて見えにくかった説もあるが……音で意識を遮れるなら使わない手は無い。


 俺はカバンに荷物を入れて携帯電話を手に取り部屋を出た。鍵を閉めて階段を下りて体育館へ向かう。遠目にさっきと同じ場所を見ると顔の潰れた女性がうろついていたが今はあんまり気にならなくなっていた。

ブックマークが倍くらい増えてる!

ありがとうございます。


物語が始まっていきます。パニック物にありがちな科学者さんです。

その本当の目的とか気になります。

『ラバーズ』!!!意味を調べると……何がどうなるのやら。

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