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新たな門出

 日が昇り紫乃もお出かけの支度を終えた頃に施設へ声が届いた。


「おはようございまーす」


 楓の声に対して全員で校門へと赴く。


「これはなんとまぁ……北山頼む!」


 西城楓(さいじょうかえで)の顔を見て志村はさっと北山の陰に隠れた。話は事前に聞いていたが、顔が半分違うのを目にすると小心者の志村は前に出ない。


「よお」

「お迎えに来たわよ? あたしが直々にね? 後ろのが仲間ね。アレで全員かしら?」

「あぁ」


 目の前に広がる光景……紫乃はよく観察していた。


 北山の友人――西城楓の周りをゾンビが歩いている。彼女に襲いかかる事も無く、まるで従者のようにも見えた。一部、紫乃に気づいて近づこうとする者を制する仕草をしている。


「モコちゃんゾンビ達はあの人に従ってるみたいだね―。不思議だね」


 言葉を話す事も無く、腕の中のモコちゃんはぎゅーっと抱きしめられていた。そんな様子の紫乃を横目にコソコソと志村も呟く。


「襲われないって事は俺達もゾンビを恐れる必要なんてないんじゃないか? まぁ、その見た目的にはちょっっっとグロテスクな所はあれど。襲われないなら生きていける! そして、ちゃんとデスゲームを……」


 まだやる気なんだーと紫乃が志村を見る目に暖かさは皆無であった。


「さぁ、行きましょうか私のお城へ」


 ついてこいと言わんばかりに手を振り楓は歩みを進めた。それに続いてゾンビ達ものそのそと歩き始める。


 北山達はお互いに顔を見合わせて頷くと楓の後ろをついていく。



「北山にはお世話になったからね、特別よ? あたしが特別にあんた達を招待するんだからね?」


 今にも笑い出しそうな顔で楓は北山に言った。


「生存者はまだ居るのか?」


 いつもの調子で北山が楓に尋ねる。


「えぇ、もちろん。生きるには力を合わせなきゃね。あたしも嫌なのよ? でも、この世界に適応する為に、サンプルは沢山必要だもの」

「さ、さんぷる!? なんだよそれって」


 話を聞いてた志村が口を挟む。


「煩いわね。サンプルはサンプルよ。あんた達、人間が生きるために何が必要かを把握しなきゃ直ぐに死んじゃうでしょ? 絶滅しちゃったら美味しい物が食べれなくなるじゃない」


 愚かなものを見る冷たい目で楓は志村を見ている。その言葉を聞いて、北山にこっそりと耳打ちした。


「おい北山。お前の同級生はゾンビに襲われないし変な事を言う……変人か?」

「……」


 志村にしては聞こえない様に使ったつもりなのだろうが、全員に聞こえていた。


「うざ。そいつ居なくてもいいかな? 北山」

「ひっ」


 見の凍る視線を楓は向けていた。その視線に志村は悲鳴をあげる。


「やめてくれ西城。おまえのその……顔も含めて俺も混乱している」

「そお、そうよね。混乱してるのも仕方ないわよね。なぁんにも分かってないんですもの。あたしは女王よ。この世界を手に入れて楽しく過ごそうってだけなの。ダーリンと二人で過ごせれば他は要らないの。その為には色々と準備が必要なのよね」


 また要らない事を言いそうな志村に、紫乃が拳を握りポコンと殴った。


 非力で威力もなく肩を叩かれたレベルの衝撃に志村は首を傾げている。


 紫乃の言いたいことが何も伝わらなかったらしい。


「西城なんか変わったな」

「北山は変わらないのよ。世界が変わっちゃったんだから変化は大事よ。ほら、あんなに怖かったゾンビ達も理解出来れば襲ってこない。また平和な日々を過ごしましょう」


 数人いるゾンビの目は血走り、紫乃の率直な感想としては今にも襲ってきそうに見える。


 でも、本当に襲ってこない。この謎はなんだろう? と観察してみたが分からない。ゾンビの移動速度は遅く、道中沢山のゾンビとすれ違った。時折、先導する楓って子が何かを呟いている。道を開けさせる事がどうやら出来るみたい。


 訪ねて解決する問題も世の中には沢山存在する。


「ねぇー。どうしてゾンビが襲ってこないの?」


 紫乃は先導する楓へと問いかけた。


「さっきも言ったでしよ? あたしは女王よ。クイーンを襲う兵隊なんて居ないでしょ? あたしが退いてって言えば道が開くの」

「ふーん」


 紫乃は蟻みたいな感じかなーと考えていた。


 トップを中心にゾンビ達にも社会性がある? あ、紫乃達もトップの人がお国にいるし変わんないかー。


「モコちゃん。なんだか、異星人と出会ったみたいな気分だね」


 ゾンビも権利を主張したりするかなぁと紫乃は妄想にふける。お隣さんがゾンビだったら、お醤油とか借りてくるかな?


 そう考えながら周りのゾンビに目を配る。遠くを彷徨う彼等が料理をする想像は出来ず、食べ残しの腕とか持ってきそうだなーと紫乃は苦い顔をした。


 最初の時と違ってゾンビの見た目に対する耐性を得ていたことに紫乃は気づく。最初はとっても見た目がキツかったけど、何度も見てるうちに慣れていた。急に出てくるのが悪い! 来ると思っていたらお化け屋敷だって大丈夫かも! と、紫乃に妙な自信が湧いている。


「そうだ! どれくらいの生存者がいるの?」


 今から向かうところにいる生存者の数は、北山も気にかけていた。志村に至ってはゾンビが襲ってこない現状を考えると、薬を作れる可能性が見えてきたと判断している。そもそも、なんで襲われないのか? 目前の顔を二つ持つ女性――西城楓のクイーンという理由が本当なのかと頭を悩ましている。


「んー、そりゃ沢山居るわよ。貴重な人材が沢山ね? あたし達が生きるためには力を合わせなきゃでしょ?」


 楓は紫乃に対して笑顔で答えた。


 その場にいる全員を一歩引いた目線で歩が観察している。


「紫乃そういえば……朝ごはんまだだったや」


 楓が訪問する少し前に起きて支度を始めていたので空腹だった。そっと後ろから歩が食べやすいチョコのスナック菓子を手渡す。


 そして、志村の施設を離れて約一時間の移動後、見えてきたのは大きな大学病院。


 ソンビに襲われる事無く到着した。

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