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絡繰少女とロマンスドリーム  作者: 源 蛍
第一章 魔力じゃなくて心で
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episode1

 夏の月──何処の国でも、蝉の鳴き真似で最も有名なのは『ミーンミーン』ってのだろう。だが実際最も耳にするのは『ジー』って鳴き声だ。

 まぁ、地域によって異なるかも知れないから、一概には言えないんだが。

 現状、俺のやって来た西洋の大都市『ドーリス』では蝉の鳴き声すら聞こえてこないくらいだ。


 アホ毛が気になるがそれ以上に己の金髪が輝くのが迷惑だ。眼が眩む。──俺は蒸し暑い列車の中で、隣に眠りこける『絡繰人形』を叩き起こした。


「リゼ、朝だ。そろそろ着くぞ。ドーリスだ」


「ふぁ……あ、兄さんおはよう。長かったね」


「まぁ、三時間はかかっただろうな」


 リゼは俺と共にある目的の為ドーリスにやって来た『自動人形(オートマトン)』だ。

 自動人形(オートマトン)ってのは、主とされる人間の魔力に鳴動して活動をする絡繰人形(トワインドール)の一種だ。基本的に性能がよく知能もあるが、通常の絡繰よりも耐久性が低い。まぁ、当然っちゃ当然なのかも知れないが。


 ──俺達は西洋の田舎町からここまで来た。目的は、ある団体を根から潰す為だ。

 それがこの町、ドーリスにアジトらしきものを建てているらしい。三日三晩眠らずに調べたら出て来てくれた情報だ。

 まぁ、その情報が事実かは見てから判断すりゃいいだろう。


 西洋ではある文化が栄えている。特に大都市であるドーリスでは、技術の発達が圧倒的らしい。

 それが『絡繰人形』を作る技術だ。俺の師匠も凄腕の絡繰技師だったからな。

 人間一人にペアで絡繰人形を一体。それが西洋では当たり前のこととなっている。俺にはリゼがいる。

 絡繰人形は基本的に、主の代わりに炊事洗濯などを熟すだけだが、自動人形はそれだけではない。

 自動人形はリゼの様に出歩けるし、知能があるから会話だって自由に楽しめる。代わりに、作ってもらうにはかなりの大金が必要らしい。


 ──そして人形には、もう一つ種類がある。


「兄さん、ここに……私達の家族を奪った『死霊魔術(ネクロマンシー)協会』があるんだね」


「ああ。闇に紛れて日々悪事働いてやがる。師匠に人形作らせて、やりたい放題やってんだろ」


死霊魔術(ネクロマンシー)協会』ってのは、かつて俺達の住んでいた屋敷を襲った賊が成り上がって出来た団体だ。表立っては出て来ないが、夜な夜な人を攫って()()()()()()って噂もある。列記としたクソ組織だ。

 俺の師匠であるマーセス・トーマスって爺さんを連れて行って、挙句の果てに弟子を全て殺して行った。俺以外はその後連れて行かれたけどよ。


 死霊魔術協会は法律上犯罪である『禁忌人形(バンドール)』を幾つも傍に置いている。

 禁忌人形は、元々死んだ人間に会いたいが為に作られた。ってのが伝説。今や死者を愚弄していると、禁止されているんだが奴等はそれさえ無視する。

 トップの何たらって女が異質な魔術を使うってんで誰も迂闊に手が出せねぇって状況だ。


 ──だからって訳じゃねぇが、俺が奴等を潰す。

 師匠を連れ戻して、死体が残っているかどうかは定かじゃねぇが仲間達も取り戻す。それが俺のここでの目的だ。

 かと言って、場所が分かんねぇんじゃ何も動けない。


「よし、リゼ宿探すぞ宿。一日で組織陥落〜なんてのは無理があるからな。先に泊まれる場所探さねぇと」


「長旅でお腹が空いちゃったよ兄さん。何処かで食べない? 朝ご飯朝ご飯!」


 リゼはショートカットの金髪をふっさふっさ上下させて、商店街らしき人集りを指差す。全然長旅ではないが、腹が減ったのは同意見だ。


「うっしじゃあまずは腹ごしらえな。リゼ何食べる? 俺はニセル・カームナイト十五歳……食べ盛りだけどそんな金は捨てられないから弁当にしておくけど」


 リゼの手を引いて人集りに割って入る。田舎じゃあまり味わえない人波の圧力に、吐き気した。


「兄さん、私はお握りしか食べられないよ」


「あー、そうだったな。んじゃ二人共和食ってことでそんな感じの店探すか」


「うん!」


 暫く歩いて漸く和店を発見。そこで安い焼き魚弁当を購入して、リゼ用にお握りを三つ選ぶ。

 リゼがお握りしか食べられないのは、まぁ設定ミスというかとにかくプログラムに『お握り以外は受け付けない』なんて変なもん寝ぼけて追加したからだ。何してんだ俺は。


 西洋の国ではあまり見かけないが、和風の小屋を見かけた。見た所使用されていないらしいから、そこで弁当を食べる。

 案外商店街からは近い為、物足りなかったら買いに行ける。……贅沢はするつもり無いが。

 俺は今十五だが、年齢偽って働いたからな。だとしても金は大して無い。


 ふと見渡すと、町には人形が溢れかえっている。

 ゴチャゴチャ……じゃねぇガチャガチャと機械の擦れる音を立てるゴツいのもいれば、人間と殆ど変わらず楽しそうに会話をする自動人形も居る。平和な町だ。

 表向きだけはな。


「リゼ、俺この町に来て分かったことがある」


 俺が突然零した言葉に、リゼはお握りをお手玉して答える。


「何を!? もしかして、もう協会のアジトの場所予想出来たとか? だとしたら兄さん流石だよ。流石に怖いよ」


「怖がんな違ぇよ。あれだ、この町の焼き魚は少しだけしょっぱいってことだ。何でこんな醤油多いんだよ」


「醤油? ああ、しょっぱい和風調味料だね。私はあれ苦手だなぁ」


「俺も今苦手になったよ」


 弁当は残さず食べたが、次からは洋食にしようと今回のことで反省した。てか、醤油はもういいや。

 西洋の空って青過ぎるよなぁとか西洋人の癖に見惚れて、兎の耳みたいに耳を研ぎ澄ます。何かが聞こえる──喧嘩の騒ぎか?

 お握りを未だ頬張るリゼの肩を強く叩いたら、「ああああ!」って悲鳴を上げられた。でも構ってる暇はない。奴等かも知れないからな。


「行くぞ、リゼ! 喧嘩騒ぎだ喧嘩! 奴等かも知れねぇ!」


「兄さん後でお握り一個買ってよ!? 折角食べてた途中なのに! 半分くらい残ってたのに!」


「んだよそのくらいケチくせぇな! ……って落としたの!? お前何してんの!?」


「兄さんのせいでしょうがあ! あとケチくさいのも兄さんだから!」


 貧乏性な口論絶えることなく、商店街ド真ん中に人集りが出来てるのを見つける。あの様子だと奴等ではなさそうだ。

 まぁ、奴等は夜しか大抵動かない。こんな朝っぱらから口論なんて有り得るものじゃないか。

 嘆息して脚を止める。引き返そうとも一瞬思ったが、人集りの中心に仁王立ちする綺麗なブロンド髪の女性の怒りに満ちた顔を見てまた溜め息を零した。

 アレは明らかに被害者の顔だ。


「兄さん? どうしたの? 協会の人達の仕業じゃないなら、あまり目立たない方がいいんじゃ……」


 リゼが不安気について来る。俺は首を横に振って、無意識に微笑んだ。


「いいや、寧ろ目立っておくべきさ。奴等のことを探し回ってるガキが一人……って噂になりゃあ、大事になる前に向こうから来てくれるだろうよ」


「確かに! ……あの女の子に一目惚れした訳じゃないよね?」


「違うわ。俺は人間不信だから一目惚れは絶対しねぇの」


「それは威張るべきじゃないでしょ」


 腰に両手を当てて微笑するリゼはその場に待機して、俺だけがずんずんと野次馬を掻き分けて進んで行く。変な眼で見られたが、口論中のブロンド女にゃ気づかれてない。

 ──という訳で素早くブロンド女の両肩を鷲掴みにする。


「ひゃ!? 貴方、誰よ急に何するの!?」


「やーやーお嬢さんこんなとこで何してんだ? そっちの、店のおばさんもそんな剣幕でどした? ……ちっとだけ聞こえたんだが、ぼったくろうとした訳ではないよな?」


「なっ……!」


 ブロンド女は眼を見開いたまま俺をガン見。売店のおばさんは獣も逃げ出しそうな剣幕で俺を睨みつける。

 ……が、それは俺も同様だ。


「あたしはその娘が、勝った物の金を支払って貰おうと……」


「ブロンド女、何買ったんだ?」


 おばさんの主張を遮ってブロンド女の顔を見る。一瞬ビクッと肩を震わせ、それから呼び名に不満が有るのか小声で「ブロンド女って……」と呟いた。

 直ぐにキリリとした正義を掲げる様な強い意志の篭った瞳に戻り、ブロンド女は一枚の金貨みたいな何かを取り出した。何それ。


「私はこの皿を一つ、購入しただけよ。しっかりお金も払ったわ。けれど、この店員は『もう一つおまけします』と言って私の買い物袋にもう一つの皿を入れたの。それをサービスなんだと思って帰ろうとしたら、今みたいに叫ばれたのよ!」


「な、何を勝手に……!」


 ふむ、完全なるぼったくりか。多分、おばさんは金を騙し取るのではなくてもう一つ買わせようと企んだだけ。まぁ頼まれてないのに嘘ついてまで買わせようとしたんだから犯罪だが。

 そして、俺が何故簡単にブロンド女の方を信じたか。普通なら店の方を信じるだろうがよ。


「なぁ、ブロンド女」


 ブロンド女の髪を掻き上げ、左頬に右手を滑り込ませる。真っ赤になって驚いた様子のブロンド女は口をパクパクさせたままだ。

 俺は一応お前が無罪だってことを証明する為にやってるんだから、我慢してくれよ。


「お前シールド系の魔術使いだろ。何となく、魔力の篭り方がそうかなぁって思ったんだが」


「……!? 貴方魔力が視えるの? そうだけど、それがどうかしたの?」


「やっぱりな。この勝負、お前の勝ちだブロンド女」


「……は?」


 盾系魔術は基本、内側に魔力を込めて発動する。その際、心が汚れている場合は発動しないこともあるらしい。俺の仲間の一人がそう言ってた。

 だから、残念ながらおばさんの負けなんだ。


「おばさん、シールド系の魔術使いは心に汚れがない。まぁ一割程度はあるかも知れないが、全体的に嘘はつけないんだ。このブロンド女も当然な」


「だからブロンド女って何なのよ」


 俺が簡単に説明してみると、おばさんは追い詰められた犯人の如くキッと俺達を睨みつける。魔力が上がって行くのは怒りでかそれとも……背後の鎧人形でも操るつもりなのか。

 まぁ何してもあんたはもう売店なんて開けなくなるが。


「あたしが間違ってるって言うのか!? 売り物を売りつけて何が悪いって言うんだ!」


 まさかの開き直りだった。さすがに俺も開いた口が閉まらなくなる。ブロンド女も同様だ。

 商店街を行き来する町民達がヒソヒソとおばさんの悪事を噂し出す。こんな時怒り狂った人間が取る行動は一つだ。

 鎧人形がピクリと動いた瞬間、俺はリゼに視線を向ける。準備しろ、と。


「こうなりゃ全部揉み消してやる! この場にいる全員くたばりなぁ! 行くよコールズ!」


 ──んなこと不可能だよ。噂が更に勢い増して広まって行くだけだ。

 一応、凶行くらい止めてやらないとな。


「死ねええええ!」


「待ちなさい。『サイクロプス』、シールド展開」


「んなっ……!?」


 お? リゼが動くよりも早く、俺達に向けられた槍が防がれたぞ。防がれた上に砕け散ったぞ。

 ブロンド女の呼びかけに対応したのは、ゴーレムの様な姿をした絡繰人形だった。ブロンド女よりもゴーレムが魔法を発動させている様にも見える。この女結構やりそうだな。

 自動人形でもなく、ただの絡繰人形だが……まるで自動人形と違わぬ動作もしてみせてる。言葉は出さない様だが。


 にしても意外にゴツい趣味してんだな。全身鋼鉄のゴーレムか。名前が『サイクロプス』なのは、一つだけ大きな眼があるからか?

 渾身の一撃が完全に防がれたおばさんは、悔しそうにこの場を立ち去った。置いて行かれた自動人形のコールズと呼ばれた鎧人形は、離れ過ぎたことで魔力のリンクが切れたらしい。その場で停止した。


「可哀想に。あんな主人、捨てちゃいなさい。貴方としては一生仕えていたかったでしょうけど、その方が無駄に身体を削らずに済むわ」


 もう声も届かない鎧人形に、ブロンド女は優しく手を触れる。

 俺は役目を果たしたので、こっそりその場から離れ──ようとして裾を引っ張られた。


「ちょっと、まだお礼言ってないんだけど? あのままじゃ私が犯罪者にされていたから。ねぇ、何か欲しい物はない? 物で釣る気はないんだけれど、それくらいしか思いつかないの」


「そうだな、じゃあ美味い洋食とお握り一つ」


「……その二つの何に共通点があるのかしら? でも分かったわ。あの小屋辺りで待ってて。買って来るわ」」


 またあの小屋に戻るのか。人助けは一応趣味みたいなものだったから礼は要らなかったけど、何か買ってくれるなら遠慮はしない。

 特に飯の場合は生きてく上で不可欠だからな。リゼも表情明るくなったし万々歳。

 俺達は一足先に小屋に向かい、先程も一応座っていた小さな丸椅子に腰掛ける。


「お待たせ。はい、スパゲティとクリームパン。これでよかったか分からないんだけど。あとはい、ミルク」


「サンキュー! 予想以上に買って来てくれて大分食費浮くから助かる」


「貧乏か……! はい、貴女は自動人形ね。お握り買って来たわよ」


「ありがとう美少女さん! お握り〜」


「び……え、ええ」


 俺達はブロンド女に感謝しつつ、味わって味わって感動しながら完食した。その間、ブロンド女はおかしそうに笑っている。

 何か変なことあったか? ふとリゼに顔を近づけたブロンド女は、眉を曲げてその頬に触れた。俺は思わず表情筋が強張る。


「……凄い、生きてるみたいな造りね。普通の自動人形でもここまで綺麗になるとは思えないけれど」

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